前回の記事では、「おひとりさま」にどのようなお困りごとがあるか、「死後の手続きをしてくれる人がいないかもしれない」という問題に焦点を当てて、おひとりさま向けサポートサービスの専門家が死後事務委任契約について解説しました。
今回の記事では、おひとりさまの老後の住まいと相続についての現状と今後の課題や問題点に焦点を当て、具体的な対策方法について解説します。(全5回の連載の第3回です。)
第2回の記事はこちら
おひとりさまの住まいの現状と課題とは
『令和2年国勢調査』によると、全国5,570万4,949世帯のうち、「65歳以上世帯員がいる世帯」は2,265万5,031世帯。また「65歳以上世帯員のみの世帯」は1,307万3,898世帯、さらに「おひとり様の65歳以上世帯」は671万6,806世帯で総世帯のうち約8.3%となっています。
また都道府県別にみていくと、世帯数が最も多いのは東京都81万1,408世帯で、総世帯数721万9,402世帯の内、約11.24%を占める形です。高齢者の一人暮らしの割合は、1980年には男性4.3%、女性11.2%であったところ、2020年には男性15%、女性22.1%と、年々増加傾向にあります。
また今後の推計値からこのまま進めば、2040年には男性20.8%、女性24.5%(約4人に1人)が一人暮らしをしている可能性があります。
晩婚化も進む昨今ではありますが、未婚の若年層が高齢化することで、一人暮らしの高齢者は増加する見込みです。
このように、おひとりさまの高齢者が今後増える見込みであることは、昨今の生活事情やライフスタイルの変化からも想像できるものであるとともに、もしご自身が一人暮らしをすることになった際に、どのような課題があるかについて把握しておくことで、今後も豊かな人生を送ることにつながると考えます。
現状おひとりさまの高齢者がどのような考え方で、どんな課題があるか、少し詳しく見ていきましょう。
ある統計によると、今後の住まいについての考え方として、最も多かったのは「死ぬまでずっと今の住まいに住み続けたい」方が半数以上いらっしゃり、次いで、「死ぬまでずっと今住んでいる地域に住み続けたい」、「健康な間は今の住まいに住み続けたい」と続き、できるだけ今の住まいや地域で住み続けたい意向がみられるとのことです。
いざ自分自身のことを考えてみても、老後を住み慣れた家や地域で過ごしたい、というのはある意味で当然の結果かと思います。誰もがあんしんして暮らせる場所に居続けたい、というのが自然なことでしょう。
また、年齢を重ねることで感じるようになった住まいへの不便や不満については、4割弱の方が「特にない」と回答しているようで、住み慣れた家では不便や不満を感じることも少ないことの裏返しであるとも考えられますね。
一方、不便や不満の例として挙がっていることは、「庭の手入れが大変」、「外壁や屋根、窓やドアなどの老朽化が心配」、「風呂場の掃除がおっくう」、「階段の上り下りが疲れる」、「上部や奥にしまった収納物の出し入れが大変」といった意見があるようで、建物の老朽化を除き共通して言えることは、高齢化によって自身の体力や身体機能の低下により、住み慣れた家であっても改修が必要になることが読み取れます。
もしこのような不便さがあって、家をリフォームする場合にはどのくらいの費用をかけているのでしょうか。
リフォームの費用については、平均約383万円という統計調査があるようで、その内訳は自己資金比率が88.6%と高く、自己資金の平均額は339.3万円。借入金や補助金などの利用は限定的で、大半が自己資金でまかなわれているようです。
老後の生活スタイルの変化や要介護度合いに合わせ、リフォーム工事を行う際の資金確保が必要になることも想定しておかないと、思わぬ出費によって場合によっては老後資金の枯渇につながることにもなりかねませんね。
これまでの話をまとめると、今後も安心して住み慣れた家で一人暮らしを続けていくために、リフォーム費用も確保できる老後資金計画が必要になる、といえます。
おひとりさまの住まいにまつわる問題点
老後の資金計画とは別に、おひとりさまが想定しておくべき問題は他にもあります。
・判断能力低下時の自宅売却が困難に
平成29年度高齢者白書によると、2012年は認知症患者数が高齢者人口の15%という割合(約460万人)だったものが、2025年には高齢者の5人に1人、20%の割合で認知症になるという推計があります。
自宅での自立した生活ができなくなると、住み慣れた自宅から介護施設等に入る必要が生じますが、その際に入所一時金やその後の生活費に充てるため、自宅を売却することも考えられます。ただ、その段階でご自身の判断能力が低下している場合には、売買行為やその後の資金管理ができないため、成年後見制度の利用が必要になります。成年後見制度では自宅の売却をする際に家庭裁判所の許可が必要となりますので、速やかに売却し施設入所する必要がある場合には、対応が難しくなるケースも出てきます。
私たち誰もが認知症リスクを抱えており、長寿大国である日本では、今後も平均寿命が延びることが予想される中、自分の判断能力が失われた際にもあんしんして暮らせるよう、他人事ではなくご自身の問題として向き合っていかなければなりません。
・入院、施設入所時の身元保証人が不在
入院時や施設入所の際に身元保証人を求められることが増えています。
この場合に、お願いできる身内や近親者がいなければ入院・入所先が限られてしまうことになるとともに、早期支援が難しくなる可能性もあります。
・不動産の維持管理に伴う課題 空き家問題、死後事務の重要性
おひとりさまで身寄りがない方の死後の不動産の処分(空き家問題)や退去手続き、未払いの公租公課や医療費等の支払いなど、対策せずにいると誰もその方の財産や遺品に手を付けられず、関係各所が困ってしまうことになります。
家屋は適切な管理がなされず放置されてしまうと、倒壊・外壁や屋根の落下、火災発生などで近隣や通行人に損害を与える危険が高まります。
また、ご自身の家財道具や身の回りのものを処分する方がいなければ、勝手に取り壊すこともできなくなります。
おひとりさまが、ご自身亡き後のことを任せられる人に、予め財産の処分や死後事務手続きについて相談し、依頼しておかなければ、益々管理不能な空き家が増えてしまいます。賃貸物件や介護老人施設であっても、退所手続が必要になるため、同様に準備をしておかなければなりません。
おひとりさまの住まいにまつわる問題点としては、ご自身の存命中のことだけでなく、死後のことも想定して対策をしておく必要があります。
相続登記義務化について
2024年4月から、相続による所有権移転登記が義務化されました。
これは、先述した空き家問題がいよいよ無視できないものになったことが背景となっていて、今後もおひとりさまが増え、その相続が発生した際に空き家となる不動産を少しでも減らすことを目的の一つとして法改正がされました。
ご自身が住んでいる不動産の名義が先代や他界した配偶者のままだった、ということになると、そのままでは売却することができず、必要な資金確保が遅延することにつながります。さらには、ご自身がいなくなった後に相続人不存在となると、その不動産は自動的に国庫に帰属することはなく、管理が及ばなく荒廃が進んでしまいます。
ここでは義務化の詳細に触れることはいたしませんが、義務だからではなく、ご自身のためにも、残された方や近隣の方のためにも、相続が発生した際には必ず所有権移転登記を行うことが求められるといえます。
不動産の活用方法から今後の住まいを考える
不動産には、その活用方法として大きく分けると「売却」、「自身で活用」、「賃貸で活用」の3つに分かれることになりますが、ここではそれぞれの特徴を少し見ていきます。
売却
まずは、「売却」です。
メリットは、資産の現金化とその利益の取得になります。不動産を売却することで、即座に現金を得ることができます。また、不動産価値が上昇していた場合には、その利益を得ることができます。しかし一方で、デメリットとしては、自宅の喪失と諸費用の負担が挙げられます。売却すれば当然ですが、住み慣れた住居環境を失うことになります。また売却時の手数料や測量費用、税金などがかかり手残り金はその分減少します。
自身で活用
これに対し、「自身で活用」は「売却」と裏表の関係になります。
メリットとしては、安定した居住環境を確保できることや、将来の資産として残せる点が考えられます。その一方で、デメリットとしては、資産の流動性の低下と維持費用がかかることが挙げられます。すぐに資金が必要な場合には他の方法でその資金を確保しないといけません。
賃貸で活用
最後に、「賃貸で活用」です。
メリットは、収入が得られることによる安定的なキャッシュフローを確保できる点になりますが、当然ご自身は別の場所に暮らすことになるので、その住居費が必要なのと、管理コストが自己居住用とは別にかかる点がデメリットになります。
どれも一長一短で、先にご紹介したおひとりさまの住まいに対するニーズを充足するには、ご自身の状況に合わせて選択する必要がでてきますね。
おひとりさまの場合~リースバックによる資金化方法~
そこで、リースバックという選択肢も検討されてはいかがでしょうか。リースバックは、自宅を売却して現金化すると同時に、売却後も自宅に住み続けられるという特徴があります。次のような方に推奨できる仕組みです。
- まとまったお金が必要だが住み慣れた家に住み続けたい
- 自宅を売りたいけど親戚や近所の目が気になる
- 自身の死後に不動産をめぐる相続問題を発生させたくない
【リースバックの仕組み】
- リースバック業者に自宅を売却する
- 売買代金を受け取る
- リースバック業者から自宅を借りて家賃を払っていく
リースバックは、自宅という資産を「所有→賃貸」に変えることで、生活の場を変えることなくまとまったお金を受け取れる仕組みです。
メリットとしては、安定した居住環境を確保できるとともに、資産を現金化し、即座に現金を得ることができる点です。また、固定資産税やマンションの管理費等がかからなくなることで、維持費の節約につながります。ただし、一方で家賃が発生するため、長期居住となると家賃負担が大きくなるというデメリットがあります。
おわりに
おひとりさまの住まいに関して、ここまで解説をしてまいりました。住み慣れた住環境で暮らし続けるために準備しておくべきことや、ご自身の死後に周囲へ迷惑がかからないように対策すべき点等、ご参考になれば幸いです。
不動産の活用方法については、それぞれの状況に合わせた選択が必要になると思いますが、なかなか難しい問題でもあるので、おひとりで悩まずに専門家や不動産業者などにも相談の上、今後のライフプランを立てていただくとよろしいかと思います。
クレディセゾングループが提供する、おひとりさま総合支援サービス「ひとりのミカタ」は、入院や高齢者施設入居時の「身元保証」、もしものときの「緊急連絡先」、ご逝去後の「エンディングサポート(死後事務手続き)」など、おひとりさまの毎日の暮らしや終活のさまざまなお悩みごとを総合的に支援するサービスです。
お問い合わせいただいた方に、エンディングメモ付きサービス資料を進呈中!
第2回の記事はこちら