相続資産は、すべての相続人による遺産相続の対象となる資産です。基本的にすべての遺産に対して相続税が課税されますが、これとは別に各相続人のみが相続する資産があります。例えば、保険契約受取人が受け取る生命保険金や死亡退職金、特定の相続人を対象とした生前贈与などです。
これらの資産は「みなし相続財産」と呼ばれ、遺産相続の対象にならなくても相続税の課税対象になります。本記事では、みなし相続財産について解説します。
この記事を読んでわかること
- みなし相続財産とは遺産分割や遺留分の対象にならないが相続税の課税対象となる資産
- みなし相続財産の例は、生命保険金、死亡退職金、信託受益権、弔慰金など
- みなし相続財産のうち非課税枠があるのは生命保険金と死亡退職金
みなし相続財産とは?相続財産とどう違う?
みなし相続財産とは、遺産分割や遺留分の対象にはならないものの、相続税の課税対象となる財産のことです。例えば、保険契約受取人が受け取る生命保険金、死亡退職金、特定の相続人を対象とした生前贈与などがこれに該当します。
みなし相続財産と、通常の相続財産との違いについて解説します。
「みなし」として相続財産に含める理由
「みなし」として相続財産に含める理由は、相続課税の公正を期するためです。生命保険金や死亡退職金は受取人が決められており、生前贈与も、同様に贈与契約書で受取人が定められています。
これらの資産に対しても課税をしないと、遺産分割対象の資産とのあいだで公正性を保つことができません。
しかし、生命保険や死亡退職金は課税対象として納得できるものの、一定期間の経過しない生前贈与も課税対象となるのは意外と思う方もいらっしゃるかもしれません。
本来、生前贈与は配偶者や子世代への資産移転が第一の目的であり、その結果相続税の節税につながります。
順序の異なる短期間の生前贈与をみなし相続財産に含めるのは、相続(死亡時期)が近い場合に、あからさまな税負担逃れのために生前贈与を利用することは避けて欲しいという趣旨です。
みなし相続財産の代表例
みなし相続財産に該当するものの代表例は以下の通りです。基本的に、特定の相続人(法定相続人に限定せず)が受け取る財産がみなし相続財産に該当します。
- 生命保険金
- 死亡退職金
- 信託受益権
- 弔慰金
- 相続発生3年以内の生前贈与(2024年1月以降は同7年以内の生前贈与)
みなし相続財産は遺産分割や遺留分の対象外
原則として、みなし相続財産は遺産分割や遺留分の対象になりません。
遺留分とは、法定相続人(兄弟姉妹を除く)に最低限保証される資産の取得分の権利です。
仮に、亡くなった被相続人が愛人に資産の全額を承継させる遺言書を作成していた場合でも、法定相続人は遺留分に基づく取得分を請求することができます。
みなし相続財産は特定の資産なので、財産分割と同様に遺留分には含まれません。
みなし相続財産のうち生命保険・死亡退職金には非課税枠がある
みなし相続財産のうち、生命保険や死亡退職金には非課税枠があります。
生命保険の場合
生命保険は病気やケガに対する保障としての印象が強いですが、被相続人を契約者として死亡保険を契約し、相続人を受取人とすることで、死亡保険を使った相続対策ができます。この場合、死亡保険金はみなし相続財産となるため、遺産分割や遺留分の対象には含まれません。
なお、生命保険といっても、相続の非課税枠が適用されるのは死亡保険のみです。病気やケガを保障する医療保険や、学資保険などには相続の非課税枠が設定されていません。また、保険料をアメリカドルやオーストラリアドルで運用している場合も、相続の非課税枠は円建てになります。
生命保険における非課税枠
死亡保険金には、次の非課税枠が設けられています。
生命保険金の非課税枠=500万円×法定相続人数 |
生命保険の課税金額の計算方法
生命保険の課税金額の計算式は、以下のとおりです。
生命保険の課税金額=受け取った死亡保険金ー生命保険の非課税額 |
例えば、死亡保険金5,000万円、相続人が妻と子1人の計2人の場合、生命保険の課税金額は以下の通りです。
5,000万円-(500万円×2人)=4,000万円
生命保険の非課税枠が適用されないケース
受取人が相続放棄をした場合は、生命保険の非課税枠は適用されません。ただし、相続放棄をしても、生命保険金を受け取ること自体は可能です。
また、生命保険料の負担者が被相続人ではない場合は、相続税ではなく所得税や贈与税になるため、非課税枠は適用されません。
死亡退職金の場合
死亡退職金は被相続人が亡くなったとき、職場から相続人に支給されるお金です。生命保険金と同じく、みなし相続財産となります。
死亡退職金における非課税枠
死亡退職金の非課税限度額は、生命保険金と同様に「500万円×法定相続人数」です。
死亡退職金の非課税枠が適用されないケース
死亡退職金は被相続人が死亡してから3年以内に支給が確定しなかったものは、非課税枠が適用されません。また被相続人が生前に受け取った退職金は、非課税枠の対象外となります。
みなし相続財産で気をつけたいポイント
みなし相続で気をつけたいポイントをお伝えします。
相続放棄したら非課税枠が適用されない
被相続人に借入金などマイナスの資産がある場合、相続放棄は有効な手段です。基本的に相続放棄しても生命保険や死亡退職金は受け取れます。ただ、生命保険の非課税枠が適用されないことに注意しましょう。
生命保険と死亡退職金以外には非課税枠がない
みなし相続財産のうち、生命保険と死亡退職金以外には非課税枠が設けられていません。会社の弔慰金などはそのまま課税対象額となるため注意しましょう。実際に相続が発生してから混乱するのも避けたいため、被相続人が元気なうちに生命保険の活用状況を家族同士で話し合っておくことをおすすめします。
配偶者・親・子ども以外が受け取ると相続税が2割加算になる
原則的に相続は血族への資産譲渡のため、法定相続人以外が受け取ると偶然性が高いと判断されます。特に孫が被相続人の養子となり相続した場合、1世代分の相続税をまぬがれていると判断され、2割加算の対象となります。
相続では法定相続人以外の方が相続資産を受け取った場合、相続税が2割加算になる仕組みがあります。
みなし相続財産についての相談はセゾンの相続へ
みなし相続は相続における課題のひとつですが、早めに手を打てる部分でもあります。生命保険は生前にどのような保険に加入しているか明らかであり、死亡退職金や会社の長期金についても勤務先の制度を確認しておくことができます。
そのときに「みなし相続財産こんなにあるんだ」ではなく、いずれ自分たちの相続においてどのような課題があるのかを可視化しておくことが大切です。「セゾンの相続 相続対策サポート」では、早い段階からの家族の相続相談に対応しています。
特にみなし相続財産の対象となる生前贈与は、2024年1月からそれまでの3年に代わり、相続発生7年前までの生前贈与が対象となります。3年と7年では生前贈与のスケジュールは大きく異なります。
これまでであれば「まだ相続はずい分先の話だから動かなくていいよね」となっていた相続対策が、相続7年前から準備が必要なので、早めに動き始めようという考えに変わります。生前贈与をめぐる変更が、専門家への早期の相続相談ニーズにつながることは間違いないでしょう。
おわりに
相続時のみなし相続財産についてお伝えしました。みなし相続財産は相続人間に公平さをもたらすための制度です。生命保険にしろ退職金や弔慰金にしろ、生前に自分たちの相続財産はどうなるのか、予想できる部分の大きい制度でもあります。早めに専門家に相談し、みなし相続財産も含めた対策を打っていきましょう。