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シニア世代が「なんでそう着るの?」を脱するためのお洒落考。編集者の江弘毅さんにインタビュー
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シニア世代が「なんでそう着るの?」を脱するためのお洒落考。編集者の江弘毅さんにインタビュー

服装なんて二の次で仕事や子育てに邁進し、気づけばシニア世代。ちょっと服装を見直したいけれど、今さら、何をどう着たらいいかわからない。そんな方は多いのではないでしょうか。

そこで、50歳からの服装を再考する『なんでそう着るの? 問い直しファッション考』(亜紀書房)の著者であり、長年都市型情報誌のファッションページを担当した編集者でもある江弘毅さんにインタビュー。シニア世代がお洒落に生きる心構えや姿勢を伺いました。

江弘毅さん

編集者・著述家、神戸松蔭女子学院大学教授。大阪府岸和田市生まれ。1989年に『月刊ミーツ・リージョナル』創刊に携わり、12年間編集長を務める。現在は大阪・堂島の編集出版集団「140B」編集責任者を務め、「街場」を起点に多彩な活動を繰り広げている。『なんでそう着るの? 問い直しファッション考』(亜紀書房)、『K氏の大阪弁ブンガク論』(ミシマ社)、『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)ほか著書多数。

お洒落に“型”にはない。個々に楽しみ見つけるもの

――シニア世代が「あか抜ける」「お洒落に見える」ためのファッションのポイントを教えてください。

残念ながらファッションには、「一を聞いて十を知る」ような、汎用性のあるテクニックやスキルはありません。「こうするとカッコ良く見られる」とか、「最低限これを押さえよう」と考えれば考えるほど、逆にカッコ悪くなります。共通するポイントを見つけようとするのが、そもそもの間違いなんです。

「差し色がお洒落」とかいいますが、じゃあ差し色ならなんでも良いのかと。そこでもう、「差し色」という言葉に囚われてしまっているんです。法則なんてないのに、ついそれを信じてダサくなってしまう。そんなん、楽しくないやないですか。

お洒落に“型”にはない。個々に楽しみ見つけるもの

――法則に囚われず、お洒落を楽しむためにはどうしたら良いのでしょうか。

ファッションのコツには大きな共通点なんてなく、人によりけりであり、もっと個別のものです。例えば、「裸足でローファーを履く」というのも、足がある程度日焼けしていないと、パンツの丈がいくらジャストでもキマりません。少なくとも裸足で履く時は、そこまで気を遣わないといけないのではないか。それぐらい個別の話なんですよ。

今朝も、鏡の前にドカッと帽子を積み上げて、「これか?」「いやこっちか?」と被り比べて、「これはイケるわ」と選んできました。ボーダーの服やのに、ノバチェックがめっちゃ合うでしょ?柄と柄がカブっているのに、いい感じ。これが服の面白さです。だから、履きもしないスニーカーをムカデみたいにたくさん持っている人がいるワケです。そこの域まで入ってはじめて、お洒落が楽しくなるんです。

――自分でトライ&エラーするのが大切ということですね。

ええ、共通解は無いですから。昨日も、神戸元町の「Giorgio Armani(ジョルジオ アルマーニ)」に行ったんですが、案内してくれたスタッフのパンツの裾がダブルで幅が5cmで、スーツを着こなしてたんですよ。「これ、カッコええから真似しようかな」と、僕の服選びはそんな感じ。

でもそのスーツの値段を見たら67万円でした……。僕も来年から年金暮らしですし、「それはないやろ(涙)」という値段ですが、そんなん関係ない。当然そんな大金持っていなかったけど、もし100万円持ってたら、「買う」言うてましたよ。これがファッションの面白さなんです。

――67万円のスーツにはとても手が出せない気がします。

そうやって、「高い」「安い」と値段で見てしまう価値観が、ファッションにとって一番良くないんです。安価な服を大量に販売しているファストファッションブランドが台頭してから、日本のファッションは、回転寿司のお皿の色でネタを選ぶような価値観になってしまっていますよね。

本来は、鮨屋で「まずはトロだ」と値段を見ずに注文して、帰りにお勘定が3万円でガクッとなるようなドキドキがあるものです。初めに値段で選んでしまったら、その楽しさはないでしょう。という話なんです。他愛もないことですけど、そこが違うんではないんかなと。確かに67万円は高すぎて、よう買いませんけどね(笑)。

お洒落に“型”にはない。個々に楽しみ見つけるもの

「高い」「安い」で服を選ばず、カッコいい人を真似しよう

――コストパフォーマンスを重視して、ファストファッションを取り入れているシニア世代は多いと思います。

厳しいことを言うようですが、服にコストパフォーマンスを求めるのは、お洒落の観点からするとNGです。理由は簡単で、そんなん楽しくないから。

コスパ重視で服を選ぶのは、「10円安いからあっちのスタンドに行く」といった、ガソリンの買い方と同じなんです。でもファッションはガソリンや他のモノみたいに“等価交換”じゃない。ナイロン製の服でも、なぜか20万以上の価格がついていたりしますよね。それは、そこに「カッコ良さ」という付加価値があるからです。1,000円を出して、必ずしも1,000円の価値は得られるという簡単なものではないはずなんです。

それに、そもそも着ているものがファストファッションなのかそうでないブランドの服なのかは関係ありません。ファストファッションの服を着てかっこよくなる人もいれば、高いブランドものの服を来てダサくなる人もおる。ファッションのおもろいところは、かっこ良さは値段で決まらないというところにあるんです。

――でも、日本でファストファッションはかなり受け入れられていますよね。

確かにファストファッションのおかげで気軽に服を選べるようにはなりましたが、「安いからこれで」というふうに買う人が増えてしまった。でもそれで本当にカッコ良くなれるんでしょうか。

お金という判断基準から離れて、「色違いの帽子を10 個持っている」のもありやし、逆に「帽子はこれ1個で絶対カッコいい」というのもありです。シニア世代はバブルを経験しているので、過去に買った高級ブランドを箪笥に眠らせているかもしれません。そういったものを出して使って、本当に自分に合うものを探していけると良いですよね。

――たしかに、過去のアイテムを使う方法もありますね。

80年代とかの肩パッドがバーンと入っているようなスーツは難しいですが、例えばこのGジャンは、50年代の『リー』の復刻版ですが、少しリメイクしたものです。アームホールがちょっと細いでしょう?昔のGジャンは太いんですが、これは今っぽくアレンジされています。

「高い」「安い」で服を選ばず、カッコいい人を真似しよう

そういったことは服屋さんで教えてくれるので、意見を聞いて、コーディネートしてみるのも良いかもしれません。僕は岸和田の洋装店の生まれで、オーダーで服を作っている姿を子どもの頃から見て育ちました。だから寸法には敏感なんですが、丈感やサイズは本当に大事。そこを重視すると良いと思います。

――カッコ良く見える丈感やサイズは、どうやって学んだらいいでしょうか。

真似したらいいんです。街でカッコいい人を見つけたら、丈とかパンツのボリュームとかを、よく観察する。どうしてその人にその服が似合っているのかを、分析してみるんです。僕のお洒落の源は全部それです。年齢とか性別に関係なく参考になるし、そうやってずっと見てきたから服が好きなんです。

ただ、観察すると言っても、「真似しよう」と思ってキャッチアップするとモッサくなります。自然に「わあ、この人カッコええな」と思える気持ちが一番大事。

もう少し他者に心を伸ばして、街ゆく人を「あの人カッコいい」と思える視点で服を見ないと、面白さは生まれてきません。そこが一番お洒落になれるポイントじゃないかなと思いますね。

――確かに、その視点が錆び付かなければ、何歳でもお洒落になっていけそうです。

そうなんです。だから本来は、年齢が上がるほどにファッションの経験を積むことでカッコ良くなっていくはずです。そうしたら、自然と周りにもカッコいい大人が集まってきて、小さなこだわりに目をキラキラさせて服装談義をするのも楽しいもんですよ。SNSにアップして、コメントを付け合ったりね。

自分らしさを出すには、「それは良い趣味か?」の視点を

――シニア世代が流行アイテムをうまく取り入れるコツはありますか?

アイテムによりますね。例えば、2023年現在でトレンドになっている大きなソールのスニーカーは、うまく合わせられたらものすごくカッコいいと思います。ただ、最先端をいきすぎているデザインのものを選ぶと、かなり難易度が高い。

それよりも、過去に流行ったアイテムで、一周回ってきたものを取り入れるのがおすすめです。例えば今「NEW ERA(ニューエラ)」とか「’47(フォーティ―セブン)」のキャップが流行っていますが、元をただせば普通の野球帽じゃないですか。だからハードルが低く、シニアも割と取り入れやすいんです。

先日街中でオリックス・バファローズのNEW ERAキャップを被っている人を見かけて、カッコ良かったので僕も真似して買いました。

一方、これがスポーツウエアになると、シルエットがタイトだから、僕が着たら見るも無残に……。ガタイが良くないと着映えしないアイテムは要注意ですね。

自分らしさを出すには、「それは良い趣味か?」の視点を

――トレンドに関係なく、「自分らしい個性的なファッション」を目指すのは難しいですか?

TPOを考える必要がありますね。そもそも服装でどのように「自分らしさ」を出すかと言ったら、「自分をどう見て欲しいか」という話になるんです。

例えば昔、就職活動で会社訪問をしていた時に、商社を受ける同級生が白いバギーパンツを着て行って門前払いされていました。彼は「個性が分からん会社は今後伸びない」と主張しましたが、カッコいいとかダサいとか以前に、迷惑ですよね。スーツは特にですが、服選びは「他者を意識したもの」でないとあかんのです。だって、セレブぽくとかちょっとワルそうに見せたいとか、それによってファッションって変わってくるじゃないですか。

加えて、そこをさらに超えて、「お金持ちに見せる」というのが「良い趣味なのか、悪い趣味なのか」を考えるところにいかないと、面白くないんですよ。

「自分らしさを出すには、どう見て欲しいのかという視点が常に根底にある」という構造をひとひねりして、「じゃあそれは趣味がいいのか、悪いのか」という視点にまでいかないと、お洒落にならないということです。つまり、「こう見て欲しいと思う自分」を客観的に判断する「もうひとりの自分」の視点がなければ、独りよがりのファッションになってしまいがちなんです。

例えば、F1レーサーがフェラーリに乗るのは別に趣味の悪いことではないけれど、その職業とはほど遠い人がフェラーリに乗っていて、でも運転が下手だとすると、それは良い趣味なのかどうか。「どう見られたいか」と「何が着たいのか」のポイントが合致していると良いと思います。

自分らしさを出すには、「それは良い趣味か?」の視点を

出自や育ちがひっくり返るのがファッションの真の面白さ

――最後に改めて、ファッションの楽しみ方について教えていただけますか。

「訳がわからない」ところがファッションの面白いところです。理屈にはめて考えたら、すーっと逃げてしまう。だから、安易にトレンドを捕まえようとするのはNGなんです。さっきも言いましたが、単なるキャッチアップになってしまう。それは究極にカッコ悪い。その服を通じてどうカッコ良くなりたいのか、そしてそれは世間においてどんな意味を成すのか。本質を目指さないと、カッコ良くなりません。

それから、ファッションの良いところは、階級がひっくり返るところです。日本は階層社会ではないのでピンと来ないかもしれませんが、服装次第で出自や育ちを選び直せるというところに、ファッションの面白さがある。まあ、それは外見上ですが(笑)。

ジーンズも、北米でゴールドラッシュの際に使われていた作業着が、確固たるファッションアイテムにまで登りつめたわけです。もともと作業着の生地だったデニムはいまのモードになくてはならない素材です。その可能性があるから面白い。だからGUCCIやLOUIS VUITTONのダメージ・ジーンズに大金をかける人がいるんです。ぜひ一緒にファッションを楽しんで、「シニア世代はダサい」というイメージをひっくり返していこうやないですか。

出自や育ちがひっくり返るのがファッションの真の面白さ

(取材・執筆=笹間聖子 撮影=小林由実 編集=ノオト)