相続の際、亡くなった方の名義でない口座のお金でも、「名義預金」として相続税が課されることがあります。家族名義で自分のお金を預金している方や、自分のお金を家族にあげたつもりで贈与の手続きをしていない方は注意しておきましょう。
本記事では、名義預金とは何か、無駄な税金を発生させないためには何に気をつけたら良いかを説明します。相続税対策について考えている方は、ぜひ参考にしてください。
この記事を読んでわかること
名義預金とは、口座の名義人以外の方が実質的なお金の持ち主である預金です。相続の際に、亡くなった方の家族名義の預金が名義預金とみなされ、相続税の課税対象になってしまうケースがあります。税務調査で名義預金を指摘されると、ペナルティとして多額の税金が課されてしまいます。名義預金とみなされないために、事前に対策を取っておきましょう。お金を家族にあげたときには、贈与契約書を作っておくことが大切です。お金があげたものでないなら、速やかに自分の口座に戻しておきましょう。
名義預金とは?
相続の場面で、名義預金が問題になることがあります。まずは、名義預金とは何か、どんな場合に名義預金と判断されるのかを確認しておきましょう。
名義預金について
名義預金とは、口座の名義人とお金を出した方が異なる預金のことをいいます。例えば、自分のお金を配偶者や子ども名義の銀行口座に預金している方もいるでしょう。この場合、名義預金とみなされることがあるため注意が必要です。
名義預金が問題になるのは、主に相続のときです。亡くなった方(被相続人)が残した財産額が一定以上なら、財産額に応じた相続税が課されるため、税金を納めなければなりません。家族名義の預金であっても、実質的に被相続人の財産なら、相続税の課税対象に含める必要があります。つまり、名義預金があれば、税金が増えてしまうのです。
家族名義の口座に入っているお金は、亡くなった方が本当にあげたお金のこともあるでしょう。この場合でも、贈与の手続きをとっていなければ、名義預金とみなされ課税されるおそれがあります。贈与の手続きとは、贈与契約書の作成や贈与税の申告です。
名義預金として課税されないようにするためには、自分であれば自分の口座に戻し、家族にあげたお金であれば贈与の手続きをとる必要があります。
名義預金と判定されるケース
名義預金は、税務調査で指摘されるケースが多くなっています。税務調査とは、申告された相続税の内容が正しかどうかを税務署が確認する調査です。税務調査で名義預金が見つかった場合、ペナルティが課されてしまいます。
以下のようなケースでは名義預金と判断される可能性が高いので注意しましょう。
印鑑と通帳を被相続人が管理している
口座の名義人ではなく被相続人が通帳や印鑑の管理を行っていた場合です。口座のお金を名義人本人が自由に使える状態でないなら、名義預金とされてしまうでしょう。
名義人がその預金の存在を知らない
口座の名義人本人がその口座の存在自体を知らない場合です。このような場合、その口座のお金は被相続人の財産とみなされてしまいます。
贈与を受けたという自覚がない
贈与が成立するには、当事者間で「お金をあげる」「お金をもらう」という意思の合致が必要です。贈与を受けた側にお金をもらった自覚がない場合には、贈与が成立していません。名義預金として相続税の課税対象になってしまいます。
なお、年間110万円を超える贈与があったときには、贈与税がかかります。この場合には、贈与税の申告・納税を行っていれば、贈与であることを証明できるでしょう。一方、年間110万円以下の贈与の場合には、税務署への申告・納税が必要ありません。名義預金とみなされないためには、贈与金額にかかわらず、贈与契約書を作成しておくのがおすすめです。
預金の出どころが故人
名義預金かどうか判断するときには、預金口座のお金の出どころがどこかが重要になります。お金の出どころが被相続人であれば、贈与がない以上、名義預金とみなされてしまうでしょう。
名義預金を指摘された場合のペナルティ
相続税がかかるケースでは、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内に申告が必要です。相続税申告の際に名義預金がもれていたら、申告もれとなります。この場合、相続税の不足分を追加納付したうえで、ペナルティとして追加の税金も発生します。
ペナルティで発生する税金
名義預金の申告漏れがあった場合、ペナルティとして発生する税金は、以下のようなものです。
過少申告加算税
相続税の申告期限までに申告をしたが、申告書に記載された納税額が本来の納税額より少なかった場合、「過少申告加算税」が課税されます。税務調査で過少申告を指摘された場合、過少申告加算税の額は、追加納付した税金の10%(当初の納税額または500,000円のいずれか多い方を超える部分については15%)です。
無申告加算税
相続税がかかるのに期限までに申告しなかった場合には、「無申告加算税」がかかります。税務調査で無申告を指摘された場合、500,000円以下の部分については15%、50万円を超える部分については20%の税率で課税されます。
重加算税
意図的に相続税を少なく申告した(過少申告)、もしくは意図的に申告しなかった(無申告)場合には、重加算税という最も重いペナルティが課されます。税率は過少申告35%、無申告40%です。
延滞税
相続税の納税期限に遅れたことに対するペナルティです。延滞税の税率は、申告期限から2ヵ月以内は年7.3%、申告期限から2ヵ月経過後は14.6%(※特例により軽減される期間あり)となっています。
税務調査前ならペナルティは少ない
もし税務調査よりも前に申告漏れに気づいて自主的に修正申告をした場合には、重加算税は課されず、過少申告加算税や無申告加算税の税率も低くなります。早く対処するほど、延滞税も安くすみます。無駄な税金を払わないためにも、名義預金の申告漏れに気づいたら、早急に対処しましょう。
名義預金の存在は税務署にバレやすい
自分のお金を他人名義の口座に入れておけば、その存在がわからないだろうと考えがちです。しかし、名義預金は税務署に知られてしまう可能性が高くなっています。税務署では被相続人や親族の預金の動きを把握しているからです。
税務署は相続人や被相続人の収入を知っている
税務署は「KSK(国税総合管理)システム」により、被相続人や相続人の収入を把握しています。KSKシステムとは全国の国税局と税務署を結ぶネットワークで、納税者の過去の所得税申告状況や納税情報などが管理されています。
もし相続税の申告内容が収入に見合うものでなければ、税務署は「相続財産を隠しているのではないか?」と疑います。このような場合には税務調査が実施され、名義預金を指摘される可能性も高くなるのです。
名義預金には時効がない
年間110万円以上の贈与には贈与税がかかるため、贈与を受けた方が申告・納税をしなければなりません。ただし、贈与税にも時効があり、一定期間経過すれば、申告・納税義務はなくなります。贈与税の時効は原則として6年、意図的に申告しなかった場合でも7年です。
仮に10年前に他人名義の口座にお金を入金したとすると、贈与税は時効だから払わなくていいと考える方もいるでしょう。しかし、名義預金の場合には、そもそも贈与が成立しておらず、贈与税の時効も関係ありません。ずっと昔の名義預金だからといって、自己判断してしまうのは避けましょう。
お金の贈与が成立していない以上、名義預金となってしまいます。名義預金はお金を出した本人が亡くなったときに相続財産に含められ、相続税の課税対象になります。贈与税はかからなくても、いずれ相続税を払う必要があることを認識しておきましょう。
親族名義の財産も対象
税務調査では、被相続人の財産のみならず、親族名義の財産も調べます。税務署には調査権限があり、本人の同意なしで調べる方法があります。お金の動きがはっきりしない場合、被相続人が亡くなった当時の財産に限らず、過去にさかのぼって財産状況を調べられるでしょう。
預金口座については、税務署から銀行等に照会すれば、過去10年間の入出金情報を把握することが可能です。親族が収入に見合わない預金を持っている場合には、お金の出どころを問われるでしょう。お金の出どころが被相続人である場合には、名義預金とされ、相続財産に含められてしまいます。
例えば、子ども名義の口座に親のお金を入れているケースは多いでしょう。この場合、名義預金とみなされないために、事前の対策が必要です。贈与契約書を作って親から子への贈与の手続きをとるか、お金を親に返すようにしましょう。
名義預金で起こりうるトラブルや対処法
自分の口座を他人名義で預金している場合、名義預金として相続税が課税される以外にも、問題が起こる可能性があります。
遺産分割でのトラブル
他人名義になっていて、被相続人のものか明確でない預金が存在すれば、遺産分割の際にもトラブルになってしまいます。
もし預金が相続財産なら、相続人全員で遺産分割協議を行って、誰が預金を相続するか決めなければなりません。しかし、預金の名義人は、「預金は自分がもらったものだから遺産分割の必要はない」と主張する可能性があります。遺産分割が進まず、争いに発展してしまうかもしれません。
将来的な遺産分割トラブルを防止するには、相続財産の範囲を明確にしておく必要があります。贈与の手続きを取っておくのがおすすめですが、遺言書を書いておくのもひとつの方法です。
相続手続きによるトラブル
名義預金のよくあるパターンとして、被相続人がお金を孫名義で預金しているケースがあります。預金が実質的に被相続人のものであっても、孫は相続人ではないため相続できません。このような場合、孫の親(被相続人の子)が相続することが多いでしょう。
孫名義の預金が相続財産で、その親への名義変更をするとなると、どうしても手続きが複雑化してしまいます。金融機関では、預金が本当に被相続人の財産なのかを調査する必要があるからです。相続手続きが終わるまでに時間がかかってしまい、その間預金を引き出せず困ってしまうかもしれません。
名義預金による相続トラブルを防ぐために、預金を生前贈与する場合には贈与契約書を作っておきましょう。贈与しないなら、自分の口座に戻しておくのがおすすめです。
名義預金とならないための予防策
名義預金とみなされないためには、口座のお金の実際の持ち主が口座名義人でなければなりません。もしお金の出どころが名義人以外なら、贈与の事実を証明する必要があります。
名義預金とされることを防ぐために、贈与契約書を作成するか、贈与税を払っておくのが有効です。その他に、以下のような対策も取っておくと良いでしょう。
銀行振込で証拠を残しておく
口座に入金する際、名義人のキャッシュカードを使って直接入金すると、どこからそのお金が来たのかがわかりません。贈与するなら、お金の流れを明確にするために、振込にするのが安心です。
通帳や印鑑は贈与された方が管理
贈与の場合、お金をもらった本人が自由にお金を使える状況でなければなりません。通帳や印鑑は、口座名義人が自分で管理するようにしましょう。
こちら
なお、将来使ってほしいお金を贈与する場合には、受け取った方がお金をすぐに使ってしまうのが心配かもしれません。このような場合には、すぐに引き出せない保険などを活用するのがおすすめです。
贈与された預金を使っておく
贈与されたお金に全く手を付けないでいると、名義預金ではないかと疑われる可能性があります。名義人本人がお金を引き出して使った記録を残しておけば、名義人のお金であることを証明しやすいでしょう。クレジットカードなどの引き落とし先に指定しておく方法もあります。
不安な方は専門家に相談を
相続の際に、銀行に預けてあるお金が名義預金とみなされるのが心配な場合には、事前に専門家に相談するのがおすすめです。
「セゾンの相続 相続手続きサポート」では、煩雑になりがちな相続手続きについて相談ができます。経験豊富な提携専門家のご紹介も可能ですので、名義預金とみなされないための対策や、名義預金が見つかった場合の対処法でお困りの方は、ぜひお問い合わせください。
おわりに
家族など自分以外の名義の口座に自分のお金を預金していると、相続のときに名義預金とみなされ、相続税額が増えることがあります。税務調査で名義預金を指摘されると、不足している相続税額に加え、ペナルティの税金も払わなければなりません。
自分のお金を自分以外の口座に入金する際には、贈与契約書を作るなどし、贈与の証拠を残しておきましょう。自分のお金として管理するならば、自分名義の口座に入れておくのが安心です。