終活は、大きく2つに分類できると思います。1つは、生前に自己完結可能な終活です。いわゆる「断捨離」などがこれに該当します。
もう1つは、死後、誰かの手で実現してもらうことを前提に、生前に行うプランニングです。葬儀、納骨、遺品整理などの死後の手続き全般は、こちらに該当します。そして、おひとりさま(ここでは、配偶者も子どももおらず、両親もすでに亡くなっている方を指します)の終活においては、「生前に行ったプランニングの実現を誰にどのように委ねるか?」ということが、検討すべき重要な課題となります。
死後事務委任契約とは?
多くのおひとりさまは、「自分の死後、親戚など周囲の人たちに迷惑をかけたくない」と考えています。不動産や金融資産など、遺産の行き先をどうするか?というのも悩ましい問題のひとつですが、遺言書の作成が有効な解決手段となります。経験豊富な弁護士・司法書士などの専門家を遺言執行者に指定しておくと、スムーズに遺言の内容を実現してくれることでしょう。
しかし、法的効力のある遺言事項は、「相続に関すること」「身分に関すること(婚外子の認知など)」などに限られており、葬儀や納骨、遺品整理など、死後の手続きについての希望を書いたとしても法的効力はありません。そんな時、力を発揮するのが、「死後事務委任契約」です。
死後事務委任契約は、本人(委任者)が元気なうちに、委任する死後の手続きの範囲(葬儀、納骨、遺品整理、入院費等の未払債務の支払い、賃貸住宅や介護施設等の退去手続き、各種行政手続きなど)を明確化したうえで、死後の手続きを頼みたい方(受任者)との間に締結する契約です。
通常、委任契約は、委任者または受任者が死亡すると終了するのですが(民法第653条)、死後事務委任契約では、委任者が死亡した場合においても契約の効力が継続する旨の特約が盛り込まれており、受任者は、委任者の死後、契約の内容に従い、さまざまな手続きを履行していくことになります。
なお、受任者は、甥・姪などの親族でも、司法書士・行政書士などの専門家でも、法人でも構いません。
死後事務委任契約の作成手順
死後事務委任契約を作成する際の具体的な手順をご紹介します。この手順に従うことで、スムーズに契約を進めることができます。
1.自身の希望を整理する
- 葬儀の形式や規模
- 遺骨の取り扱い方(埋葬、散骨など)
- 遺品の整理・処分方法
- 支払いが必要な費用(家賃、公共料金など)の把握
2.受任者を選定する
- 信頼できる親族や友人
- 専門家(弁護士、司法書士など)
- 法人(終活サポート会社など)
3.受任者と打ち合わせを行う
- 自身の希望を詳細に伝える
- 受任者の役割と責任を明確にする
- 報酬や費用について協議する
4.契約内容を決定する
- 委任する事務の具体的な内容
- 契約の発効時期と終了時期
- 報酬の額と支払い方法
- 受任者の辞任や解任の条件
5.契約書を作成する
- 公正証書で作成することを推奨(法的効力が高い)
- 必要に応じて弁護士や司法書士に相談
6.契約を締結する
- 双方で内容を確認
- 署名・捺印を行う
7.関連書類を整理・保管する
- 契約書の原本と写し
- 銀行口座や資産の情報
- 医療・介護に関する指示書
8.定期的に見直す
- 年に1回程度、内容を確認
- 状況の変化に応じて更新や修正を行う
注意点
- 契約内容は具体的かつ明確に記述しましょう。
- 受任者の負担が過度にならないよう配慮することが大切です。
- 法的な不明点がある場合は、必ず専門家に相談してください。
この手順を参考に、自分の状況に合わせた死後事務委任契約を作成してください。
親族を受任者に選ぶ際のポイント
親族を受任者に選ぶ場合は、相続の問題とリンクさせて考える必要があります。介護や亡くなる前後の対応で突出して貢献度が高い相続人がいる場合、他の相続人との間で遺産分割トラブルに発展するケースが多く、遺言書の作成など、適切な対策を講じておくべきだと思います。
配偶者も子どももおらず、両親もすでに亡くなっているおひとりさまの場合、兄弟姉妹やその代襲相続人である甥・姪が相続人となりますが、これらの相続人には「遺留分(法律で保障されている一定割合の相続分)」がありませんので、遺留分侵害の問題を考慮する必要がありません。
したがって、例えば、姪のA子さんとの間に死後事務委任契約を締結し、死後の手続きをお願いする場合、「姪のA子に全財産を相続させる」「姪のA子に全財産の50%を、残りの50%を他の相続人5名に均等に相続させる」といった内容の遺言書を同時に作成しておけば、A子さんの労に報いることができるだけでなく、遺産分割トラブルの芽を摘んでおくこともできます。
専門家や法人を受任者に選ぶ際のポイント
専門家や法人を受任者に選ぶ場合は、まず、費用が問題となります。弁護士、司法書士、行政書士などの専門家による死後事務の受任は、公正証書遺言の作成に加え、「任意後見契約(将来、認知症等で判断能力が衰えた場合、必要な法律面、生活面の支援が受けられるよう、元気なうちに結んでおく契約。将来、本人の判断能力が不十分となり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した段階で効力が発生)」やこれを補完する「見守り契約」、「財産管理契約」などの作成とセットになっているケースが大半です。
もちろん、これだけ備えておけば安心なのですが、初期コストに加え、特に任意後見契約の効力発生後は、毎月数万円のランニングコスト(任意後見人となる専門家への報酬+任意後見監督人への報酬)が発生します。安易にセットで契約するのではなく、ご自身にとって本当に必要なメニューであるか吟味しながら、選択していくことが重要です。
費用の問題以上に重要なのは、亡くなったタイミングをリアルタイムで把握可能な仕組み作りができているどうか?というポイントです。受任者が、委任者の亡くなったタイミングをリアルタイムで把握できないようでは、死後事務委任契約を結ぶ意味がありません。老人ホーム・介護施設等に入居(入所)している方の場合、万が一の際に、ただちに受任者に連絡が入る体制が構築されていれば安心できます。
問題は、自宅でひとり暮らしの方の場合です。「毎月1回、電話で安否確認」という程度の対応を行っている専門家や法人が多いようですが、正直なところ、これだけでは不安です。
例えば、「HOME ALSOK みまもりサポート」では、ライフリズム監視をセットすると、「トイレのドアが24時間開かなかった場合」など、自動的にガードマンが駆け付けてくれます。
ケーススタディ:おひとりさまAさんの終活事例
鈴木愛子さん(仮名)68歳、独身。都内のマンションで一人暮らしをしています。両親はすでに他界し、兄弟姉妹はいません。近くに住む親戚とは疎遠で、親しい友人が数人いる程度です。愛子さんは、自身の終活について考え始め、特に死後の手続きに不安を感じていました。
愛子さんの課題
- 葬儀や納骨をどうするか
- マンションの処分と遺品整理
- 預金や資産の取り扱い
- ペットの猫の世話
取り組んだ解決策
- 死後事務委任契約の締結:愛子さんは、終活サポート会社と死後事務委任契約を結びました。この契約には、簡素な葬儀の実施、遺骨の散骨、マンションの売却と遺品整理が含まれています。
- 遺言書の作成:公正証書遺言を作成し、預金や資産の大部分を動物保護団体に寄付する意思を明確にしました。一部の資産は、親しい友人に遺贈することも明記しました。
- 任意後見契約の締結:将来的な認知症に備え、信頼できる弁護士と任意後見契約を結びました。
- ペットの終生飼養託制度への登録:愛猫の将来を案じ、ペットの終生飼養託制度に登録しました。
- 見守りサービスの利用:緊急時の対応のため、見守りサービスに加入しました。
結果と感想
これらの対策を講じたことで、愛子さんは大きな安心を得ることができました。特に、死後事務委任契約を結んだことで、自分の希望通りの葬儀や財産処分が行われることに安堵しています。
愛子さんは次のように語っています。
「家族がいないからこそ、しっかりと終活の準備をすることが大切だと実感しました。特に、死後の手続きを専門家に任せられるのは、本当に心強いです。これで、残された時間を自分らしく、前向きに生きることができます。」
このケースから学べること
- おひとりさまの終活では、死後事務委任契約が特に重要です。
- 遺言書の作成により、財産の行き先を明確にできます。
- ペットの将来も含めた包括的な計画が必要です。
- 専門家や信頼できる機関を活用することで、不安を軽減できます。
- 終活の準備は、より自分らしい人生を送るきっかけにもなります。
愛子さんのような事例は、おひとりさまの方々にとって参考になるでしょう。自分の状況に合わせて、必要な対策を講じることが、安心な老後と納得のいく人生の締めくくりにつながります。
おひとりさまの終活に関するよくある質問(Q&A)
Q1:おひとりさまでも死後事務委任契約は必要ですか?
A:はい、おひとりさまこそ死後事務委任契約が重要です。家族がいない場合、あなたの希望通りに葬儀や遺品整理を行ってくれる人を事前に指定しておくことが大切です。この契約により、あなたの意思を尊重した終活が可能になります。
Q2:死後事務委任契約の費用はどのくらいかかりますか?
A:費用は委任する内容や選択する受任者(個人や法人)によって異なります。一般的に、契約時に10万円〜30万円程度の初期費用がかかり、その後、年間1万円〜5万円程度の管理費が発生することが多いです。ただし、詳細は各サービス提供者に確認することをおすすめします。
Q3:親族がいない場合、誰を受任者に選べばよいでしょうか?
A:親族がいない場合、信頼できる友人や、専門的な知識を持つ弁護士、司法書士などの専門家、あるいは終活サポート会社などの法人を受任者として選ぶことができます。選択の際は、その人や組織の信頼性、費用、サービス内容を十分に検討することが重要です。
Q4:死後事務委任契約と遺言書の違いは何ですか?
A:遺言書は主に財産の相続に関する法的な効力を持ちますが、死後事務委任契約は葬儀や納骨、遺品整理などの実務的な事項を対象とします。遺言書では指定できない具体的な希望(例:葬儀の形式や遺品の処分方法)を指定できる点が大きな違いです。理想的には、両方を準備することをおすすめします。
Q5:契約後に内容を変更することはできますか?
A:はい、可能です。生前であれば、受任者と相談の上で契約内容を変更することができます。ただし、変更には手続きと場合によっては追加費用が必要になることがあります。定期的に契約内容を見直し、必要に応じて更新することが賢明です。
Q6:おひとりさまの終活で特に注意すべき点は何ですか?
A:おひとりさまの終活で特に重要なのは以下の3点です。
早めの準備:健康なうちに計画を立てることが重要です。
信頼できる受任者の選定:あなたの意思を尊重してくれる人や組織を慎重に選びましょう。
定期的な見直し:生活環境や希望の変化に応じて、計画を適宜更新することが大切です。
Q7:「ひとりのミカタ」サービスは死後事務委任契約を含んでいますか?
A:はい、「ひとりのミカタ」サービスには死後事務委任契約に相当する「エンディングサポート」が含まれています。このサービスでは、身元保証や緊急連絡先の提供に加えて、ご逝去後の各種手続きをサポートします。詳細については、サービス提供者に直接お問い合わせいただくことをおすすめします。
おひとりさまの老後の安心をサポート!
死後事務委任契約は、おひとりさまの終活のプランニングを実現するための手段として有効ですが、その守備範囲は、亡くなった後の葬儀、納骨、遺品整理などの各種事務手続きへの対応に限られます。
緊急入院時の対応や意識がない場合の医療処置の判断に係る支援などについても不安を感じているおひとりさまは多く、こうした生前の緊急対応についてもカバーできる身元保証契約(死後事務対応型)を選択すると、より安心ではないでしょうか。
クレディセゾングループが提供する、おひとりさま総合支援サービス「ひとりのミカタ」は、入院や高齢者施設入居時の「身元保証」、もしものときの「緊急連絡先」、ご逝去後の「エンディングサポート(死後事務手続き)」など、おひとりさまの毎日の暮らしや終活のさまざまなお悩みごとを総合的に支援するサービスです。
お問い合わせいただいた方に、エンディングメモ付きサービス資料を進呈中!
【セミナーのご案内】
おひとりさまの終活について専門家から学べる無料WEBセミナーを、セゾンファンデックス「セゾンの相続」とくらしのセゾン「ひとりのミカタ」共催で開催いたします。
無料でご参加いただけるZoomを使用した顔出し不要のオンラインセミナーで、お持ちのPCやスマートフォンからお気軽にご参加いただけます。ぜひ、お気軽にお申し込みください。
セミナータイトル:【おひとりさまの終活】基礎から始める「資産運用を成功させる5つのポイント」《「セゾンの相続」×「ひとりのミカタ」共催》
日時:2024年11月26日(火)18:00~19:00
セミナー詳細はこちらをご確認ください。