相続のための生前対策には遺言書の作成や生前贈与などがあります。生前対策をすることで親族間のトラブルを回避したり節税できたりするため、具体的な方法が知りたい方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、相続のための生前対策について解説します。それぞれの注意点や流れもわかり、ご自身の状況に合った最適な方法が見つかるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 生前対策をすることで、遺産分割トラブルの予防、相続税を節税、認知症対策ができる
- 生前対策には「遺言書」「生前贈与」「資産の組み換え」「家族信託」「任意後見制度」や「生命保険」等がある
- 生前対策を行う場合所有資産の把握と現状分析が必要であり、家族との情報共有や希望を明確にしておく必要がある
生前対策はなぜ必要?
生前対策には遺産分割のトラブルを回避したり、相続税を節税できたりする効果があります。はじめに生前対策が必要な理由について解説します。
遺産分割の対策として
ご家族が亡くなり相続が発生すると「財産をどのように分けるか」についてもめるケースがあります。例えば不動産を相続したい相続人がたくさんいれば、「共有相続にするのか」「一方の相続人に預貯金を多めに渡す」など、あらゆる点について決めなければなりません。
生前に遺産分割について対策を考えていれば、ご家族の負担を軽減でき、スムーズに相続手続きを進められるでしょう。
納税資金の対策として
納税義務が発生した場合、支払いのためにある程度の現金を手元に用意しなければなりません。相続税は原則として「亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内」に現金一括で支払う必要があります。
相続財産が土地や建物といった不動産がメインで、すぐに現金を用意できない場合には、相続税の支払い期限に間に合わない可能性も出てくるでしょう。
生前に「不動産を売却し現金化しておく」といった対策を講じることで、ご家族は安心して期限内に納税できるでしょう。
相続税の節税対策として
生前対策は、相続税を軽減するのにも効果的です。例えば預貯金3,000万円があるケースで、現金のままにしておくと、3,000万円に対して相続税が発生します。そこで生命保険に入ることで「500万円×法定相続人の数」の金額分まで相続税がかからずに済みます。
納める税金を少なくすることで、残されたご家族の生活資金に回せるため、節税対策を考えておくことは重要です。
認知症になる前に対策が必要
生前対策は認知症が心配な方にもおすすめです。認知症になると銀行口座が凍結され、財産管理ができなくなるため、早い段階から遺言書を作成したり、任意後見制度を使ったりすることが大切です。
認知症になる前に生前対策をすることで、「長男に住宅を渡したい」などご自身のご希望に沿った形で相続しやすくなります。
認知症になってしまったあとも有効
認知症の発症後でも法定後見制度を使うことで、相続税対策は可能です。ただし家庭裁判所の介入が必要で、できることにも限りがあるため、認知症になる前に対策を考えましょう。
生前対策になる6つの方法
相続のための生前対策には、以下の6つがあります。
- 遺言書
- 生前贈与
- 資産の組み換え
- 家族信託
- 任意後見制度
- 生命保険
それぞれにメリットがあるため、ご家族の状況に合わせた方法を見つけてみましょう。
遺言書
法的に有効な遺言書を作成することで、相続発生後の親族間のトラブルを回避できます。遺言書には「相続財産」や「誰が相続するのか」などを記載できるため、相続財産や相続人が多いケースなどに特に効果的です。
生前贈与
生前贈与とは生きている間に財産をご家族に渡すことです。そのため将来かかる相続税を軽減できる可能性があります。また特定の方に確実に財産を渡したいときにも適しています。
生前贈与をする際には贈与税がかかるケースもあります。暦年課税を選択することで「年間110万円まで」の贈与であれば贈与税は発生しません。
資産の組み換え
今ある財産の形を変えることも相続税対策につながります。具体的には現金を不動産にすることで、評価額を大きく減らせる可能性があります。また不動産が複数ある場合にはあらかじめ売却し現金化しておくことで、親族間で財産を分割しやすくなるでしょう。
家族信託
家族信託とは親(委託者)の財産管理を子ども(受託者)に任せる契約のことです。家族信託を活用することで、親はご自身の財産を管理してほしい方を自由に選択できるため、「長女にお願いしたい」といったご希望を叶えた上で安心して財産管理を任せられるでしょう。また遺言と異なり、「妻が亡くなったら子どもに相続させる」など、子どもや孫の世代にまで財産の相続先を決められます。
任意後見制度
任意後見制度とは、ご自身の財産を管理する方(任意後見人)を決めておく制度のことです。
「老後は在宅で介護をしてほしい」「妹に預貯金や年金を管理してもらいたい」など、ご自身の希望をもとに契約内容を自由に決められるため、認知症発症後の財産管理や医療・介護の手続きなどが心配な方は検討してみましょう。
生命保険
生命保険の死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。さらに生命保険の死亡保険金は遺産分割協議の対象外で、亡くなったら死亡保険金の受取人に直接お金が振り込まれるため、特定した方に財産を渡せます。
生前対策を行う際の注意点
生前対策には気をつけなければならない点もあるため、前もって制度を十分に理解することが大切です。ここでは6つの生前対策の注意点について解説します。
遺言書を作成する際の注意点
遺言書を作成する際には法的ルールに従ったものでないと、有効な遺言書として認められません。残された遺言書が無効となった場合には、ご家族は一から話し合って分割方法を決めることになり、ご家族の精神的負担は増えてしまいます。
ご自身で作成できるか心配な方は公証役場に出向き、遺言書を作成してもらいましょう。
生前贈与を行う際の注意点
生前贈与を税務署に認めてもらうためには、「贈与契約書を作成する」といった対策が必要です。生前贈与をする際には信頼できる税理士を探し、相談してみましょう。
また贈与してから3年以内(2024年1月1日より段階的に延長、最終的に7年以内)に亡くなった際にはその贈与はなかったものとみなされ、相続税の課税対象となります。暦年課税(年間110万円までであれば贈与税がかからない制度)を使った場合にも当てはまります。状況によっては節税効果を得られない可能性もあるため覚えておきましょう。
資産の組み換えを行う際の注意点
今ある財産を別の形にする際には、納税額がどの程度変わるのか計算することが大切です。ご自身だけでは難しいため、専門家に依頼しましょう。
また不動産を売却し現金化する場合、すぐに不動産の買主が見つからない可能性もあります。希望する価格で売却できるよう、計画的に行動しましょう。
家族信託を行う際の注意点
認知症になり判断能力が低下してからは、家族信託の信託契約を結ぶことはできません。家族信託の利用を考えている方はできるだけ早めに手続きに入りましょう。
また成年後見制度と異なり、家族信託では本人の代わりに介護施設や入院手続きといった身上監護権は与えられていません。
成年後見制度を活用する際の注意点
成年後見制度のデメリットは費用がかかる点にあります。具体的には申し立て手数料や成年後見人などへの報酬などが必要です。
また成年後見制度は親が亡くなるまでやめられないため、長期にわたって費用がかかるケースもあります。介護施設の入所費用などに加えて高額なお金がかかるケースもあるため、あらかじめ見通しを立てておきましょう。
生命保険を活用する際の注意点
受取人が相続人以外や相続放棄をした者の場合には、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は利用できません。
生命保険金を活用する際には、受取人に注意し、非課税枠が使えないのであれば本当に生命保険に入る必要があるのか十分に検討しましょう。
生前対策を行うときの流れ
生前対策は以下の流れで進めましょう。
- 所有財産の把握
- 現状の分析
- 適切な対策の検討
時間がかかるケースもあるため、余裕を持って準備を始めましょう。
所有資産を把握する
はじめに所有している預貯金や不動産、有価証券などをわかりやすくまとめましょう。名義人や不動産の住所などを把握することで「誰に財産を渡すか」「この物件は保有したままがいいか」など検討できます。
またクレジットカードや銀行口座も整理しておくと、亡くなった後のご家族の負担を軽減できるでしょう。
不動産の名義人などの情報は登記簿謄本で確認できます。また有価証券であればどこの証券会社か把握しておきましょう。
現状を分析する
次に老後や死後にどのような問題が生じるのか明確にしましょう。現状を分析することで、適切な生前対策が見つかりやすくなります。「多額の相続税がかかりそうだが納税額がすぐに用意できない」「不動産が多く子どもたちがもめる可能性がある」など、各ご家庭で抱える問題はさまざまあると思います。
ご家族とも話し合って、どのような問題があるのか確認しましょう。
適切な生前対策を検討する
現状を分析したら、状況に合った適切な生前対策を検討します。例えば子どもたちの不仲が心配であれば、遺言書を作成するのが効果的です。ご家庭に合った生前対策が知りたいときには専門家に相談するのも良いでしょう。
生前対策を行うときのポイント
生前対策を行う際には、以下の点に気をつけましょう。
- 希望を明確にする
- 選択肢を比較・検討する
- 元気なうちに行う
- 家族会議で情報を共有する
より良い老後や相続となるよう、この4点はできる限り実行しましょう。
老後や相続について希望を明確にしておく
生前対策を行う際には、「ご自身がどのような老後を送りたいのか」「誰に何をいくら相続すれば安心するのか」を明確にしましょう。方向性が定まることで、適切な生前対策を選びやすくなります。
例えば老後に旅行に行きたいのであれば資金を用意した上で、相続財産を残す必要があります。より充実した老後になるよう、やりたいことがあればリストアップしてみましょう。
選択肢を比較・検討する
それぞれの生前対策にメリット・デメリットがあるため、希望を叶えるためにもさまざまな生前対策を比較することが大切です。
また遺言書の作成や家族信託など、生前対策に関することは用語が難しく、ご自身だけでは理解できないこともあると思います。そのような場合には専門家に相談し、ご自身に合った方法を見つけてもらいましょう。
元気なうちに生前対策を行う
認知症などで判断能力が低下してしまうと、生前対策ができない可能性があります。できたとしても希望どおりの形での実現は難しいでしょう。
例えば遺言書の作成であれば、何度でも書き直しができます。思い立った日に行動に移してみましょう。
家族で情報を共有しておく
生前対策を検討するにあたり考えたことはご家族にも共有しましょう。相続人全員が把握していれば、スムーズに相続手続きができます。
また借金を抱えていれば正直にご家族に話しましょう。借金があることが事前にわかれば、早い段階で相続放棄の手続きができます。
生前対策は相続の専門家に相談しよう
生前対策を検討する際には、不動産の評価額を計算したり、2パターンの相続税の納税額を比較したりと専門的知識が必要なケースもあります。また今の親族関係では将来どのようなトラブルが発生する可能性があるか知りたい方もいると思います。不動産の名義変更をしなければならないこともあるでしょう。
生前対策を検討する際は随時、税理士や司法書士、弁護士、不動産会社などに相談し、解決してもらうことをおすすめいたします。さまざまな事案を解決している専門家であれば、よりご自身にぴったりの生前対策を考えてくれるでしょう。
「セゾンの相続 相続対策サポート」は生前対策に幅広く対応
生前対策でお困りの方は「セゾンの相続 相続対策サポート」をご利用ください。贈与や相続に精通した専門家を紹介でき、生命保険や不動産、遺言書などを用いて生前対策をサポートします。
ご相談は無料ですので、適切な生前対策が知りたい方はお電話またはWEBフォームからお問い合わせください。
おわりに
生前対策には「遺言書」「生前贈与」「資産の組み換え」「家族信託」「任意後見制度」「生命保険」等があります。生前対策を行う際には、はじめに所有する財産を把握し、現状を分析してから対策を検討することが大切です。
6つの対策それぞれにメリットや注意点があり、状況によって適切な方法は異なります。随時税理士や不動産会社、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、ご自身に合った生前対策を見つけてみましょう。