遺産相続の準備を進めている方のなかには、デジタル遺産の相続方法に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。デジタル遺産は実体が目に見えないため、相続方法がわかりにくいのが現状です。
本記事では、デジタル遺産の基礎知識や相続手続きの流れを詳しく解説します。
最後まで読んでいただければデジタル遺産の相続に関する注意点がわかり、スムーズに相続手続きを進められるでしょう。
- デジタル遺産は姿かたちが目に見えないが、財産価値があるため相続手続きが必要
- デジタル遺産の相続手続きの流れは通常の遺産相続の流れとほぼ同じ
- ただし、デジタル遺産の種類によっては相続方法が確立されていない場合や相続税評価額の計算が複雑な場合がある
- 相続時のトラブルを防ぐには、デジタル遺産の生前整理を進めておくことが大切
- 遺産相続で困った場合は、相続のプロにご相談ください。
デジタル遺産の基礎知識を学ぼう
デジタル遺産とは、故人が所有していたデジタル形式の財産です。例としては、仮想通貨や電子マネー、NFTなどが挙げられます。
家や土地などの有形資産に対し、デジタル遺産はインターネット上やパソコンなどのデバイスのなかに保管されており、姿かたちが目に見えない無形資産である点が特徴です。
民法第896条により、故人(被相続人)が保有していた財産はすべて相続の対象になります。そのため、デジタル遺産も相続手続きが必要です。
参照元:e-Gov法令検索|民法|第896条(相続の一般的効力)
デジタル遺産にはさまざまな種類がある
ITの進化によりさまざまなモノのデジタル化が進んでおり、デジタル遺産にも多くの種類があります。主なデジタル遺産の種類と特徴は以下のとおりです。
種類 | 具体例 | 特徴 |
金融口座に預けた資産 | ネット銀行口座の資産 ネット証券口座の資産 | ・取引や入出金の管理をオンラインで行う口座に預けた資産(預貯金や株式、投資信託など) ・紙媒体の預金通帳ではなくアプリやWEBサイトで残高を管理する |
FX口座の資産 | ・FX(外国為替取引)を行うための口座に預けた資金 ・取引に損失が出た場合は追加の入金が必要になり、強制決済されて残高がマイナスになることもある | |
暗号資産(仮想通貨) | ・法定通貨ではないが、インターネット上で財産価値を交換できる仮想の通貨や資産 ・需給によりリアルタイムで価値が変動する | |
電子マネー | プリペイド型電子マネー | ・現金をデジタル化し、キャッシュレス決済に使用できるようにしたもの ・事前に残高をチャージするプリペイド(前払い)型のみ相続の対象 ・デビッド(即時払い)型やポストペイ(あと払い)型は財産価値がないため相続の対象外 |
ポイント | クレジットカードのポイント 各種小売店のポイント ECサイトのポイント マイル | ・各種サービスを利用した際に付与され、次回の支払いの際などに現金の代わりとして充当できるもの ・相続できるかどうかは利用規約によるが、死亡時にポイントが失効するケースが多い |
著作物 | NFT(非代替性トークン) | ・識別子を付与して偽造防止対策をしたデジタルデータ ・所有権を売買できるため、財産価値があれば相続対象になる ・アート作品などは需給により価値が大きく変動する可能性がある |
動画 WEBサイト 電子書籍 | ・収益が発生しているコンテンツの知的財産権 ・運営元の利用規約によりアカウントを引き継げるものは、相続対象になるケースが多い |
上記のように、デジタル遺産はスマートフォンなどで手軽に管理できるものが多いです。
しかし、所有者が亡くなると、本人以外はどんな資産をどのくらい保有していたのかがわからないため、相続の際にトラブルになるケースも少なくありません。
故人のデジタル遺産を調べる方法は、後ほど詳しく解説します。
似ているけどどう違う?デジタル遺品と呼ばれるもの
デジタル遺産に似た言葉として、デジタル遺品が挙げられます。
デジタル遺品とは、故人がインターネット上やパソコンなどの端末に保管していたデジタルデータや、各種サービスを利用した際に履歴として残した情報などを指します。
例えば、以下のようなものです。
種類 | 具体例 |
アカウント | メール、SNS、ECサイト、個人ブログ(収益性のないもの) |
デジタルデータ | 収益性のない動画、文章、写真、音楽、漫画や絵画などのデジタル創作物 |
情報 | 連絡先、予定表、社外秘情報 |
デジタル遺産とデジタル遺品の違いは、価値を金銭で換算できるかどうかです。
財産価値のあるものはデジタル遺産として相続の対象になり、相続税がかかります。一方、財産価値がなければデジタル遺品とみなされ、税務上の相続手続きは不要です。
ただし、SNSなどの第三者の目に触れるデジタル遺品を放置すると、個人情報の流出やハッキングなどのリスクが高まります。
必要に応じて非公開にしたりアカウントを削除したりする必要があるでしょう。
なお、デジタル遺品のなかには一身専属性を有しており、遺族であっても故人から引き継いで自由に管理できないものがあります。
一身専属性とは、権利や義務を他者に移転できない性質です。例えば、SNSアカウントの多くは一身専属性を有しており、本人以外がアカウントを引き継げないよう定めています。
一身専属性についてはサービスの利用規約などに記載されている場合が多いですが、わからない場合はサービス提供者へ問い合わせましょう。
参照元:国税庁|相続税がかかる財産
デジタル遺産の相続手続きの流れ
デジタル遺産の相続手続きの流れは、家や土地などの有形遺産を相続する場合とほぼ同じです。具体的に見ていきましょう。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人を調べる
- 相続財産の総額を把握する
- 遺産分割協議で相続分を確定する
- 遺産の名義を変更する
- 相続税を申告し、納付する
まずは、被相続人が遺言書を作成していたかを調べましょう。原則として、遺言書の内容により相続人や遺産相続の割合が決まります。
遺言書は法務局や公証役場に保管されているか、被相続人の遺品のなかに保管されているケースが多いです。
遺言書がない場合は、法定相続人が遺産を相続します。法定相続人とは、民法が定めた遺産を相続する権利がある方を指し、被相続人の配偶者と一部の血族が対象になります。
次に、被相続人のすべての財産を調べ、相続財産の総額を把握しましょう。デジタル遺産の場合は金融機関などに被相続人が亡くなった旨を連絡し、残高証明書などを取り寄せて確認します。
相続人が複数いる場合は遺産分割協議で相続する割合を決める必要があり、見落としていたデジタル遺産があとから見つかると協議がやり直しになる可能性があります。
被相続人の遺品を確認したり生前のやり取りを思い出したりしながら、すべての遺産を把握するよう慎重に調べましょう。
遺産分割協議が問題なく終われば遺産を名義変更などにより承継し、相続税の申告手続きを進めます。
相続税の申告手続きは、相続の開始があったことを知った日(被相続人が亡くなったことを知った日)から10ヵ月以内と期限が定められているため注意しましょう。
なお、相続税を申告する際は、税額を算出する根拠となる相続税評価額を計算する必要があります。デジタル遺産の評価額はデジタル遺産の種類や性質によって異なり、計算方法が非常に複雑です。
申告内容に誤りがあるとペナルティを受ける恐れもあるため、相続の専門家に手続きを依頼することをおすすめします。
参照元:国税庁|相続税の申告と納税
故人のデジタル遺産を調べる方法
故人が保有していたデジタル遺産を調べる方法は、以下の3つです。
- パソコンやスマートフォンのアプリ・メールを確認する
- 通帳やクレジットカードの取引履歴を確認する
- 遺品整理の専門会社へ依頼する
それぞれ詳しく解説します。
パソコンやスマートフォンのアプリ・メールを確認する
被相続人のパソコンやスマートフォンのロックを解除できる場合は、まず中身を確認しましょう。
電子マネーやネット銀行などのデジタル遺産を所有している場合、被相続人のスマートフォンに専用のアプリがインストールされているケースが多いです。
パソコンのWEBサイトからログインしていた場合は、閲覧履歴やブックマークを確認すれば利用していた金融機関などがわかるでしょう。
また、振込などの取引が行われた際に確認メールを自動で配信する金融機関も多いため、メールの履歴も重要な情報源になります。
なお、金融機関の多くはアプリやWEBサイトのセキュリティを強化しているため、ログインの際に2段階認証が必要になります。
2段階認証で認証コードの確認にSMS(電話番号を宛先にしたメッセージサービス)を使用する場合、先に被相続人の電話を解約してしまうとログインできません。
デジタル遺産の詳細を確認するためにも、電話回線の解約手続きは急がないほうが良いでしょう。
通帳やクレジットカードの取引履歴を確認する
遺品のなかにアナログの預金通帳やクレジットカードの利用明細書が見つかった場合は、取引履歴を見ることでデジタル遺産を確認できる可能性があります。
例えば、被相続人が複数の金融口座を保有して用途別に使い分けていれば、不定期に特定の金融機関との入出金履歴が残ることがあります。
また、クレジットカードの利用明細に取引先の企業などがわかる情報が記載されていないかも確認しましょう。
取引先の金融機関などに連絡して被相続人が亡くなったことを伝えれば、デジタル遺産の詳細情報がわかる可能性があります。
遺品整理の専門会社へ依頼する
故人のパソコンやスマートフォンのロックを解除できない場合や遺品整理の時間を取れない場合は、遺品整理専門会社を利用することも検討しましょう。
デジタル遺産やデジタル遺品の整理に対応した企業へ依頼すると、以下のようなサービスを利用できます。
- パソコンやスマートフォンのロック解除
- 故障の疑いのあるパソコンなどの復旧作業
- 内部のデータを確認し、オンライン取引の履歴やデジタル遺産の有無を調査
- デバイスに記録されたIDやパスワードのリストアップ
パソコンやスマートフォンに誤ったパスワードを連続で入力すると、完全にロックがかかったりデバイスが初期化したりする恐れがあります。
パスワードがわからない場合は無理に解除しようとせず、プロの力を借りましょう。
なお、デバイスの機種や状態によっては専門会社でもロックを解除できない可能性はあります。そのため、生前に被相続人と協力してデジタル遺産の相続の準備を進めておくことが大切です。
デジタル遺産の相続に関する注意点
デジタル遺産を相続する際は、以下の2点に注意が必要です。
- 相続の手続き方法が定まっていないものもある
- パソコンやスマートフォンの故障のリスク
それぞれ詳しく解説します。
相続の手続き方法が定まっていないものもある
デジタル遺産は普及してからの年数が浅く、特にNFTなどの新しい形式のデジタル遺産は相続手続きの方法が確立されていません。
国税庁などが税務上の取り決めを整備していますが、デジタル技術の発展に法整備が追いついていないのが現状です。
また、デジタル遺品の種類や取り扱う金融機関などによって利用規約が異なり、個別に確認しながら対応する必要があります。
一般的な有形遺産より相続手続きに時間や手間がかかる可能性がある点に注意が必要です。
参照元:
国税庁|暗号資産に関する税務上の取り扱い及び計算書について
国税庁|NFTに関する税務上の取り扱いについて p.15
パソコンやスマートフォンの故障のリスク
デジタル遺産の所在を知るための情報や、デジタル遺産そのものとなるコンテンツデータは被相続人のパソコンやスマートフォンなどのデバイスに保存されているケースが多いです。
デバイスが故障すると内容を確認できずデータが消去されるリスクもあるため、事前に外付けHDDやUSBメモリなどにバックアップしておきましょう。
ログインIDやパスワードなどは、簡易なリストを作って印刷しておくと安心です。
なお、保存したHDDやメモを紛失すると、不正利用の被害に遭う恐れがあります。
パスワード付きや暗号化機能付きのHDDを選んだり、相続手続きが終わるまで鍵をかけて保管したりすることをおすすめします。
相続でトラブルにならないためには生前整理をすることが大切
相続時のトラブルを防ぐには、被相続人と相続人で協力してデジタル遺産の生前整理を進めておくことが大切です。生前整理では、以下3つのポイントをおさえておきましょう。
- 金融情報や各種サービスをスマートフォンで一括管理する
- 不要な有料サービスなどは解約する
- 遺産の存在を明らかにし相続の方法を検討してもらう
順番に詳しく解説します。
金融情報や各種サービスをスマートフォンで一括管理する
デジタル遺産を見つけやすくするには、情報をひとつの場所に集めることが効果的です。
金融口座や各種サービスのアプリなどをスマートフォンにインストールし、一括管理しておくと良いでしょう。
デジタル遺品の整理をサポートする終活アプリなどを利用するのも便利です。ガイドに従って入力するだけで、相続に必要な情報を網羅できるように作られています。
スマートフォンに集約するメリットは、相続人に事前に共有する情報がデバイスのロック解除の番号だけで済む点です。
資産を移管したり金融機関のパスワードを更新したりしても共有し忘れるリスクがなく、相続の際に遺族がスマートフォンのロックを解除するだけで最新の情報にアクセスできるでしょう。
不要な有料サービスなどは解約する
被相続人が有料サービスを利用していた場合、一般的に亡くなってからも解約しない限り料金が発生し続けます。
あとから遺族が気づいてトラブルになるケースも少なくないため、生前に定期的に見直して不要なサービスは解約しておきましょう。
例えば、以下のような有料サービスに注意が必要です。
- 動画や音楽などのサブスクリプション契約
- 雑誌などの定期購読契約
- オンラインサロンなどの会費
- オンラインストレージサービス
また、必要な有料サービスがある場合は、年更新ではなく月更新にしたり、自動更新設定を解除したりしておくと解約が遅れた際のリスクを抑えられるでしょう。
遺産の存在を明らかにし相続の方法を検討してもらう
デジタル遺産の存在をよく把握しているのは被相続人です。生前にデジタル遺産の一覧表やエンディングノートの作成をうながし、遺産の相続方法を検討してもらいましょう。
エンディングノートとは、人生の終わりに向けてやっておきたいことや遺族などに伝えたいことなどをまとめて記すノートです。
遺産の一覧表やエンディングノートを作成することで、忘れていた遺産を思い出したり相続手続きが複雑なデジタル遺産に気づいたりと生前整理が進めやすくなります。
なお、エンディングノートには法的な効力がなく、書かれた内容に遺族が従う義務はありません。相続時の親族間のトラブルを防ぐには、被相続人に正式な遺言書を作成してもらうことをおすすめします。
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デジタル遺産の相続は手続きが複雑で手間がかかります。お困りごとがある場合は、「セゾンの相続 相続手続きサポート」がおすすめです。経験豊富な提携専門家のご紹介も可能ですので、スムーズな相続手続きをサポートします。初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
おわりに
デジタル遺産には仮想通貨や電子マネーなどのさまざまな種類がありますが、相続手続きの流れは家や土地などの一般的な遺産を相続する場合とほぼ同じです。
ただし、デジタル遺産の相続税評価額の計算は複雑であり、NFTなどの比較的新しい形式のデジタル遺産は相続の方法が確立されていないため、相続のプロのサポートを受ける必要があるでしょう。
相続手続きをスムーズに進めるには、被相続人と相続人でデジタル遺産の所在や相続方法を共有しておくことも大切です。
生前整理でスマートフォンなどに情報を一括管理し、エンディングノートや遺言書で相続に関する希望を明確に示しておくことをおすすめします。
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