不動産投資に興味がある方の中には、不動産投資による節税はできるのか、どのような方法が効果的なのか気になっている方も多いのではないでしょうか。このコラムでは、不動産投資でできる節税対策について解説します。また、建物の耐用年数や不動産投資のリスク、注意点などにも解説しますので、不動産投資初心者の方はぜひ参考にしてください。
- 不動産投資でできる節税対策は、減価償却、損益通算、青色申告特別控除、法人化の4つ
- 所得が多いほど法人化すると節税できる
- 不動産投資で節税効果を得るためには確定申告が必要
不動産投資でできる節税対策
不動産投資を税金対策としてお考えの方も多いのではないでしょうか。不動産投資を行うことで節税につながる手法は、以下の4つです。
【不動産投資でできる節税対策の手法】
- 減価償却を適用する
- 損益通算を適用する
- 青色申告特別控除を受ける
- 法人化する
節税につながる仕組みがどのようになっているのか、それぞれ見ていきましょう。
減価償却を適用する
不動産投資は、まず建物を購入することになります。建物は高額であることが多く購入費用の全部を一度に経費計上することはできません。
事業にかかわる高額な費用は、長い年月をかけて少しずつ資産価値が失われていくと考えられ、決められたルールにしたがって長い年月をかけて経費計上していきます。
このルールにしたがって経費計上することを減価償却と呼びますが、これは建物についても同様です。具体的には、建物の構造等によって耐用年数が変わります。償却率、償却期間が定められていて、毎年経費として申告することが可能です。
【構造別 新築住宅の耐用年数】
構造タイプ | 耐用年数 |
木骨モルタル造 | 20年 |
木造または合成樹脂造 | 22年 |
鉄骨造(3mm以下のもの) | 19年 |
鉄骨造(3mmを超え4mm以下のもの) | 27年 |
鉄骨造(4mmを超えるもの) | 34年 |
組積造(れんが造または石造またはブロック造) | 38年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造 | 47年 |
また、新築物件と既存(中古)物件で耐用年数が異なります。
【既存(中古)住宅に対する耐用年数計算式】
経過年数が法定耐用年数内の場合 | (法定耐用年数ー経過年数)+経過年数×20% |
経過年数が法定耐用年数を超えている場合 | 法定耐用年数×20% |
計算の結果2年を下回る場合 | 2年 |
不動産には建物と土地がありますが、土地については、価値が減少するという考え方がないため、減価償却の対象とならない点に注意が必要です。
損益通算を適用する
投資を行い収入を得た場合は、原則として確定申告が必要となり、収入から所得を計算して申告することになります。
所得には給与所得、事業所得、利子所得、配当所得、不動産所得、一時所得、譲渡所得、雑所得、山林所得、退職所得などがあり、どの所得に当たるかによって取り扱いが異なります。
また、不動産投資の場合、利益は不動産所得となり所得税がかかります。
不動産投資は初期投資が必要なので、始めた当初は出費がかさみます。また、建物に対する減価償却費が多額となり、家賃収入よりも経費の方が多くなりマイナスとなるケースも少なくありません。
事業所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得については、マイナス分を一定の順序にしたがって、総所得金額や退職所得金額などから控除することが可能です。
例えば、サラリーマンの給料に対する課税所得が400万円、不動産所得がマイナス100万円だった場合、確定申告時に合わせることで総所得は300万円です。これを「損益通算」といいます。
住民税は、所得税の確定申告を確認して各市区町村などの自治体が算出します。この際、各種控除などについては、一部違いはありますが基本的には所得税と同じ考え方で損益通算される仕組みです。
つまり、所得税が減少すれば、住民税も減少するという結果につながります。
青色申告特別控除を受ける
不動産投資を行うことによって毎年確定申告を行う必要がありますが、青色申告することで100,000~650,000円の青色申告特別控除を受けることができます。
具体的には、非事業的規模の場合100,000円、事業的規模(アパートで 10室以上など)の場合、最大550,000円、e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存を行うと100,000円が追加され、最大650,000円の特別控除が受けられます。
また、青色申告の場合、赤字を3年間繰り越せます。不動産収益から100,000円でも控除できれば、所得が減りますので節税につながります。白色申告を行うことも可能ですが、税額を少なくするという観点でみれば青色申告の方がメリットが多いのでおすすめです。
法人化する
不動産投資について、法人化が節税につながるという話を聞いたことがあるかもしれません。たしかに、法人化によるメリットはありますが、一方でデメリットもあります。法人化するためには目的が必要ですので、不動産投資が事業の目的とした場合のメリット・デメリットを見ていきましょう。
節税になるという理由だけで法人化すると、デメリットが大きくなってしまうこともありますので、注意してください。
節税となる理由のひとつとして、税率が挙げられます。個人で運営を行う場合は所得税となり、法人で運営を行う場合は法人税となりますが、所得税は最大税率が45%、法人税は最大税率が23.20%です。そのため、所得税を支払うよりも法人税を支払うほうが安くなることがあります。
具体的には、所得税の税率は課税所得が900万円を超えると33%となり、法人税の最大税率を超えます。
ただし、以下の点はデメリットです。
【法人化するデメリット】
- 法人道府県民税や法人市町村民税の均等割り部分は収益がマイナスであってもかかる
- 法人の会計処理や事務は複雑であるため税理士等の専門家が必要
- 法人設立のために費用がかかる
所得が多いほど法人化すると節税できる
法人化が節税につながる可能性がある点は前述しましたが、これは年収が多くなり課税所得が多くなるほど効果的です。また、複数の不動産投資をお考えの場合など、規模が大きくなるにつれて経費も大きくなります。
【所得が多いほど法人化すると節税できる理由】
- 法人税は所得税寄り最大税率が低い
- 経費計上できる範囲が広がる
ここでは、それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。
法人税は所得税より最大税率が低い
前述のとおり、所得税は最大45%、普通法人の法人税は最大23.32%なので最大税率に差があり、法人化することで節税になる可能性があります。
税率の差による節税なので、所得税と法人税の税率について理解しておくことが重要です。
所得税は、累進課税方式となっており、所得によって税率が変わります。普通法人の法人税は、資本金1億円以下の中小法人の場合、税制上の優遇を受けることが可能です。また、年800万円以下の所得金額は15.0%、800万円超の所得金額は23.2%となり所得額によっても税率に差があります。
【所得税の速算表】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
【普通法人の法人税率】
区分 | 適用関係(開始事業年度) | |||||
平28.4.1以後 | 平30.4.1以後 | 平31.4.1以後 | 令4.4.1以後 | |||
資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% | 15% |
適用除外事業者 | 19% | 19% | ||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% | ||
上記以外の普通法人 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% |
所得税が法人税の最大を上回ったタイミングで、法人化を検討しても良いでしょう。赤字だった場合は、所得金額が無いのでゼロとなります。
ただし、個人に住民税がかかるように、法人にも、法人道府県民税や法人市町村民税などがあります。これらの税額も考慮しながら、総合的にどちらが有利になるか検討しましょう。
経費計上できる範囲が広がる
法人は、雇い入れた方はもちろん、ご自身の給与や賞与などの人件費、法人契約の保険なども経費として計上することが可能です。
また、会議費や交際費、福利厚生費などについても、私生活との差がわかりにくい個人よりも適用範囲が広がります。経費計上できる範囲が広がれば、節税効果が大きくなる仕組みです。
前述のとおり、法人税は最大23.20%ですので、将来的に複数の不動産投資をお考えの場合などは、所得が増えるほど有利になります。
不動産投資の節税効果を得るには確定申告が必要
不動産所得のある方は、所得税の確定申告を行って納税しなければなりません。申告方法には「青色申告」と「白色申告」があります。
10種類の所得の中で、不動産所得、事業所得、山林所得の3つは、青色申告を行うことができます。
青色申告は、複式簿記を行うなどの条件を満たす必要があるなど白色申告に比べて複雑ですが、会計ソフトを活用することで対応することが可能です。また、青色申告特別控除などさまざまなメリットがありますので、青色申告をおすすめします。
不動産所得の申告を青色申告で行うためには、申告をしようとする年の3月15日までに、管轄の税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出し、承認を受けなければなりません。
例えば、2024年分の不動産所得を青色申告する場合は、2024年3月15日までに所得税の青色申告承認申請書を提出する必要があります。新規で不動産貸付を始めた場合は、貸付開始日から2か月以内に提出しなければなりません。
節税効果を最大化したいなら木造の中古物件がおすすめ
節税を目的とした不動産投資をお考えの場合は、木造中古物件がおすすめです。
【木造中古物件がおすすめの理由】
- 初期投資を抑えられる
- 1年あたりの減価償却費が大きくなる
それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。
初期投資を抑えられる
不動産には、土地と建物があります。このうち、土地については価格の変動はあるものの、価値がなくなることはありません。
しかし、建物には耐用年数があり、経年による資産価値の低下があります。このことから、建物は新築時に1番価値が高くなるのです。
1番価値が高いなら、新築が良いですが、不動産投資を考える際には一概にそうともいえません。なぜなら、価値が高ければ、当然価格も高くなるからです。購入する価格が高ければ、初期投資費用がかさみます。そのため、利回りという観点では不利になる可能性もあるでしょう。
初期投資とリスクを抑えるためにも、中古物件(既存住宅)を選択肢として候補に入れることをおすすめします。
1年あたりの減価償却費が大きくなる
減価償却の項目でお伝えしたように、建物には耐用年数があります。耐用年数と減価償却期間は密接に関係しているため、耐用年数が短い方が早く経費に算入することが可能です。
耐用年数が少ない建物は、木造住宅です。木骨モルタル造は20年となっていますが、現在はこの構造で建物を建築するケースは見られません。実質的には木造住宅が一番短いといえるでしょう。
また、中古物件は経過年数が法定耐用年数を超えている場合、耐用年数の20%となります。例えば、築23年の木造住宅の場合、「22年×20%=4.4」となり、4年(1年未満切り捨て)で購入費用を減価償却できるため、非常に短期間です。
購入費用を短期間で経費計上できるため、1年あたりの減価償却費は大きくなります。
不動産投資の節税対策で気をつけるべきポイント
節税だけに気を取られ過ぎると思わぬ失敗を招きます。節税については、結果として支払う税金の額が減れば良いととらえましょう。
不動産投資には、リスクや注意点が少なくありません。回避策の検討や運用計画の作成、保険や管理会社の活用なども検討する必要があります。
【不動産投資の節税対策で注意すべきポイント】
- 節税だけを目的に始めない
- 不動産投資にはどのようなリスクがあるかを事前に学んでおく
- デットクロス発生前に物件を売却する
- 融資を継続的に受けるために銀行の印象を良くしておく
それぞれのポイントについて、詳しく解説します。
節税だけを目的に始めない
不動産投資を節税のために活用することは、建物の購入費自体が経費の対象となるため比較的簡単だといえるでしょう。しかし、税金が抑えられるということは所得が減っていることを意味します。
資産として不動産が残るため、不動産投資による所得の減少がそのまま損失になるわけではありませんが、所得の低下はキャッシュフローの悪化につながります。
不動産投資はあくまでも資産形成や収益の獲得を目的に行う投資手法です。節税のためと安易に不動産投資を始めると経費ばかりがかさみ、赤字に転落してしまいかねません。
不動産投資にはどのようなリスクがあるかを事前に学んでおく
不動産投資には、他の投資と同様にリスクがあります。しかし、リスクを事前に学んで対策を立てることで、他の投資に比べてリスクを回避しやすくなるでしょう。
具体的なリスクは、以下のとおりです。
- 空室や滞納で家賃収入がゼロになる
- 金利が上昇すると返済の負担が大きくなる
- 事故や災害による収益の低下
- 築年数の経過で家賃下落
リスクを回避するためには運用計画を立てること、保険への加入、保証会社の活用などの対策を講じることが大切です。
【不動産投資のリスクと回避方法の例】
リスクの内容 | 回避方法の例 |
空室や滞納で家賃収入がゼロになる | 購入価格だけで選ばず、立地条件なども考慮する |
家賃保証会社と契約する | |
金利が上昇すると返済の負担が大きくなる | ローンの乗り換えや売却による利益確定 |
事故や災害による収益の低下 | ・耐震面を考慮した物件選びや保険への加入 ・ハザードマップなどを活用した水害の起こりにくいエリアの選択 |
築年数の経過で家賃下落 | 10年程度は安心して運用できる築10~20年前後の中古物件の購入など |
デットクロス発生前に物件を売却する
減価償却期間が終わると、税務上は黒字に転換し多くの所得税が生じます。しかし、融資の元金返済はそのまま残っていますが経費としては計上できません。これにより、会計上黒字になっていてもキャッシュフローがマイナスとなってしまうことがあります。
このように、融資の元金返済が減価償却費を上回り黒字破産を起こしかねない状態を「デットクロス」と呼びます。資金が心もとない場合は、デットクロスが発生する前に物件を売却することを検討しましょう。
融資を継続的に受けるために銀行の印象を良くしておくことが大切
節税効果を得たいがために赤字を計上し続けると、金融機関からの印象が悪くなります。複数の物件所有を検討している場合は、次のローンを組むことが難しくなりかねません。このような事態を防ぐためには、黒字転換できる計画をアピールし、印象を良くしておくことが必要です。
銀行のローン審査が通らない、借入枠がいっぱいでローンが組めない場合は、セゾンファンデックスの「不動産投資ローン」へご相談ください。築年数が古い物件や、銀行の借入枠をオーバーしていてもローンを組めた事例もありますので、不動産投資に柔軟に対応することが可能です。
おわりに
不動産投資で節税対策を行うこと自体は比較的容易ですが、不動産投資にはリスクもあります。節税を意識し過ぎて肝心な運用成績がマイナスになってしまっては本末転倒です。黒字破産の事態に陥らないよう、一時的な節税対策ではなく、資産形成を目的とした物件を選ぶ、最終的なゴール設定を行う、適切な運用計画のもとに売却して利益を確定するなど、計画的かつ総合的な視点でプラスとなる不動産投資を目指しましょう。