長期的に安定した法人経営を行うには、節税への意識も欠かせません。さまざまな節税方法を実践し、少しでも法人税額を圧縮したい場合には早期の対策が必要です。そこでこのコラムでは、法人の節税対策についてご紹介していきます。主な10種類の対策についてだけでなく、どのような効果が期待できるかについてもご紹介しましょう。
この記事を読んでわかること
- 法人の節税対策は、急激に利益が増えた段階で始めるのではなく、早期に着手し長期的な視点で実践することがポイント。例えば、福利厚生費の活用として社員旅行や健康診断を実施することでも、節税効果が得られる。
- 従業員向けの社宅を設置することも節税対策の一つだが、同時に離職率の低下や雇用拡大にもつながるというメリットも見逃せない。
- 法人の節税対策は総合的な視点で検討する必要があるため、判断に悩む場合は税理士へ相談し、脱税とみなされないよう細心の注意をしよう。
法人税の概要と節税の必要性
法人税とは、法人に課される税金です。法人税の概要と、法人税の節税についてご紹介していきます。
- 法人税とは?概要を解説
- 節税の必要性とは?
法人税とは?概要を解説
法人税とは、法人の事業活動によって得られた所得に対して課せられる税金です。日本の税金は、国税と地方税に大きく分けられており、法人税は国税に当たります。そのため、地域によって法人税の差はありません。なお、法人税は事業年度終了の日の翌日から2ヵ月以内に納付する必要があります。
節税の必要性とは?
法人税の節税を意識することは、経営を安定させることにつながります。法人税の節税にはさまざまな方法がありますが、例えば必要経費を損金算入することで課税対象となる所得を少なくすることが可能です。そのため、結果的に節税につながるということになります。
具体的な節税対策9選
具体的な節税対策について、以下の10点をご紹介しましょう。
- 交際費の経費計上
- 赤字の繰り越し
- 不要在庫を処分
- 未払費用の経費計上
- 役員報酬の増額・決算賞与を行う
- 出張旅費規程の作成
- 社員旅行の実施
- 健康診断の実施
- 従業員用の社宅を用意
- 法人向けの保険に加入
交際費の経費計上
法人の節税対策として、交際費を経費計上することも方法の一つです。経営上必要な接待や交際に関して、損金算入可能な費用は交際費として計上することができます。ただし、場合によっては、経費として認められない場合があり、大企業と中小企業では経費計上できる限度額が違う点に注意が必要です。
赤字の繰り越し
法人では、赤字を繰り越すことで節税対策となります。過去の赤字を繰り越し、黒字年度の所得と相殺することが可能なことから、結果として黒字分を欠損金分で減らせるため企業の利益が減るという仕組みです。その結果、節税につながります。
不要在庫を処分
長期在庫や不要在庫などの資産は、処分すると帳簿に載せる必要がありません。さらに、処分費用を損金として計上できるため、節税になるのです。
この際、不要在庫となっている資産を仕入れた原価よりも安く売却することになった場合は売却損が、廃棄処分した場合は廃棄損(除去損)が発生します。これらの売却損と廃棄損は、いずれも損金としての計上が可能です。ただし、廃棄証明書などの証明書類が必要になります。
未払費用の経費計上
未払費用を漏れのないよう計上することでも、節税効果が高いです。未払費用とは、当期中に発生した費用であるにもかかわらず、支払いが来期になるもの。
例えば、会社負担分の社会保険料や従業員の給与などは、時期によっては今期発生しても来期支払い扱いになる場合があります。一般的に法人では個人よりも所得が大きく、未払費用の額も大きいことが予想されるため、未払費用の経費計上が与える節税効果が期待できるでしょう。
役員報酬の増額・決算賞与を行う
法人において役員報酬は、経費として認められます。そのため、役員報酬を増額することで節税につながる仕組みです。ただし、法人税の節税を意識するあまり役員報酬を増額することで役員本人の所得が増え、個人の所得税が増えることになるため注意しましょう。
また、役員報酬の金額は基本的に1年間固定されています。金額の変更がある場合には株主総会で決定する必要があり、いつでも自由に変更できるわけではありません。さらに、役員報酬を損金計上する場合には、株主総会での議事録が必要です。税務調査等では確認される資料となるため、役員報酬の増額時には必ず議事録を残しましょう。
関連して、決算時に賞与を支給することで損金が計上できます。決算賞与を支給するタイミングは、決算時期によらず損金計上が可能です。法人においては、想定外の利益が出た場合などに決算賞与が実施されることが少なくありません。
損金算入するには、賞与の支給額を従業員全員に同時期に通知することと、決算から1ヵ月以内に通知した金額を実際に支払っていることが必要です。これらの条件を満たすことで、決算賞与が損金として計上できます。
出張旅費規程の作成
出張旅費規程を作成することで、食費や通信費など、宿泊費や交通費以外の出張にかかる諸費用を経費に計上可能です。
出張旅行規程の策定により、出張に関する費用のほとんどが経費計上できるため、大きな節税効果が期待できます。出張旅行規程では、出張の定義や交通費に関する定め、何を対象としていくらまで利用できるのかについて細かく定めておきましょう。
社員旅行の実施
企業で働く方全員を対象とし、社員旅行に行く場合は既定の条件を満たせば福利厚生費として経費が計上でき、節税になります。福利厚生費を経費計上するには、就業規則への明記が必要です。
この他、会社負担金が一人あたり10万円以内で、4泊5日以内、従業員の50%以上が旅行に参加することなどのルールが決められています。また、参加しなかった従業員に対して、現金や金券、旅行券を配布するなどを提示することで、参加か不参加か選択させることはできません。現金支給は認められていないためです。
健康診断の実施
健康診断も、社員旅行と同様に福利厚生費として経費計上することが可能で、節税効果が期待できます。健康診断の場合も、従業員全員を対象にしていることが前提条件であり、健康診断にかかった費用は企業が医療機関へ直接支払うことが必要です。
従業員用の社宅を用意
企業で所有している不動産を社宅にすることで、その必要経費を損金に参入できるため節税になります。社宅は福利厚生の一つとして認められるため、結果として節税につながるためです。節税効果以外にも、従業員用の社宅を用意することは離職率の低下や雇用確保の面で有利に働くことがあります。
類似の制度で支給されることがあるのが「住宅手当」。住宅手当は、従業員に対して給与支払い時に手当として支給します。ただし、この住宅手当は給与扱いになるため、注意が必要です。
節税対策を行ううえでの注意点
節税対策を行ううえで注意したい点についてご紹介します。税制上のルールに違反して脱税にならないよう細心の注意が必要であることはもちろん、詳しい注意点について以下3つ確認していきましょう。
- 会計資料は明確化しておく
- ペーパーカンパニーの設立はタブー
- 不必要な出費をしない
会計資料は明確化しておく
節税対策をすることで、会計資料が複雑になりがちです。あまりにも分かりづらい場合は、会計処理も煩雑化するうえ、税務調査で指摘されかねません。そのため、会計資料は外部から見ても常に分かりやすく、社内においても明確な会計資料を作っておくことが大切です。
ペーパーカンパニーの設立はタブー
法人の節税対策として、事業実態がない企業にもかかわらずペーパーカンパニーの設立をすることは避けましょう。ペーパーカンパニーの設立自体は違法ではありませんが、脱税とみなされる可能性があるためです。
不必要な出費をしない
損金を増やそうとするあまり、不必要な出費をすると脱税とみなされることがあります。損金を増やすということは、一時的に何かしらの支出があるということでもあり、キャッシュフローが悪化する恐れも含むためです。節税目的だけで先走るのではなく、本来の目的は何であるか熟慮したうえで慎重に進めましょう。
法人の節税対策に関するよくある疑問
法人の節税対策に関するよくある質問について、以下2つについてご紹介します。
- いつから節税対策を開始すると良い?
- 間違っていないか不安な場合は?
いつから節税対策を開始すると良い?
急激に利益が増加した段階で節税対策を始めても、間に合わないことがあります。節税は多くの対策が実施でき効果も大きくなることから、間に合わないことがないように節税対策は早めがおすすめです。
節税対策に関しては、キャッシュフローなども確認しながら長期的なスケジュールをしっかり立てましょう。さらに、決算の3ヵ月前になったら、計画通り進んでいるかなどをチェックします。
間違っていないか不安な場合は?
節税対策に関しては、自社に最適な方法かどうか不安になることもあるでしょう。税に関する個別具体的な相談先は税理士です。過剰に節税対策をすると、脱税とみなされる場合があり、悪質性や故意性などの判断基準は素人には難しいことがほとんどです。そのため、税理士に直接相談し確実に進めていきましょう。
おわりに
法人の節税対策は、長期にわたる法人経営の安定化をはかる目的でも有効です。主な節税対策として、税務上認められる範囲での経費計上を活用することがあります。具体的な節税方法はさまざまですが、例えば福利厚生費として社員旅行や健康診断を全従業員対象に実施することも方法の一つです。この他、社宅の設置や役員報酬の増額、法人向け保険の活用などがあります。いずれの場合も判断に困る場合は、税のプロである税理士へ相談して確実に進めていきましょう。