マイホームを売却するというのは、人生の中でも滅多にない大きな決断です。マイホームを売却して新たな住宅やマンションに買い替える、他の家族と同居するために売却する、売却した資金で老人ホームに入居する、老後の資金を得るために売却したうえでリースバックを受け、そこに住み続ける、などなどさまざまなケースがあると思います。
その際に必ず考えておかなければいけないのが、売却益に対する税金=譲渡所得税です。ご存知の方も多いと思いますが、マイホームを売却した場合には「3,000万円特別控除」という特例があります。すなわち、売却益から最高3,000万円を控除してくれる、という特例です。この特例を使うことにより、譲渡所得税がかからなくなることも多いですね。
ただし、この特例の適用を受けるためには、いくつかの要件があります。今回はその要件について、わかりやすく解説していきたいと思います。これらの要件に注意して、確実に「3,000万円特別控除」の適用を受けていただければと思います。
売却の期限
住んでいる間に売却が決まり売買契約を締結し、そのうえで引っ越しをするのであれば問題はありませんが、引っ越し後、一段落落ち着いてから売却をしようというケースもあると思います。この場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。この期日を過ぎてしまうと、3,000万円という大きな控除ができなくなりますので、要注意です。
また、家屋を取り壊して更地で売却する、というケースもあります。この場合には、その土地の売買契約が家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までにその土地を売却する必要があります。なお、家屋を取り壊してから売買契約を締結した日まで、その土地を貸駐車場などその他の用に供していないことも要件となってきます。
売却先
「3,000万円特別控除」の特例を適用するためには、売却先に注意する必要があります。次のような特別な関係にある者に売却した場合は、この特例の適用を受けることができません。
- 配偶者や直系血族
- 生計を一にする親族
- 家屋を売った後、その売った家屋で同居する親族
- 内縁関係にある方
- 自身が経営する法人など特殊な関係のある法人
なお、親族への売却がすべてダメということではなく、例えば、上記に該当しない子どもの配偶者や、配偶者の兄弟姉妹などに売却した場合は、「3,000万円特別控除」の適用を受けることができます。
家屋が主
「3,000万円特別控除」の特例は、居住用財産を売却した場合の特例です。したがって、居住用財産=家屋を所有していることがメインとなり、家屋を所有していないと、この特例の適用を受けることができません。マイホームの敷地である土地(借地権を含む)は、その家屋と共に売却した場合において副次的にこの「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができます。
土地と家屋の所有者が異なる場合
上記のとおり「3,000万円特別控除」の特例は、家屋の所有者がその適用を受けることができますが、家屋と土地の所有者が異なる場合は、土地の所有者は「3,000万円特別控除」の適用を受けることができないのでしょうか?
例えば、家屋は夫が所有していて、土地は妻が所有しているようなケースです。この場合においても、次の要件のすべてに当てはまるときは、土地の所有者もこの特例の適用を受けることができます。
<特例の適用を受けるための要件>
- 土地を家屋と同時に売却すること
- 家屋の所有者と土地の所有者とが親族関係にあり、生計を一にしていること
- その土地の所有者は、その家屋の所有者と一緒にその家屋に住んでいること
夫婦であれば、この要件をすべて満たすことができそうですね。なお、この場合の特別控除額は、家屋の所有者と土地の所有者と合わせて3,000万円までとなります。そのうえで、特別控除額を差し引く順序は、まず家屋の所有者、続いて土地の所有者となります。したがって、土地の所有者が受けることができる特別控除額は、3,000万円から家屋の所有者が受ける特別控除額を差し引いた残りの額となります。
家屋を共有している場合
では、家屋を共有している場合はどうでしょうか。例えば、夫婦で家屋を共有しているようなケースです。この場合には、それぞれが「3,000万円特別控除」の適用を受けることができ、2人合わせれば最高6,000万円の控除を受けることができます。もちろん、2人ともその家屋に住んでいる必要があります。なお、売却益は土地から生じることが多いため、家屋と共に土地を共有していることにより、より多くの控除を受けることが可能になります。
<贈与税の配偶者控除の活用>
この特例を有効に使うために、夫婦で家屋や土地を共有していない場合は、「贈与税の配偶者控除」の特例を使って、あらかじめ共有にしておくことが考えられます。「贈与税の配偶者控除」とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産(自宅の土地や家屋)の贈与、またはそれを取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円の他に最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。
すなわち、居住用不動産を贈与しても2,110万円までは贈与税がかからない、ということになります。この特例を活用して、結婚20年を過ぎたら夫婦間で居住用不動産を贈与し共有にしておくことにより、「3,000万円特別控除」を有効に使えるようにしておく、ということですね。
家屋を取り壊して土地の一部を売却した場合
自宅の敷地が広く家屋が老朽化しているような場合、家屋を取り壊して敷地の一部を売却し、その売却資金で残った土地に新居を建てたいというようなケースがよくあります。このような場合、「3,000万円特別控除」の適用を受けることができるのでしょうか?
土地は売却しますが、同じ場所に新居を建てるため、居住用財産を売却したことになるのかがポイントです。この場合、家屋をすべて取り壊しているかどうかが重要です。家屋の一部を残したうえで、それを活用して新居を建てるような場合は、「3,000万円特別控除」の適用を受けることができません。
家屋をすべて取り壊しており、そのうえで1の後半に掲げた家屋を取り壊して更地で売却する場合の要件をすべて満たしていれば、「3,000万円特別控除」の適用を受けることができます。
リースバックを受ける場合
マイホームをリースバックした場合、「3,000万円特別控除」の適用を受けることができるのでしょうか?リースバックとは、マイホームなど不動産を売却して現金化したうえで、そのまま賃貸により、利用できる(住み続けられる)サービスのことです。住み慣れた自宅で生活しながら、まとまった資金を調達することが可能になります。
リースバックにおいても、不動産を売却することには変わりありませんので、譲渡所得税の対象となってきます。このリースバックの場合においても、売却先が2の特別な関係にある者でなければ「3,000万円特別控除」の適用を受けることができます。
住宅ローン控除とは選択適用
マイホームを売却してこの「3,000万円特別控除」の適用を受けた場合は、買い換えた新居については住宅ローン控除の適用を受けることができなくなります。具体的には、新居に入居した年、その前年または前々年に、「3,000万円特別控除」の適用を受けた場合は、住宅ローン控除の適用を受けることができません。
また、新居に入居した年の翌年から3年以内に旧宅を売却して、「3,000万円特別控除」の適用を受ける場合も、新居について住宅ローン控除の適用を受けることができなくなります。
「3,000万円特別控除」の適用を受けなければ、新居について住宅ローン控除の適用を受けることができます。「3,000万円特別控除」と住宅ローン控除は、いずれか有利な方を選択する、ということになります。
他の特例の適用を受けていないこと
次の特例の適用を受けている場合は、「3,000万円特別控除」の適用を受けることができません。
- 売却した年の前年および前々年に「3,000万円特別控除」または、マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けている
- 売却した年、その前年および前々年に、マイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けている
- 売却した家屋や敷地等について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けている
適用除外
「3,000万円特別控除」の特例は、次のような家屋には適用されませんので、ご注意ください。
- 「3,000万円特別控除」の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
- 新居を建築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
- 別荘などのように、主として趣味、娯楽または保養のために所有する家屋
軽減税率との併用
「3,000万円特別控除」の適用を受けても、まだ売却益が残る場合には、譲渡所得税がかかってきます。譲渡所得税の税率は、次のとおりです。
- 短期譲渡所得(所有期間5年以内):39.63%(所得税30.63%、住民税9%)
- 長期譲渡所得(所有期間5年超):20.315%(所得税15.315%、住民税5%)
- 売却した家屋や土地の所有期間がともに10年超である場合(軽減税率)
→①売却益6,000万円以下の部分:14.21%(所得税10.21%、住民税4%)
→②売却益6,000万円超の部分:20.315%(所得税15.315%、住民税5%)
※土地は10年以上所有しているが、家屋は8年前に建替えたというような場合は、この軽減税率を使うことができませんので、ご注意ください。
※上記の所有期間は、いずれも売却した年の1月1日における所有期間となりますので、こちらもご注意ください。
以上、「3,000万円特別控除」を有効かつ確実に使うためのポイントを挙げさせていただきました。充分ご理解いただき、今後の終活等に活かしていただければ幸いです。