相続について早めに親と話し合うべきだとわかっていても、子どもから切り出しにくいために困っている方は多いでしょう。
話の切り出し方を間違えると、親や兄弟の機嫌が悪くなったり反発されたりして、将来的なトラブルの原因になる可能性もあります。
そこで本記事では、相続の話の上手な切り出し方とタイミングを解説します。ポイントをしっかりと押さえることにより、親子でスムーズに相続の話を進められ、生前からしっかりと相続対策ができるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 相続の話をするのは、親の生前または親が亡くなったあとの四十九日法要が目安である
- 相続の話を切り出すタイミングと切り出し方を間違えないように注意する必要がある
- スムーズに話し合いを進めるためには、親の遺志を尊重し、親のペースで話す
- 生前から効果的な相続対策をしておくと相続税を節税できる可能性がある
相続の話をしておかないと困ること
相続は、親が元気なうちから話し合っておくことが重要です。生前に話し合っておくことにより、親の意思を尊重した相続が可能になり、親も子どもも納得して手続きを進められるためです。
相続が発生する前に話し合いができないと、相続人同士で意見の相違からトラブルになり、スムーズに手続きを進められなくなるかもしれません。
トラブルを回避するために大切なのは、相続人である子ども全員が相続の内容を知っておくことです。ひとりの子どもだけが知っていて他の子どもが知らないと、後からトラブルになる恐れがあります。
また、口約束からトラブルになるケースにも注意しなければなりません。例えば、家をあげると親に言われた子どもがいたとしても、口約束ではそれを証明できません。
親が亡くなったあとのトラブルを避けるために、生前から親の意思を確認し、相続人全員で相続の話を共有しておくことが重要です。
相続の話はいつまでにしておくべき?
相続の話をいつまでにするかは、以下の2つのケースが考えられます。
- 生前、意思確認ができる状態
- 四十九日法要
以下に、それぞれ詳しく解説します。
生前(意思確認ができる状態)にしておくのが理想的
相続の話は、親が元気なうちにしておくのが理想的です。なぜなら、相続や老後の生活について、親の意思を確認しながら話し合いを進められるためです。
生前に親に確認しておくべきことには、以下の内容があります。
- 相続財産は何があるか
- 相続人は何人か
- 生前の相続対策は必要か
- 介護はどうするか
親が元気なうちに、正確な財産を把握し、誰にどの財産を相続させるのかを確認しておくことが大切です。相続の内容だけでなく、老後に介護が必要になった際の対応や、生前の相続対策についても把握しておきましょう。
親と話し合いができる状態であれば、以下のような対策をしておくことにより、相続が発生したあとの負担を減らせます。
- 認知症になった場合に備えて、成年後見制度や家族信託の利用を検討する
- 不要な不動産を売却し、財産を分けやすくしておく
- 遺言書を作成し、誰に何を相続させるかを決めておく
- 節税のために生前贈与をする
親が認知症になると、意思の確認ができなくなり、相続対策も困難になってしまいます。そのため、できる限り親が元気なうちに対策をしておくことがポイントです。
亡くなってしまったら四十九日法要を目安に
親が亡くなったあとは、相続人が集まる四十九日法要が相続の話をする目安になります。
ただし、相続手続きには期限が限られているものもあるため、できる限り早めに話し合いを進めなければなりません。
期限が決まっている主な相続手続きは、以下のとおりです。
- 相続放棄や限定承認:相続の開始を知ってから3ヵ月以内
- 故人の確定申告となる準確定申告:相続の開始を知ってから4ヵ月以内
- 相続税申告と納税手続き:相続の開始を知ってから10ヵ月以内
- 遺留分侵害額請求:相続の開始および侵害があることを知ってから1年以内
期限までに手続きできるように日数を計算して、話し合いを進めましょう。
相続の話をするタイミングと切り出し方
相続の話を切り出しやすいタイミングには、以下の4つがあります。
- お正月や年末年始など家族が集まっているとき
- 身近で相続が発生したとき
- 親が病気・ケガ・入院したとき
- 親のお金に関する悩みを聞いたとき
本章では、それぞれのタイミングについて、切り出し方を合わせて解説します。
お正月や年末年始など家族が集まっているとき
お正月や年末年始などは、相続の話を切り出しやすいタイミングのひとつです。
お正月や年末年始は家族が揃っており、被相続人である親と相続人である子ども全員で話し合う機会を持ちやすいためです。
家族が揃えば昔話に花が咲くこともあるでしょう。親の昔話を懐かしみながら、将来の心配へ話を向けられれば、スムーズに相続の話を切り出せます。
ただし、親戚で集まる場合には、相続の関係者ではない方がいる可能性もあるため注意が必要です。相続の話は当事者以外が聞くとトラブルの原因になる恐れがあります。相続人以外の親戚がいるところでは話さないように注意しましょう。話を切り出す際には、少人数でいる時に話し始めることをおすすめします。
身近で相続が発生したとき
近親者や知人など身近での相続は、親が自らの相続を意識するきっかけのひとつです。
「〇〇さんの家は、兄弟と相続でもめてから全く連絡していないらしい」「△△さんが、前もって話し合っておけばよかったと言っていた」など、身近の具体的な例を聞くと効果的です。スムーズに相続を進めるために今から相続の話をしておこうと切り出せば、親も話を聞いてくれるでしょう。
親自身がトラブルを避けたいと考え始めれば、相続の話をする絶好のタイミングになります。
親が病気・ケガで入院したとき
親が病気やケガで入院した時は、子どもから親に相続の話をするのに良いタイミングです。
今まで健康に自信があった親が、病気やケガにより心身の衰えを自覚することにより、老後の生活や相続について考え始めるきっかけになります。
老後の弱った時に親はどのように接してほしいのか、将来家はどうしたいのかなど、子どもにとっても親の考えを知る良い機会になります。
親子で互いの考えを伝え合い、相続について確認しあうチャンスになる可能性が高いでしょう。
親のお金に関する悩みを聞いたとき
相続の話は、親が亡くなったあとのことを話すため、いきなりでは切り出しにくいものです。話しやすい環境を作るために、日頃から親の悩みに寄り添うことが大切です。
今の生活の困りごとや老後への不安など、親の話を聞いてみましょう。日頃の悩みに耳を傾けることで、財産管理についても親子で一緒に考えるきっかけにつながる可能性があります。
親のお金の流れを把握するチャンスになり、相続の話をどのように進めるかを考える材料になるでしょう。
相続の話をするときのポイント
相続の話をするタイミングを作れても、ポイントをしっかりと押さえなければ、感情的になってスムーズに話し合いができない状況になる恐れがあります。
相続の話をする際に押さえるべきポイントは、以下のとおりです。
- 無理に説得せず親の意向を尊重する
- くれぐれもお金の話だけで終わらない
- 良好な関係性でいるために普段からコミュニケーションをとる
それぞれの項目を具体的に見ていきましょう。
無理に説得せず親の意向を尊重する
相続の話をすると、早めに決めたい気持ちが先走ってしまい、「私に家を譲ってほしい」「節税対策を早く進めてほしい」などと子どもの立場から主張してしまいがちです。
しかし、相続の話は「自分の死」であるため、子どもから切り出されることに抵抗感を持ってしまう場合があります。無理に話を進めようとすると、逆にこじれてしまう原因になるでしょう。
相続の話をする際は、親の意向を尊重し、親のペースで進めましょう。親の意見だけでなく、子どもの意見を共有することも大切ですが、強く言い過ぎると親は説得されているように感じてしまいます。
相続の話し合いは、子ども主導ではなく、あくまで親の意向を確認する場にしましょう。
くれぐれもお金の話だけで終わらない
相続の話し合いをするにあたって、お金の話だけを単刀直入に切り出すのはおすすめしません。
相続はお金の話であるため、親も子も感情的になりがちです。子どもが相続の話をすると、お金の話が大切なのかと誤解されてしまうおそれもあります。
そもそも、相続税が高くならないように相続の話をしたいというのは相続人である子どもの事情です。
まずは、親の健康や介護について心から心配していること伝えることが大切です。子どもが心配してくれているとわかれば、親も子どもが困らないように相続を受け入れてくれるでしょう。
良好な関係性でいるために普段からコミュニケーションをとる
相続の話をスムーズに進めるには、家族が良好な関係であることが大切です。そのためにも、普段から積極的にコミュニケーションを取っておきましょう。
家族が集まる機会にコミュニケーションを取ることにより、相続財産の有無や種類など、相続に関する情報を共有できます。
どのような財産があるかを知らなかった場合や、誰が相続するかをひとりだけが親から聞いていた場合など、相続人同士で情報に差があるとトラブルに発展するケースが多いです。
情報の共有によって、知らなかったことが原因によるトラブルを避けられるでしょう。
生前からできる相続の対策
相続の話を具体的に進めるには、生前からできる相続対策について知っておくことが大切です。
生前からできる相続対策には、以下のようなものがあります。
- 遺言書を作成する
- 生前贈与や暦年贈与などで相続税対策する
- 生命保険に加入する
- 不動産を購入する
それぞれの対策を詳しく解説します。
遺言書を作成しておく
相続のトラブルを避けるには、誰に何を相続するのかをはっきりと示しておくことが重要です。そのためにも、遺言書を作成しておきましょう。遺言書に相続分が明記されていれば、法的にも効力があるため、トラブルを避けてスムーズに相続手続きを進められます。
ただし、遺言書が効力を得るには、決まりに従って作成しなければなりません。例えばメモを残すだけでは、有効な遺言と認められないため注意が必要です。
自筆で作成する「自筆証書遺言」は、以下の手順で作成します。
- 全文を自筆で書く
- 作成した日付を明記する
- 署名捺印をする
自筆証書遺言は、被相続人ひとりで作成できるため、費用もかからず秘密を保持したまま簡単に遺せます。ただし、不備に気づきにくく、紛失したり同居人に改ざんされたりするリスクがあるため注意しなければなりません。
相続のトラブルを回避するために遺言を作成するなら、公正証書として遺言を遺す「公正証書遺言」の作成をおすすめします。
生前贈与や暦年贈与などで相続税対策
生前の相続税対策としてよく行われるのが、生前贈与です。通常の贈与には贈与税が課せられますが、非課税枠を利用すれば税金を払わずに子どもや孫に財産を渡せます。
相続税対策として利用される主な贈与税の非課税制度は、以下のとおりです。
制度 | 内容 |
暦年課税制度 | 1年間に受け取った110万円以下の財産について申告不要で非課税となる |
相続時精算課税制度 | 贈与財産の累計2,500万円までは贈与税がかからない。相続発生時に他の相続財産と合計して相続税がかかる。2024年1月からの税制改正で年間110万円までの基礎控除が利用できる |
教育資金の贈与税の非課税制度 | 教育資金として一括で受け取った1.500万円までの財産が非課税となる |
結婚・子育て資金の贈与税の非課税制度 | 結婚・子育ての資金として一括で受け取った1,000万円までの財産が非課税となる |
住宅取得等資金の贈与税の非課税制度 | 住宅の新築などのために受け取った、省エネ住宅などは1,000万円、その他の住宅は500万円までの財産が非課税となる(2023年12月31日までの贈与) |
適用を受けるには年齢や年収などの要件の他にも各制度により要件があるため、贈与を受ける前に要件をしっかりと確認しておく必要があります。
生命保険に加入する
親が生命保険に加入するのも、相続税対策として利用できる方法のひとつです。相続人が死亡保険金を受け取れば、非課税枠を利用して節税できます。
非課税枠の詳細は以下のとおりです。
被保険者・保険料負担者 | 保険金受取人 | 非課税枠 |
被相続人(親) | 相続人(子ども) | 500万円×法定相続人の数 |
受け取った死亡保険金が非課税枠内の金額であれば、税金を払わずに財産を遺せます。
不動産を購入する
不動産の購入は、相続税対策としてよく利用される方法です。
不動産の相続税評価額は、不動産の実際の価格よりも低く設定されます。実際の価格と相続税評価額に差が生じるため、その分、相続税を抑えられるのです。
また、不動産を賃貸に出す場合や一定要件を満たす親族が承継者である場合は、さらに評価額が下がります。
相続対策はプロへの相談もおすすめ
親の生前に、子どもから相続の話をするのは気が重いものです。切り出すタイミングを考え、上手に切り出すことにより、親子で相続についての考えを共有することができ、相続発生後にスムーズに手続きを進められます。
また、相続対策は複雑で理解しにくい場合があります。種類が多いため、対策の選択を間違えて無駄にしてしまわないよう注意しなければなりません。
「セゾンの相続 相続対策サポート」では、お客様に合った方法で相続トラブルを避けるための支援が可能です。
専門家への無料相談ができるため、安心して親子の不安に寄り添ったサポートが受けられます。親と子どもだけだと感情的になってしまう話し合いも、相続のプロがアドバイスすることにより、円滑にコミュニケーションをとれるでしょう。もちろん相続開始後の手続きもしっかりサポートしてもらえるため、安心して手続きを進められます。
相続対策や親との話し合いに困ったら、ぜひセゾンの相続にご相談ください。
おわりに
相続をスムーズに進めるためには、生前からご家族で話し合っておく必要があります。しかし、相続はお金の話であるため、切り出し方を間違えると話がこじれて、将来的に相続トラブルへつながる恐れがあります。
普段からしっかりとコミュニケーションをとり、親の遺志を尊重しながら話し合いを進め、相続人になる子ども全員で情報を共有しましょう。
また、生前から相続対策をしておけば、相続税を上手に節約しながらスムーズに相続手続きを進められるでしょう。迷ったら専門家に相談するのも方法のひとつです。