更新日
公開日

農業をしない方の農地相続|気になる相続税や対処法を解説

農業をしない人の農地相続
セゾンのくらし大研究 編集部

執筆者
セゾンのくらし大研究 編集部

豊かなくらしに必要な「お金」「健康」「家族」に関する困りごとや悩みごとを解決するために役立つ情報を、編集部メンバーが選りすぐってお届けします。

あなたがもし、農業に携わっていないのに農地を相続することになったら、どのように対処しますか?農地相続は、宅地や建物などの相続と比べると、手続きが複雑で難しいといわれています。今回は、農業をしない方が農地相続する際にありがちなトラブルや手続きの仕方などを詳しくお伝えします。具体的な対処法についても最後に紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

この記事でわかること

農業をしない方でも、相続財産に農地が含まれる場合、農地相続の手続きを行わなくてはなりません。農地の相続は、農地法による制約があるため、手続きが難しく、遺産分割がスムーズにいかないケースもあります。農地相続の手続きは、農業委員会への届出と法務局への相続登記を行う必要があります。農業をしない方が農地相続に直面した場合、農地に関する知識を持ったうえでご自身の状況に合わせて適切な選択をしていきましょう。

農業をしない方でも農地相続は可能?

農地相続

相続財産の中に農地がある場合、農業を引き継ぐ・引き継がないにかかわらず相続が発生します。農業をしない方にとっては、相続財産に農地が含まれることで農地相続に悩むケースも珍しくありません。

ここでは、農地の定義や、農地相続の際に気をつけたいトラブルについて見ていきましょう。

相続税申告は、相続専門の税理士に

「相続税の負担をなるべく減らしたい」「相続税申告後、税務調査が入ると大変と聞いた…」そんな方におすすめなのがクレディセゾングループの「セゾンの相続 相続税申告サポート」です。相続税を得意とする税理士とそうでない税理士では、税金に大きな差が出ることも。「セゾンの相続」では、相続税に強い税理士と提携しており、無料相談や手続き依頼のご案内が可能です。相続税でお困りの方は、ぜひご相談ください。
セゾンの相続 相続税申告サポートの詳細はこちら

相続税申告サポート
相続税申告サポート

そもそも農地とは?

農地とは、農地法により「耕作の目的に供される土地」と定められています。ここでいう耕作とは、手間とお金をかけて肥培管理を行い、作物を栽培することを指しています。

農地かどうかの可否は、登記簿の記載により判断されるものではありません。土地の利用状況や環境など、現況に基づいて判断されます。現在耕作を行っていない場合でも、いつでも耕作可能な土地であれば農地と判断される点もポイントです。

農地相続の際に気をつけたいトラブル

農地相続の際には、農地ならではの問題が発生することがあります。農地相続で気をつけたいトラブル例がこちらです。

農地相続の手続きがわからない

分からない

農地相続では、今後農業をする予定がない方でもさまざまな手続きを行わなくてはならないケースもあります。農地の売買や宅地転用をしたくても農地法によりさまざまな制約が設けられているため簡単にはできません。農地相続は宅地や建物などの相続に比べると複雑であるため、専門知識がないと手続きが難しいケースも珍しくないのです。

遺産分割がうまくいかない

農地の相続登記では、遺産分割協議書の提出が求められることもあります。前述したように農地には多くの制約があるため、相続するか否かでもめる場合もあるでしょう。また、農地は、宅地と比較すると土地評価額が低い傾向にあります。そのため、農地の処遇を巡って、遺産分割協議がストップする場合もあるようです。

相続人に農業をする方がいない

法定相続人の中に、農業をしている方や今後農業をする予定の方がいないときには、農地相続の手続きがなかなか進まない場合があります。

特に法定相続人が皆遠方に住んでいる場合は、農地を相続しても維持管理が大変です。農地売却や宅地転用の手続きも複雑であるため、誰が相続するかもめてしまうケースも考えられます。

農地相続するメリット・デメリットとは 

メリット・デメリット

農業をしない方や今後する予定がない方にとって、農地相続には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

農地相続のメリット

農業をしない場合でも、相続した農地を転用することで、農業以外の用途に活用することもできます。例えば宅地に転用して自宅を建てることや、賃貸アパートや駐車場を運営して収入を得ることも可能です。また、農地を売却すれば、その売却益を得られるケースもあります。

農地転用や売却が難しい場合、農地を他人に貸し出すことも可能です。相続した農地を活用して利益を得られる可能性がある点はメリットといえるでしょう。

農地相続のデメリット

後ほど詳しくご説明しますが、農地相続では、農業従事者であれば相続税の納税猶予の適用が認められます。しかし、農業に携わっていない方が相続した場合、そのような特例が適用できず、相続税の負担が重くのしかかってしまう可能性が高くなります。

また、農地を相続すると、農業を行わない場合でも固定資産税や修繕など維持管理に多大な労費がかかります。農地転用や売却が上手くいけば収益を得ることも可能ですが、さまざまな事情から困難なケースもある点もデメリットといえます。

農地相続の手続き方法

農地相続の手続方法

農地を相続したら、農業委員会や法務局での相続登記の手続きが必要となります。それぞれの手続き方法について見てみましょう。

農業委員会へ届け出を行う

農地を相続する場合、農業従事者として農業を引き継ぐ予定はなくても、農業委員会への届出が必要になります。農業委員会とは、農地に関する事務を行う行政機関のことで、各市町村に設置されているものです。

ちなみに、一時的に耕作されていない土地でも、現況が農地であれば農業委員会への届出を行わなくてはならないので注意しましょう。

農業委員会へは、「農地法第3条の3第1項の規定による届出書」を提出します。その際には、遺産分割協議書をはじめとした農地の権利取得を証明する書類の写しも必要です。

届出期限は、権利取得を知った日より10ヵ月以内です。届出をしない場合、10万円以下の過料が発生することもあるので忘れないようにしましょう。

参照元:相続等による農地取得の届出|いわき市役所
    土地届け|国土交通省

法務局で相続登記の手続きを行う

相続において、農地を含む財産の総額が基礎控除額を超えた場合、相続税が発生します。その場合、相続税の申告とともに、農地や宅地など不動産の相続登記を法務局にて行わなくてはなりません。

農地を相続した場合の相続手続は、農地の所在地を管轄する法務局に、必要書類を提出します。必要書類については以下をご覧ください。

【必要書類】

  • 登記申請書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本
  • 被相続人が最後に住んでいた住所の住民票の除票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 不動産を取得する相続人の住民票
  • 固定資産評価証明書

また、ケースに応じて、遺言書の原本や遺産分割協議書なども必要となります。なお、相続登記の申請には登録免許税がかかります。計算方法は以下のとおりです。

【登録免許税の計算方法】

固定資産税評価額 × 0.4%

参照元:農地を相続したときの手続等について|新城市農業委員会事務局

農地相続した場合の相続税

相続税

土地の相続では、広さや周りの環境などから相続税評価額を算出し、それを基に相続税を納めます。農地を相続した場合は、農地特有の評価方法に従って相続税を算出します。ここでは、農地を相続した場合の相続税について詳しく見ていきましょう。

相続税の計算式

農地を含む相続財産への相続税は、相続財産の総額が基礎控除額を超えた場合に発生します。相続税の基礎控除額の求め方は以下のとおりです。

【相続税の基礎控除額】

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の人数

相続財産が基礎控除額を下回る場合、相続税は課税されず、相続税の申告も不要となります。相続財産が基礎控除額を上回る場合は、基礎控除額を差し引いた金額が課税対象となるので注意が必要です。

相続財産にかかる相続税の計算の仕方については、以下の流れを参考にしてください。

  1. 相続財産の総額を把握する
  2. 基礎控除額を計算する
  3. 課税対象となる相続財産を算出する
  4. 相続税を計算する
  5. 相続税額を、法定相続人の相続分に基づいて割り振る

相続税は、相続する財産全てにかかるものです。農地の相続税を計算する場合も、相続財産の総額を把握する必要があるので注意しましょう。なお、農地の相続税評価額については、3つ目の「課税対象となる相続財産を算出する」ときに計算します。

参照元:No.4152 相続税の計算|国税庁

農地の種類と評価方法

農地の評価方法は、農地の種類に応じて異なります。農地の種類は、以下の4つに分けられています。

純農地農用地区域内の農地や、第1種農地または甲種農地に該当するもの
中間農地第2種農地に該当するものや、それに準ずる農地と認められるもの
市街地周辺農地第3種農地に該当するものや、それに準ずる農地と認められるもの
市街地農地転用許可を受けたもの、市街化区域内にあるもの、転用許可が必要ない農地として都道府県知事の許可を受けたもの

それぞれの農地の評価方法は以下のとおりです。

純農地倍率方式
中間農地倍率方式
市街地周辺農地市街地農地だった場合の80%相当金額
市街地農地宅地比準方式や倍率方式

純農地と中間農地には、倍率方式が適用されます。倍率方式は、農地の固定資産税評価額に、国税局長が定めた評価倍率をかけて評価額を算出する方法です。

市街地周辺農地は、市街地農地として評価した金額に0.8を乗じて評価します。市街地農地には、宅地比準方式や、純農地と中間農地の評価にも使われる倍率方式が適用されます。宅地比準方式は、農地が宅地であると仮定した場合の評価額から造成費を控除した金額に、農地の地積をかけて算出する方法です。

それぞれの評価方法の算式は以下をご参考ください。

倍率方式固定資産税評価額×評価倍率
市街地周辺農地の評価方式市街地農地として評価した金額×0.8
宅地比準方式(その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額-1平方メートル当たりの造成費の金額)×地積

倍率方式の評価倍率や宅地比準方式の造成費は、国税庁のWEBサイトに記載されています。また、市街地周辺農地や市街地農地の評価金額は、「市街地農地等の評価明細書」を使用して評価を行います。

参照元:No.4623 農地の評価|国税庁

農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例とは

農地を相続した場合

農地を相続する場合、一定の条件を満たせば、相続税の納税猶予の特例が適用されます。通常、相続税の納税は、被相続人が亡くなった日の翌日より10ヵ月以内に行わなくてはなりません。しかし、この特例を受ければ、当面の間相続税を支払わなくても良いとされています。

また、以下のような場合は、猶予を受けていた相続税の納税は免除されます。

【納税が免除されるケース】

  • 農業相続人が死亡した場合
  • 農業相続人が後継者に生前一括贈与を行った場合
  • 農業相続人が納税猶予を受けて20年間農業を継続した場合

農地の相続税の納税猶予を受けるためには、被相続人・農業相続人・農地について、いずれかの要件を満たす必要があります。

【被相続人の要件】

  • 死亡日まで農業を営んでいたこと
  • 農地の生前一括贈与をしていたこと
  • 死亡日まで営農困難時貸付を行っていたこと
  • 死亡日まで特定貸付を行っていたこと

【農業相続人の要件】

  • 相続税の申告期限までに農業を引き継いでその後も農業経営を行うこと
  • 農地の生前一括贈与を受けて、納税猶予の特例を適用していたこと
  • 相続税の申告期限までに営農困難時貸付を行っていたこと
  • 相続税の申告期限までに特定貸付を行っていたこと

【農地の要件】

  • 相続税の申告期限までに遺産分割が行われた農地であること
  • 被相続人の死亡日までに贈与税の納税猶予の特例が適用された農地であること
  • 相続開始の年に被相続人より生前一括贈与を受けていた農地であること

農地の相続税の納税猶予を申請するためには、相続税の申告期限までに申告手続きを行う必要があります。その際、納税猶予額と利子税額に見合った担保を提供しなくてはなりません。

また、一度手続きをすれば終わりというわけではなく、猶予期間中は3年置きに継続する旨が記載された届出書を提出する必要があるので注意が必要です。

参照元:No.4205 相続税の申告と納税|国税庁
    No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例|国税庁
    No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例|国税庁

農業をしない方が農地相続する際の対処法とは 

農業をしない方が農地相続をする場合、どのように対処すれば土地を有効的に活用できるのでしょうか。

農地として他人に貸し出す

まずは、相続した農地をそのまま他の農業従事者に貸し出す方法が挙げられます。農地の賃貸借をする場合、農地法第3条による許可を得ることが必要です。その際には、農地のある管轄の農業委員会に申請書を提出しなくてはなりません。少し面倒に感じるかもしれませんが、土地の転用や売却と比較すると、比較的スムーズでしょう。

農地の貸し出しでは、貸し手と借り手の受け渡しを支援する「農地中間管理機構」という公的機関もあります。「農地中間管理機構」は都道府県ごとに設置されているので、利用するのもおすすめです。

農地を転用する

農地を転用する

一定の条件を満たす農地であれば、農地を宅地として転用することが可能です。農地転用の手続きは、農業委員会が窓口となっており、都道府県知事や農林水産大臣が指定する市町村長に許可の可否が委ねられています。

そもそも、集団農地や土地改良事業の対象農地の場合、農地転用は原則的に認められていません。また、市街化調整区域内にある甲種農地にも制限があり、転用許可を得ることは難しいでしょう。

しかし、市街化区域内にある第2種農地および第3種農地であれば、農業委員会への届出のみで許可されるため、手続きがスムーズです。

農地転用の手続きは、農地のある区域によって申請方法が変わります。そのため専門知識が乏しいと難航する可能性も大いにあります。農地転用を検討する場合、相続した農地が転用可能な土地か確認することが大切です。

農地を相続放棄する

やむを得ない事情がある場合、相続放棄も可能です。ただし、相続放棄をすると農地以外のすべての財産も手放すことになります。農地以外に価値のある相続財産がある場合、相続放棄は難しいといえるでしょう。

相続放棄をすると、相続財産が国庫に帰属するまでは相続財産管理人によって管理されます。その期間は、相続財産管理人への報酬も発生するので注意が必要です。また、相続財産管理人を選任する際には、約10~100万円の予納金も必要になります。

参照元:相続財産管理人の報酬の相場は?支払い方法についても解説します!

農地を売却する

農地の売却には、農地のまま売却する方法と、農地を転用して売却する方法があります。しかし、農地には農地法による制約があるため、売却についても難航するケースが多いことに注意しましょう。

農地のまま売却する場合、農業委員会の許可が必要です。また、農地は、農家や農業参入者以外には売却できません。

農地転用して売却する場合は、相続した農地が宅地に転用できる土地であることが前提条件となります。いずれの場合でも、売却するためには、一旦相続手続きを行ってからとなります。

おわりに 

農地相続は、農業をしない方にとって大きな負担となる可能性があります。他の相続財産と比較して、農地の手続きは少し特殊なものとなるので注意しましょう。まずは、期限内に、必要とされる農地相続の手続きを忘れずに行うことが大切です。相続した農地によっては、宅地への転用や売却が可能となるケースもあります。また、農地のまま貸し出しをすることも可能です。ぜひこの記事を参考に、農地の状況を見極めて、ご自身にとって最良の選択を行ってください。

よく読まれている記事

みんなに記事をシェアする

ライフイベントから探す

お悩みから探す

執筆者・監修者一覧

執筆者・監修者一覧

セミナー情報

公式SNS

おすすめコンテンツの最新情報をいち早くお届けします。みなさんからのたくさんのフォローお待ちしています。