退職金に税金がかかることをご存知でしょうか。受け取り方によっては、税金が多くかかってしまう場合があるため注意が必要です。そこで、このコラムでは退職金にかかる税金について詳しく解説していきます。退職金にかかる税金の計算方法も載せていますので、ご自身が退職金を受け取る時の税金について、シミュレーションしてみましょう。
退職金にかかる三つの税金
退職金には、次の3つの種類の税金がかかります。
【退職金にかかる税金の種類】
- 所得税
- 復興特別所得税額
- 住民税
ここからは、それぞれの特徴を詳しくみていきましょう。
所得税
所得税は、個人の所得にかかる国に納める税金のことです。所得は「給与所得」など10種類に分類されます。所得税の課税方法には、所得の種類によって合算して計算する「総合課税」と、他の所得と切り離して計算する「分離課税」があり、所得の性質によって異なります。
退職金は控除が受けられるため、退職金全額に税金がかかるわけではありません。ただし、受け取り方によって控除の種類も違い、控除額も異なってきます。
復興特別所得税
復興特別所得税とは、東日本大震災の復興を目的として創設されたもので、2013年度分の所得税から適用されています。こちらは、所得税と併せて納税しなければなりません。税率は2.1%に固定されているのが特徴です。
住民税
住民税は地方税のひとつで、住所のある都道府県と市区町村によって課されます。一般的に、市町村民税(特別区民税)と道府県民税(都民税)を合算したものを、住民税と呼びます。住民税は、前年1年間の所得で計算し、6月から翌年5月の間に月割で徴収されるのが特徴です。3月末に退職した場合は、4月分と5月分を源泉徴収できないので、退職手当支給時に源泉徴収される仕組みになっています。
退職金の受け取り方法は2種
退職金の受け取り方は、「一時金として一括で受け取る」方法と、「年金として分割で受け取る」方法の2種類があり、この受け取り方によって税制が違います。ここではそれぞれの税制の違いや、メリット・デメリットについてみていきましょう。
一時金(一括)
退職金を一時金として受け取る際のメリット・デメリットとして、以下のことがあげられます。
【メリット】
- 税負担が軽くなる
- まとまったお金が入るので、ローンなどの清算が可能
【デメリット】
- 無駄遣いしてしまう恐れがある
- 年金受け取りの場合より総額が少ない
退職金を一時金として一括で受け取る場合は「退職所得」に該当し、所得税や住民税の課税対象になります。また、課税方法は他の所得とは合算しない「分離課税」とされます。この場合、「退職所得控除」を受けられるのがメリットです。退職所得控除は、勤続年数が増えるほど退職所得控除額も増える仕組みで、退職所得控除の範囲内であれば税金がかかりません。
ほかには、まとまった金額を一括で受け取れるため、ローンなどある程度大きな支払いが可能になることもメリットとしてあげられます。
一方、一時金で受け取るデメリットは無駄遣いの恐れがあることです。まとまったお金が一度に手に入るため、使い道については吟味する必要があるでしょう。また、退職金を総額で考えると、年金での受け取りに比べて少なくなってしまうデメリットがあります。
年金(分割)
次に、退職金を年金として分割で受け取る際のメリット・デメリットは以下のとおりです。
【メリット】
- 総額が一時金より多くなる
- 使いすぎを防げる
【デメリット】
- 課税期間が長い(保険料負担が重くなる)
- 健康保険や介護保険の自己負担割合にも影響がある
退職金を年金として分割で受け取る場合は、「公的年金等控除」の対象になります。控除額が差し引かれた分は雑所得となり、他の所得と合算され、所得税や住民税が課税されるのが特徴です。
退職金を年金として受け取る場合は、一時金として受け取った場合よりも総額が多くなるのがメリットです。また、一時金と違い分割で受け取れるため、使いすぎを防げるでしょう。
デメリットとしては、分割で受け取ることにより税負担期間が長くなることがあげられます。また、国民健康保険、介護保険などの保険料負担が重くなることや、自己負担割合が大きくなる特徴があります。これは、保険料が所得に応じて算出されるためです。退職金を年金で受け取ることによって毎年の所得が増加するため、一時金で受け取る場合と比べ負担が大きくなってしまいます。
【一時金受け取り】税金の計算方法
退職金を一時金で受け取る場合、税金はどのくらいかかるのでしょうか。ここからは、一時金受け取りを選択した場合の税金の計算方法をご紹介します。
所得税・復興特別所得税の計算
では、退職金にかかる所得税と復興特別所得税額の計算方法をみていきましょう。
1.退職所得控除額を計算
まずは、所得税の課税対象となる金額を算出するために、退職所得控除額を算出します。退職所得控除額は、勤続年数によって変わります。20年を境に計算方法も変わるため、ご自身の勤続年数に合わせて以下の計算方法を試してみてください。
【退職所得控除額の計算方法(勤続年数:20年以下)】
退職所得控除額=40万円×勤続年数
【退職所得控除額の計算方法(勤続年数:20年超)】
退職所得控除額=800万円+70万円×(勤続年数-20年)
※退職所得控除額が80万円以下の場合は80万円で計算
※勤続年数のうち1年未満の端数がある場合は、1年に換算(例:15年3ヵ月→16年)
2.課税退職所得額を計算
次に課税退職所得額を計算します。退職金から退職所得控除額を差し引き、1/2をかけた値が課税退職所得額になります。
【課税退職所得額の計算方法】
課税退職所得額=(退職金-退職所得控除額)×1/2
3.控除額と税率を割り出す
導き出した課税退職所得額をもとに、所得税率と控除額を求めます。課税退職所得額によって税率や控除額が異なるため、下の「所得税の税額一覧」を利用しましょう。
【所得税の税額一覧】
課税退職所得額 | 所得税率 | 控除額 |
1,000円~194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円~ | 45% | 479万6,000円 |
4.所得税額を計算
課税退職所得額、税率、控除額が分かったら、以下の計算式のとおりに計算します。この計算で導き出されるのが、所得税となります。
【所得税の計算方法】
所得税額(基準所得額)=課税退職所得額×所得税率-控除額
5.復興特別所得税額を計算
次に、復興特別所得税を算出してみましょう。復興特別所得税は、所得税に定率をかけて算出します。この場合、1円未満の端数は切り捨てです。
【復興特別所得税額の計算方法】
復興特別所得税額=所得税額×2.1%
参照元:退職金と税|国税庁
参照元:個人の方に係る復興特別所得税のあらまし|国税庁
6.所得税額と復興特別所得税額を合算
所得税額と復興特別所得税額は併せて納税するため、合算して金額を算出します。
住民税の計算
住民税を求める際も課税退職所得額が必要になります。課税退職所得額の計算方法は、所得税のときと同じです。
住民税を求める計算式は以下のとおりです。市町村民税(特別区民税)と道府県民税(都民税)をそれぞれ割り出し、合計した値が住民税の金額になります。
【市町村民税(特別区民税)の計算方法】
市町村民税(特別区民税)=課税退職所得額×6%
【道府県民税(都民税)の計算方法】
道府県民税(都民税)=課税退職所得額×4%
参照元:退職手当に係る税金|人事院
税金を合算
導き出した所得税と住民税を合計した金額が、退職金の税金額になります。文章だけでは分かりにくいという方もいるかもしれません。そこで、次で実際に金額を当てはめてシミュレーションをしてみましょう。
税金額をシミュレーション
以下の条件で、退職金の税金額をシミュレーションします。
【条件】
- 勤続年数22年
- 退職金2,000万円
まずは、所得税・復興特別所得税を求めるため、退職所得控除額を計算します。勤続年数は20年を超えているため、勤続年数20年超の場合の計算式に当てはめます。
退職所得控除額:800万円+70万円×(22年-20年)=940万円
次に、課税退職所得額を計算します。
課税退職所得額:(2,000万円-940万円)×1/2=530万円
「所得税の税額一覧」の表を見ると、課税退職所得額530万円の場合、税率は20%、控除額は427,500円となっているため、所得税は次のようになります。
所得税:530万円×20%-427,500円=632,500円
続いて、復興特別所得税を計算します。
復興特別所得税:632,500円×2.1%=13,282.5円
1円未満の端数は切り捨てるため、復興特別所得税は13,282円となり、所得税と復興特別所得税を合算すると、645,782円になります。
さらに、住民税を計算してみましょう。まず、課税退職所得額をもとに、市町村民税(特別区民税)を計算します。課税退職所得額は530万円のため、次のような計算式になります。
市町村民税(特別区民税):530万円×6%=318,000円
次に、道府県民税(都民税)を計算します。
道府県民税(都民税):530万円×4%=212,000円
市町村民税(特別区民税)と道府県民税(都民税)を合計し、住民税は530,000円となります。
所得税、復興特別所得税、住民税、すべてを合計すると、税額は117万5,782円です。つまり、退職金の手取り額は2,000万円から税額を差し引いた、1,882万4,218円であることが分かります。
【iDeCoを併用している方向け】iDeCoと退職金を受け取る際の計算
一時金で受け取る退職金の税金についてシミュレーションをしましたが、iDeCoを併用している方もいるでしょう。iDeCoにも税金がかかる場合があります。iDeCoは、受け取り時期が近づいたら、受け取り方法を選択することが可能です。
選択肢として、一時金として受け取る方法、年金として受け取る方法、両者を併用する方法の三つがあります。ここでは、iDeCoを一時金として受け取る場合の税金の計算方法をご紹介します。
一時金で受け取る場合、iDeCoは税制上「退職所得」となります。計算は退職金と同様、退職所得控除額と課税退職所得額を算出してから税金を求める方法です。退職金の計算では勤続年数を用いますが、iDeCoの場合は加入年数(かけ金積立期間)を当てはめて計算します。
【退職所得控除額の計算方法(加入年数:20年以下)】
退職所得控除額=40万円×加入年数
【退職所得控除額の計算方法(加入年数:20年超)】
退職所得控除額=800万円+70万円×(加入年数-20年)
【課税退職所得の計算方法】
課税退職所得額=(iDeCoの受取金-退職所得控除額)×1/2
ただし、退職金とiDeCoを同時に受け取る場合、退職金とiDeCo両方の受取金を合算して税金が計算されます。すると、退職所得控除の枠を超えてしまい、課税対象になる金額が多くなってしまうことになるのです。そのため、iDeCoの受け取りは退職金の受け取りと時期をずらし、課税額を少なくすることをおすすめします。
【年金受け取り】税金の計算方法
退職金を年金で受け取る場合は、雑所得を求める必要があります。雑所得とは、公的年金や生命保険などの契約にもとづく年金、副業による所得などのことです。雑所得は、年金の収入額と公的年金等控除額をもとに求めることが可能です。
公的年金等控除額を計算
まずは、公的年金等控除額を導きます。こちらは、年金額や受け取る年齢、年金以外の所得額によって控除額が変わります。年金以外の所得額が年額1,000万円以下である場合は、下の速算表を利用しましょう。
【公的年金等控除額】※年金以外の所得額:1,000万円以下/年
受け取り年齢 | 年金額 | 公的年金等控除額 |
65歳以上 | ~330万円以下 | 110万円 |
330万円超~410万円以下 | 年金額×25%+27万5,000円 | |
410万円超~770万円以下 | 年金額×15%+68万5,000円 | |
770万円超~1,000万円以下 | 年金額×5%+145万5,000円 | |
1,000万円超~ | 195万5,000円 | |
65歳未満 | ~130万円以下 | 60万円 |
130万円超~410万円以下 | 年金額×25%+27万5,000円 | |
410万円超~770万円以下 | 年金額×15%+68万5,000円 | |
770万円超~1,000万円以下 | 年金額×5%+145万5,000円 | |
1,000万円超~ | 195万5,000円 |
参考元:日本年金機構
雑所得を計算
公的年金等控除額が分かったら、その年に受け取る年金額から差し引き、算出された金額が雑所得となります。なお、雑所得を計算する際は、社会保険料などの控除がされる前の年金額で計算をしますので、注意しましょう。
【雑所得の計算方法】
雑所得=その年に受け取る年金額-公的年金等控除額
雑所得が課税対象
退職金を年金で受け取る場合、この雑所得に対して所得税や住民税がかかります。雑所得は、年金受け取りの退職金と、老齢基礎年金など他の所得を合算して税額を計算するため、課税対象になる所得額が増えて税負担も増える可能性があります。そのため、ご自身の所得金額について把握しておくことが大切です。
雑所得の計算シミュレーション
雑所得は実際にはどのくらいの金額になるのでしょうか。以下の条件でシミュレーションを行ってみましょう。
【条件】
- 65歳以上
- 受け取る年金額が350万円/年
- 年金以外の所得が1,000万円以下/年
まず、公的年金控除額を導きます。年金以外の所得が1,000万円以下のため、上の「公的年金等控除額」の表を参考にしましょう。65歳以上で年金額350万円のため、次の計算式になります。
公的年金控除額:350万円×25%+27万5,000円=115万円
そして、年金額から公的年金控除額を差し引き、雑所得を算出します。
雑所得:350万円-115万円=235万円
このように、雑所得は235万円となることが分かります。
そして、この算出した雑所得に対して税金がかかります。ただし、1年間に受け取る年金額が公的年金等控除額までに収まるなら、所得税・住民税はかかりません。
【iDeCoを併用している方向け】iDeCoと退職金を受け取る際の計算
退職金を年金で受け取る際、iDeCoを併用している場合の税金はどのくらいかかるのでしょうか。
iDeCoを年金として受け取る場合、60歳から受け取りが可能です。また、65歳以上で、公的年金などの収入が110万円以下の場合は課税対象になりません。
一方、公的年金などの収入が110万円以上になる場合は、iDeCoの受取金も合算して課税対象になります。この場合は雑所得となり、公的年金等控除が適用され、受取金額から控除額を差し引いた金額が課税の対象になります。
ただし、受け取れる金額が増えるほどかかる税金も増えることになります。また、iDeCoによって収入が増えるほど国民健康保険料が増えることや、iDeCoの口座管理手数料、給付手数料などもかかるため、注意が必要です。iDeCoを年金で受け取る場合は、以下の計算式を参考に、どのくらいの金額が課税対象になるのか求めてみてください。
【計算式】
雑所得=その年に受け取る年金額(公的年金+iDeCo)-公的年金等控除額
参照元:高齢者と税(年金と税)|国税庁
退職金を一時金で受取り・iDeCoを年金で受け取る場合の税金の計算方法
ここで、退職金を一時金で受け取り、iDeCoを年金で受け取る場合について、シミュレーションを行ってみましょう。
【条件】
- 勤続年数22年
- 退職金2,000万円
- iDeCo:加入期間10年、受け取り開始年齢60歳、受取年金額400,000円/年
退職金を一時金で受け取った場合の税金は、「税金額をシミュレーション」で計算した、条件「勤続年数22年、退職金2,000万円」のときと同様になるため、
所得税:632,500円
復興特別所得税:13,282円
市町村民税(特別区民税):318,000円
道府県民税(都民税):212,000円
となり、合計で117万5,782円になります。
一方、iDeCoの年金受取額は、
雑所得:その年に受け取る年金額(400,000円)-公的年金等控除額(600,000円)=0円(マイナスのため)
となり、iDeCoで受け取った年金分に関しては税金がかからないことになります。
退職金は基本的に確定申告しなくて良い
退職金を受け取るにあたり、確定申告が必要か気になる方も多いことでしょう。基本的に退職金は源泉徴収されるため、確定申告の必要はありません。
しかし、退職年の給料が前年よりも少ない場合などは、確定申告をするとお金が戻ってくることもあります。これは、前年の給料をもとに税金が多めに徴収されている可能性があるためです。該当する方は、確定申告を行った方が良いでしょう。
おわりに
退職金にかかる税金についてご紹介しました。退職金の受け取り方で、かかる税金の金額が変わります。一時金で受け取るか、年金として分割で受け取るか、ご自身に合った方法を選択するようにしましょう。
また、iDeCoを利用している方も算出方法を参考に税金ついてシミュレーションをしてみてください。ご自身の手元にどのくらいの退職金が残るのかを把握しておくことは、老後の計画を立てるためにも大切です。