人が亡くなると遺産相続が発生しますが、遺産相続においては往々にしてトラブルにつながるケースが多く見られます。とくに分けにくい不動産をどのように分けるか、また、遺産の中にマイナスの遺産、つまり借金があった場合に、借金まで相続したくないと思うのは当然といえるかもしれません。
相続に関する問題が発生した際には、遺産相続の知識を持っておくことで、トラブルの解決につなげることができます。本記事では、遺産相続に関する基礎知識から遺産相続手続きの流れ、また遺産相続で起こりやすいトラブルの例を紹介します。
この記事のまとめ
以下は、この記事の重要なポイントです。
- 相続とは、故人の遺産や財産を受け継ぐことを指します。
- 相続人とは、故人の法定相続人や遺言によって指定された相続人のことです。
- 法定相続人とは、民法に定められた身分・続柄に応じた相続人のことです。ただし、故人の遺言がある場合には、遺言に従って相続人が決まります。
- 相続には、相続手続きが必要です。相続手続きには、相続人の調査、遺産目録の作成、相続財産の評価、相続税の申告などが含まれます。
- 相続税とは、相続人が相続財産を受け取った際に課税される税金です。相続税の申告には、納税者証明書の取得や申告書の提出が必要です。
- 相続においては、遺言書の作成が重要です。遺言書によって、相続人の指定や財産分割の方法などを定めることができます。
- 相続においては、家族信託の設定が有効な方法のひとつです。家族信託を設定することで、相続人間のトラブルを未然に防ぐことができます。
以上が、この記事の主なポイントです。相続には、法定相続人や遺言など、様々な要素が関わってきます。また、相続手続きや相続税の申告なども必要になりますので、相続について正確な知識を持つことが重要です。
知っておきたい遺産相続の基礎情報
遺産相続とは、亡くなった方(被相続人といいます)が残した財産を、相続人が引き継ぐことを指します。相続財産には、被相続人が所有していたすべての財産が含まれます。そのため、プラスの財産もあれば、借金のようなマイナスの財産もあります。
遺産相続において、相続人同士のトラブルを避けるためには、事前にある程度準備しておかなければなりません。
この章では、以下についてまとめていますので、ひとつずつ見ていきましょう。
- 相続財産に含まれるもの
- 遺産の相続順位と法定相続分
- 遺産の分割方法
- 遺産相続の手続きの期限
残された家族がもめないための遺言作成
「法定相続分以外の割合で遺産相続したい」「相続人の数が多く、疎遠な親族がいる」「子どもがおらず、配偶者のみに自身の財産を相続させたい」そんな方におすすめなのがクレディセゾングループの「セゾンの相続 遺言サポート」です。法定相続人の間柄によっては遺産の話し合いがスムーズに進まない場合があります。遺言書でスムーズな相続に備えたい方は、ぜひご相談ください。
相続財産に含まれるもの
相続財産には、被相続人が所有していたすべての財産が含まれます。どのような財産が相続財産の対象になるのか、ここでしっかりと理解しておきましょう。
【プラスの財産】
- 現金・預貯金・株券・貸付金・小切手などの有価証券
- 自動車・家財・宝石・貴金属などの動産
- 住宅・土地・建物・店舗などの不動産および借地権や借家権など不動産に関連する権利
- 電話加入権や著作権・慰謝料請求権などの権利
【マイナスの財産】
- 借金や住宅ローンなどの債務
相続の対象となる財産には、プラスの財産だけではなく、借金や住宅ローンなどの債務といったマイナスの財産も含まれます。マイナスの財産には、借金や住宅ローン残高以外に、住宅ローン以外のローン残高や、買掛金、未払の税金や未払家賃、未払の地代や未払医療費などがあります。
遺産の相続順位と法定相続分
遺産相続における法定相続人および法定相続分は、民法によって規定されています。
配偶者は常に相続人になり、配偶者の次に相続順位が高い順から法定相続人になります。遺産相続における相続順位については以下のとおりです。
相続順位 | 対象者 |
第1順位 | 子 |
第2順位 | 直系尊属(父母・祖父母) |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
被相続人に配偶者と子どもがいる場合、相続分は配偶者が2分の1、子どもが2分の1です。子どもが2人いる場合は、それぞれ4分の1ずつになります。
また、被相続人と配偶者に子どもがいない場合は、第2順位である直系尊属(具体的には被相続人の両親もしくは祖父母)が相続人になります。その場合の相続分は配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1です。両親が健在の場合、父と母の相続分は6分の1ずつとなります。
被相続人と配偶者との間に子どもがおらず、直系尊属も亡くなっている場合は、配偶者被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。この場合の相続割合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。もし、被相続人に兄弟が2人いる場合、兄弟の相続分は8分の1ずつになります。
参照元:民法 | e-Gov法令検索
遺産の分割方法
遺産分割には、次の4つの方法があります。
- 現物分割
- 換価分割
- 代償分割
- 共有分割
以下の表でそれぞれの分割方法について、簡単に説明します。
【遺産の分割方法】
現物分割 | 財産をそのままの形で分ける方法(例:自宅は配偶者、その他の不動産は長男、現金や有価証券は長女など) |
換価分割 | 財産を換金し、現金で分割する方法 |
代償分割 | 財産をそのままの形で分け、財産を多くもらった方が、その差額を現金で他の相続人に支払う方法 |
共有分割 | 財産を相続人で共同所有する方法 |
相続財産が現金だけであれば、スムーズに分割できますが、家や土地などの不動産が相続財産の大半を占める場合は、換価分割や代償分割、共有分割などの方法で公平に分割できるよう、相続人同士で話し合いが行われます。
遺産相続の期限
遺産相続の手続きのなかには、期限が設定されているものもあります。期限が設定されているものは以下です。
相続放棄(3ヵ月)
相続放棄とは、プラスの財産そしてマイナスの財産を含む一切の相続を放棄することです。相続放棄は、相続が開始したことを知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。
相続放棄は単独で行えます。
限定承認(3ヵ月)
相続放棄のようにすべての財産についての相続を放棄するのではなく、プラスの財産は相続するけれども、マイナスの財産については相続しないことを限定承認といいます。そして、限定承認についても、相続の開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。また、相続放棄と異なり、限定承認を行うには、ほかの相続人全員の承認が必要です。
相続税の申告および納付(10ヵ月)
相続税の申告および納付は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に行わなければなりません。この時までに遺産分割協議が決まっていない場合は、いったん法定相続分で分割したことにして、申告および納税を行います。
また、後述しますが、不動産を相続した場合については、名義変更を行う必要があり、法改正によって期限が設けられることになりました。
遺産相続手続きの流れ
遺産相続の手続きをスムーズに進めるためには、手続きの流れを知っておくことが重要です。
この章では、遺産相続の手続きの流れについて解説します。
遺言書を確認する
まず、遺言書があるかどうかを確認し、ある場合は家庭裁判所へ検認の申し立てを行います。
遺言書の検認手続きの申し立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行う必要があり、その際には、申立人(遺言書の保管者もしくは遺言書を発見した相続人)や相続人の相続関係が確認できる戸籍謄本が必要になります。
また、所定の収入印紙や連絡用の郵便切手も用意する必要がありますので、あらかじめ必要書類および費用について家庭裁判所に確認し、準備しておきましょう。通常、申し立ての際には、遺言書1通につき800円の収入印紙と、連絡用の郵便切手が必要です。
申し立てを行ったあとは、検認期日に相続人全員が集まり、立ち会いのもとで遺言書の開封および検認が行われます。
遺言が公正証書遺言の場合、公証人および2人以上の証人の立ち合いのもとで作成されており、証拠能力が十分であると認められることから、家庭裁判所における検認の手続きは不要です。
相続人を確定させる
遺言書がない場合は、相続人の調査を行わなければなりません。そのためには、被相続人の出生から死亡時までの戸籍を取得し、正確な相続関係を把握し、法定相続人を確定させる必要があります。
相続財産を確定させて目録を作成する
相続財産には、上で述べたとおりプラスの財産もあれば、マイナスの財産もあります。プラスの財産そしてマイナスの財産も含め、すべての相続財産を明らかにしなければなりません。
これらの作業を行うのは大変ですが、被相続人宛てに届いた郵便物から預貯金や証券口座、借入金などの情報が把握できます。また、被相続人名義の不動産は、固定資産税の納税通知書を確認することで把握できます。
合わせて宝石などの財産も評価して「財産目録」を作成します。財産目録は必ず作らなければならないというものではありませんが、家庭裁判所に対して遺産分割調停の申し立てを行う際には提出が必要になりますし、遺言執行者が選任された際には、遺言執行者は相続人に対し、財産目録を作成して交付する義務がありますので、できれば作成しておくことをおすすめします。
財産目録を見て、マイナスの財産が多いことがわかった場合や、トラブルを避けたいなどの理由で相続放棄をする方もいます。
遺産分割協議を行う
遺言書がない場合は、各相続人同士で遺産をどう分けるかを協議する必要があります。 一般的に遺産分割協議は相続人が実際に集まって話し合います。そして、協議内容に全員が合意したら、その証明として遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、誰が、どの財産を、どのように取得するかについて、明確に記載しなければなりません。そして、作成した遺産分割協議書に、相続人全員が実印で押印し、相続人全員が各1通ずつ保管します。
実印を押印するため、遺産分割協議書には相続人全員の印鑑証明書の添付が必要になりますので、事前に準備しておきましょう。
遺産分割協議書の書き方については「遺産分割協議書の書き方のポイントは?注意点も詳しく解説」をご確認ください。
相続財産の名義を変更する
相続財産を相続する方が決まったら、その内容に応じて不動産や預貯金、株式などの名義変更を行います。
不動産の場合、これまでは名義変更つまり相続登記を行わなくても罰則がなかったため、放置されるケースが多く、所有者不明土地などが社会問題になっていることから、2024年4月以降は不動産の名義変更(相続登記)が義務化されました。そのため、相続などにより所有権を取得したことを知った日から3年以内に行わなければならなくなっています。
もし、正当な理由がないまま相続登記の申請を怠っていた場合は、100,000円以下の過料が課せられる可能性がありますので、注意が必要です。
参照元:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)
相続税を納付する
遺産相続の結果、相続税の納付×が必要になるケースがあります。相続財産の価格の合計が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」よりも多い場合は、課税の対象ですので、相続税を申告し、納税しなければなりません。
相続税の申告および納税にも期限があります。死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内となっていますので、それまでに申告および納税を済ませるようにしましょう。
もし、それまでに遺産分割協議が終っていない場合は、いったん法定相続分で分割したことにして、申告および納税を行います。
遺産相続で起こりやすいトラブル事例と対処法
遺産相続で起こりやすいトラブルには、以下のようなものがあります。
- 遺産に不動産が含まれている
- 特定の法定相続人が遺産を独占しようとする
ここでは、遺産相続に多いトラブルとその対処法について解説します。
遺産に不動産が含まれている
現金や預貯金は比較的分割しやすい遺産ですが、不動産は簡単に分割することができません。そのため、遺産に不動産などが含まれている場合は、上で紹介した4つの分割方法について理解したうえで、どの分割方法を用いて分割するのかを話し合うことが大切です。
特定の法定相続人が遺産を独占しようとする
特定の法定相続人が遺産を独占しようとしてトラブルになるケースもあります。例えば、長男であることを理由に、遺産をすべて独り占めしようとするなどです。
遺産相続は、遺言書や民法で定められた決まりに従って分けるのが基本です。相続人同士の理解が得られずにトラブルに発展しそうなときには、専門家に相談することをおすすめします。
そのうえで、法律上の権利に基づいて是正を求めるようにしましょう。
家族構成が複雑なケース
家族構成が複雑なケースもトラブルになりやすいといえます。死亡時の家族以外に子どもがいるケースなどが該当しますが、前に結婚していたときの子どもであっても相続権は平等に認められます。
場合によっては、被相続人が介護をしてくれた方などを養子にしているケースもあります。
話し合いの際にお互いが感情的になってしまったり、遺産分割についての意見が合わなかったりすることもあります。特に相続人の数が多くなると、トラブルに発展しやすい傾向がありますが、基本的に相続人の範囲や分割の割合は変わりません。
相続争いに発展した場合は、専門家に相談するようにしましょう。
生前に特定の者が財産を管理していたケース
被相続人と同居していた方が財産管理を行っていた場合、相続財産の内容について開示を拒否したり、財産を使い込んだりしている可能性があります。
実際に、両親と同居する長男が資産を管理しており、親の死後に預金を開示しないケースもみられます。さらに、使途不明金が発覚しても返還に応じず、訴訟になることもあります。
財産管理をしていた方に、財産内容の開示を請求した際、使途不明金があることが発覚したにもかかわらず、返還に応じない場合は弁護士を間に入れて話を進める方法が有効です。
遺言書に納得できない者がいるケース
基本的に遺言書がある場合は、遺言書の内容にそって遺産を分割します。しかし、遺言書の内容が不公平な場合は、納得しない方も出てきます。遺言書の内容が不公平だったとしても、基本的に遺言書の内容は有効ですが、前述のとおり民法によって法定相続の割合が決まっています。
そのため、遺言書の内容が無効だとして、調停や訴訟に発展するケースも少なくありません。遺言書により、すべての遺産を相続人のひとりが独占しようとしている場合は、弁護士に対応を依頼しましょう。
特定の者が遺産を多く相続するケース
これも遺産相続の際に多く見られるトラブルですが、特定の相続人が遺産を多く相続するケースもあります。
例えば、被相続人が経営を行っており、後継者である子どもに自宅兼事務所や自社株式などを相続させる場合には、他の兄弟姉妹よりも相続する財産が多くなるため、不満を持つ方もでてきます。
被相続人側の対処法として、特定の相続人に遺産を多く相続させる場合は、他の兄弟姉妹に配慮した分割内容の遺言書を作成することが大切です。
生前贈与が行われたケース
生前贈与が行われた場合も、遺産相続で揉めることがあります。高額な生前贈与を受けた方がいる場合は相続人の間で公平さを保つため、遺産分割の際に特別受益分を計算に入れて分配することになります。このことを「特別受益の持ち戻し」といいます。
しかし、贈与を受けた相続人が「贈与されていない」もしくは「特別受益の持ち戻し計算は免除されている」などと主張するトラブルもあります。
これも被相続人側の対策になりますが、バランスを欠いた生前贈与や不透明な生前贈与をしないことが大切です。生前贈与を行う場合は、きちんと贈与契約書を作成し、誰に、何を、いくら贈与したのかを残しておくようにしましょう。
おわりに
遺産相続では、トラブルの発生につながるケースが多くみられます。トラブルを避け、遺産分割協議をスムーズに進めるためには、専門家に相談することをおすすめします。専門家を多く抱える事務所では、無料相談を行っているところもありますので、遺産相続に悩んだ際には利用してみましょう。
相続人の数が多く、意見がなかなかまとまらないなどといった悩みをお持ちの方はぜひ「セゾンの相続」にご相談ください。