少子化、核家族化の影響もあり法定相続人の存在しないケースも多く、また疎遠な親族に財産を渡すよりも、自分の遺産が社会のために役立てられるよう信頼できるNPO法人などへ寄附したいと考える方が増えています。
一方で「寄附したい」と思いつつも、どこに、どのように寄附すれば良いのかわからないという方も多いようです。「遺産の寄附」について、その方法や流れ、注意点とともにおすすめの寄附先についてお伝えします。
この記事のまとめ
寄附にはご自身の財産を「遺言」により寄附する方法、受け取った相続財産を寄附する方法などがありますが、被相続人の遺した財産の寄附は、社会へ貢献とともに、税制優遇などのメリットもあります。国内外の子どもたちの夢の実現や、苦しい状況の中で必死に生きようとする方々の支援ができることは素晴らしいことです。
ただし、本来受け取れるはずだった法定相続人への配慮や寄附先の事情など注意すべき点も踏まえて考える必要があります。遺産の寄附にあたっての注意点とともに、手続きの流れ、寄附先を選ぶ際のポイント、また、おすすめできる団体をピックアップしていますので、参考にしてください。
遺産を寄附する方法について
相続が発生し法定相続人がいない場合には、遺された財産は特別縁故者からの分与請求が行われない限りすべて国庫に帰属することになるのです。
少子化、核家族化の影響もあり法定相続人の存在しないケースも多く、また疎遠な親族に財産を渡すよりも自分の意思で、自分が信頼するNPO法人などへ自分の遺産が社会のために役立てられるよう寄附したいと考える方が増えています。一方で、「寄附したい」と思いつつも、どこにどのように寄附すれば良いのか、どのような点に注意すべきなのかわからないという方も多いようです。
遺産の寄附先は誰でも良い?
寄附とは、お金やモノを無償で譲渡する行為のことをいいます。 例えば乳児院・孤児院への衣服の寄贈や慈善活動を行っているNPO団体にお金を譲渡する行為も「寄附」です。
相続発生によって、遺産を「寄附する」ことも選択肢のひとつとなります。渡したいと思える相手であれば、遺産の寄付先は個人でも法人(団体)でも構いません。相続人以外の方に寄附することも可能です。
本人による遺産の寄附には2種類ある
遺産の寄附については、「遺贈」と「死因贈与」という2つの種類があります。
遺贈
遺贈とは、遺言書において特定の方や団体に遺産を贈与する旨の意思表示を行うことです。あくまでも遺言書はその方の意思表示ですので、受贈者(贈与を受ける方)の承諾は必要ありません。
受贈者が遺贈を受けたくない場合には、ご自身への遺贈を知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申立てを行いましょう。
なお、遺贈には、「全財産の○割をAに与える」といった贈与する相手と割合を指定する「包括遺贈」と、「Aに○○を遺贈する」など贈与する相手と特定の財産を指定する「特定遺贈」があります。包括遺贈の場合には、相続人と同一の権利義務が生じるため、資産だけでなく、負債も引き継ぐため注意が必要です。
死因贈与
死因贈与は、生前に被相続人と受贈者との間で、「死亡した場合には、○○をAに贈与する」のように双方の合意により成立する契約です。書面によらない契約であれば、それぞれがいつでも解除することが可能です(民法550条)。
遺産を寄附する場合の税金は?
遺言により寄附先を指定した場合、寄附者は亡くなられた方(被相続人)となり、遺産を受け取った方(受贈者)に相続税が発生します。
受贈者が個人の場合には相続税の対象ですが、国、地方公共団体または公益を目的とする事業を行う特定の法人または認定NPO法人などに寄附した場合には相続税がかかりません。
一方で、株式会社など法人への寄附の場合には、法人税が発生します。
相続人が相続財産を寄附する
相続人が受け取った相続財産を寄附することも可能で、この場合の寄附者は相続人です。
いったん遺産を相続することになるため、相続人には相続税が課税されます。
ただし、以下の要件をすべて満たせば、相続人による相続財産の寄附として、特例により相続税が非課税です。
- 寄附した財産は、相続や遺贈によって取得した財産であること
- 相続税の申告期限までに寄附すること
- 寄附先が、国や地方公共団体ほか特定の公益法人、認定NPO法人などであること
相続税の申告時には、相続税申告書に特例の適用を受ける旨を記載したうえで、「寄附した財産の明細書」「相続税非課税法人の証明書」など一定の書類を添付する必要があります。
また、適用の要件として明記されているのは、「寄附した財産は、相続や遺贈によって取得した財産であること。」です。取得した不動産などを売却したうえで、現金として寄附するといった場合には要件を満たしません。受け継いだ財産の形を変えずに寄附する必要があるため、注意が必要です。
なお、相続財産の寄附は、寄附者である相続人の所得税の確定申告において、国や地方公共団体ほか特定の公益団体への寄附として「寄附金控除」の適用対象となります。つまり、所得税の税負担軽減というメリットもあるのです。
遺産を寄附する際の手続きの流れ
遺言書による寄附も相続人による寄附も、いずれにしても被相続人が人生をかけて大切にしてきた財産です。「寄附」にあたっては、社会貢献を実現させることが何よりですし、せっかくの想いをムダにすることは極力回避したいものです。後悔しないためにも、事前のリサーチや検討を十分行いましょう。
寄附先の選定や専門家への相談
この団体に寄附したいと思っても、団体によっては受付不可の財産を定めている場合があります。寄附先の選定にあたっては、まずは専門家に遺産を寄附したい旨を相談することがおすすめです。
遺言書の作成
寄附の意思表示をするためにはその旨を記した「遺言書」を作成しますが、遺言書に不備があると遺言が無効になりかねません。遺言書は正しい形式で作成する必要があります。
遺言書の形式には、いくつかありますが検討すべきは公正証書遺言と自筆証書遺言のいずれかになるでしょう。
公正証書遺言
公正証書遺言は2人以上の証人の立会いのもと、遺言者が口述した内容を公証人が作成し、原則として公証役場で保管します。公正証書遺言の作成にあたって手数料はかかりますが、確実な遺言書を作成でき、紛失の心配もない方法です。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、ご自身のタイミングで手軽に作成できる遺言書です。ただし、有効な遺言書とするためには、「作成日」「署名」「押印」「全文を自筆で書くこと」の形式要件を満たす必要があります。書式形式などに不備があると無効となってしまう可能性も否定できません。
自宅保管などで紛失を避けるためにも、法務省の自筆証書遺言書保管制度の活用がおすすめです。
遺言書の検認・開示
「遺言書」は、被相続人の最期のメッセージです。死亡と同時に効力が生じるとされ、その方の生前の意思表示として大きな影響力があります。
自筆証書遺言の場合、遺言書は遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人が家庭裁判所に申し立てし、相続人の立会いのもと内容を確認しなければなりません。この手続きを「検認」といいます。遺言書の検認は、遺言書の有効・無効と判断する手続きではありません。相続人に遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、または署名など検認日次点での遺言書の為造や変造を防止するための手続きです。記載されている内容というよりも、遺言書としての形式が整っているかを確認するものです。
自筆証書遺言などが自宅から見つかることもありますが、勝手に遺言書を開封してはいけません。開封した場合には、過料(罰金)が科されることもあります。公正証書遺言の場合、検認は必要ありません。
遺言の執行
遺言書の開示を行い、形式等が遺言書として有効とされれば、寄附を行う流れになります。手続きをスムーズに行うためには、信頼できる方に遺言執行者を託しておくと良いかもしれません。
遺産を寄附する際に注意したいこと
遺産を寄附する際には、いくつかの注意点があります。社会への貢献という思いが、思わぬトラブルや争いに発展することのないよう注意や配慮をしておきたいものです。
遺留分に配慮する
遺留分に配慮せず寄附すると、相続人と寄附先が揉める可能性が否定できません。
遺留分とは、一定の範囲の法定相続人(配偶者、子、親などの直系尊属)に対して、法律上で最低限取得することが保障されている相続財産の受け取り分のことです。
遺留分を有する相続人は、遺贈や死因贈与により遺留分を侵害された場合、遺留分を侵害した受贈者に対して遺留分侵害額請求を行うことができます。遺留分権利者が存在する場合には、トラブルを避けるためにも、遺留分を侵害しない範囲で寄附や事前の対策を講じるなど注意が必要です。
包括遺贈の場合は負債も含まれてしまう
遺産の寄附方法を「包括遺贈」にすると、プラスの資産だけでなく負債も寄附金額に含まれます。遺贈には種類があり、包括遺贈は遺産の割合のみ指定して遺贈することです。例えば「遺産の3割を寄附」とした場合、資産と負債を合わせた遺産全体から3割を寄附します。
負債を寄附しない方法として「特定遺贈」があります。特定遺贈は遺産の種類と額を指定して遺贈するため、負債を含まずに寄付することが可能です。遺産に資産だけでなく負債もある場合は、包括遺贈と特定遺贈どちらで寄附するか検討してみましょう。
現物寄附はみなし譲渡課税が発生するケースがある
不動産や株式など現物資産を寄附すると、みなし譲渡課税が発生する可能性があります。みなし譲渡課税は、含み益のある資産に対して発生する税金です。
みなし譲渡課税で注意したいポイントは、税金を支払うのは寄附先(受遺者)ではなく法定相続人となる点です。不動産の遺贈にあたっては時価で売却したものとみなされるため、含み益については、被相続人の準確定申告で申告します。この納税は、相続人が承継することになります。相続人がみなし譲渡課税について知らされていない場合、いきなり納税義務が生じると驚くことでしょう。
みなし譲渡課税の納税者は遺言により変更できます。相続人の負担を減らしたい場合は、寄附先の団体や専門家などと相談しながら、みなし譲渡課税の納税者を決めましょう。
寄附先を確認して選定する
遺産を寄附したいと思う団体がすでに決まっている方は、その思いの実現に向けて進めて問題はありません。
一方でこれから寄附先を探す場合に心がけておきたいことがあります。最近では、社会貢献をアピールする遺贈の勧誘なども散見されますので、受け取った名刺やパンフレットから実在する団体かどうか、設立の背景や理念、活動方針について確認するとよいでしょう。
不安な場合には、家族や専門家に相談することも選択肢のひとつです。くれぐれも後で悲しい思いをすることのないよう留意しましょう。
遺贈先選びのポイント
実際に遺贈先を選ぶにあたっては、どこの団体も、必要かつ重要な使命を持って活動していて、悩むかもしれません。遺贈先選びのポイントとしては、以下を参考としてみてはいかがでしょう。
- 遺贈寄附が非課税になる
- 事前問い合わせが可能
- 遺贈寄附の受け入れ実績が豊富
- 寄附の使い方について明確に情報開示している
いずれにしても、寄附をすることによって、自分も相手(団体)も嬉しいと思える関係性を築きたいものです。そのためにも、問い合わせした際の応対やWEBサイトの情報開示などから信頼できる納得の寄附先を選びましょう。
遺産の寄附先におすすめの団体
寄附先は、それぞれの思いで自由に選ぶべきですが、参考までにおすすめできる団体をご紹介しましょう。以下はいずれも公益を目的とする事業を行う法人です。
公益財団法人日本ユニセフ協会
ユニセフ(UNICEF:国連児童基金)は、世界中の子どもたちの命と健康を守るために活動する国連機関です。世界のどこに生まれても、持って生まれた可能性を十分に伸ばして成長できるように… ユニセフは「子ども最優先」を掲げて、支援活動を続けています。
日本ユニセフ協会は、1950年(昭和25年)に任意団体として設立後、ユニセフ本部との協力協定に基づき、基金活動、広報活動、アドボカシー活動(政策提言)に取り組む公益財団法人です。
公益財団法人日本ユニセフ協会の遺産寄付プログラムの詳細はこちら
日本赤十字社
赤十字は、「人の命を尊重し、苦しみのなかにいる者は、敵味方の区別なく救う」ことを目的とし、世界192の国と地域に広がる赤十字・赤新月社のネットワークを生かして活動する組織です。そのうちの一社である日本赤十字社は、国内外における災害救護をはじめ、苦しむ方を救うために幅広い分野で活動しています。
国境なき医師団
国境なき医師団(Médecins Sans Frontières=MSF)は、紛争や自然災害、貧困などにより危機に直面する人々に、独立・中立・公平な立場で緊急医療援助を届けています。日本事務局は1992年に発足。医療・人道援助の現場において、「心」と「体」のケアを一体とした包括的な医療で人々に寄り添います。
一般財団法人あしなが育英会
病気や災害、自死(自殺)などで親を亡くした子どもたちや、障がいなどで親が十分に働けない家庭の子どもたちを、奨学金、教育支援、心のケアで支える民間非営利団体です。
経済的な理由で進学をあきらめる子ども達は少なくありません。アメリカの小説「あしながおじさん」にちなみ、そんな遺児たちを、そっと支援してくださる方を「あしながさん」と呼んでいます。
国連UNHCR協会
国連UNHCR協会は、国連の難民支援機関であるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の活動を支える日本の公式支援窓口です。
日本人で初めての国連難民高等弁務官として、緒方貞子氏が1991年から2000年まで10年間の任期を務めたことでご存知の方も多いのではないでしょうか。日本では2000年10月に特定非営利活動法人として設立されました。
国連UNHCR協会のUNHCRの遺贈・相続財産の寄付の詳細はこちら
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
セーブ・ザ・チルドレンは、世界120ヵ国における教育や保健・栄養、子どもの保護、緊急・人道支援事業などを通して、次世代を担う子どもたちへの支援活動を行う民間・非営利の国際組織です。日本では、1986年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが設立され、国内外で、行政や地域社会と連携し、子どもたちとともに活動を行っています。
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの遺贈・相続・香典寄付の詳細はこちら
おわりに
世の中に目を向けると、災害や紛争、さまざまな事情により苦しい状況の中で必死に生きようとする人々が多く存在しているのです。また、現地で支援活動をする人々も制約と限られた資源の中で奮闘しています。遺贈による寄附、相続財産からの寄附などがありますが、いずれにしても「寄附」で救われる命があること、子どもたちの夢が実現できることは素晴らしいことです。
寄附する方にとっても、税制優遇などのメリットがありますが、そのためには、公益を目的とする団体など寄附先の選び方にもポイントがあります。また、本来受け取れるはずの法定相続人への配慮や寄附先の事情など注意すべき点も踏まえて考えることも必要です。
遺産の寄附に当たっての注意点とともに、手続きの流れ、寄附先を選ぶ際のポイントなども参考にしつつ、ぜひ、遺産の寄附について検討してみてください。
「セゾンの相続 遺言サポート」では、遺言書による遺贈寄附のサポートをいたします。経験豊富な提携専門家のご紹介も可能ですので、ご自身の想いを実現する遺言書を作成いただけます。