相続税の支払いは現金一括が原則です。支払いが困難な場合、税務署の許可が下りれば、分割で支払う「延納」を利用できます。納税額が高額になったり、不動産を多く相続したりした方であれば、延納が使えるのか知りたいのではないでしょうか。
この記事では相続税の延納の条件や期間、手続き方法について解説します。ご自身が延納できるかわかり、「専門家に相談する」「金融機関から借り入れをする」など、適切な判断ができるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 相続税の延納とは年1回の分割支払いで相続税を納付する制度
- 適用条件は「相続税額が100,000円を超えること」「金銭での納付が困難な事由があり、かつその金額の範囲内であること」「延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること」「期日までに必要書類を税務署に提出すること」
- 「相続税延納申請書」や「担保提供関係書類」に必要事項を記入し、故人の住んでいた地域を所轄する税務署に「亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内」に提出する
相続税の延納とは
相続税の延納とは年1回の分割支払いで相続税を納付する制度です。延納期間中には利子税が発生します。
相続税は原則として死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に、現金一括で支払わなければなりません。相続税を期限内に納税しないと、延滞税が課されたり、最悪の場合財産が差し押さえられたりすることもあります。
ご家庭によっては相続財産のほとんどが不動産など、まとまった現金を持ち合わせていないこともあると思います。納税額が高額になれば、その一部しか期限内に支払えないケースもあるでしょう。そこで税務署に申請し、許可が下りれば延納を利用できます。支払い総額は多くなるものの、一時的な負担を軽減できるのがメリットです。
延納できる4つの条件
相続税を延納するためには、以下の4つの条件をすべて満たすことが必要です。
- 相続税額が100,000円を超えること
- 金銭での一括納付が困難な事由があり、かつその納付を困難とする金額の範囲内であること
- 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること
- 相続税の申告期日までに必要書類を税務署に提出すること
「相続税額が100,000円を超える」では、相続人全員の納税額の合計ではなく、相続人一人ひとりの納税額で判断します。例えば相続人全員での納税額が200,000円であっても、その方の分が80,000円であれば対象外です。
2つ目は相続された財産以外にも元々持っていた財産を加味しても納税できないことを指します。ただし生活費3ヵ月分や当面の事業経費は手元に残した上で計算できます。
担保に関しては延納税額が100万円以下でかつ延納期間が3年以下であれば必要ありません。担保として認められるのは、主に以下のものです。
- 国債および地方債
- 社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
- 土地
- 建物、立木、登記される船舶などで、保険に附したもの
- 鉄道財団、工場財団など
- 税務署長が確実と認める保証人の保証
そして相続税の納付期限(死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内)までに、亡くなった方の住まいを管轄する税務署に「相続税延納申請書」や「担保提供関係書類」などを提出します。
相続税を延納するデメリット
相続税を延納する際には、相続する財産にどの程度不動産などがあるかによって以下の利子税がかかります。
区分 | 延納期間 | 延納利子税割合(年割合) | 特例割合 | |
不動産等の割合が75%以上 | (1)動産等にかかる延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.6% |
(2)不動産等にかかる延納相続税額((3)を除く) | 20年 | 3.6% | 0.4% | |
(3)森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木にかかる延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.1% | |
不動産等の割合が50%以上75%未満 | (4)動産等にかかる延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.6% |
(5)不動産等にかかる延納相続税額((6)を除く) | 15年 | 3.6% | 0.4% | |
(6)森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木にかかる延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.1% | |
不動産等の割合が50%未満 | (7)一般の延納相続税額((8)(9)(10)を除く) | 5年 | 6.0% | 0.7% |
(8)立木の割合が30%を超える場合の立木にかかる延納相続税額((10)を除く) | 5年 | 4.8% | 0.5% | |
(9)特別緑地保全地区等内の土地にかかる延納相続税額 | 5年 | 4.2% | 0.5% | |
(10)森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木にかかる延納相続税額 | 5年 | 1.2% | 0.1% |
※令和5年1月1日現在の「延納特別基準割合」0.9%で計算
延納には利子税が発生する
延納は期限内に納めるべき相続税の支払いを先延ばしするもので、ある種「国から借り入れをしている状態」といえます。そのため延納する際には、延納額に応じた利子税を支払わなければなりません。不動産等の割合が多いほど、利子税の割合は低くなります。計算する際には表の右にある特例割合を適用します。
延納には期限がある
延納には不動産等の割合に応じて、5年から20年の分割期限があり、延納する方が自由に期間を設定できるわけではありません。不動産等の割合が多いほど、延納期間は長くなります。例えば不動産等の割合が75%以上の場合、動産等は10年間、不動産等では20年間です。不動産等の割合が50%未満になると、5年と短くなります。
相続税の延納手続きについて
延納する際には被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に、故人の住まいを管轄する税務署に申告しなければなりません。ここでは手続きの流れや必要書類について解説します。
手続きの流れ
延納の流れは以下のとおりです。
- 国税庁のホームページから「相続税延納申請書」などをダウンロードする
- 必要事項を記入し、担保提供関係書類を用意する
- 故人の住んでいた地域を所管する税務署に書類を提出する
- 提出期限の翌日から3ヵ月以内に許可または却下の知らせが届く
延納の申請期限は「亡くなった日の翌日から10ヵ月以内」となります。ご家族が亡くなると葬儀や遺産分割協議など、やるべきことがたくさんあります。期限内に申請できるように、できるだけ早く相続手続きを開始しましょう。
手続きに必要な書類
手続きには以下の書類が必要です。
- 相続税延納申請書(各種確約書含む)
- 金銭納付を困難とする理由書
- 延納申請書別紙(担保目録及び担保提供書)
- 担保提供関係書類
- 不動産等の財産の明細書
「相続税延納申請書」には延納申請税額や不動産等の割合などを記載します。「金銭納付を困難とする理由書」では相続した現金・預貯金や元々持っていた財産、臨時的収入などを記載し、延納で納付できる金額などを算出します。延納申請書別紙(担保目録及び担保提供書)は土地、建物、有価証券、保証人ごとに必要です。
「担保提供関係書類」は担保の種類によって異なり、例えば土地であれば「登記事項証明書」や「固定資産税評価証明書」などを準備します。不動産等の割合が75%未満であれば、「不動産等の財産の明細書」は不要です。
相続税の延納申請が期限内に行えない場合
期限内に「担保提供関係書類」を提出できない際には、その期限までに「担保提供関係書類提出期限延長届出書」を提出しましょう。期限の翌日から最長6ヵ月間延長が可能です。速やかに延納できるよう、書類は計画的に集めましょう。
相続税の延納を利用する際に気をつけたいこと
相続税の延納の条件は厳しく、金利などの仕組みも難解です。ここでは利用する際に気をつけるべきポイントについて解説します。
すべての財産が担保に使用できるわけではない
延納には担保が必要ですが、すべての財産が担保として認められるわけではありません。具体的には以下のような財産は担保にならない場合があります。
- 法令上担保権の設定や処分が禁止されているもの
- 違法建築や違法利用のために建物除去命令等がされているもの
- 相続人間で争っている財産
- 売却見込みのない財産 など
万が一相続税を支払えないと、国は担保を換金して徴収することになります。金銭的価値が低いものは担保として認められず、不適切と判断されれば変更や追加を求められます。
延納できる条件がかなり厳しい
延納は「相続財産に現金がない」「お金を用意できない」との理由だけでは利用できません。元々ある預貯金なども含めたトータルの財産から、延納できる金額を算出することになります(生活費3ヵ月分と当面の事業経費は除く)。
担保の条件など、審査項目がたくさんあるため、気軽に利用できないことを覚えておきましょう。
金融機関を利用した方が良い場合もある
延納の手続きの手間や利子税によっては、金融機関で借り入れをして、相続税を通常どおり期限内に一括納付したほうが負担を軽減できるケースもあります。金利や返済回数などは金融機関によってさまざまです。利用する際には毎月の収入や支出を計算し、無理のない範囲で返済できるようご家族とも話し合って決めましょう。
納税方法を切り替えることもできる
資金に余裕ができたときには、繰り上げ返納を検討しましょう。利子税を減額でき、負担を大きく軽減できるでしょう。
また延納期間中に金融機関の利率のほうが低くなれば、金融機関から借り入れをしそのお金で残りの延納額を納付するのも得策です。
相続税が払えない…延納以外の方法は
延納でも相続税の納付が難しいときには物納をするのが基本の流れです。他にも不動産を売却するなど、延納以外にもできることはたくさんあります。最後に延納以外で相続税を支払う方法を解説します。
延納でも納付が困難な場合は物納
物納とは相続で取得した財産で相続税を納付する方法です。期限内の一括納付でも延納でも難しいときに、最後の手段として用いられます。物納ができる財産には優先順位があり、不動産や船舶、国債証券、地方債証券、上場株式などが第1順位となります。期限までに税務署に書類を提出することが必要です。
納税猶予特例の適用かどうか調べる
相続財産に農地があり、相続人が農業経営を続ける場合には、相続税の納税を猶予できる制度を利用できます。農地は広大な面積となるため、相続税が高額になることもあります。一方で残された家族が農業を続けることは難しいことでもあるでしょう。家族と話し合い、特例を受けるか、延納や物納で納付するか、慎重に決めることをおすすめします。
相続財産の売却を検討する
相続財産に不動産がある場合には、売却し、納税資金を確保するのもひとつの方法です。利子税はかからず、物納よりも手続きが面倒ではない点がメリットです。一方で希望する価格で買い手が見つからず、時間がかかることもあります。
売却を少しでも視野に入れていれば、早めに情報収集をし、不動産会社に問い合わせるなど、対応しましょう。
専門家に相談する
相続税の延納手続きでは用意する書類がたくさんあり、期限内に確実に進めなければなりません。相続税に精通した税理士に相談することで、スムーズに手続きをすることができるでしょう。
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おわりに
相続税の納付期限内に現金一括で納付できないときには、以下の条件をすべて満たすことで、延納を利用できます。
- 相続税額が100,000円を超えること
- 金銭での納付が困難な事由があり、かつその金額の範囲内であること
- 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること
- 申告期日までに必要書類を税務署に提出すること
不動産等の割合に応じて利子税がかかり、延納期間は5年から20年となります。利用したい際には、「相続税延納申請書」や「担保提供関係書類」に必要事項を記入し、故人の住んでいた地域を所轄する税務署に提出しましょう。申請期限は「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内」です。