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尊厳死ってなに?安楽死との違いや意思表示をするメリット・デメリットを解説

セゾンのくらし大研究 編集部

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延命治療をせず自然に最期を迎えたいと考えたとき、尊厳死という選択肢があります。尊厳死をするためには、前もって家族などに意思表示しておかなければなりません。

このコラムでは、尊厳死の意味や意思表示をする方法、意思表示のメリット・デメリットについて解説します。最後にはQ&Aもついているため、尊厳死を選ぶ方法を知りたい方に有益なのはもちろん、尊厳死を選ぶべきかどうか迷っている方も、考え方の方向性をしっかり決められます。

この記事のまとめ

このコラムでは、尊厳死の意味や類似する言葉である「安楽死」「自殺ほう助」との違い、尊厳死の法律上の扱いについて知ることができます。なお、尊厳死の意思を明確に示す「リビング・ウイル」を作成する方法について書かれているので、尊厳死の意思を示すための具体的な手順が理解できます。
尊厳死を選ぶべきかどうか迷っている方は、後半に書かれている尊厳死のメリットやデメリット、良くある質問についての回答も参考にしてください。

尊厳死とは?

尊厳死とは、自らの意思により終末期の延命処置を行わず、自然な死を迎えることです。終末期とは、老衰や病気の進行によって回復が見込めず、余命わずかと診断された後の期間を指します。

終末期の期間は、病気によってさまざまです。脳出血や心疾患など、突然倒れてすぐに回復不能な状態になる病気もあれば、がんのようにゆっくりと死へ進行する病気もあります。不慮の事故などによる外傷にあっては、終末期が数時間という例も珍しくありません。

尊厳死の根底には、「回復の見込みがないにも関わらず、ただ死期を引き延ばすためだけに治療を続けるのは、人としての尊厳が保たれていない」という考え方があります。延命だけを目的とした処置を拒み、自然の流れに任せて生涯を閉じることが重要視されています。

混同されがちな言葉

尊厳死は、安楽死と混同されることがあります。また、自殺ほう助という言葉にも、似たような意味があります。それぞれ、どんな違いがあるのか説明します。

安楽死

安楽死とは、治癒の見込みがない病人を、本人の希望に従って、第三者が苦痛の少ない方法で死に至らせることをいいます。医師などが手を加えることで死に至る安楽死を「積極的安楽死」、治療を行わず自然死を迎えさせることを「消極的安楽死」といいます。

積極的安楽死も、消極的安楽死も、死の苦しみからの解放に重点が置かれています。自然死を貫くことに重点を置く尊厳死とは、考え方が明確に違います。また、積極的安楽死においては特に、命を終わらせるために人の手が加わるところが尊厳死とは違います。

また、尊厳死に関する法律はありませんが、安楽死は刑法第202条(自殺関与・同意殺人罪)に抵触し、違法となります。ただし、一定の条件のもとで安楽死を実行すれば違法には当たらないとする判例も出ています

例えば、1962年に行われた嘱託殺人の裁判において、高等裁判所は「いわゆる安楽死を認めるべきか否かについては、論議の存するところであるが、(略)つぎのような厳しい要件のもとにのみ、これを是認しうるにとどまるであろう」としています。

(1) 病者が現代医学の知識と技術からみて不治の病に冒され、しかもその死が目前に迫つていること
(2) 病者の苦痛が甚しく、何人も真にこれを見るに忍びない程度のものなること
(3) もっぱら病者の死苦の緩和の目的でなされたこと
(4) 病者の意識がなお明瞭であって意思を表明できる場合には、本人の真摯な嘱託又は承諾のあること
(5) 医師の手によることを本則とし、これにより得ない場合には医師によりえないと首肯するに足る特別な事情があること
(6) その方法が倫理的にも妥当なものとして認容しうるものなること

引用:高等裁判所判例集 尊属殺人被告事件

自殺ほう助

自殺ほう助とは、本人が自殺を希望している場合、自殺を手助けすることを指します。積極的安楽死と似ていますが、積極的安楽死の場合、死に至らしめるのは他人です。一方で、自殺ほう助は本人が自ら命を絶ちます。

また、自殺ほう助の場合は本人が終末期であるか否かを定義しません。健康な方の自殺を手助けしても、終末期の方の自殺を手助けしても、自殺ほう助であるとされます。

現在の日本では、安楽死同様、自殺ほう助も刑法第202条(自殺関与・同意殺人罪)に抵触し、違法となります

尊厳死の法律上の扱い

現在の日本には、尊厳死について明確に規定した法律は存在しません。ただ、尊厳死の必要性を訴える公益財団法人日本尊厳死協会は、自然に逝くことを選択する尊厳死が基本的人権のひとつである幸福追求権(憲法13条)に含まれるとの考えを示しています。

国会内においても、尊厳死の法制化を進める動きがあります。2012年には、超党派議員による「尊厳死法制化を考える議員連盟」が「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」を提出しました。連盟は「終末期における本人意思尊重を考える議員連盟」へと名称を変え、法整備を目指しています。

「尊厳死が合法化すれば、本来なら延命治療を望む方も『自然に死ぬ義務』を感じてしまうのではないか」など倫理的な問題点や、「終末期」「尊厳死」といった用語の定義づけをする難しさが指摘されるなど、さまざまな理由により2022年現在、法制化には至っていません。

日本で尊厳死の意思表示を示す方法【リビング・ウイル】

尊厳死についての法整備がまだまだ進んでいない日本において、尊厳死の選択意思を示すなら、「リビング・ウイル」の作成がおすすめです。リビング・ウイルとは「生前の意思」を意味する英語で、終末期医療についての希望を意思表示する文書のことをいいます。

リビング・ウイルに法的効力はありません。しかし、担当医師がリビング・ウイルに目を通せば、本人の意思を尊重した治療方針を立てることが可能になります。また、リビング・ウイルを家族に示しておけば、自分の意思を共有し、理解し合うことができるでしょう。

リビング・ウイルに記載する内容

リビング・ウイルは法的効力のある文書ではないので、書式は任意で構いません。冒頭か最後に必ず年月日と本人の署名を入れ、「リビング・ウイル」とタイトル書きしたうえで書き進めましょう。記載する内容は、以下の5つです。

書面が間違いなくリビング・ウイルであることの表明

「もし私が病気や事故で意識や判断能力の回復が見込めず、終末期に入ったときは、以下のような治療を希望します」などと、書面がどのような意味を持つのかについて表明します。

医療選択の希望

終末期の医療でどのような医療を希望するかを記すことができます。終末期における延命目的の治療処置は、例えば以下のようなものです。

  • 人工呼吸器装着
  • 心肺蘇生
  • 昇圧剤
  • 強心剤
  • 高カロリー輸液
    一般的な点滴の静脈よりも豊富な水分補給、栄養補給を行い、延命に寄与する輸液のことです。
  • 胃瘻(いろう)
    皮膚から穴を開けて胃に管を通すことで、胃に直接水分や栄養を入れるための処置です。
  • 経鼻チューブ栄養
    鼻の穴からチューブを挿入して胃や腸に直接水分や栄養を入れるための処置です。

緊急時に判断を委ねる代理人

意識がない、脳死に陥ったなどの理由により自己判断ができなくなった時に、自分に変わって判断を委ねる代理人の氏名や連絡先を記入します。もし代理人の名前がなければ、実際に終末期になっても誰が治療方針を決めるかが定まらなくなってしまいます。終末期には多くの方が自己判断のできない状態になります。代理人についての記入は必須です。

担当医

担当医の氏名や連絡先を記入します。突然事故にあい救急車などで運ばれ、かかりつけ医の治療を受けることができなくても、すぐ担当医に引き継ぐことが可能になります。担当医にもリビング・ウイルを示しておけば、より自分の希望に沿った治療方針を立ててもらえるでしょう。

本人の希望

特にがんなど穏やかに死へ向かう終末期においては、本人の希望に沿った治療を行うだけでなく、可能な範囲で本人が希望する環境を整えてもらえる医療施設があります。直接本人に意思を確認できなくても願いを叶えてあげられるので、家族の精神的苦痛が和らぐ可能性もあります。

例えば、以下のような希望を記載できます。

  • 存命中に会っておきたい方
  • 行きたい場所
  • 最期を迎えたいところ
  • お気に入りのアロマ
  • お気に入りの音楽

ただし、あまりに詳細な希望や、実現が難しい希望を書いてしまうと、亡き後に家族が「願いを叶えてあげられなかった」と落ち込んでしまう可能性があります。無理のない範囲で記しましょう。あるいは、「あくまでも可能な範囲で」と書き添えます。

事前に尊厳死の意思表示をするメリット

尊厳死の意思表示をするメリットは、主に以下の4つです。

  • 希望する最期を迎えられる
  • 家族への負担が軽くなる
  • 意思の整理ができる
  • 周りの意見も取り入れられる

それぞれについて説明します。

希望する最期を迎えられる

尊厳死の意思表示をしておけば、無理な延命措置を受けることなく、自然の流れに任せて息を引き取れる可能性が高まります。自然死イコール「苦しくない亡くなり方」ではありませんが、延命措置によって被る苦痛からは免れます。

例えば、終末期にあって口から栄養が取れなくなった場合、延命措置として経鼻チューブや高カロリー輸液による水分・栄養補給があります。

亡くなる直前まで栄養分や水分を入れると、患者の体はうまく水分や栄養を吸収できず、体がパンパンにむくんだり、肝機能障害を起こしてしまったりする可能性が高まります。肺にむくみが広がり、呼吸が苦しくなることもあります。

尊厳死を望めば、無理に生かされようとすることで生じる苦痛から解放され、本人が望んだように、自然のまま逝くことが可能になります。

家族への負担が軽くなる

終末期において本人が意思表示できるケースは限られています。本人の意思が確認できなければ、治療方針は家族が決めることになります。延命するかしないかを判断するのは、家族にとって大きな負担です。大いに悩む方が少なくありません。

あらかじめリビング・ウイルで尊厳死を意思表示しておけば、家族としても「この決断は本人のものだ」と安心して治療方針を判断できます。結果、家族の精神的負担の軽減につながります。

意思の整理ができる

リビング・ウイルを作成するに当たっては、「もし私が終末期になったら」と具体的に想像しながら書き進めることになります。作成の過程で、自分の意思を改めて整理することができるでしょう。「胃瘻は拒むけれど、息が苦しいのは嫌だから人工呼吸器はつけてほしい」など、詳細な希望に気づくことも多いはずです。

もしかしたら、尊厳死の先にある葬儀やお墓、相続の希望についても記したくなるかもしれません。死後に関する希望は、エンディングノートに書きましょう。

周りの意見も取り入れられる

リビング・ウイルは、周囲の意見を取り入れながら書くことも可能です。

自分ひとりでは判断ができない場合、家族がどう考えるかが気になる場合は、家族など身近な方を巻き込みながらリビング・ウイルを作成しましょう。すると、家族みんなが納得できるリビング・ウイルができあがります。

事前に尊厳死の意思表示をするデメリット

事前に尊厳死の意思表示をする際には、思わぬデメリットもあります。以下の2つに気をつけながら、リビング・ウイルを作成しましょう。

家族全員の理解が得にくい

家族の中には、できるだけ本人の意思を尊重したいと感じてはいても、「いざとなって、本人の希望だから延命をやめてほしいと伝えるのは大変な勇気がいる」「やはり、できるだけ生きていてほしい」と考える方もいます。尊厳死における意見を家族全員で一致させるのは、とても難しいことです。

自分の希望を叶えるためには、なぜ尊厳死を選びたいのか、自分の希望する逝き方はどのようなものなのかを家族に繰り返し説明し、理解を得なければなりません。家族と一緒にリビング・ウイルを作成するなどして、尊厳死について理解を深めてもらいましょう。

具体的に伝えなければ希望どおりにならない可能性がある

例えば「自然な逝き方をさせてほしい」とだけ書き残すと、いざというとき家族は延命治療を希望してしまう場合があります。どのような「逝き方」が「自然」なのか、考え方は人により異なるからです。「現代においては延命治療をする方が自然」と考える方もいるでしょう。

「口から食べられなくなったら、点滴や胃瘻・経鼻チューブなどで無理に栄養を入れないでほしい」「終末期において呼吸困難に陥ったら、人工呼吸器をつけないでほしい」など、より具体的な書き方をすれば、希望がそのまま叶えられやすくなります。

尊厳死、リビング・ウイルに関するよくある質問

尊厳死やリビング・ウイルの作成方法について、良くある質問とその答えをまとめました。

尊厳死には家族の同意が必ず必要?

尊厳死についての法律はないため、厳密にいえば家族の同意が必ずいるわけではありません。

ただ、終末期において本人の意識や判断能力がない場合、最終的に治療方針を決断するのは家族ですから、やはり家族の同意がないと尊厳死は叶わないといえます。

また、たとえリビング・ウイルがあっても、のちのちトラブルになることを避けるために、家族の同意を求める医療者は多いでしょう。

尊厳死は海外では認められているの?

尊厳死が認められている国はあります。1977年にカリフォルニア州自然死法が制定され、同州では尊厳死と消極的安楽死が認められてきました。1997年にはオレゴン州で尊厳死と消極的安楽死に加え、医師の手による積極的安楽死も認める法律が制定されました。

積極的安楽死も含めた安楽死・尊厳死は、他にニューメキシコ州、オレゴン州、バーモント州、ワシントン州で合法化されており、カリフォルニア州も現在では積極的安楽死まで含めた尊厳死・安楽死を認めています。

ヨーロッパにも尊厳死を認める動きがあります。オランダ、ベルギー、ルクセンブルクは積極的安楽死まで含めて合法化されており、フランスやドイツ、デンマークにおいても、延命措置の中止が認められています。

日本では延命措置を中止すること自体にも、明確に認める法律はありません。現場の医療スタッフたちが、本人の意思と家族の同意を元に判断します。しかしいざというときに本人の意思を確認するのは難しく、家族も決断しきれないことが多いため、延命措置の中止に踏み切れないケースも多いのが現状です。

リビング・ウイルはいつ作れば良いの?

リビング・ウイルは、元気でしっかりした判断能力があるうちに作成しておきましょう。

リビング・ウイルは「高齢の方が書くもの」「余命宣告されてから書くもの」というイメージがあるかもしれません。しかし、脳疾患で倒れる、不慮の事故に巻き込まれるなど、ある日突然終末期に陥ることは、どんな世代であっても、健康であってもあり得ます。

自身が尊厳死を選びたいと考えたら、なるべくすぐに作成するのがおすすめです。

葬儀やお墓のこともリビング・ウイルに記載して良いの?

リビング・ウイルには、葬儀やお墓のことも記載できます。自分の判断能力や意識がない状態に陥ったとき、家族など身近な方に希望を託すためのものですから、以下のような項目を入れ込むことが可能です。

  • 尊厳死について
  • 脳死状態に陥ったときの臓器移植について
  • ペットの世話について
  • 介護の希望(誰に、どこで介護を受けたいか)
  • 葬儀の希望(葬儀の規模、宗教スタイル、祭壇に飾るお花の種類、遺影写真の指定など)
  • お墓の希望(先祖代々のお墓に入るか、ひとりだけのお墓が良いか、樹木葬や永代供養、散骨を望むかなど)
  • 相続の希望(誰にどんな財産を残したいか)

ただし、リビング・ウイルには法的効力がないので、必ずしも希望どおりにはならない点に注意しましょう。とくに相続の希望については、法的に有効な遺言書を作成しておくのが安心です。

リビング・ウイルと似たものに「エンディングノート」があります。エンディングノートも、もしものときのために自分の希望を書いておくものなので、大きな目的はリビング・ウイルとほぼ同じです。

ただし、リビング・ウイルのほうが、尊厳死を望む方のための書類として認知されています。またエンディングノートは冊子であり、項目は多岐にわたるので、もしかしたら尊厳死への希望が埋もれてしまうかもしれません。

特に尊厳死について書き残したいと考えたら、書類枚数を限定したリビング・ウイルを作成しておいた方が、家族にしっかり意向が伝わるでしょう。

お墓選びは、「セゾンの相続 お墓探しサポート」がおすすめ

より自分らしい最期をと望むなら、尊厳死についての希望はもちろんのこと、葬儀やお墓の希望も書き残しておくのがおすすめです。しかし、尊厳死をはじめ、葬儀やお墓のことなど、エンディングに関する希望は知識がないとなかなか浮かんでこないものです。

とくにお墓は、最近選択肢が増え、形式が複雑化しています。承継者を立てる一般的なお墓はもちろん、承継者を立てずに契約できる永代供養墓、墓石ではなく樹木を祈りの対象とする樹木葬、海や陸に遺骨を撒く散骨など、お墓の形は多岐にわたります。自分や遺される家族に適したお墓を選ぶのは、なかなか難しいことです。

お墓選びに迷ったら、ぜひ「セゾンの相続 お墓探しサポート」にご相談ください。経験豊富な提携専門家のご紹介が可能です。お墓の選択肢についてはもちろん、墓じまいの方法や費用全般についてまで、お墓にまつわる悩みをサポートします。

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