亡くなった方の遺言書が見つかった場合、遺言書の保管者や発見者はどのような手続きをする必要があるのでしょうか。このコラムでは、遺言書の種類による手続きの違い、手続きの詳しい流れを解説します。遺言書の保管者や発見者が負う責任とリスク、裁判所から遺言書の検認についての通知がきた場合の対応方法なども紹介するので、ぜひ参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- 遺言書の検認期日に申立人の出席義務はあるが、他の相続人に出席義務はない
- 遺言書の保管者・発見者は、遺言者が亡くなったら、すみやかに遺言書の検認手続きをする必要がある
- 遺言書の検認手続きをしないと、罰則が科せられる可能性がある
- 検認手続きが行われても遺言書が有効になるわけではなく、効力を争う場合には調停・訴訟が必要
遺言書の検認は行けなくても問題はない?
遺言書の検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言書の検認は、家庭裁判所で行われます。
申立人以外の相続人は遺言書の検認に行けなくても問題はない
遺言書の検認の申立てがあると、相続人には裁判所から検認期日の通知が届きます。申立人以外の相続人が検認期日に出席するかどうかは自由で、欠席の連絡も不要です。相続人全員が揃わなくても検認手続は行われます。
通知を受けた相続人は、代理人として弁護士を出席させることも可能です。
申立人は出席義務がある
申立人は、検認の当日、遺言書を裁判所に持参します。裁判所で遺言書を開封し、日付や筆跡などを確認し、裁判官からいくつかの質問を受けて終了です。そのため、検認には申立人の出席が必須となります。
検認手続きの流れ
遺言書の検認手続きの流れについて見ていきましょう。
戸籍謄本等の収集
相続人を確定するために、戸籍謄本等を確認する必要があります。
遺言者に配偶者がいる場合には、相続人の順位に関わらず、常に相続人となります。
それ以外の相続人の順位は、以下のとおりです。
- 遺言者に子または孫がいる場合には、子または孫が相続人となる(第1順位相続人)。
- 遺言者に子や孫がおらず、父母又は祖父母が健在な場合は、父母又は祖父母が相続人になる(第2順位相続人)。
- 遺言者に子や孫がおらず、父母や祖父母も他界している場合は、兄弟姉妹又は 甥や姪が相続人になる(第3順位相続人)。
必要となる戸籍謄本等は、以下のとおりです。
共通 | 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
相続人全員の現在の戸籍謄本 | |
相続人が第1順位相続人で代襲相続が発生している場合 | 遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
相続人が第2順位相続人の場合 | 遺言者の直系尊属(父母や祖父母)で死亡している方がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
相続人が第3順位相続人の場合 | 遺言者の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
遺言者の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | |
遺言者の兄弟姉妹で死亡している方がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | |
代襲者としての甥や姪で死亡している方がいる場合、その甥又は姪の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
家庭裁判所へ遺言書の検認の申立て
遺言書の検認の申立人は、遺言書の保管者又は遺言書を発見した相続人です。
申立人は、申立書と当事者目録に取得した戸籍謄本を添えて家庭裁判所に提出します。郵送で提出することも可能です。
相続人への検認期日の通知
申立人と裁判所で日程調整をして、検認期日を決定します。
検認期日が確定したら、裁判所から相続人全員に対して検認期日の通知が郵送されます。
裁判所で遺言書の検認
申立人は、検認の期日に遺言書・印鑑・身分証明書などを持って家庭裁判所に行きます。
検認手続きでは、裁判官によって本人確認、遺言書の開封及び状態の確認が行われます。
家庭裁判所へ検認済証明書の申請
検認済証明書は、不動産登記申請や金融機関での手続きに必要です。裁判所に申請を行えば、すぐに発行してもらえます。
家庭裁判所へ遺言執行者の選任の申立て(必要に応じて)
遺言書に遺言執行者の記載がない場合には、相続人及び受遺者が全員で相続手続きを行わなければなりません。
相続人全員で手続きをするのが困難な場合には、遺言執行者の選任の申立てを行う必要があります。また、子の認知や相続人排除などをする場合には遺言執行者の選任が必要です。
遺言検認を要する遺言書の種類
公正証書遺言 | 検認は不要 | |
自筆証書遺言 | 自筆証書遺言書保管制度を利用 | 検認は不要 |
上記以外 | 検認が必要 | |
秘密証書遺言 | 検認が必要 |
検認が必要な遺言書は、自筆証書遺言と秘密証書遺言です。
公正証書遺言の場合は、検認手続きが不要です。公正証書遺言は、公証人と証人2名が作成に関与し、公証役場で原本が保管されるため、偽造や変造のリスクがないからです。
法務局以外で保管されていた自筆証書遺言
自筆証書遺言でも、2020年7月にスタートした自筆証書遺言書保管制度を利用して、法務局にて原本が保管されている場合は検認が不要です。
自筆証書遺言書保管制度では、本人が法務局に直接出向き、法務局の職員に対面で遺言書の原本を渡します。その遺言書の原本を法務局で保管することから、公正証書遺言と同様に偽造や変造の恐れがありません。
法務局に保管されていない自筆証書遺言については、「自宅で保管」「貸金庫で保管」「第三者が保管」など、どのような状態で保管されていても検認が必要です。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言者が遺言を作成して封筒に入れ、封をします。そして、遺言書の「存在」を公証人と証人2人以上に証明してもらいます。
遺言書自体は遺言者が作成しているため、自筆証書遺言と同様に裁判所での検認が必要です。
秘密証書遺言は、内容に関して保証されておらず、原本は遺言者自身が保管するので紛失や破棄の危険性があるため、あまり利用されていません。
遺言書を検認しないリスク
遺言書の検認をしなかった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。
相続権を失う
遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者は、相続人の欠格事由となり、相続権を失います。
遺言書を保管又は発見しているにもかかわらず、自分に不利な内容であったため、あえて破棄または隠した場合には、相続権を失う可能性があります。相続権を失うと、被相続人の財産を受け取ることができません。
検認せずに遺言を執行した場合は違法行為になる
遺言書の検認は、法律上で定められた義務です。検認という義務を履行せずに遺言を執行した場合には、50,000円以下の過料が科せられる可能性があります。
また、検認の期日以外に遺言書を開封した場合も、50,000円以下の過料が科せられる可能性があります。
相続人同士のトラブルになる可能性も
遺言書を保管していながら検認手続きを行わない場合、遺言書を偽造したり変造したりしたのではないかと疑いをかけられる可能性があります。
また、相続手続きの中には期限が設けられている手続きもあり、放置していると余計な費用が発生しかねません。誰がその費用を負担するのかトラブルに発展するケースもあるので注意してください。
検認における注意点
遺言書の検認における注意点を見ていきましょう。
遺言書の検認は無効・有効を判断する手続きではない
遺言書の検認について誤解される方が非常に多いのは、検認は、遺言書の内容について有効か無効かを判断するものではない点です。検認の手続きが終了したからといって、遺言者が有効になるわけではありません。
遺言書の有効・無効を争うためには、遺言書の検認とは別に調停や訴訟を行う必要があります。
遺言書が無効になる場合もある
自筆で書かれた遺言書が無効になるケースをいくつかご紹介します。
方式に不備がある場合
自筆証書遺言は、決められた方式によって作成されていなければなりません。方式に合致していない遺言書は無効です。訂正方法も厳格に決められており、決められた方式に反した遺言も無効になります。
内容が不明確な場合
内容が不明確だと、その遺言書は無効となります。ただし、実務では、文言を形式的に判断するのではなく、遺言者の真意をくみ取り、可能な限り有効な遺言書として判断されるのが通常です。
共同で書かれた遺言書
民法では、2名以上の方が同一の証書に遺言を残すことを共同遺言と呼び、このような方式の遺言は禁止されています。そのため、2名以上の方が共同で作成した遺言書は無効です。
認知症など遺言能力がない状態で作成された場合
遺言者に遺言能力が欠如していた場合、遺言書は無効です。遺言能力が失われるケースとして、遺言者が認知症で判断能力が低下することが挙げられます。また、15歳未満の場合、遺言能力がないと判断される点にも注意が必要です。
錯誤、詐欺、強迫により遺言がなされた場合
遺言者が遺言をする際に、錯誤があった場合又は他人からの詐欺、強迫により遺言をした場合には、遺言を取消すことができます。
遺言書の内容が公序良俗に反する場合
遺言書の内容が公序良俗(公の秩序又は善良の風俗)に反する場合、その部分は無効となります。
遺言書の検認では、上記のような点は判断されません。そのため、検認をしたからといって、遺言が有効であると判断されるわけではない点に注意が必要です。
遺言書の無効を主張するには家庭裁判所に調停を申し立てる必要がある
遺言書の無効の主張をするためには、まず家庭裁判所に家事調停を申し立てます(調停前置主義)。
家事調停において、遺言の効力について解決できなかった場合は、地方裁判所(又は簡易裁判所)に遺言無効確認請求訴訟を提起します。
遺言無効訴訟の管轄は家庭裁判所ではない点に注意が必要です。地方裁判所(又は簡易裁判所)の判決に不服がある場合は、控訴審で判断してもらい、控訴審の判断に不服がある場合には上告審で再度判断を求めることになります。
遺言書の検認に関するよくある疑問
遺言書の検認に関するよくある疑問について見ていきましょう。
遺言書の検認が終わったらどのような手続きが必要ですか?
遺言書の検認が終わったら、遺言書の内容を実現していきます。遺言執行者がいれば、遺言執行者が手続きを進めていきますが、遺言執行者がいない場合には、相続人全員で手続きを進めていかなければなりません。
また、遺言書の内容に記載されていない財産や、相続分の割合を定めただけの遺言書であった場合は、相続人と受遺者全員で協議し、分割内容についての取り決めを行います(遺産分割協議)。
なお、相続人と受遺者の全員が遺言に従わないと決めた場合は、遺言者の全ての財産について、相続人と受遺者で分割協議を行います。
遺言書の検認を欠席すると相続放棄することになりますか?
遺言書の検認は、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言書の効力を争う手続きではありません。
そのため、遺言書の検認を欠席したとしても、相続を放棄したことにはならないのです。
遺言書の内容を確認したタイミングで、相続放棄が必要と判断される場合には、なるべく早く家庭裁判所に対して相続放棄の手続きを行いましょう。
また、遺言書を確認するまでもなく相続放棄を考えている場合も、速やかに家庭裁判所に対して相続放棄の手続きをしてください。
相続放棄の期間は、原則として相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内です。
遺言書を発見したときはどうしたらいいですか?
亡くなった方が記した自筆証書遺言を発見しても、勝手に封を開けてはいけません。勝手に封を開けると、50,000円以下の過料が科せられる可能性があります。
遺言書を発見した時は、速やかに家庭裁判所で検認手続きを行ってください。
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おわりに
遺言書の検認手続きについてご紹介しました。自筆証書遺言を発見した場合、速やかに遺言書の検認手続きを行わなければなりませんが、相続人に負担が生じます。遺言書の検認手続きには手間がかかります。自筆証書遺言を作成したい方は、公正証書遺言や自筆証書遺言書保管制度を利用して、残されたご家族に負担の少ない方法を検討してみてはいかがでしょうか。