「おひとりさま」が介護状態となってしまった場合、深刻なのは「お金」の問題です。頼れる方がいない以上、必要なお金は自分で準備しなければなりません。公的保障制度でいくらまで賄えるのか知ったうえで、自己負担しなければならない金額がどれくらいか確認し、足りないお金をできるだけ効率よく準備する必要があります。ファイナンシャルプランナーの伊藤貴徳氏が解説します。
介護状態とは
まず、介護状態について、簡単におさらいしておきましょう。介護状態には前段階である「要支援」も含むと7つの段階があります。それぞれ、おおむね以下の状態をさします。
- 要支援1:立ち上がりや歩行等に支えを必要とするが、排泄や食事は自力でできる
- 要支援2:立ち上がりや歩行が不安定で、排泄や入浴に一部介助が必要であるが、要介護状態となるのを防げる可能性がある
- 要介護1:立ち上がりや歩行が不安定で、排泄や入浴に一部介助が必要
- 要介護2:立ち上がりや歩行が自力ではできない場合がある。排泄・入浴等に全介助が必要
- 要介護3:立ち上がりや歩行がひとりではできない。排泄・入浴・衣服の着脱等に全介助が必要
- 要介護4:いわゆる寝たきり状態ではあるが、車椅子やベッド上でかろうじて座っていられる
- 要介護5:いわゆる寝たきり状態。最重度の介護を要する状態
これらのいずれかの状態となった場合に介護保険制度を利用することができます。
公的介護保険で原則「1割負担」
介護保険制度においては、自己負担割合が決まっています。一般的に、サービス利用者の自己負担率は一部を除き1割(所得によっては2割、3割)とされています。ただし、後述するように、「高額介護サービス費」の制度を利用すると、1ヵ月当たりの自己負担額を抑えることができます。
また、要介護・要支援の等級によって1ヵ月当たりの「支給限度額」が設定されています。介護サービスの利用料が支給限度額を超えた場合は、超過額はすべて自己負担となります。
【支給限度額(1ヵ月当たり)】
- 要支援1 50,320円
- 要支援2 105,310円
- 要介護1 167,650円
- 要介護2 197,050円
- 要介護3 27,0480円
- 要介護4 309,380円
- 要介護5 362,170円
介護にかかる費用
以上を前提に、介護状態になった場合に費用がどれくらいかかるかを見てみましょう。
介護サービスの種類は、訪問介護やデイサービス、短期入所生活介護(ショートステイ)、介護施設への入所など多岐にわたり、それぞれ費用も異なります。
介護サービスを利用する際は、ケアマネージャーによる介護サービス計画書(ケアプラン)の作成が必要です。市区町村の指定を受けた居宅介護支援事業者に依頼して作成してもらいます。
介護サービスにはそれぞれに自己負担額が設定されています。これらは利用者の所得や介護度合いにより異なります。
以下、2つのケースを紹介します。
【ケース1】要介護4で訪問介護・デイサービスを利用する場合
まず、「要介護4」と認定され、訪問介護とデイサービスを週5日ずつ利用するケースです。
厚生労働省の「介護報酬の算定構造」によると、1週間あたりの訪問介護の料金は約30,000円、デイサービスは約60,000円となります。1ヵ月では訪問介護が約120,000円、デイサービスが約240,000円で、合計約360,000円となります。
この約360,000円のうち、利用限度額の309,380円までは自己負担が1割(30,938円)で済みますが、超過分の50,620円については10割負担となるため、自己負担の合計は81,558円になります。
【ケース2】要介護5で介護施設に入所する場合
次に、「要介護5」と認定され、介護施設に入所するケースです。
この場合、自己負担額は施設の形態、介護を受ける方の所得等により異なりますが、一般的に費用の1割の他に、居住費、食費、日常生活費の負担が必要になります。
厚生労働省の「サービスにかかる利用料」によると、要介護5の方の特別養護老人ホーム(有料老人ホームを含む)の月額利用料(個室)は、食事・居住費等を含めると、約140,000円となっています。
一年間で考えると、年間約170万円の費用が発生します。この費用を、年金収入や、貯蓄を取り崩すことにより賄うことになります。
介護費用を抑える「高額介護サービス費」制度
高額介護サービス費制度とは、1ヵ月に支払った利用者負担の合計が「限度額」を超えたときは超過額が払い戻される制度です。この限度額は、その方の所得によって異なります。
限度額の詳細は、厚生労働省HPで確認できます。たとえば、市町村民税非課税の方の場合、利用者負担の限度額は24,600円になります。
ただし、介護保険制度の「支給限度額」を超過した分には適用となりません。
たとえば、市町村民税非課税の方が先述の訪問介護・デイサービスを受けたケース(費用合計約360,000円)において高額介護サービス制度を利用すると、利用限度額(要介護4)309,380円の自己負担分(1割・30,938円)と利用者負担の限度額204,600円との差額6,338円が還付される一方、超過分50,620円は全額自己負担となるので、75,220円の負担ということになります。
利用しない場合(81,558円)と比べ、負担が6,338円軽くなります。
「おひとりさま」の年金で介護費用はどのくらい補える?
では、「おひとりさま」の場合、老後の年金で、介護費用をどの程度カバーできるのでしょうか。
厚生労働省の「公的年金シミュレーター」で試算すると、21歳から60歳まで働き、その間の平均の年収が400万円の場合、65歳から受け取ることのできる年金額は年間160万円、月額にすると約130,000円です。
前述のケース1(要介護4、訪問介護とデイサービスで月額合計約360,000円、自己負担額81,558円)の場合、年金月額130,000円から介護費用の自己負担額を差し引くと、48,442円しか残りません。
在宅介護の場合、普段の生活費も必要となるので、年金だけで賄えない場合にはその分のお金を準備する必要があります。
また、ケース2(要介護5、介護施設に入所して月額約140,000円)では、毎月10,000円の不足が発生し、これまでの貯蓄から取り崩す必要があります。
仮に65歳の方が85歳まで20年間施設に入所したとすると、65歳になるまでに最低でも240万円の準備が必要となります。
介護費用を自分で準備する方法
もし、介護費用を年金や貯蓄だけでは賄えないことが予想されるならば、早めにお金の準備を行うことをおすすめします。
貯蓄をするという手段もありますが、効率的にお金を準備する方法として、税制優遇を受けながら投資により資産を増やしていく「NISA(少額投資非課税制度)」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」の活用をおすすめします。
NISAは、投資により得られた利益(配当、売却益等)が一定範囲で非課税となる制度です。これに対し、iDeCoは掛金が全額所得控除になる制度です。ただし、iDeCoについては、60歳までは現金化できない点に注意が必要です。
これらの制度を利用して、毎月同じ額で「株式投資信託」に「積み立て投資」することがおすすめです。そうすることで、下落の場合にはたくさん投資でき、逆に高騰した場合には少なくしか投資できないので、長期間でみるとリスクが平準化され、着実に資産を増やせる可能性が高くなっています。
また、一部の貯蓄型の保険を活用することも考えられます。人気があるのは「変額」あるいは「外貨建て」の保険です。
その他、民間の介護保険に加入することもひとつの手段です。介護状態や保険会社の定める所定の状態になったときに保険金を受け取ることができ、介護費用の一部をカバーできます。保険会社によっては貯蓄型の保険に介護の保障を組み入れることもできます。
まとめ
介護費用は個々の状況や介護度により大きく変動するため、自己負担を考慮した資金計画が必要です。
とくに、頼れる方がいない「おひとりさま」の場合、介護状態になった場合の費用が公的介護保険制度や年金だけでは賄えないことが明らかであれば、なるべく早く資産形成に着手することをおすすめします。それによって将来の自己負担を軽減するとともに、資産を有効に利用することができます。
必ずしも介護状態になるとは限りませんが、介護の問題について考えることを契機として、自分の未来をデザインし、安心で充実した老後生活を実現させましょう。