近年、遺言によって遺産を社会貢献団体や自治体に寄付する「遺贈寄付」が注目を集めています。遺産相続についてお考えの方の中には、遺贈寄付を受け付けている団体や寄付の方法に興味をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
このコラムでは、遺贈寄付する際の寄付先の選び方から確認すべきポイント、実際に遺贈寄付に重要な遺言書作成の方法まで詳しく解説します。遺贈寄付をご検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- 遺贈寄付は遺産を社会貢献に役立てられる方法
- 寄付先は非営利団体や地方自治体などからご自身の意向に沿って選択できる
- 相続税や所得税の控除の有無は寄付方法や団体の種類によって異なる
- 遺贈寄付には法的に有効な遺言書の作成が必要
遺贈寄付とは
遺贈寄付とは、個人が遺言によって遺産の全部または一部を社会貢献活動に充てるために、公益法人やNPO法人、学校法人などの団体へ無償で譲ることです。以前から欧米ではよく行われてきましたが、近年は日本でも注目されており、認定NPO法人「むすびえ」が行った「遺贈寄付に関する実態調査」によると70代の83.9%が遺贈を知っていると回答しています。
遺贈寄付が注目された要因として挙げられるのが、少子高齢化やご自身で遺産の使い道を決めたい方の増加です。
少子高齢化によって、相続人がいない方も増加しています。日本では相続人がいない場合、遺産は最終的に国庫に帰属することになっているため、「遺産の使い道は自分で決めたい」と考える方が増加しているようです。
遺贈寄付をするメリット・デメリット
遺贈寄付には寄付者(被相続人)が遺産の使い道を決められるなどのメリットがありますが、遺言書作成に手間がかかるなどデメリットもあります。遺贈寄付のメリットとデメリットについて、詳しく見ていきましょう。
遺贈寄付をするメリット
遺贈寄付の主なメリットは以下のとおりです。
- 遺産の使い道を寄付者ご自身で決められる
- 生きているうちは好きなようにお金を使える
- 節税効果がある
遺贈寄付はさまざまな団体が受け付けているため、遺産の使い道を選べます。例えば、「お世話になった地元に寄付をしたい」「こどもの教育に役立てて欲しい」など、寄付者ご自身の意思を反映することが可能です。
また、生前に寄付する場合は老後の資金に不安を感じるかもしれません。遺贈寄付の場合、ご自身の死後に残った財産から寄付できるため、生きている間は自由にお金を使えます。
加えて、節税効果があることも遺贈寄付のメリットのひとつです。遺贈寄付の場合、遺贈を受けた公益法人などに課せられる相続税が非課税になるため、寄付した遺産をより有効に使ってもらえる可能性があります。詳細は後述の「遺贈寄付をする前に確認するポイント」にて解説しますので、参考にしてください。
遺贈寄付をするデメリット
遺贈寄付には以下のようなデメリットもあります。
- 節税効果は莫大ではない
- 遺言書の作り方に注意が必要
遺贈寄付は相続税対策のひとつとして注目されていますが、非課税の対象となるのは寄付した分の相続財産です。相続財産をできるだけ減らさずに相続税の負担を軽減させたい場合、遺贈寄付による寄付金控除にはそこまで大きな節税効果は見込めないかもしれません。
また、遺贈寄付を行った公益法人などを利用して、遺贈寄付を行った被相続人や親族が何らかの利益を得ている場合、寄付金控除の特例の適用から除外される可能性があるため、注意が必要です。
加えて、遺贈寄付を行うためには、法的効力のある遺言書を作成しなければなりません。例えば、自筆の遺言書に「〇〇へ1,000万円寄付する」と記載しただけでは遺言書自体が無効とされ、寄付が実行されない可能性があります。
遺贈寄付先を選ぶ3つの視点
遺贈寄付先を選ぶ際には、以下3つの視点で考えるといいでしょう。
- 自分が関心のある分野の団体
- 貢献したい地域の団体
- 知名度や規模の大きな団体
それぞれの視点について詳しく解説します。
自分が関心のある分野の団体へ
1つ目の視点は、ご自身にとって関心のある分野の団体です。寄付先には貧困、環境、社会福祉、災害支援などさまざまな分野の団体があります。こうした分野の中から関心を持てる寄付先がないか考えると、ご自身がどんな社会貢献をしたいのか、遺産でどんなことを実現したいのかじっくり検討することが可能です。
まずは、ご自身の人生を振り返りながら、何を大切にしてきたか、どんなことに興味を持ってきたか考えてみましょう。例えば、以下のように箇条書きにして考えるとわかりやすくおすすめです。
- 子どもが好き
- 災害支援のボランティア経験がある
- 学生時代は英語の学習に力を入れていた
寄付先の活動ジャンルを確認し、さらに詳細を知るためにインターネットで検索したり資料を取り寄せたりしてみてください。
貢献したい地域の団体へ
2つ目の視点は貢献したい地域の団体です。ご自身のふるさとや特定の国、思い入れのある土地などの自治体や活動団体へ寄付することも選択肢のひとつです。
馴染みのある地域は比較的寄付先を探しやすく、寄付後のイメージも湧きやすい点がメリットです。また、団体に寄付する場合は遺贈するまでにその団体がなくなってしまうリスクがありますが、自治体はなくなる心配がほぼないため、安心して寄付できるでしょう。
知名度や規模の大きな団体へ
3つ目の視点は知名度や規模の大きな団体です。規模の大きな団体は幅広い地域で活動していたり、多くのプロジェクトに取り組んでいたりするため、比較的大きな課題への支援ができます。
例えば、「公益財団法人日本ユニセフ協会」は世界約190の国と地域で活動しており、世界の子どもの貧困や健康問題の解決を活動目的としています。
また、知名度の大きな団体は活動歴が長いことが多く、実績もあるため安心して寄付できることもメリットといえるでしょう。
遺贈寄付をする前に確認するポイント
遺贈寄付をする際は、次の3つのポイントを事前に確認しておきましょう。
- 遺贈寄付先が非課税になる団体か
- 信頼できる団体か
- 相続人の遺留分には手をつけない
- 不動産や株式の遺贈の場合は「みなし譲渡課税」の発生に注意が必要
遺贈寄付先が相続税の非課税対象になるか
1つ目のポイントは、遺贈寄付先に課せられる相続税が非課税になるかどうかです。相続税は、相続または遺贈により財産を取得した個人に課される税金なので、法人の場合原則として相続税は課されません。ただし、寄付先の団体の種類によっては相続税が非課税にならないこともあります。
遺贈寄付先の相続税が非課税になるかどうか、原則と例外を以下の表にまとめました。
遺贈寄付先 | 原則 | 例外 |
法人 | 相続税は非課税 | 租税回避とみなされる場合は相続税が課税される |
個人・法人格を持たない任意団体 | 財産を取得した個人(任意団体)に相続税が課税される | 公益事業への寄付とみなされる場合は相続税が非課税になる |
公益法人や一般社団法人、大学、自治体などに遺贈寄付した場合は、相続税が非課税になります。ただし、寄付が相続税を不当に減少する行為、つまり租税回避と判断された場合には相続税が課税されるので、注意してください。
また、寄付先が個人・法人格を持たない任意団体の場合、原則として相続税が課税されます。親族が運営する法人、名ばかりの幽霊団体の場合も、非課税の対象外です。
寄付した財産を有効に活用してもらうためにも、あらかじめ寄付先の団体がどちらのカテゴリに入るか確認しましょう。
信頼できる団体か
2つ目のポイントは、寄付先が信頼できる団体かどうかです。ある程度寄付先の団体が絞れてきた段階で、資料請求や問い合わせをしてみましょう。遺贈寄付の受入実績や使い道を公表しているか確認し、活動実績があるのか、ご自身の大切な財産を託すに値するか判断します。
また、試しに1,000円程度寄付してみるのもおすすめです。寄付後にお礼状が届くか、活動状況や寄付金の使途は共有されるかなど、団体の対応についても確認してください。
相続人の遺留分には手をつけない
3つ目のポイントは、法定相続人の遺留分には手をつけないことです。法定相続人の遺留分まで寄付に回してしまうと、寄付先の団体に対して「遺留分侵害額請求」が行われる可能性があります。
「遺留分」とは、兄弟姉妹(または姪・甥)を除く法定相続人に認められている相続財産の取り分のことです。遺留分は最低限の取り分として保障されているため、遺留分が侵害された法定相続人は遺留分の不足を請求する「遺留分侵害額請求」を行うことが可能です。
法定相続人と寄付先間のトラブルを防ぎ、遺贈寄付を円滑に実行するためにも、寄付は無理のない範囲にとどめておきましょう。
不動産や株式の遺贈の場合は「みなし譲渡課税」の発生に注意が必要
不動産や株式を遺贈寄付する場合、「みなし譲渡課税」の発生に注意しなければなりません。
例えば、長く住んだ地域への恩返しの意味を込めて、その地域で活動する認定NPO法人に不動産を遺贈する場合を考えてみましょう。不動産の取得費用が3,000万円、遺贈時の時価が7,000万円に値上がりしていた場合、通常の売買であれば4,000万円の譲渡益が生じます。
遺贈寄付の場合、売買は発生していませんがこれを譲渡したとみなし、差額の4,000万円に対して所得税が課税されるのがみなし譲渡課税です。ただし、居住用不動産には控除などがあるため、課税対象額は低くなるでしょう。
この場合、税金を納付するのは遺贈者の相続人です。相続人からしてみれば一度も自分の財産でなかった不動産に対して課税されることになるので、負担を快く思わない可能性があります。遺贈寄付したいと思っても話がこじれてしまう可能性があるため、あらかじめ相談しておくことが大切です。
遺贈寄付におすすめの遺贈寄付先
遺贈寄付におすすめの寄付先は、以下のような団体や寄付先です。
- 非営利団体(NPOなど)
- 地方自治体
それぞれについて、詳しく説明します。
非営利団体
非営利法人とは、「営利目的で活動しない法人」のことです。事業で得られた利益は社会貢献活動に充て、団体の構成員には分配されません。なお、職員の給与は収益の分配にはあたらず、団体の経費(人件費)として扱われます。
非営利団体には、NPO法人や社団法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人などの種類があります。
これらの法人は教育や国際協力など、さまざまな分野で活動しているため、ご自身の希望に沿った団体を見つけられる点がメリットです。遺贈寄付を受け付けている団体を分野ごとにまとめましたので、参考にしてください。
【教育】
- あしなが育英会
- 独立行政法人 日本学生支援機構
- 公益財団法人 グルー・バンクロフト基金
【自然保護】
- 公益財団法人 東京動物園協会
- 公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン
- 公益財団法人 日本生態系協会
【医療】
- 国立研究開発法人 国立がん研究センター
- 社会福祉法人 子どもの虐待防止センター
- 社会福祉法人 日本介助犬協会
【国際協力】
- 公益財団法人 日本ユニセフ協会
- 認定NPO法人 国境なき医師団日本
- 公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
【芸術・文化】
- 公益財団法人 日本フィルハーモニー交響楽団
- 独立行政法人 国立科学博物館
- 公益社団法人 落語芸術協会
地方自治体
遺贈寄付先を考える際に、故郷や思い入れのある地域に寄付したいとお考えの方も多いかもしれません。自治体への寄付は、主にまちづくりに関して寄付したいとお考えの方におすすめです。また、自治体は団体のように消滅する心配がないため、信頼できる寄付先といえるでしょう。
全国各地の自治体では、遺贈寄付を積極的に受け入れる態勢づくりが進んでいます。例えば、愛媛県松山市では、子育てや観光、防災対策など9つの分野から遺贈寄付したお金の使い道を指定できます。自治体によって寄付の流れや内容は異なるため、詳細は各ホームページを参照し、問い合わせてみましょう。
遺贈寄付する手順
遺贈寄付するためには法的に有効な遺言書の作成など、必要な手続きがあります。以下の手順に沿って進めていきましょう。
情報を収集する
まずは寄付先を探すために情報を集めます。ご自身の興味などから寄付先を探し、気になった団体のパンフレットの取り寄せや問い合わせなどをして情報を集めましょう。その際には、団体の活動内容や寄付金の使途以外に、寄付金の受入方針なども併せて調べてください。
寄付する団体や自治体によって、遺贈寄付の受入方針は異なります。特定遺贈か包括遺贈か、受け入れている遺産の種類などは事前に問い合わせしておくのがおすすめです。
遺贈には特定遺贈と包括遺贈があり、以下のように内容が異なります。
- 特定遺贈:財産を特定して遺贈すること
例:「〇〇の不動産をA団体へ」「現金1,000万円をBさんに」など
- 包括遺贈:財産の内容を個別に特定せず、配分割合を指定して遺贈すること
例:「財産の20%をAさんに、30%をBさんに」など
包括遺贈の場合、マイナスの財産(借金、連帯保証債務など)があると、遺贈を受けた団体に債務を履行するよう債権者から請求される可能性があります。寄付先が不利益を被るケースもあるため、注意が必要です。
これに対し、特定遺贈の場合は指定した財産だけを贈るので、マイナスの財産があっても寄付先が責任を負うことはありません。
寄付先を決めて団体へ連絡する
寄付先が決まったら、団体へ連絡・相談します。先述のように団体によって遺贈の受け取り方針が異なるため、遺言書を作成する前に相談しましょう。ほとんどの団体は快く相談に乗ってくれるはずです。
寄付先と相談する際には、主に以下のような内容を確認しておくと良いでしょう。
- 遺贈の受入方針
- 遺贈できる財産の形態(現金、不動産など)
団体によって遺贈の受入方針は異なります。「不動産は現金化した状態で受け入れる」など、保有している財産の種類によっては寄付できないこともあるため、確認しておくと安心です。
なお、相続人は被相続人が年の中途で死亡した場合、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額および税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内に申告と納税をしなければなりません。これを準確定申告といいます。
遺言書を作成する
寄付先が決まったら、遺言書を作成しますが、作成前に遺言に従ってその内容を実現する「遺言執行者」を決めておきましょう。その後、専門家と相談しながら、法的効力のある遺言書を作成してください。
遺言書には「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」があり、作成や保管の方法が異なるので注意してください。また、遺言書の作成が済んだら、遺言執行者へ連絡する「通知人」も決めておきましょう。
寄付後、お礼状や寄付の領収書が届く
遺贈者が亡くなった時点で遺言執行者へ通知され、遺言の内容の実現へ向けて手続きが進められます。その後、寄付を受け取った団体や組織からはお礼状や寄付の領収書が発送される流れです。
遺贈寄付できる遺言書の作り方
遺贈寄付できる遺言書には「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類があります。ここでは、それぞれの作成方法やメリットを詳しく解説します。
公正証書遺言の場合
公正証書遺言とは、証人の立ち会いのもと、公証役場で作成する遺言書のことです。全国約300ヵ所にある公証人役場に必要書類を持参し、公証人にパソコンで遺言書を作成してもらいます。
作成後は遺言者が記載内容を確認し、署名・押印をして保管します。作成の際には証人2人以上の立ち会いが必要です。
公正証書遺言は、信用の高さが大きなメリットです。不備によって無効になる可能性が低く、作成後は原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんのリスクもありません。ただし、作成に費用や手間がかかる点はデメリットといえるでしょう。
自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言は、遺言者ご自身の財産目録を除いた全文を自筆で作成する遺言書のことです。財産目録に関しては別紙で作成できます。紙とペンがあればいつでも手軽に作成でき、作成費用もかかりません。
自筆証書遺言では、自宅など保管場所を自由に選べますが、「自筆遺言書保管制度」を利用して法務局で保管しておくと、紛失や改ざんの心配がありません。
自筆証書遺言は気軽に作成できる点がメリットですが、遺贈寄付の際に、不備によって遺言が無効になってしまうリスクもあります。要件を満たす遺言書を作成するためには、専門家の手助けを借りるのも有効です。
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おわりに
遺贈寄付をするためには、寄付先の選定やご自身の遺産の把握、法的に有効な遺言書の作成などが必要です。今回ご紹介したポイントや手続きの手順を参考に、ご自身の遺贈寄付に関して考えてみましょう。また、手続きをご自身だけで行うのが不安な場合は、専門家への相談もおすすめです。