老後の生活を考えるにあたり、勤務先に退職金制度があるか否かがライフプランに大きく影響します。最近の傾向として退職金制度を廃止した企業が増えてきているようですが、実態はどうなのでしょうか。また、退職金制度がない場合、老後資金はどのように対策すべきなのかについて考えます。
この記事を読んでわかること
- なぜ退職金制度を廃止する企業が増えているのか
- 転職先に退職金制度がない場合、どのように老後資金を確保すべきか
退職金制度とは
終身雇用が基本だった時代には60歳の定年退職と同時に受け取り、以後のセカンドライフの大切な原資となったのが退職金でした。退職金の受け取りが、企業に一生を費やすモチベーションになっていたのも事実でしょう。しかし、現在はこの退職金制度が大きく変容してきています。
退職金制度の種類と特徴
退職金制度は、従業員の退職時に一時金を支給する制度です。これまで従業員は、60歳の定年退職と同時にまとまったお金を受け取り、取り崩しながら老後生活を送りました。60歳になると公的年金の受給も開始されるため、両制度が老後生活の原資となっていたのです。
ところが、近年は終身雇用の風潮がなくなり、転職も珍しくなくなりました。10年、20年の勤続者に対しても退職金が支給されますが、そもそも企業は40年近くの退職金運用を前提としており、終身雇用が前提でなければ退職金制度を維持する必要性がありません。
そこで、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金といった従業員が運用する制度の導入を目指したもののさほど普及しなかったため、退職金関連制度を全廃する動きが増えてきました。まずはご自身の会社がどのような制度を導入しているのか、また、今後どのように変わる可能性があるのかを確実に理解することで、老後資金のリスクを減らすことができるでしょう。
退職一時金
比較的勤続年数の長い大企業の社員や公務員などは、従来のように退職一時金制度が維持されている場合があります。制度がある以上、退職金を受け取るのは従業員として当然の権利です。
定年退職が見えてきた際には、ご自身はどれくらいの退職制度を受け取れるのかを計算し、ライフプランに反映させましょう。定年退職前に転職し、それまでの退職金を受け取る場合も同様です。
なお、今後は退職時に引かれる税金(退職所得課税)が事実上増税される可能性があります。正確には20年以上同一の勤務先に勤めた場合に控除額が高くなっている仕組みが廃止される方向です。退職金の支給額は、額面のみならず退職所得控除金額によって手取り額が変わるため、最新のニュースに留意しましょう。
企業年金制度
退職一時金の代替案といえる企業年金制度についても、定義がとても曖昧です。企業が原資確保も運用も責任を持つものもあれば、運用のみ従業員に任せるもの、原資も従業員の給与から天引きするものもあります。自社に導入されている企業年金制度がどのような仕組みなのか、正確に把握しましょう。
退職金支給額の決まり方
退職金の相場はどれくらいなのでしょうか。第一生命の統計から、大企業と中小企業の相場額をピックアップします。
【大企業】
学歴 | 退職金平均額 |
大学卒 | 2,230万4,000円 |
短大・高専卒 | 2,155万3,000円 |
高校卒 | 2,017万6,000円 |
【中小企業】
学歴 | 退職金平均額 |
大学卒 | 1,091万8,000円 |
短大・高専卒 | 983万2,000円 |
高校卒 | 994万円 |
参照元:ほけんの第一歩│退職金の相場を調査!学歴などで変わる金額と今から準備できること
勤続年数や学歴によってもらえる金額が変わる
退職金は勤続年数だけでなく学歴によっても受け取れる金額が変わります。これは退職一時金制度が主流だった数十年前からの流れです。ライフプランの視点から見て退職金受取見込額が不足している際は、民間の個人年金保険などを活用し、補填を検討しましょう。
また、転職した場合に退職金が少なくなるのも、この勤続年数によるものです。転職キャリアの場合は退職金が少なくなるため、相応の計画が必要です。早めに準備しましょう。
小規模な企業ほど退職金がない可能性が高い
そもそも小規模な企業では退職金制度そのものがない場合があります。転職をする際には、退職金制度の有無についても確認しましょう。
退職金制度なしは違法?
ところで退職金制度は老後資金において重要なポイントとなります。退職金制度のない企業は法律に抵触してはいないのでしょうか。
退職金が出ない企業の割合
ある統計によると、退職金の出ない企業は全体の20%に及ぶともいわれています。また、制度上退職金制度を設けていても、実際に原資となる積み立てをしていないため、確実にもらえるかは不明瞭な企業もあるため注意が必要です。このことからも、法律上退職金制度がないことが違法ではないことが分かります。
退職金を積み立てていない企業もある
勤務先が退職金を積み立てているか否かについて、どのように確認すると良いのでしょうか。自社の財務諸表(貸借対照表)を確認できれば、そのなかに退職金積立金の項目があるので把握できます。
ただし、一般の社員には財務諸表が公開されていないことが多いです。その場合は人事に確認するか先輩に聞くかになりますが、ハードルが高いかもしれません。
年々下がる退職金相場
傾向として、年々退職金の相場が下がってきています。終身雇用制度を採用しない企業が多くなってきたことが主な原因です。今は退職金を受け取れていても、将来目減りするリスクがあるのかが懸念されます。
退職金制度があってももらえない場合がある
勤務先に退職金制度があったとしても、転職組は対象にならず、退職金をもらえない可能性があります。自社で退職金を受け取れる条件を今一度確認し、ご自身のライフプランに反映させましょう。
転職先が退職金制度なしの企業だった場合のメリット
自社に退職金がない場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。
給与に上乗せされることがある
一つは退職金として支給される金額が、給与や賞与に上乗せされる可能性です。多くの企業は、退職金の原資を給与や賞与から引き当て、運用しています。企業にもよりますが、2~3割を従業員給与からの天引き、残りを企業負担という割合が多いです。転職による入社で退職金制度の対象にならない場合は、この2~3割を給与や賞与で受け取れます。それを元手にご自身で運用をするのも一つの方法です。
老後の資金計画を立てやすい
将来的に規定が変更される可能性がある退職金をあてにするよりも、ご自身で資金計画を立てて運用した方が確実性が高いという判断もあるでしょう。退職金が受け取れないことを、老後の資金計画を立てやすいメリットとしてプラスに捉えることができます。
退職金受け取り時の煩雑な手続きが不要
退職金を受け取る際は煩雑な税金規定や手続きがあるため、給与や賞与で受け取る方が分かりやすいという側面もあるでしょう。
転職をして退職金の対象から外れた場合も、自分自身で管理できる範囲が広がる点をプラスに捉え、自分自身や家族のライフプランにとって確実性が増すと肯定的に受け止めることが大切です。
退職金制度なしの企業に転職した場合の老後資金対策
退職金なしの企業に転職した場合、代替策としてどのような老後資金の確保方法があるのでしょうか。
貯金をする
最もスタンダードな方法が貯金です。生命保険センターの調査によると、老後の最低限の1ヵ月の生活費は23.2万円、余裕のある生活費は37.9万円といわれています。90歳まで生きた場合、60歳を始点とすると8,000万円から1億円の資金が必要です。
現実的にはこの必要額から公的年金の支給額や預貯金を除いた分が必要になります。また、最近は60歳を過ぎてもそれまでどおりに働く方が増えました。日本は少子化が進んでいるため、今後はさらにシニア層の活躍が社会に求められるようになるでしょう。ただ、そうはいっても人生には何があるか分かりません。可能な限り預貯金を確保することで、老後のリスクを減らすことができるでしょう。
個人年金を利用する
退職金制度の代わりに個人年金制度を活用する方法です。画一的な退職金制度と異なり、ご自身に適した年金制度を活用できます。
副業をする
最近は副業を許可する企業が増えているため、副業で収入を得るのも一つの方法です。副業のお金は老後資金に充当するよう、別口座で管理すると安心でしょう。
次の転職先は退職金制度のある企業にする
しばらく勤務して実績をつくった後に、退職金制度のある企業に転職するという方法もあります。転職先は退職金制度がある企業であることが前提ですが、退職金制度の有無だけではなく、仕事内容やポジションなどほかの要素も検討したうえで決めたいものです。
リースバックを利用してまとまった資金を手に入れる
退職金が期待できない場合、老後資金としてリースバックを活用する方法があります。
リースバックは、家を売却して現金化したのち、売却後も売却した物件に家賃を支払い、住み続けられる仕組みです。退職金の代わりとしてまとまった資金が必要な場合は、リースバックも選択肢の一つになるでしょう。
おわりに
退職金制度について転職と関連してご紹介しました。終身雇用制度や退職金制度を廃止する企業も増えています。退職金が老後のライフプランに及ぼす影響を考えたうえで、どのような代替案を取れば良いのか、最適な選択肢は何か検討しましょう。