前回記事において、相続税を抑える有効な方法には、「生前贈与の活用」「不動産の活用」「税額控除の活用」の3つがあると指摘しました。今回はそのうち、相続税対策として有効な、不動産を利用して相続税評価額を抑える方法の基本と、今後の懸念される点等について解説します。
不動産の相続税評価の方法
相続税の負担を抑える有効な方法のひとつは、資産を不動産として所有することです。なぜなら、不動産は他の資産と比べて相続税評価額が低く抑えられるからです。
不動産は生活の場、あるいは生活の糧を稼ぐための事業の場であることが多く、そこに重い税負担をかけることは不適切であると考えられているのです。
また、不動産は、わが国では「土地」と「建物」は別個独立のものとして扱われ、それぞれ別々に相続税評価が行われます。これは日本特有のしくみであり、世界的にみても珍しいものです。
不動産の相続税評価額は、土地と建物、それぞれ以下のとおりです。
【不動産の相続税評価額】
- 土地:路線価
- 建物:固定資産税評価額
市場価格と比べ、土地(路線価)はだいたい80%くらい、建物(固定資産税評価額)はだいたい70%くらいです。
以下、土地と建物のそれぞれについて解説します。
土地の相続税評価額その1(原則)|路線価と倍率方式
土地の相続税評価額は、原則として「路線価(相続税路線価)」によって決まります。路線価は、道路ごとに、接している土地の標準的な土地の単位地積(1㎡)当たりの価額を表したものです。
路線価は国税庁HPの「路線価図・評価倍率表」で確認することができます。
路線価が定められていないエリアの土地については「倍率方式」によって評価します。倍率方式の計算式は以下のとおりです。
【倍率方式の計算式】
固定資産税評価額 × 評価倍率
固定資産税評価額は、市区町村から毎年送付される固定資産税の課税明細書に記載されています。また、「固定資産評価証明書」を取得して確認することもできます。
また、評価倍率は国税庁HPの「路線価図・評価倍率表」で確認することができます。
路線価方式、倍率方式のいずれも、金額の相場は、だいたい、土地の公示価格の70~80%程度というイメージです。
以上が原則ですが、事情によって補正が加えられることがあります。
土地の相続税評価額その2(土地の路面の接し方に応じた補正)
まず、土地の1面のみが道路に面している場合や角地の路線価の計算においては、以下のとおり、補正が加えられます。
【土地の1面のみが道路に面している場合】
まず、土地の1面のみが道路に面している場合は「奥行価格補正」がなされます。
路線価×奥行価格補正率×土地面積(平方メートル)
奥行価格補正率は国税庁のHPの「奥行価格補正率表」で確認できます。
【角地の場合】
角地は、2面で道路に面していますが、「路線価×奥行価格補正率」の金額が高いほうの路線を「正面路線」、他方の路線を「側方路線」といいます。
そして、角地の評価額は以下の(1)(2)の価額の合計です。
(1)正面路線の路線価×奥行価格補正率 ×土地面積(平方メートル)
(2)側方路線の路線価×奥行価格補正率×側方路線影響加算率 ×土地面積(平方メートル)
土地の相続税評価額その3(貸家建付地の補正)
次に、土地上に建物を建てて賃貸している場合、「貸家建付地」と扱われ、さらに評価額が引き下げられます。以下のとおりです。
更地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
更地の評価額とは、前述した路線価方式または倍率方式で求めた評価額です。
「借地権割合」と「借家権割合」は国税庁HPの「路線価図・評価倍率表」で確認することができます。
「賃貸割合」は、住戸の独立部分の床面積の合計のうち、現に賃貸されている部分の占める割合です。なお、空室になっている部分については評価額を下げることができません。
建物の相続税評価額
建物については、「固定資産税評価額」で評価されます。建物の固定資産税評価額は新築時の建築費の60~70%程度というイメージです。
また、建物が貸付事業に使われている場合は、さらに30%の評価減となります。
マンションの相続税評価額
マンションについては、土地と建物を別々に計算します。
土地については、「持分割合(敷地権の割合)」に応じて土地面積が均等に割り当てられ、上述した土地の評価方法によって評価額が算出されます。
持分割合は専有部分だけでなく共用部分の持分も含み、マンション購入時の売買契約書や登記簿に記載されています。
建物については専有部分に加え共用部分の持分も含んだ「固定資産税評価額」が決まっています。市区町村から毎年送られてくる課税証明書に記載されています。
なお、従前から、タワーマンションの高層階を購入することが相続対策として行われてきました。詳しくは後述します。
小規模宅地等の特例の活用
特定の「宅地」については、上述した基本的な評価方法に加え「小規模宅地等の特例」が適用され、さらに相続税評価額が引き下げられます。
- 自宅の敷地(特定居住用宅地):20%評価(330㎡まで)
- 事業用に使用する建物の敷地(特定事業用宅地・特定同族会社事業用宅地):20%評価(400㎡まで)
- 第三者に賃貸する建物の敷地(貸付事業用宅地):50%評価(200㎡まで)
それぞれについて解説を加えます。
自宅の敷地(特定居住用宅地)
自宅の敷地については、330㎡(100坪)まで、相続税評価額が20%に引き下げられます。
ここまでの税制優遇を受けられる理由は、被相続人から自宅を引き継いで居住する相続人に対し、重い相続税を課するのは酷だということにあります。
特例の対象となる相続人は以下のとおりです。
- 配偶者
- 同居の親族
- 生計を一にしている親族
- いわゆる「家なき子」
「2.同居の親族」は、二世帯住宅も含みますが、区分所有権が設定され登記されている場合は「同居」の要件をみたさず対象外です。
「3.生計を一にしている親族」は、たとえば、進学のため他の地方に下宿している子などを指します。
「4.家なき子」とは、ごく大ざっぱにいえば、被相続人と別居している相続人が、ご自身の持ち家がなく借家住まいしている場合をいいます。
「家なき子」もいずれ家を引き継いで住む可能性があるため、「同居の親族」との公平の観点から、同様に土地の評価減の対象とするものです。ただし、相続税逃れに悪用されるおそれがあるため、要件は厳しくなっています。
事業用に使用する建物の敷地(特定事業用宅地・特定同族会社事業用宅地)
事業用に使用する建物の宅地は、以下の2とおりです。
- 被相続人が個人事業主として使用していた場合(特定事業用宅地)
- 被相続人が、自身が経営する企業や一定の同族企業に貸し付けて使用させていた場合(特定同族会社事業用宅地)
いずれも、400㎡まで、相続税評価額が20%に引き下げられます。
その趣旨は、事業用宅地は生活の糧を稼ぎ出すための場として必要不可欠であり、重い相続税を課するのは酷だということにあります。
第三者に賃貸する建物の敷地(貸付事業用宅地)
第三者に賃貸する建物の宅地については、200㎡まで、相続税評価額が50%に引き下げられます。
他の2類型よりも対象面積が少なく、評価額の引き下げ幅が小さくなっています。
その理由は、ただ第三者に賃貸して使用させているだけの土地は、他の2類型と比べて生活のために必要不可欠な度合いが相対的に低いからです。
不動産を利用した相続税対策の応用編
このように、不動産はただでさえ相続税評価が低く抑えられるうえ、「小規模宅地等の特例」を利用することによりさらに評価額が抑えられるという特徴があります。
したがって、これらの特徴を利用した相続税の「節税スキーム」が人気を得てきました。
そこで、最後に、それらの「節税スキーム」のうち代表的な2つの方法「タワーマンション節税」、「不動産小口化商品(任意組合型)」について簡単に触れておきます。
タワーマンション節税
タワーマンション節税は、タワーマンションの「高層階」の住戸を購入することで相続税評価額を大幅に抑えるというものです。
まず、土地部分については、タワーマンションは敷地の面積の割に住戸数が多いため、住戸ごとにあてがわれる土地の面積が狭くなっています。
次に、建物部分については、高層階と低層階との間には大きな価格差があるにも関わらず、相続税評価額(固定資産税評価額)には大きな差はありません。したがって、高層階の相続税評価額が実勢価格よりも大幅に低くなります。
タワーマンション節税は、そこに目を付けたものです。
ただし、2022年4月に最高裁は、相続税の節税目的が露骨だった事案について、税務当局による「否認」を認める判決を下しました。被相続人が金融機関から多額の融資を受けてまで「節税」目的でタワーマンションを購入したという点を重くみたものです。
また、与党(自民党・公明党)が2022年12月に出した「2023年度税制改正大綱」において、マンションの評価額の見直しの方針が示され、それを受けて2023年3月現在、国税庁において検討が行われています。
したがって、近い将来、タワーマンション節税には網が掛かるものとみられます。
不動産小口化商品(任意組合型)
次に、不動産小口化商品(任意組合型)です。これは、主に、都心のオフィスビルや居住用マンションを「1口百万円」等に細分化したものです。
不動産小口化商品には「任意組合型」と「匿名組合型」があり、このうち「任意組合型」は不動産と同様の扱いがなされます。つまり、「土地」に相当する部分と「建物」に相当する部分に分けられ、それぞれについて相続税評価額が計算されます。
また、土地についてはさらに「貸付事業用宅地」として「小規模宅地等の特例」の対象となることがあります(評価額が50%まで抑えられる)。
この不動産小口化商品については、現状、タワーマンションほどは問題視されてはいません。しかし、今後、何らかの形で網がかかる可能性は否定できません。