遺言書を準備したいと思っても、どのように作成すれば良いか、無効にならないためにはどんな対策が必要なのかを詳しく知りたい方は多いでしょう。
この記事では、遺言書の形式などの基本的な知識および遺言書を無効にしないためにすべきことを解説します。また、遺言者の相続人が遺言書の内容に不満な場合に、遺言を無効にしたい時にとるべき手段を説明します。
この記事を読んでわかること
- 遺言書には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」がある
- 自筆証書遺言はもちろん、公正証書遺言でも無効になるケースもあるので注意!
- 遺言書を無効にさせないための対策
- 相続人が遺言書の内容に不満があるとき、遺言書を無効にするための手段
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遺言書には3つの形式がある
遺言書は、有効な形式に則って、遺言者の意向を正確に表した内容で作成しなければなりません。主に3つの形式があるので、以下で詳しく説明します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が紙とペンを使って自筆で作成する遺言書です。遺言者が遺言全文・日付・氏名を自書し押印することで、その遺言書は遺言としての効力が認められます。書き直しはいつでもできますが、日付が最も新しい遺言書が有効になります。
遺言書をパソコンで作成したり、訂正した箇所に押印がなかったりするなど、不備があると遺言としての効力を失うため、遺言書の書き方を必ず確認する必要があります。
また、遺言書の存在を親族が知らなければ、全く発見されないこともあり得るので、保管場所を事前に信頼できる親族や弁護士などに伝えておくことが必要です。
公正証書遺言
公正証書遺言は、2人の証人が立ち会いのもと、公証人が遺言者から遺言内容を聴き取りながら作成する遺言書で、公証人役場で保管されます。
この方法は内容に不備が生じる可能性が低く、遺言の内容を確実に実現できる方法です。ただし、公証人役場に出向く時間と手間がかかり、遺言書作成には財産額に応じた数万円単位の手数料がかかります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が自分で用意した遺言書を2人の証人と同行して公正役場に持ち込み、その存在を保証してもらう遺言書です。証人と公証人には遺言の内容は公開せず、遺言書があるという事実だけを確実にすることが目的です。
自筆証書遺言と異なり、自分で署名と押印だけすれば、内容はパソコンでの作成や他人の代筆が認められています。
自筆証書遺言と同様に、内容に不備があれば無効になります。また手続き後は自分で遺言書を保管するため、紛失・盗難のリスクは免れません。
遺言書が無効になるケースとは
次に、自筆証書遺言と公正証書遺言が無効になるケースを解説していきます。
自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言は、遺言者がいつでも思い立った時に作成できるメリットがある反面、内容に不備があると無効になってしまう可能性が高い遺言書です。
無効になる事例を詳しく見ていきましょう。
自筆で作成されていないもの
財産目録のみパソコンや代筆での作成が可能(2019年1月13日施行)ですが、遺言書本文は自筆で書かれていなければ無効になります。財産目録は、自書でない場合、全てのページに署名、押印をしなければなりません。
作成した日付が特定できないもの
作成した日付が特定できないものは無効になります。例えば、カレンダーどおりに作成日を「〇年〇月〇日」と書けば間違いないですが、日付を特定できるという観点から以下でも無効にはなりません。
- 〇年〇月末日
- 遺言者の満85歳の誕生日
なお、〇年〇月吉日は、日付を特定できないため無効です。
遺言者の署名や押印がないもの
一般的に、遺言書の署名には戸籍上の氏名を記載します。芸名、通称、ニックネームなどを記載した場合、遺言者を特定できれば無効にはなりませんが、相続人の特定に時間を要することもあるかもしれません。
また、押印のない遺言書も無効になります。押印は認印や拇印でも有効とされますが、偽造などのトラブルを避けるためにも、実印を使うことをおすすめします。
書かれている内容が不明確なもの
誰に何を相続させるか、あるいは遺贈するかを明確に書いていないものは無効になります。
例えば、「〇〇(地名)にある土地を〇〇に託す」とした場合、託すという意味は相続なのか管理だけを任せる意味なのか不明確です。
「相続させる」「遺贈する」と書けば、正確に遺言の意図が伝わります。また、相続財産も特定できるように明確に記載しなければならず、「〇〇にある土地」ではなく、地番、面積、地目なども記入すると確実です。
訂正方法が間違えているもの
加筆・修正は認められるものの、民法で決められた訂正方法で訂正しないと無効になります。
<自筆証書遺言の修正方法の手順>
- 文言訂正は訂正箇所に二重線を引き、その上に訂正印(署名に使ったものと同じ印鑑)を押印
- 訂正箇所の傍らに新たな文言を記入
- 余白部または遺言書末尾に修正内容を記入
例:「本行〇字削除、〇字追加」「本遺言書〇行目の土地を家屋に訂正した」など
共同で作成されたもの
2名以上によって作成された遺言書を共同遺言といいますが、自筆証書遺言で共同遺言は民法で禁止されています。同一世帯の夫婦であっても共同で書くと無効になるので覚えておきましょう。
遺言能力のない方が作成したもの
条件を満たしている遺言書でも、遺言能力がない方が作成した場合は無効になる可能性があるので、注意が必要です。具体的に遺言能力がないとみなされるのは、以下のケースです。
<認知症の方が書いた遺言書>
一般的には認知症を発症している方は十分な判断力がないとみなされ、遺言書を書いても無効になってしまうことがあります。
ただし、認知症の進行具合によっては、理解力が十分にあるとみなされれば、2名以上の医師の立ち合いのもとに作成すると有効な遺言書となることもあります。
<15歳未満の方が書いた遺言書>
遺言能力には15歳以上という年齢要件もあり、15歳未満の方が書いた遺言書は無効です。親権者が代理で作成することもできません。
公正証書遺言の場合
公正証書遺言は、前述のとおり公証役場で2名以上の証人の立ち合いのもとに公証人が作成する遺言書です。そのため、遺言の執行は最も確実性の高い形式ではありますが、以下のケースで無効になることもあります。
証人になれない方が立ち合い、作成されたもの
証人にはなれない方は以下のとおりです。
- 未成年者
- 推定相続人*とその配偶者および直系血族
- 遺言によって財産を取得する方とその配偶者および直系血族
- 公証人の配偶者および四親等以内の親族
- 公証役場の職員、公証人に雇われた方
*推定相続人:将来、相続人になると推定される方
遺言能力のない方が作成したもの
認知症の方は遺言能力がないとみなされますが、病気の進行が緩やかである場合など、稀に遺言者が認知症になっていることに気づかずに遺言書を作成されることがあります。
遺言書を作成する前に、認知症を発症していないことを医師に確認してから作成すると良いでしょう。
遺言者の意図と内容に錯誤があるもの
具体的な錯誤(勘違い)には、次のケースがあります。
- 書き間違い・言い間違い
- 考え違い
- その考えに至るきっかけ(動機)の勘違い
実際に以下の判例(さいたま地裁熊谷支部・平成27年3月23日判決)があります。
遺言者は、自分の葬儀費用等以外は入所した老人ホームへ遺贈したいと考え、付言事項で遺言者の「長男長女の入院や生活費、自分が死亡した際の葬儀費用を老人ホームへの遺贈金から支出してほしい」と書いたところ、付言事項に法的拘束力はないため、すべて老人ホームが取得してしまいました。
幸い、当時の打ち合わせ内容が残っていたこともあり、長男長女の生活費などを心配していた遺言者の意思とは異なり錯誤があるとされて無効になりました。
公の秩序に反したもの
社会的、道徳的に認められない以下のようなケース等が該当します。
- 戸籍上の妻子がいるにもかかわらず、全財産を愛人にゆずる
- 経営者が会社の全財産を顧問弁護士にゆずる
常識的に見て明らかにおかしいと考えられる時は、申し立てをして無効にすることが可能です。
遺言書を無効にさせないためのポイント
遺言書は遺言者の最後の意思表示です。その意思を実現するために、遺言書が無効にならないような対策を見ていきましょう。
ルールどおりに作成していく
自筆証書遺言を作成する場合は、書き方には明確なルールがあるので必ず確認しながら作成することが重要です。ひとつでも書き方に不備があると、その該当箇所のみならず、遺言書自体が無効になってしまいます。
公正証書遺言を作成する場合は、証人として適格者2人が立ち会いの下に、公証人が遺言者から遺言内容を聴き取りながら作成しなければなりません。
こうしたルールに則って正しく作成しなければなりません。
公正証書遺言にする
公正証書遺言はプロによって作成されるため、無効になることはほとんどありません。遺言の実現を真に望むのであれば、公正証書遺言にしておくと安心です。
弁護士や司法書士などに相談する
法的に有効な遺言書を作成し、保管まで依頼したい時は、弁護士、司法書士などの専門家へ相談することもできます。
遺言執行者を決めておく
遺言書の内容に問題がなくても、相続人が従わないことも想定できます。そのため、遺言者の意思を実現するために、遺言執行を行う者(遺言執行者)が必要です。
多くの場合、遺言者が遺言書において遺言執行者を指定します。遺言執行者は相続人から選任することも、弁護士などへ依頼することも可能です。
判断力があるうちに作成しておく
15歳以上であれば有効な遺言書を作成することができます。判断力が衰えると遺言書の作成が難しくなるため、自分が亡くなった後の所有財産の分割や相続人の将来を心配する場合は、元気なうちに遺言書を作成しておくと安心です。
遺言書を無効にしたいときはどうする?
相続人がどうしても納得できず遺言書を無効にしたい場合などは、以下の方法があるので解説します。
遺産分割協議
相続人全員で話し合い、全員の同意が得られれば遺言内容とは違う分け方で遺産を分割することができます。
相続税の申告が必要な場合でも、遺産分割協議で決定した内容で遺産分割協議書を作成し、そのとおりに申告すれば問題ありません。
遺産分割協議書は専門家に依頼すると確実ですが、相続人だけで作成することも可能です。
遺言無効確認調停
相続人の中でひとりでも遺言無効に反対をしている場合は、法的手続きによって遺言の無効を主張することになります。
相続のような家事事件は、通常、調停を行ってからでないと訴訟はできない(調停前置主義)とされています。
しかし、調停は話し合いによる解決なので、相続する財産をめぐり話し合いで解決が難しいと予想される場合は、調停を省略して最初から訴訟を行うこともあります。
遺言無効確認訴訟
調停で話がまとまらないと訴訟の申し立てをすることになり、遺言が無効かどうかを確認するための訴訟を遺言無効確認訴訟といいます。
遺言の無効を主張する相続人が原告、それ以外の相続人が被告となる争いです。遺言者の遺言能力や自筆かどうかなどが争点となり、弁護士へ依頼するケースも多いでしょう。
遺言書の有効無効の判断は判決によります。遺言書が有効であると判決が出た場合は遺言書とおりの内容で遺産分割し、無効と判決が出た場合は遺産分割協議を行い改めて分割内容を決めます。
無効となった場合に、法廷で争った親族同士で改めて遺産分割協議するのは難しいかもしれないので、当事者同士で協議できない際は、さらに「遺産分割調停」を申し立てることもできます。
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おわりに
ひとたび相続が発生すると、財産の多少に関係なく、それまで仲の良かった親族が喧嘩をしたり嫌な思いをしたりすることが多くあります。そんな時に遺言書があれば、遺言者の意思が明確になり遺族がもめる可能性を減らすことができるでしょう。
こうした遺族の不仲を未然に防ぐためにも、相続に関する準備は早めにしておくに越したことはありません。ひとりで悩まずに専門家へも相談しながら準備を進めましょう。