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勤続35年、退職金2,500万円の会社員の悩み…退職金の受取方法“一括”と“分割”どちらがお得?【FPの回答】

勤続35年、退職金2,500万円の会社員の悩み…退職金の受取方法“一括”と“分割”どちらがお得?【FPの回答】
山中 伸枝(株式会社アセット・アドバンテージ・代表取締役)

執筆者

株式会社アセット・アドバンテージ・代表取締役

山中 伸枝

1993年、米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務し、人事、経理、海外業務を担当。留学経験や海外業務・人事業務などを通じ、これからはひとりひとりが、自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナーを目指す。2002年にファイナンシャルプランナーの初級資格AFPを、2004年に同国際資格であるCFP資格を取得した後、どこの金融機関にも属さない、中立公正な独立系FPとしての活動を開始。金融機関や企業からの講演依頼の他、マネーコラムの執筆や書籍の執筆も多数。

退職金は多くの場合、退職時に一括で受け取ります。しかし、「確定給付企業年金(DB)」や「確定拠出年金(DC)」など、分割で受け取ることも可能です。では、退職金はどのように受け取るのがお得なのでしょうか。ファイナンシャルプランナー(FP)の山中伸枝氏が、具体的な事例を交えて詳しく解説します。

勤続年数35年、退職金2,500万円…退職所得控除はいくら?

勤続年数35年、退職金2,500万円…退職所得控除はいくら?

「退職金」というと、“一括で大金を渡されるイメージ”があるかも知れません。ただ最近は、この「退職一時金」のタイプのほか、年金形式で受け取るタイプもあります。受取方を選択できる場合、方法により税金のかかり方が異なるため、事前の確認が必須です。

退職金は会社が設けている制度ですから、すべての人に該当するように伝えることは難しいのですが、今回は税金の基本的な話から、比較的当てはまる人が多い事例を取り上げて解説していきます。

「退職一時金」にかかる税金の仕組み

まずは「退職一時金」にかかる税金の仕組みをみていきましょう。仮に、60歳定年で勤続35年、2,500万円の退職金を受け取る場合を想定します。2,500万円というと、大卒で就職し、大企業に勤めていた人の平均額です。

退職金というのは“長期間のお勤めご苦労様”という意味合いもあるので、特に所得税が優遇されるように設計されています。

この優遇の度合いは勤続年数によって変わり、計算のうえ「退職所得控除」(=税金のかからない部分)が差し引かれます。当然ながら、この「控除部分」が大きければ支払うべき税金が少なくなるということです。

退職所得控除は、勤続年数20年までは1年あたり40万円、20年を超えた期間については、年間70万円で計算されます。

つまり、

■勤続10年……40万円×10年=400万円
■勤続20年……40万円×20年=800万円
■勤続30年……40万円×20年+70万円×10年=1,500万円

となります。

また、1年未満の勤続年数は1年とカウントされます。したがって、勤続年数19年11ヵ月の場合、勤続年数は20年→退職所得控除は800万円、20年1ヵ月の場合、勤続年数21年→退職所得控除は870万円となります。

今回の例は勤続35年ですから、退職所得控除は下記のようになります。

■勤続35年……40万円×20年+70万円×15年=1,850万円

2,500万円の退職金から上記の控除額を差し引くと、650万円が残ります。

前述したとおり、退職金は特に税制が優遇されているため、税金を計算する際にはこの残った650万円がさらに2分の1されます。つまり、今回の例では325万円が課税対象ということです。

退職金に課されている「分離課税」とは? 

退職金に課されている「分離課税」とは? 

退職金は課税の段階でも「分離課税」という特別ルールがあります。これは、退職金以外に所得がある場合でも、合算せずに税金を計算するというものです。

たとえば、年の途中で定年を迎える場合、それまでの給与があります。その給与収入が数百万円あり合算されてしまうと、そちらの税率に引っ張られてしまい結果的に税金の支払額が多くなってしまいます。

しかし、退職所得は「分離課税」といい単独で税金計算されるため、この場合の税金は325万円×10%-9万7,500円=22万7,500円となります。住民税は10%ですから32万5,000円、納税額は合計で55万2,500円です。

※国税庁「所得税速算表」より

退職金は、大企業に勤める一般職の場合平均で1,500万円、中小企業に勤める大卒で平均1,100万円というデータもありますが、そのようなケースでは退職金が退職所得控除内となり、税金を負担することなく退職金を全額受け取れるということになります。

いずれにせよ、退職金が課税対象となるのかならないのかは個々の状況によるので、老後資金計画を立てる際には早めにご自身の退職金見込み額を確認するとよいでしょう。

なお、勤続年数20年超の退職所得控除の額が、それ以下の期間と比べてかなり優遇されていることから「この制度が人材の流動性を低くしているのではないか」という指摘があり、今後この計算式の見直しが検討されています。結論はまだ出ていないものの、知っておきたい情報といえます。

退職金が「分割受け取り」の場合、税金はどうなる?

退職金が「分割受け取り」の場合、税金はどうなる?

前述の例「退職金2,500万円」について、分割受け取りが選べるタイプだった場合、どうなるでしょうか? これはつまり「確定給付企業年金(DB)」や「確定拠出年金(DC)」が導入されている会社の場合です。

DBですと5年や10年の確定年金が選べますし、DCであればさらに自分自身で運用を継続したり、時間をおいてDCのみ一括や分割など受取方法を選んだりすることもできます。

今回は、2,500万円の退職金のうち1,500万円を一時金で受け取り、残り1,000万円を原資として、年間60万円の年金を20年かけて受け取るDBの例を考えてみましょう。勤続年数は先ほどと同様に35年とします。

DBの場合、一括受取より「節税効果」が期待できる

1,500万円を一時金で受け取ると、退職所得控除1,850万円の範囲内ですから税金は一切かかりません。一方、年間60万円受け取る年金については、「雑所得」という別の所得税の課税ルールが適用されます。

DBの確定年金を受け取る際は、受け取る額から「公的年金等控除」が差し引かれます。この控除は65歳未満では60万円まで非課税で受け取れますから、2,500万円を一括で受け取る場合と比較すると、支払うべき税金が抑えられます。

※65歳未満で、雑所得以外の所得が1,000万円以下の場合。

65歳以降の公的年金等控除は、110万円までが非課税です。仮に65歳から国民年金や厚生年金の老齢年金を受け取る場合は合算されます。仮に老齢年金が240万円だとすると、DB(年間60万円)と併せて年金収入が300万円となります。

年金収入300万円の場合、公的年金等控除は110万円ですから190万円が雑所得となります。ここから、支払った社会保険料の全額が「社会保険料控除」として差し引かれ、配偶者控除、生命保険料控除、基礎控除などがさらに差し引かれ、最終的な課税所得となります。こちらは退職金と異なり、その他の所得と合算される「総合課税」です。

たとえば、雑所得190万円から諸々の控除を計算し、課税所得が100万円となったとしましょう。この場合、所得税は5%ですから5万円、住民税は10%ですから10万円、支払うべき税金は合計15万円となります。

年金を「繰下げ受給」したらどうなる?

では、公的年金を繰り下げたらどうなるでしょうか? 老齢年金には、受け取り時期を遅らせると金額が増える「繰下げ受給」という仕組みがあります。今回は老齢年金240万円のうち、老齢基礎年金の80万円は繰り下げずに受け取り、老齢厚生年金160万円は75歳まで繰り下げるケースを考えてみましょう。

本来の受給開始年齢から10年遅らせることになるため、増額率は184%となり、老齢厚生年金額は160万円×1.84=294万4,000円となります。

すると、65歳から75歳までの年金収入はDB60万円と公的年金80万円の合算で140万円です。公的年金等控除110万円を差し引くと30万円が雑所得となり、基礎控除48万円を差し引くと税金の支払は0円となります。

75歳からの5年間は繰り下げた老齢厚生年金294万4,000円が加算されるため、年金収入は434万円4,000円となり、公的年金等控除後の雑所得は300万4,000円となります。ここから、前述のとおり各種所得控除が差し引かれ税額が決定します。

しかし、DBの受取りは60歳から20年間です。よって、80歳を過ぎると公的年金374万円のみの受け取りとなり、公的年金等控除後の金額は253万円になります。

最適解は“人による”が…「退職所得控除」はめいっぱい利用を

最適解は“人による”が…「退職所得控除」はめいっぱい利用を

このように、退職金は受取方によって税金の計算方法が変わり、さらにDCの場合ご自身で運用を継続できるというオプションがあるため、まずは制度を正しく把握し、そのうえで「自分はどの方法で受け取りたいか」を考えたほうが良いでしょう。

またDBやDCの場合、退職金の受取方を考えながら、公的年金の受取方も自ら選ぶことができるため、場合によっては節税が可能です。これらは知らずにいると、非常にもったいない制度です。

「どのプランが最適か」というと、正直なところ人それぞれです。ただし、「税金の支払い」という観点のみでいうと、「退職所得控除はめいっぱい利用したほうが良い」とFPである筆者はアドバイスしたいです。退職所得控除は、勤続年数によってはかなり大きな金額になりますし、超過分も2分の1となり、さらに分離課税ですから、とても有利です。

退職所得控除を上回る分については、年金受け取りを検討します。さらに、DCと公的年金を受け取るタイミングは75歳までの間で自由に選べますから、ここもそれぞれの開始時期をずらすことで、節税につながる可能性が高くなります。

まとめ 

税金に関する個別・具体的なご相談は「税理士」が窓口です。ファイナンシャルプランナーが相談に乗れることは、ライフプランを立てたうえで退職金をいかに活用するか、という点です。税金の心配をするあまり、老後のキャッシュフローが回らなくなったということがないように、適切な窓口に相談のうえ受取方を選ぶことをおすすめします。

今回みてきた「退職金」に限らず、税に関する知識を持つことはとても重要です。特に会社勤めの場合、それらの手続きは会社に依存するケースが多いため、基礎知識も持ち合わせていないという人も見受けられます。

老後は原則自分で確定申告となるため、ぜひ今のうちに基礎的な知識だけでも勉強しておくといいでしょう。

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