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認知症の相続人がいる場合の相続手続きは大変!トラブルを避ける方法を解説!

セゾンのくらし大研究 編集部

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相続が発生すると、被相続人の財産をどう引き継ぐのか、相続税はいくらで、どう支払うのかといった一連の相続手続きを行う必要があります。相続人の中に認知症の方がいると大変という話はよく耳にしますが、どういったトラブルが想定され、どのような対処法があるのでしょうか。

認知症リスクの高まりとともに考えておきたい相続対策です。このコラムでは、トラブル事例とともに、成年後見制度などについても解説します。

この記事のまとめ

相続手続きにおいて、認知症の相続人がいる場合には、遺産分割協議ができないなどさまざまな問題が生じます。法定相続分での分割では特例を充分に活用できない、共有名義による問題の先送り、家族や親族の思い通りにならない成年後見制度の利用など、まさに八方塞がりのなかで選択肢に悩むことでしょう。それぞれのメリットやデメリットを知ったうえで、効果や申告期限までの時間、手間を検討し、最適と思われる判断を考えたいものです。寿命の延びを踏まえると、認知症リスクは誰にでも起こり得ます。相続人たちが悩まぬよう生前に備えておくことも大切です。それぞれの状況により最適は異なるため、悩んだら知識と経験のある専門家に相談することをおすすめします。

相続人が認知症の場合に起こり得るトラブル

人生100年時代といわれ、元気な高齢者が増えている一方で、相続の現場では、ひと昔前には想像もつかなかった悩みやトラブルが多く発生しています。

そのひとつとして「相続人の認知症」が挙げられます。相続人の中に認知症の方がいる場合、「意思表示」ができないことで、相続手続きが進まないといったトラブルが発生することが多くあるのです。

相続手続きをする時の問題

遺産の分割方法について話し合う「遺産分割協議」は、相続人全員が集まり、合意することが前提です。

被相続人の死亡により凍結された銀行預金口座は、遺産分割協議に従って凍結解除されますが、認知症の相続人がいることで、遺産分割協議が成り立たないという壁に直面するケースが増えています。

認知症の方が参加する遺産分割協議は無効になる場合がある

被相続人の遺産分割に当たって、意思能力を失っている認知症の方が参加した遺産分割協議は無効です。遺産分割協議は、意思表示にもとづく法律行為であるため、意思能力が欠けた状態での協議は効力としての要件を充たしません。

一方的に不利益な遺産分割協議を成立させ、当事者の利益を奪ってしまうことを防ぐための措置です。認知症に限らず、知的障害や精神障害も同様の趣旨から、意思能力がない場合には遺産分割協議に参加することができません。

認知症の方を除いた遺産分割協議は無効

一方で、認知症の相続人を除いた遺産分割協議も無効です。遺産分割協議は、相続人全員で合意する必要があり、相続人が一人でも欠けた遺産分割協議は無効となります。

認知症の方の親族が代理で協議を進められない

代理権のない親族が認知症の方の代理として参加し、協議を進めることもできません。

代理人を立てるためには、本人の同意が必要であることから、意思能力のない認知症の方の同意を得ることは難しいでしょう。同意なしで、認知症の方に変わって署名押印をすると私文書偽造罪に抵触する恐れがあります。

認知症の方に相続放棄させることはできない

相続放棄も法律行為に当たるため、意思能力のない認知症の方はできませんし、行っても無効となります。

法定相続分で分割する際の問題

遺産分割協議ができない場合、遺言書がなければ法定相続分での相続となります。法定相続は民法が定める原則的な相続方法です。認知症と診断されている場合であっても遺産を分割することはできますが、法定相続分での分割でも課題は残ります。

相続税の負担を減らす特例が有効に使えない

法定相続分での分割の場合、相続税における有利な特例を十分に活用することができず、結果として高い相続税を支払うことになります。

被相続人の遺産を相続人へ引き継ぐことを「相続」といい、取得した財産の価額によって「相続税」が発生します。相続財産の種類や誰が引き継ぐかによって、相続税の負担を抑えることができる特例があります。

そのひとつである「配偶者の税額軽減」は、被相続人の遺産を配偶者が相続すれば、相続税の軽減効果が大きい特例ですが、法定相続分による分割の場合、他に法定相続人がいると効果は限定されるのです。

「小規模宅地等の特例」は、被相続人所有の自宅などに同居する配偶者が相続する場合に大きく評価を下げることが可能なため、ぜひ活用したい特例。ただし、こうした特例は、期限までに相続税の申告をする必要があります。期限を過ぎると、特例を受けることができません。

被相続人の預金口座が長期間利用できないリスクがある

金融機関では、被相続人の死亡を知ると、トラブル防止を目的として、その方の口座を凍結します。口座凍結とは、その名のとおりなのですが、具体的には、お金を引き出すことも入れることもできなくなるという状態です。

相続人の間できちんと話し合った結果、「誰が受け取るのか」「どのように分割するのか」が確定すれば凍結は解除されます。あくまでも凍結の目的は「トラブル回避」のため、認知症の方がいて、不利益となる可能性がゼロでないかぎり、凍結の解除はできません。

つまり、被相続人の預金口座が長期間にわたって利用できないリスクがあるのです。被相続人に扶養されていた配偶者が認知症である場合、年金が受け取れず、配偶者の生活に影響を与える事例もあります。

不動産が共有名義になる

法定相続分で分割は、民法で定められた割合によるため、相続財産の価額、自宅の評価額によっては、自宅等の不動産が他の法定相続人との共有となることも想定されます。

不動産の共有は、本来であれば避けたいものです。将来的に売却を検討する場合、所有者全員の合意が必要になります。また、空き家のまま共有するとしても、メンテナンス費用の負担がトラブルの要因になったり、事故や犯罪のリスクも高まったりします。

認知症の方が相続人になった時の対処法

ここまで述べてきたとおり、相続人の中に認知症の方がいた場合、相続手続きが難航することがあります。

そもそも認知症になると、意思能力や判断能力が十分でないことも多く、法律行為だけでなく、日常生活においても支援が必要になります。とはいえ、認知症にもさまざまな種類や症状があることを知っておきたいものです。

認知症の状態を医師に診断してもらう

症状の程度によっては遺産分割協議や相続手続きを行える可能性があります。

認知症の症状や判断能力の程度について医師の診断を受け、診断書を書いてもらいましょう。人によっては、時間帯や天気、周囲の環境によって症状にムラが見られます。

進行度合いにもよりますが、初期段階であれば、気分が落ち着いたときには意思能力が明確にあると診断されるケースも多くあるのです。

法定相続分で財産を相続する

不動産の売却などについては選択肢が限定されるものの、遺産分割協議を成功させることをゴールとするならば、民法が定める原則的な法定相続分での分割は、重度の認知症であっても遺産分割が行える手段です。

相続手続きを放置する

相続手続きを放置することは、おすすめできません。これまでは放置しても罰則がなかったため、登記しないまま年数の経過とともに所有者不明の土地が増え続けているのが現状です。

国土交通省の平成28年(2016年)度地籍調査によれば、日本全土のうち所有者不明率は20.3%を占めています。こうした背景もあり、2024年4月より相続登記が義務化されることになります。つまり、登記しないまま放置すると、10万円以下の過料が科されることになるのです。

成年後見制度を利用する

おそらく、正しい解決策は「成年後見制度」の利用といえるでしょう。家庭裁判所に申し立てを行い、成年後見人を選任したうえで、代理で法律行為を行うことのできる制度です。

成年後見制度とは

成年後見制度は、認知症などの理由で判断能力が不十分な高齢者や障がい者の財産と権利を守ることを目的として、成年後見人が本人に代わって、契約などの法律行為を適切に行い、支援する制度です。

成年後見制度には、法定後見と任意後見といった2つの種類がありますが、すでに認知症の方が利用できるのは、法定後見のみです。また、法定後見には、判断能力の程度によって、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分類されます。

後見

判断能力が欠けているのが常態化している方が対象となり、支援される方は被後見人、支援する方は成年後見人です。原則として、財産に関するすべての法律行為に代理権が生じます。

成年後見人は、申立人が支援が必要な本人の住所地の家庭裁判所に申し立て、審判により、家庭裁判所が選任します。

成年後見人になるための資格などは特にありませんが、本人に必要な保護や支援の内容に応じて選びます。本人の親族の他、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門家、その他の第三者(市民後見人)、福祉関係の公益法人などです。

保佐

判断能力が著しく不十分な方が対象となり、支援される方は被保佐人、支援する方は保佐人です。保佐人は、申し立ての範囲内で家庭裁判所が定める特定の法律行為に代理権を行使することができます。

基本的に、申し立ての手順、保佐人になれる方は、成年後見人と変わりません。違う点は、常に判断能力を欠いた状態ではないため、部分的には本人の意思能力を尊重しつつ、特定の法律行為を定めます。

補助

判断能力が不十分な方が対象となり、支援される方を被補助人、支援する方を補助人といいます。保佐人に認められている権利の中でも裁判所が必要性を認めた範囲のみに代理権を行使することが可能です。

後見や保佐と比較すると、比較的軽度な症状の方への支援・保護であるため、本人の意思能力を尊重する部分も多くあります。

成年後見人をつけるメリット

「成年後見制度」を利用することで、相続人の中に認知症の方がいても、遺産分割をすることができます。具体的に、成年後見人をつけるメリットについて考えてみましょう。

遺産分割協議が実施できる

代理権のある成年後見人が遺産分割協議に参加することで、相続人全員が集まって、協議するという要件を充たすことが可能となります。

相続人同士の話し合いによる遺産分割にむけて前進できるのは大きなメリットといえるでしょう。

相続後の財産管理を任せられる

成年後見人の役割は、主に被後見人(判断能力が欠けている常況の方)の「財産の管理」と「身上監護」の2つです。成年後見人は、このうち「財産の管理」について、認知症の相続人が相続した財産の管理を本人に代わって、本人のために行います。

施設への入居手続きなども任せられる

本人の生活環境、身体の状態に応じて、必要な医療・介護サービスが受けられるよう関係機関と連携のうえ、適切な法律行為を行います。

病院への入院手続き、介護サービスの申し込み、介護施設への入所手続きなどです。食品や日用品などの購入、実際の介護は行わず、また医療同意や施設入所の際の身元保証人も範囲外の行為になるので、行うことができません。

なお、親族が後見人となる場合、親族としての関わり方と成年後見人としての関わり方は別ですので、誤解のないようにしましょう。

成年後見制度のデメリット

成年後見制度を利用することで、遺産分割による相続手続きができるというメリットは大きいものの、デメリットもあります。それぞれについて、理解したうえで、総合的に判断し利用を検討したいものです。

実際に活動が開始されるまでに時間がかかる

成年後見制度が遺産分割協議を行うためには適切であるものの、家庭裁判所に申し立てを行い、審判により成年後見人が実際の活動を始めるまでに2〜3ヵ月程度かかるのが一般的です。

書類の不備や申立理由によっては、さらに長引くこともあります。遺産分割協議をそこまで待っていられないというケースが多いのも実情でしょう。

成年後見人への報酬が発生する

弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家が成年後見人となる場合、親族が成年後見人となる場合でも専門家が監督人となるため報酬が発生します。

報酬の相場は、管理財産の総額によって異なりますが、ひと月で3~5万円程度が一般的。成年後見制度の適用がいったん開始されると、特別な理由がない限り、被後見人が亡くなるまで継続し、費用も発生し続けることになります。

なお、成年後見制度を利用するにあたって、家庭裁判所への申し立てに伴ない、手続きには申立費用や登記費用などの諸費用がかかります。

家族は資産を管理・処分できない

成年後見人は、「被後見人の財産を守ること」が目的です。成年後見が開始され、成年後見人が就任した時点から、家族や親族であっても、本人のお金を動かすことはできません。

また、成年後見人は、定期的に家庭裁判所への収支状況の報告が義務付けられています。不動産の売却・処分について、本人の生活のために必要であれば許可されることもありますが、原則としてできません。

認知症の相続人がいる場合の備え

いったん認知症と診断されると、判断能力・意思表示の欠如を理由に法律行為に制限がかかります。成年後見制度は、認知症の方の権利を守り、支援することが目的であるものの、周囲に与える影響は少なくありません。

寿命の延びとともに、誰もが起こりうるリスクとして、事前に備えておくことが大切です。

遺言書を作成しておく

「遺言書」を作成しておくことをおすすめします。

遺言書は、被相続人の最期の意思表示として何よりも優先され、財産状況の把握ができるとともに、分割の内容を細かく指定することが可能です。相続人が悩まず、相続手続きをスムーズに進められるでしょう。

さらに、分割の意図を付言事項として記載しておくと、財産だけでなく、被相続人の最期の想いも引き継がれます。

任意後見契約を結んでおく

任意後見契約とは、認知症になった場合などを想定して、事前にご自身が選んだ人物に成年後見人になることを依頼しておく契約です。

公正証書により認知症になる前に契約を結んでおけば、後から判断能力がないとされても信頼できる方に相続手続きや財産管理を任せることができます。

家族信託を利用する

家族信託は、委任者が受任者との間で「信じて託す」契約です。遺言の効果があると同時に、委任者である本人の判断能力の有無に関わらず受託者が財産を管理・運用・処分できることがメリットとされ、最近増えている相続対策の選択肢のひとつです。

想定される事象に対して細かく契約に盛り込む必要性や、想定外の場合はどうするのかなどメリットとデメリットが表裏一体であるため、慎重に検討したいものです。

おわりに

相続手続きにおいて、認知症の相続人がいる場合には、遺産分割協議ができないなどさまざまな問題が生じます。高い相続税を負担しての法定相続分での分割や、成年後見制度の利用など選択肢に悩むことでしょう。

それぞれのメリットやデメリットを知ったうえで、効果や申告期限までの時間、手間を検討し、最適と思われる判断を考えたいものです。寿命の延びを踏まえると、認知症リスクは誰にでもあります。相続人たちが悩まぬよう生前に備えておくことが大切。いずれにしても、それぞれの状況に応じて、最適な方法は異なるため、知識と経験のある専門家に相談することをおすすめします。

生前の相続対策に関するご相談は「セゾンの相続 相続対策サポート」をおすすめします。経験豊富な提携専門家のご紹介も可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

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