一生使える身体を作るために、今日からできることがあります。今回は、50代以降のお悩みを解決する4種類のストレッチを厳選。日常生活の中に、自然にストレッチを取り入れる具体的な方法もあわせてご紹介します。まずは少しずつ取り組んで、身体の調子を整えていきましょう。
大胸筋ストレッチ
なぜ、大胸筋を伸ばした方が良いの
まず、取り組んでいただきたいのは、大胸筋のストレッチです。大胸筋は腕の付け根から胸の前まで付く筋肉で、腕を内側へ回す動作などで使います。
ここが硬いと、両肩が内側へ縮み、肩甲骨の位置がずれた「巻き肩」の姿勢になります。実は、巻き肩は肩こりや五十肩の原因のひとつといわれています。
巻き肩は猫背を引き起こしたり、頭が前にいきやすくなったりするため、首〜肩まわりの筋肉が凝る原因になります。また、首〜肩まわりの筋肉が硬いと、関節や腱へのストレスが増し、五十肩を招くこともあります。
大胸筋を伸ばすストレッチのやり方
- 壁際に立って、手を上方斜め45度に置く。肘は軽く曲げ、手のひらは天井へ向ける
- お尻を後ろへ引きながら、上半身を5〜30度前傾する
- 上半身を10度、壁の反対方向へ回転させる。目線は斜め下
- そのまま約30秒深呼吸しながらキープ
手のひらの小指側が壁に接地していればOK。前腕〜肘、肩は壁に接地せずOK。
日常への取り入れ方
廊下や角を通るとき、壁に手を当てストレッチ。
ドアを閉めるときは手を当てやすく、大胸筋ストレッチのチャンス!
足の付け根ストレッチ
なぜ、足の付け根を伸ばした方が良いの?
腰の前から脚の付け根前側にあるのは、腸腰筋(ちょうようきん)。この筋肉には、骨盤を前へ傾け、腰を反らし、股関節を曲げる役割があります。腸腰筋が硬いと腰が反った状態である「反り腰」になることも。
反り腰は、腹筋が使いにくい状態。脚を後ろへ引く可動域が狭くなるため、無理に腰を反らして歩き、腰に負担がかかります。さらに歩幅が狭くなり、脚も疲れやすくなります。
腸腰筋が縮む理由のひとつは、長時間座った姿勢。特に、デスクワーカーの方は要注意です。
ストレッチのやり方
- 立って椅子の背もたれまたは腰の高さの台を両手で支える
- 両足裏の間は拳ひとつ幅で前後に脚を開く
- 前の膝を曲げながら、上半身を立てたまま重心を下げる
- 恥骨を前へ押し出す力(下部腹筋)と、膝を後ろへ引く力(お尻の筋肉)を軽く入れ、約30秒深呼吸しながらキープ
骨盤が前に倒れ、反り腰で胸を張ったり(画像最左)、上半身前傾(画像真ん中)したりするのはNG。恥骨を前へ押し出し、下腹に力を少し入れて後ろ脚を引くとOK(画像右)。
<足の位置>
NG:正面から見たときに、足裏が一直線上にある。
OK:両足裏の間は拳ひとつ幅で前後に開く。
<骨盤の角度>
NG:骨盤が傾き、膝が内側へ入る。
OK:骨盤は水平、腰は立て、両膝の間も拳ひとつ幅の延長線上に曲がるように。
日常への取り入れ方
腸腰筋ストレッチを日常へ取り入れるときは、もも裏ストレッチとセットで行うのがおすすめです。次項でご紹介します。
もも裏(ハムストリングス)ストレッチ
なぜ、もも裏を伸ばした方が良いの?
お尻の後ろ下から膝裏には、骨盤を後ろへ傾け、腰を曲げるハムストリングスという筋肉があります。
ここが硬いと、前屈する際に股関節が曲がりきらず、腰を丸める癖がつき、腰痛の原因になります。さらに、腰が丸まっていると腹筋に力が入りにくく、姿勢を支える体幹の筋持久力が弱くなり、疲れやすくなります。
ハムストリングスはおでこから背中、足裏につながる筋肉とも膜でつながっており、足裏の痛みや背中、首こり、頭痛にも影響が出ることもあるのです。
もも裏(ハムストリングス)ストレッチのやり方
- 立って椅子の背もたれまたは腰の高さの台を両手で支える
- 両足裏の間は拳ひとつ幅で前後に脚を開く
- 前脚の膝は軽く曲げたまま、お尻を後ろへ突き出しながらお辞儀をする(画像左)
- お尻を後ろへ突き出し腰を反る力(腸腰筋)を入れたまま、最後に膝を1〜2ミリ伸ばす(大腿四頭筋)。約30秒深呼吸しながらキープ(画像右)
NG:お尻が前にいったり、腰が丸くなる。
OK:お尻を後ろへ突き出し、腰は反り、体重は前足よりにかける。
NG:正面から見たときに、足裏が一直線上になったり、骨盤が傾く。
OK:両足裏の間は拳ひとつ幅で前後に開き、骨盤は水平、腰が両ももの中央に位置している。
日常への取り入れ方
デスクワークや、座って考え中に手作業が止まったときは、椅子の後ろへ周り、足の付け根ともも裏のストレッチ。
台所で流しに手をかけたときは、付け根ともも裏ストレッチのチャンス!
前ももストレッチ
なぜ、前ももを伸ばした方が良い?
脚の付け根前側から膝のお皿の下までには、大腿直筋(だいたいちょっきん)という筋肉があります。大腿直筋は骨盤を前へ傾け、腰を反らし、膝を伸ばす筋肉です。
ここが硬いと、膝を曲げた姿勢のときに、膝のお皿が太ももの骨を圧迫する力が強くなります。長年この動きを繰り返すことで、膝にストレスが蓄積され、傷める可能性があるのです。
また大腿直筋が硬いと、反り腰が強まり、腹筋が使いにくい姿勢になるため、腰痛の原因にもなります。
ストレッチのやり方
- 立って椅子の背もたれまたは腰の高さの台を片手で支える
- 片方のつま先をつかみ、膝を曲げ、片足立ちになる
- 恥骨を前へ押し出す力(下部腹筋)と、膝を後ろへ引く力(お尻の筋肉)を軽く入れ、約30秒深呼吸しながらキープ
NG:骨盤が前へ倒れ、腰を反り、胸を張ってしまう。
OK:恥骨を前へ押し出し、下腹に力を少し入れて膝を後ろへ引く。
立ったままだとやりにくい場合
片足立ちで伸ばしにくい方は、仰向けになって片方の膝を曲げてストレッチしてもOK。
腰や膝が床から浮いても、痛みはなく、前ももが伸びる感覚があればOK。
このときも、腰を曲げる力(下部腹筋)を入れ、腰と床のスキマを減らし、膝は床に近付けておくと、効果的に前ももを伸ばすことができます。
仰向けでもやりにくい場合は、横向きに寝てつま先をつかんでキープする方法も。仰向けのときと同様に、腰を丸める力を入れたまま、膝を背中側へ引くと効果的に伸びます。
前ももが伸びている感覚があれば、左の画像のように膝は完全に曲がらなくてもOK。そのままキープしてみましょう。
日常への取り入れ方
洗面台に手をかけたら、前ももストレッチができます。
通勤や散歩の途中の信号待ち。周りに人がいなければ、前ももストレッチのチャンス!
ストレッチを続けるときに知っておきたいこと
1日の中で、いつストレッチをすれば良いの?
実は、ストレッチ効果が高まる時間帯を調べた研究はまだ多くありません。
私のおすすめは、夜の入浴後や仕事の後。仕事で動いた後や入浴後は、筋肉や腱が温まっており、精神的にもリラックス状態であることから、筋肉の緊張がゆるみます。
一方、朝のストレッチには違うメリットがあります。寝ている間に縮んだ筋肉を伸ばすことで、体が温まるだけでなく、神経から筋肉への電気信号が届きやすくなります。朝起きたときに、体が硬く動かしにくいと感じる方は、朝にストレッチをやってみましょう。
また、ずっと同じ姿勢でいると血流が滞り、筋肉が硬くなります。デスクワークで長時間座っている人や立ち仕事が続きやすい方は、仕事の合間に行うと良いでしょう。
ストレッチはどれくらいの頻度ですれば良いの?
医学的には明確な結論が出ていませんが、1日1〜2回、ほぼ毎日するのがおすすめです。
1日に1〜2回のストレッチを週3日、1ヵ月間継続して行った場合に得られた柔軟性は、その後ストレッチを全く行わなくても1ヵ月以上持続するという研究結果もあります。まずは1ヵ月の継続を目標に始めてみましょう。
気をつけたほうが良いことはある?
やり方を間違えると、ストレッチが逆効果になったり、関節を傷める危険性があります。
特に「痛い」と感じた時は要注意。関節や筋肉を守るために、脳から反射的に筋肉を緊張させるように指令がいき、伸びにくくなります。
それでも、やり方を少し変えるだけで痛みがなくなることもあるため、以下の2つは適宜確認してみましょう。
注意点1:伸ばしすぎていないか?
「気持ち良い」もしくは「痛気持ち良い」と感じるくらいが効果的です。「痛い」と感じる場合は、足元の位置や脚や腕の角度をほんの5度、微調整してゆるめてみましょう。
注意点2:力の入れ方は合っているか?
画像の矢印やポイントを改めてよく見て実践してみましょう。それでも痛い場合は、このストレッチ方法が自身の身体に合っていない可能性があるため、無理に続けないようにしましょう。
今回は、4種類のストレッチを日常に取り入れることにフォーカスしてご紹介しました。続けることで、身体の調子が良くなっていきます。
1ヵ月後の体の変化を楽しみに、少しずつ無理せず続けてみてくださいね。
●参考文献
・E-ヘルスネット. 厚生労働省
・川口 梨沙:ストレッチングの前処置としての表在性および深部性温熱療法の有効性に関する検討─ホットパックと極超短波療法に注目して─. 理学療法科学28 (5) : 641–645. 2013
・内川 智貴:物理刺激ならびにストレッチが骨格筋の伸張性に及ぼす影響について. 理学療法学
・渡邊 晶規:関節拘縮における関節構成体の病理組織学的変化. 理学療法科学22(1). 2007
・水野 貴正:ストレッチング・サイエンス~ストレッチング研究の成果を現場に生かすために~. 中京大学体育研究所紀要(31). 2017
・Cipriani D J, et al., Effect of stretch frequency and sex on the rate of gain and rate of loss in
muscle flexibility during a hamstring-stretching program: a randomized single-blind longitudinal study. The Journal of Strength & Conditioning Research, 2012. 26(8): 2119-2129.
(執筆協力=Hiromi 編集=ノオト)