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【知って納得!】贈与税の暦年課税と相続時精算課税の活用法

【知って納得!】贈与税の暦年課税と相続時精算課税の活用法
北岡 修一(東京メトロポリタン税理法人グループ代表/税理士)

監修者
北岡 修一(東京メトロポリタン税理法人グループ代表/税理士)

西新宿にオフィスを構え、法人顧問の他、相続・相続税対策、事業承継、不動産に関する税務等に力を入れている。グループの不動産コンサル会社と連携し、具体的な対策から税務まで一貫したサービスを行っている。

生前贈与は相続税対策の定番

相続税対策あるいは相続対策というと、贈与という話が必ず出てきますね。贈与は「相続税対策の定番」といってもいいと思います。

ここで「相続税対策」と「相続対策」という言葉を使いましたが、税がついているか、ついていないかで、もちろん違ってきます。「相続対策」には主として、遺産分割対策、相続税対策、相続税の納税資金対策などがあります。「相続税対策」は相続対策の一部、ということになります。したがって、これらの言葉は分けて使った方が良いと思っています。

贈与はそのいずれの対策にも入ってきます。

生前に贈与をしていくことによって、相続財産を減らして相続税を減らすのが相続税対策です。

さらに誰に何を贈与するかによって、財産(遺産)の分割対策をすることになります。

また、将来の相続税納税資金のために、金銭の贈与や保険料贈与などをやったりします。

このように贈与は、相続対策に使えるのですが、これが制限なくできてしまうと、相続税を不当に減らす結果となってしまいます。極端にいえば、すべての財産を将来、相続人になる方に生前に贈与してしまえば、相続税はゼロにすることができます。これでは、贈与をしなかった方との公平性に欠けてしまいます。

そこで、贈与税が設けられているわけですね。贈与で極端に相続財産を減らすことができないように、相続税よりも重い贈与税を設けているのです。贈与税は相続税の補完税といわれている所以です。

贈与税の課税方式には、暦年課税と相続時精算課税というものがあります。暦年課税は説明すれば知っている方が多いのですが、相続時精算課税という方法は、知らない方が多いですね。

以下、それぞれの課税方式の内容と、どのように使ったら良いのか、また、それぞれの課税方式を使う際の注意点を説明していきます。

暦年課税とは?

暦年課税は、贈与税の基本的な課税方式です。普通に贈与をすれば、暦年課税の対象になります。暦年という名前のとおり、毎年1月から12月までを贈与税課税の計算対象期間とします。この暦年に贈与を受けた額が110万円までは贈与税がかからず、110万円を超えると贈与税がかかってくる、という制度です。この110万円を贈与税の基礎控除額といいます。

この110万円は贈与を受けた側で判断します。父から110万円、母から110万円の贈与を受けた場合は、合計220万円の贈与を受けたため、110万円を控除した110万円が贈与税の課税対象となります。贈与した側から見るわけではありませんので、ご注意ください。

●暦年課税による贈与税の計算は次のとおりです。

贈与税の額 =(暦年で贈与を受けた金額 - 110万円)×贈与税率-控除額

 <贈与税の速算表(暦年課税)>

基礎控除後の課税価格直系尊属から
(税率)
控除額左記以外から
(税率)
控除額
200万円以下10%10%
200万円超  300万円以下15%10万円15%10万円
300万円超  400万円以下15%10万円20%25万円
400万円超  600万円以下20%30万円30%65万円
600万円超  1,000万円以下30%90万円40%125万円
1,000万円超 1,500万円以下40%190万円45%175万円
1,500万円超 3,000万円以下45%265万円50%250万円
3,000万円超 4,500万円以下50%415万円55%400万円
4,500万円超 55%640万円55%400万円

贈与税の税率は2つあります。1つは親や祖父母など直系尊属から20歳以上の者が贈与を受けた場合で、表の「直系尊属から」の列の税率です。もう1つはそれ以外の場合です。直系尊属からの場合の方が、税率が低くなっています。

上記表のとおり、暦年課税の税率は累進税率となっており、贈与額が多くなればなるほど高い税率になっていきます。相続税の補完税という性格から、相続税の税率よりもかなり高くなっています。

以上のことから、暦年課税で多額の贈与をすることは、相続税対策上はなかなか難しくなります。

<暦年課税の活用法>

そこで、次のような方法で暦年課税を活用することが多いですね。

・基礎控除額110万円の範囲で、贈与税ゼロで贈与する。

・それを毎年行っていく。

・それを複数の者に行っていく。

・贈与税の最低税率の範囲で贈与を行っていく。

 最低税率は、課税価格200万円まで10%ですので、贈与税は次のようになります。

  最低税率で贈与できる額 = 200万円+110万円 = 310万円

  その場合の贈与税額 = (310万円-110万円)×10%= 20万円

・さらに、これを複数の人数に、毎年行っていく。

毎年20万円を払って、310万円を贈与していけば、かなりの額を生前贈与することができますね。これを複数の者に行えば、さらに効果が出てきます。

暦年贈与の有効な使い方としては、相続税率を超えない低税率で、上記のように掛け算で行っていくことがポイントです。

ただし、これはお金がある場合です。また、贈与をすることが子や孫のために本当にいいのかどうか、ということも考えないといけません。相続税対策ばかり念頭に置いて、自分の持つ現金が少なくなり過ぎた、子が仕事をしなくなった、などとなってしまうのは本末転倒ですので、そこはよく考えたうえで行っていただきたいと思いますね。

<贈与を行う際の注意点>

 なお、暦年課税贈与を行う場合は、次の点に注意してください。

 ①贈与契約書を作成し、贈与者、受贈者共に署名する。

  贈与は両者の意思表示が必要です。

 ②金銭による贈与は通帳振込みなどにより、明確にする。

  現金のやり取りではなく、通帳を通して証拠を残してください。

 ③贈与をしたお金は受贈者が管理する。

  通帳や印鑑、キャッシュカードなどは受贈者が管理してください。

 ④基礎控除額を超える場合は、贈与税の申告をする。

  これは当然のことですね。

以上のように、贈与をした、受け取ったことをしっかりと残していくことが大事です。

相続時精算課税とは?

相続時精算課税は、平成15年にできた贈与税の課税方式です。読んで字のごとく、相続時に精算することを前提とした贈与税の課税方式になります。相続税と贈与税を一体化した考え方によります。

相続時精算課税を選択できるのは、60歳以上の親や祖父母(直系尊属)から20歳以上の子や孫に贈与する場合です。

●相続時精算課税による贈与税の計算は次のとおりとなります。

贈与税の額 =(累計で贈与を受けた金額 - 2,500万円)× 20%

上記のとおり、相続時精算課税は2,500万円の特別控除額を控除することができますので、2,500万円までは贈与税がかからない、ということになります。ただし、相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与については、生涯暦年課税に戻ることはできなくなります。

例えば、父親からの贈与について相続時精算課税を選択した場合は、その後の贈与は累積計算されていくことになり、累計で2,500万円を超えると超えた金額の20%の贈与税を払うことになります。

これは贈与者と受贈者の1対1の関係ですので、その点は気をつけてください。上記の場合、母親からの贈与については、引き続き暦年課税で年間110万円の基礎控除枠を使うことができます。

相続時精算課税で贈与を受けた財産は、その贈与者が死亡した場合は、その贈与者の相続財産に加算され、相続税の対象となります。贈与時は2,500万円まで非課税であっても、相続時には相続税がかかってくる可能性があります。その意味で相続時精算課税による贈与は、正に「生前相続」といっても良いでしょう。

なお、相続時精算課税により納税した贈与税がある場合は、相続税から控除することができます。

<相続時精算課税を利用する際の注意点>

贈与があった場合、通常何もしなければ暦年課税になります。相続時精算課税を使いたい場合は、「相続時精算課税選択届出書」を、贈与税の申告時に提出する必要があります。相続時精算課税を使うつもりで多額の贈与をしたのに、この選択届出書を申告期限までに出し忘れると暦年課税で課税されることになり、多額の贈与税を払わなければならなくなります。

これについては、宥恕規定がありませんので(やむを得ない事由が考慮されない)、十分注意しないといけないですね。

また、相続時精算課税により贈与を受けた財産の相続税に算入される価額は、贈与時の価額になります。相続時精算課税の対象となる財産はどんな財産でも構わないのですが、贈与時よりも価額が下がったとしても(例えば有価証券の時価が下がった場合など)、贈与時の価額で相続税が計算されます。価額の下がる可能性があるものは、相続時精算課税の利用は避けた方が良いかも知れません。

もう一点、相続時精算課税は祖父母から孫への贈与にも適用することができます。ただし、祖父母の相続が起こったとき、孫は相続時精算課税で贈与を受けた財産を相続税の計算に入れることになりますが、相続人ではないため、ほかの相続財産をもらうことはできません。

そうなると、贈与を受けた財産が残っていないと、相続税を支払うことができなくなります。さらに、孫の相続税は通常の2割加算となっております。このようなことから、孫に相続時精算課税で贈与する場合は、将来の相続税の納税に十分気をつけておく必要があります。

<相続時精算課税を使うと良い場合>

相続時精算課税は、贈与者の相続が起こった場合、贈与時の価格で相続税の課税価格に加算することになっています。

したがって、将来値上りの見込まれる財産を早目に子や孫に移しておくことにより、相続税の負担を軽減することが可能です。たとえば、将来値上りの見込まれる土地、急成長をしている自社株などがあれば、早い段階で贈与しておくことが考えられます。もちろん、確実に予測することは不可能ではあります。

また、相続時精算課税は、特定の財産を特定の者に贈与税なし、あるいは低い贈与税で生前に移すことができます。この土地だけは、長男に確実に渡したいというのであれば、自分の意識がはっきりしているときに、長男に贈与で確実に移すなどが可能です。もちろん、遺言などの方法もありますが、相続時にどのようなもめごとがあるかわかりませんので、確実に移すのであれば、生前に行っておくことが肝要です。

さらに、将来の相続財産を計算してみて、相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)に満たない、というのであれば、早目に生前贈与をするというのもあります。

2,500万円までなら贈与時には贈与税がかからない、相続時にもその贈与財産を加算しても相続税はかからない、ということであれば、一番良いタイミングを選んで子に財産を移していくことができます。

収益を生んでいくような財産、たとえばアパートやマンションなども、早目に子に移すことにより、家賃収入により相続財産が増えていくことを防止することも可能です。

以上、暦年課税と相続時精算課税による贈与について解説してきました。生前贈与を考えている場合は、両者の課税のしくみを理解して、どのように活用していくのが贈与をする側、受ける側にとって最も良いのか検討していただければと思います。

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