「遺贈」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。なんとなく、相続に関する単語ということは知っていても、どのようなときに、どのような状況で有効になるのか、相続とどう違うのかなど、わからない方が多いようです。わが家には関係ない話と思いがちですが、じつは、想定外の遺贈に悩まされるケースは多いのです。
この記事では、遺贈と相続の違いについてお伝えするとともに、遺贈について、深く掘り下げ、理解を深めてみましょう。
この記事のまとめ
遺贈は、被相続人の想いを、遺言書という最期のメッセージで伝えることのできる手段です。ただし、贈与とは異なり、一方的な意思表示であるため、受け取る側にとっては想定外に負担となる場合があります。
また、本来財産を受け取るはずであった法定相続人などにも、さまざまな面で影響を与える可能性があることを知っておく必要があります。
せっかくの想いにも関わらず遺言書が無効になることは避けるべきですし、相続税や遺留分侵害額請求の可能性など配慮が必要であることを心に留めておきたいものです。
遺贈とは
遺贈とは、亡くなった方の遺言によって、法定相続人以外の方や団体に遺産の一部または全部を譲ることです。遺贈をしようとする場合には、遺言書に「遺贈する」と記さなければなりません。遺贈する方を「遺言者」、遺贈によって財産を受け取る者を「受贈者」といい、受け取る相手は、法定相続人でない個人でも、団体でも可能です。
遺贈とその他の違い
一般的に、普段生活している中では、相続に関する話題に触れる事があまり無く、意味の違いを理解していなくても無理はありません。とはいえ、意味の違いを理解しておくと、いざという時に冷静に対応できます。
「遺贈」は、相続や生前贈与と混同しやすいため、違いについて確認しましょう。
遺贈と相続の違い
相続とは、亡くなられた方(被相続人)の財産が法定相続人に引き継がれることをいいます。遺言書がある場合、遺言書には「相続する」と記されるのが一般的です。
遺贈は、受け取る相手は、法定相続人でなくても構いません。個人でも、団体でも可能です。遺贈によって財産を受け取る者を「受贈者」といいます。遺言書には、「遺贈する」と記さなければなりません。
遺贈と生前贈与の違い
遺贈は、被相続人の相続が発生したこと(死亡)により、効力が発生します。生前贈与は、生前に財産を譲る契約です。贈与は、契約であるため、双方の合意のうえで成立します。
遺贈と死因贈与の違い
遺贈は、遺言者(被相続人)は、財産を譲る意思を遺言書によって表示します。死因贈与は、死亡を条件として効果が生じる贈与契約ですので、生前贈与と同様に、相手の同意が必要です。
遺贈のメリットとデメリット
遺贈は法定相続人でない親族にも遺産を譲ることができるため、生前にお世話になった個人や団体に感謝を伝えることができます。しかし、遺贈する内容によっては高額な相続税が発生し、受遺者は受け取りを放棄せざるを得ない場合もあります。
遺贈する側(遺贈者)のメリットとデメリット
遺贈は法定相続人でない親族にも遺産を譲ることができるため、生前にお世話になった個人や団体に感謝を伝えることができること、財産を被相続人以外に譲りたい場合に遺言の内容を非公開にできることがメリットです。
一方デメリットとしては、遺言書の書き方にはルールがあり、作成時は遺留分や財産への課税に配慮しなければならないことです。
遺贈される側(受遺者)のメリットとデメリット
受遺者は遺贈を受け取りたくないときには放棄することができますので、特定遺贈の場合、負債を引き継がないという選択肢があることはメリットです。
一方、遺贈の内容によっては高額な相続税が発生し、受遺者は受け取りを放棄せざるを得ない場合もあります。包括遺贈の場合には、遺産分割協議に参加する必要があるため、負債も引き継がなければなりません。特定遺贈された財産の価値によっては、法定相続人とトラブルになるケースがあるのがデメリットです。
遺贈を受ける方(受遺者)は相続人ではない
遺産を受け取る「受遺者」は、法定相続人とは異なります。
受遺者は、遺言書への記載により受領する権利が発生します。遺贈の相手先は、特定の個人の他、医療施設、教育機関、地方自治体などの団体に設定することができます。
一方、法定相続人は、民法で定められた「被相続人の財産を相続する権利がある方」です。遺言書がない場合には、法定相続人が遺産分割協議により財産を相続します。
遺贈の取り消しはできる?
遺贈の取り消しはできます。
遺言の取り消しや撤回があった場合、遺贈は無効になります。また、遺言が方式に則っていない場合も無効です。
何らかの理由で遺贈が無効になった場合は、相続財産は、相続人に帰属するものの、被相続人が別の遺言を残して意思を示していた場合には、その意思に従うことになります。
遺贈の放棄はできる?
被相続人から遺贈を受けたとしても、受遺者は遺贈を放棄することができます。放棄の方法については、包括遺贈と特定遺贈で異なります。
もしも受遺者が意思を明らかにしない場合、相続人は期間を定めて受遺者に催告をすることができます。期間内に返答をしない場合、受遺者は遺贈を承認したものとみなされます。原則として、一度行った遺贈の承認や放棄は撤回することができません。
遺贈には種類がある
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2種類あり、受け取る側や法定相続人に関わるので注意が必要です。
包括遺贈
包括遺贈とは、遺産内容を指定せずに、全部または遺産の何割かを与える遺贈のことです。
遺言書には「遺産のうち1/2をAに遺贈する」などと記載されることがあります。
包括遺贈は、法定相続人と同じ権利と義務が生じるため、遺産分割協議に参加する必要があります。具体的な内容についての決め、場合によっては負債分も引き継ぐことにもなります。
包括遺贈を放棄する場合には、相続があったことを知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所に申述を行う必要があり、期間を過ぎた場合、原則放棄ができなくなります。
特定遺贈
特定遺贈とは、遺産の内容を具体的に指定して与える遺贈のことです。
遺言書には、「AにはXの不動産を、BにはYの株式を与える」のように記載され、特定遺贈の受け取る方が法定相続人でない場合には、遺産分割協議に参加することなく、すぐに受け取れます。また負債を引き継ぐこともありません。
特定遺贈を放棄する場合は、相続人への意思表示のみ行えば良く、期限も、家庭裁判所への申述も不要です。
遺贈をする際の注意
遺贈は、被相続人の意思のみであることから、遺された相続人や関係者への影響が大きいため、注意が必要です。
遺言書の作成に関する注意
遺贈をするためには、遺言書の作成が必須です。
遺言書の書き方にはルールがあり、違反したものは法的に無効です。
誤解がないように書く
相手が法定相続人の場合は、「相続する」「遺贈する」のどちらでも問題ありませんが、法定相続人以外の方を設定する場合には、「遺贈する」と記載します。
遺留分に配慮する
法定相続人には遺留分があるため、遺留分に配慮をする必要があります。遺留分の権利は、遺言書の内容よりも優先されるため、法定相続人から受遺者に対して、遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。
遺言執行者を決めて記載しておく
遺贈の内容を実現するためには、遺言執行者を決めて記載しておく必要があります。
民法第1012条「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」
遺言執行者は、相続人全員の代理人であり、重要な役割を果たすため、相続トラブルを避けるためにも信頼できる遺言執行者を決め、その旨を記載しておくようにします。
相続税に関する注意
遺贈によって財産が引き継がれる場合には、贈与税でなく相続税の対象となります。相続税の負担についても配慮が必要です。
受遺者は相続税の基礎控除人数に含まれない
相続税を算出する際、まず基礎控除を計算しますが、基礎控除の人数に受贈者は含まれません。基礎控除は、法定相続人の数ですので注意が必要です。
受遺者の立場によっては相続税の2割加算が適用される
法定相続人以外に遺贈する場合、相続税の2割加算が適用されます。
配偶者と子がいる場合、兄弟姉妹は法定相続人には該当しませんが、お世話になった兄には財産として遺したいというケースはありがちです。この場合、兄への遺贈となり、遺贈された兄は、相続税の2割加算の対象者となります。
2割加算の例を挙げると、甥姪、いとこ、代襲相続人でない孫、姻族、第三者などが該当します。
遺贈に対する遺留分侵害額請求に関する注意
被相続人が遺した遺言書は、受贈者や他の相続人に対して、さまざまな感情を引き起こす火種となり得ます。その解決策として遺留分侵害額請求があります。遺贈を検討する場合には、遺留分侵害額請求の可能性にも配慮が必要です。
遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、被相続人が遺留分権利者以外に財産を贈与や遺贈したことにより、法定相続人が最低限確保されるべき財産を得ることができなかった場合に、受遺者に対して請求できる制度です。
おわりに
遺贈は、被相続人の想いを、遺言書という最期のメッセージで伝えることのできる手段です。ただし、贈与とは異なり、一方的な意思表示であるため、受け取る側にとっては想定外に負担となる場合があります。
また、本来財産を受け取るはずであった法定相続人などにも、さまざまな面で影響を与える可能性があることを知っておく必要があります。
せっかくの想いにも関わらず遺言書が無効になることは避けるべきですし、相続税や遺留分侵害額請求の可能性など配慮が必要であることを心に留めておきたいものです。
遺贈を検討する際は、専門的な知識と相手への配慮が必要です。ひとりで遺言書を作成すると、トラブルを生む可能性がありますので、専門家を交えて検討することをおすすめします。ぜひ「セゾンの相続 遺言サポート」へご連絡ください。