相続が発生した際、故人に債務があった場合はどうなるのか、故人の債務は相続人に返済義務があるのかなど悩まれる方も多いのではないでしょうか。このコラムでは、故人の債務の返済義務や相続債務の種類、故人の住宅ローンの取扱いなどについて解説し、そのような事態に直面した場合の対処法もご紹介します。
この記事を読んでわかること
- 故人に債務があった場合相続人に返済義務がある
- 相続債務には可分債務と不可分債務がある
- 故人の住宅ローンの扱いは、団信による返済免除、住宅ローン不履行による抵当権実行の2つ
- 債務の当然分割を避けるための方法は、免責的債務引受契約、相続放棄、限定承認の3つ
故人に債務があった場合はどうなる?
故人に債務があった場合、その債務は相続財産に含まれます。相続人は、相続財産から債務を支払わなければならず、相続人が故人の債務を支払わない場合、債権者は相続人に対して債務の履行を請求できます。
また、故人の債務は遺産分割の対象外です。故人の債務は、相続開始と同時に法定相続分に従い各相続人に承継されます。相続開始とともに当然に分割されるため、遺産分割の対象にはならないと考えられています。
故人の債務は相続人に返済義務がある
故人の債務は、相続人に返済義務があるとされています。
被相続人が借金を抱えていた場合、相続人はその借金を引き継ぐことになります。ただし、相続人が借金を返済する義務を負うかどうかは、借金の性質や保証の状況によって異なります。
例えば、被相続人が単独で借金をしていた場合、相続人は相続割合に応じて返済義務を負うことになります。
一方、相続税では連帯債務はマイナスの財産とされ、被相続人の負担している金額が明らかな場合などは債務控除の対象となります。また、連帯債務者の中に履行をしない者がいて、被相続人がその者の債務も負担しており、なおかつ求償したとしても弁済される見込みがないような場合も、その負担部分が債務控除の対象となります。
当然分割とは
当然分割とは、遺産分割協議を経ることなく法定相続分に従って共同相続人間が相続債務を分割承継することです。当然分割は、相続開始時点で自動的に発生します。この方法では、共同相続人が相続債務を分割承継することが可能です。
遺言書や遺産分割協議でも、当然分割は覆せません。相続におけるローンやその他の借金は、遺産分割の対象にはならず、自動的に当然に分割承継されます。つまり、相続人間での負担割合を取り決めても、それを債権者に主張することはできません。
ローンの支払い等を巡るトラブルを防ぐため、相続債務がどのように承継されるかを理解しておくことが重要です。
債務の支払いは拒めない
債務者の相続人には、法定相続分に基づいて、相続財産が分割されます。故人が債務を抱えていた場合、相続人にはその債務を返済する義務があります。相続放棄等が行われない限り、遺産分割協議や遺言書でも債務の支払いを拒否することはできません。遺産分割協議書により負担割合を変更することはできないのが一般的な考え方です。
遺産分割協議書は、相続人間で遺産を分割するための合意書であり、その内容には法的拘束力を持ちます。そのため、遺産分割協議書によって決められた負担割合を変更することはできません。債権者は、債務者の死亡により発生した債権を、債務者の相続人に対して請求できます。
ローンの相続方法は遺言書でも指定できない
ローンなどの債務は、遺産分割の対象外であることが一般的に認められています。そのため、遺言書でローンの相続方法を指定することはできません。
遺産分割において、被相続人の債務は相続の対象外とされています。つまり、相続人間で負担割合を取り決めても、それを債権者に主張することはできません。
相続債務の種類と分割方法
故人が亡くなった場合、相続人は故人の財産を相続しますが、故人が債務を抱えていた場合、相続人は故人の債務も相続することになります。
相続される債務は、主に2つのカテゴリーに分けられます。1つ目は相続人が負担する債務で、これには被相続人が亡くなった時点で存在していた債務が含まれます。例えば、未払いの公共料金や銀行の借入金などです。これらの債務は相続人が法定相続分に従って引き継ぎます。
2つ目は相続財産から優先的に支払われる債務で、これは相続開始後に発生する費用の一部を指し、通常は相続人には承継されません。例えば、葬儀費用は相続税の計算上、遺産総額から差し引くことができますが、相続開始時には被相続人が負担していた債務ではありません。
相続人は、相続されるマイナス財産を含む全ての債務について、法定相続分に従って支払う義務があります。しかし、負債がプラスの財産を超える場合、相続人は限定承認や相続放棄を選択することができます。相続債務は可分債務と不可分債務の2種類があり、それぞれの性質に応じて相続人が責任を負います。
相続債務の種類
相続債務には、可分債務と不可分債務の2種類があります。可分債務は分割できる負債です。債務者が数人いる場合、それぞれの負担部分を債権者に対して主張でき、自分の負担部分のみ支払えば済みます。
これに対し、不可分債務は分割できない負債であり、義務者全員が全部について履行義務を負わなければなりません。
可分債務
可分債務とは、複数の債務者がいる場合に、各債務者がそれぞれ等しい割合で履行する義務を負う債務のことです。例えば、共同相続した金銭債務や、数人が共同で買った建物の代金債務などがこれにあたります。
可分債務は、債務者が複数存在する金銭債務であるケースが一般的です。
相続において、債務は法定相続分に従い各相続人に承継されます。可分債務については、相続開始と同時に当然に分割され、法定相続分に従い各相続人に承継されるので、遺産分割協議において合意した負担割合を債権者に主張することはできません。債権者から請求された場合は、法定相続分どおりに支払う必要があります。
不可分債務
不可分債務とは、債務の目的がその性質上不可分である債務のことです。
不可分債務は、可分債務と異なり、債権者の合意なしに債務の履行者を決めても債権者に対して主張できません。不可分債務の場合、債権者は債務者のひとり、あるいは同時・順次に全債務者に対して、全部または一部の弁済を請求することができます。各債務者がそれぞれ債務の全てを履行する義務があるからです。
不可分債務は相続人間で分割できないため、相続開始と同時に共同相続人の全員が当該債務の全部について責任を負います。不可分債務は、可分債務と同様に債権者の合意なく不可分債務の履行者を決めてもそのことを債権者に対して主張できません。
故人の住宅ローンの取扱い
故人が住宅ローンを抱えていた場合、相続人はその債務も引き継ぐことになります。ただし、住宅ローンに団信契約が付随している場合には、残債を返済する必要はありません。
団信に加入していれば、保険金支払いの手続きを行うことで、相続人は住宅ローンの残債を返済せずに済みます。団信に加入していない場合は、相続人が住宅ローンの返済を継続するか、残債を一括で返済するか選択しなければなりません。
団体信用生命保険による返済免除
団信とは、住宅ローン返済中に契約者(債務者)に万が一のことがあったときに、住宅ローン残高がゼロになる保険のことです。一般的に、団信は生命保険会社が住宅ローン残高に相当する保険金を金融機関に支払い、債務の返済に充てる仕組みです。
ただし、団体信用生命保険による返済免除が適用される条件は、金融機関や保険会社によって異なります。具体的には、加入時期や保険金額、保険金の支払い条件などが異なるため、詳細については、金融機関や保険会社にお問い合わせください。
住宅ローン不履行による抵当権実行
住宅ローンが返済免除にならないケースにおいて、相続人が住宅ローンを期限どおりに支払わなかった場合、金融機関は抵当権を実行できます。
抵当権とは、不動産などの担保物件に対して設定される権利のことです。債務者が債務不履行に陥った場合に、金融機関が抵当権を行使して物件を競売にかけ、債務を回収することができます。
ただし、抵当権の実行には、債務者が返済を滞り「債務不履行」の状態になっていることが要件です。
また、滞納が続き、金融機関からの督促に対しても返済がない状態になると、金融機関は抵当権を実行するため裁判所に「差押」と「競売開始」の申立を行います。
抵当権が実行されると、金融機関は不動産を競売にかけ、売却代金のほとんどは債権者である金融機関が受け取ります。売却代金が住宅ローンの残高を超えている場合は住宅ローンを完済できますが、売却代金よりも住宅ローン残高が多い場合は債務が残ってしまい、引き続き返済をしていかなければなりません。
債務の当然分割を避けるための対処法
債務の当然分割を避けるためには、免責的債務引受をする、相続放棄をする、限定承認をする対処法があります。
免責的債務引受契約
免責的債務引受とは、債務者が債務を引き受けることなく、第三者が債務を引き受けることであり、債務者が債務から免れる制度です。
免責的債務引受契約は、旧債務者・新債務者・債権者の3者間で締結され、債権者の同意が必須です。相続人間の協議において特定の相続人が全相続債務を引き受けることになり、免責的債務引受契約が結ばれた場合、債権者は旧債務者に債務の履行を求めることはできません。
免責的債務引受をすることで、ローン債務をひとりの相続人に集中させ、旧債務者は債務を免れることができます。
相続放棄
相続放棄とは、相続人が相続財産を受け取ることを放棄し、債務も含めた資産を一切承継しないことです。プラスの資産も相続しません。
相続放棄により、相続人は相続財産を受け取ることができなくなります。もともと相続人にならなかったものとみなされるため(民法939条)、当然分割の効果も遡って消滅するわけです。
相続放棄の手続きは、家庭裁判所に申し立てる必要があります。相続放棄の申述は、相続人が相続開始の原因たる事実(被相続人が亡くなったこと)及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知ったときから3ヵ月以内に行わなければなりません。
ただし、相続財産が全くないと信じ、かつそのように信じたことに相当な理由があるときなどは、相続財産の全部又は一部の存在を知ったときから3ヵ月以内に申述すれば、相続放棄が受理されることもあります。
限定承認
限定承認とは、財産も債務も双方引き継ぐけれど、相続財産の範囲でのみ負債の返済義務を負うことです。相続財産の一部を受け取らず、債務を引き継がないことで、相続人が債務から免れることができます。
相続放棄と異なり、債務の清算を行った結果、残った財産があれば相続財産の一部を受け取ることができます。自宅や自社株など必要な財産だけ取得したい相続人は「先買権」という優先的に購入することができる権利を使用し、必要な財産のみ取得することで、不動産などの財産を残せる可能性があるでしょう。
相続に関わることは専門家に相談を
相続に関する問題は、法律や税金、不動産など、多岐にわたるため、専門的な知識が必要です。また、相続放棄は期限があるため迅速な対応が欠かせません。相続に関する問題をスムーズに解決するためには、早めに専門家に相談することが大切です。
「セゾンの相続 相続手続きサポート」では、相続手続きに精通している司法書士と提携し、無料相談も可能です。初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
おわりに
相続が発生した際、故人に債務があった場合はどうなるのか、故人の債務は相続人に返済義務があるのかなど悩まれる方は少なくありません。相続に関する問題は、法律や税金、不動産など多岐にわたるため、専門的な知識が欠かせませんし、手続きも煩雑です。悩んだ時は自分だけで解決しようとせず、相続の専門家に相談することをおすすめします。