夫の死亡後、妻がしなければならない手続きが多くあります。しかも、いずれも手続きの期限が決まっているため、その中で進めていく必要があるのです。このコラムでは、夫の死亡後に妻が行う手続きについて解説しています。遺族年金や遺産相続についてもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
- 夫の死亡後、妻が行う手続きは多数ある。速やかに行うべき手続きから、2年以内に行えば良い手続きまでさまざま。遺産相続に関しては法定相続人同士での遺産分割協議も必要なため、スムーズに進まない場合もある。
- さらに、相続に関する手続きや遺族年金の申請などは、申請期限までに完了しなければならない。夫の死亡という精神的な負担も大きい状況では、税理士や司法書士など相続の専門家のサポートを受けながら手続きを進めていくと心強い。
夫死亡後に必要な手続きとは
夫が死亡した後に、妻がしなければならない手続きについて次の流れに沿って解説します。
- すぐに行う手続き
- 14日以内に行う手続き
- 1年以内に行う手続き
- 2年以内に行う手続き
すぐに行う手続き
夫が死亡した直後で精神的な負担も大きい時期でもやらなければならない手続きがあります。主な手続きは次のとおりですが、死亡届の提出や火葬許可証の受け取り、葬儀場や火葬場の手配などは、一般的には葬儀社が行ってくれます。したがって、葬儀を依頼する葬儀社を決めることが、何よりはじめに行うべきことです。
医療機関等から死亡診断書を受け取る
病院で診療を受けていた方が亡くなった場合には、主治医が死亡診断書を作成してくれるのが一般的です。病院で診療を受けていなかった場合や事故などで亡くなった場合には、死亡診断書では無く死体検案書が発行されます。どちらも費用がかかりますが、死体検案書の方が費用が高くなるようです。死亡診断書は、提出してしまうと戻ってこない場合があります。コピーを複数枚取っておくことをおすすめします。
親族や職場、その他関連先へ訃報の連絡を入れる
夫の職場へは、所属部門か総務や人事に連絡することで訃報などにより必要な方へ周知されます。夫の友人の連絡先などがわからない場合もありますので、ご自分が電話番号などを知っている方に連絡し、それ以外の方には、四十九日までに死亡通知状にてご連絡します。親族への連絡は、ご自身の負担を軽減するためにも、親しい親族に連絡をお願いしてはどうでしょうか。
死亡届の提出(7日以内)
死亡届は、死亡診断書と一枚になっている場合が一般的です。役所の戸籍係にもありますが、ホームページからのダウンロードサービスが利用できる場合もあります。死亡届は、国内で亡くなった場合には7日以内に提出しなければなりません。死亡届の届出人は親族か同居人ですが、役所の窓口へ持参するのは届出人以外でも可能です。死亡診断書と同様に死亡届も提出してしまうと戻ってこない場合がありますので、必ずコピーを複数枚取っておきましょう。
火葬許可証の受け取り
役所に死亡届を提出すると「火葬許可証」が発行されます。この許可証を火葬場に提出すると、火葬の証明が記載され「埋葬許可証」となります。埋葬許可証は納骨時に必要になりますので、それまで大切に保管しておきます。
葬儀の手配
葬儀の手配は、葬儀社と相談しながら進めます。葬儀のプランをはじめ、遺影や斎場で流す音楽、香典返しの品を選ぶなど、多くのことを決める必要があります。葬儀の手配が忙しく、夫との最後のお別れがしっかりとできないような状況は避けたいものです。無理をせず、必ずしも自分が行わなくても良い手続きは、親族にサポートしてもらうことも大切です。
14日以内に行う手続き
14日以内に行うべき手続きは、次のとおりです。
世帯主の変更
夫が世帯主だった場合、死亡から14日以内に世帯主の変更手続きが必要です。市区町村の担当窓口へ住民票の世帯主変更届を提出します。ただし、世帯に残ったのが、妻もしくは妻と15歳未満の子どもの場合には、世帯主変更届の提出は不要です。これは、どちらの場合も妻が世帯主になることが明白なためです。
健康保険の資格喪失届出
夫が会社員の場合、健康保険の資格喪失に関する手続きは、亡くなった日から5日以内に勤務先が行います。また、扶養家族であった場合には、亡くなった翌日から健康保険証は使えなくなります。健康保険証を会社に返却するとともに、国民健康保険等への切替手続きを死亡した日の翌日から14日以内に行わなければなりません。国民健康保険に加入していた場合には、夫の死亡後14日以内に、資格喪失届を市区町村の健康保険担当課へ届け出ます。市区町村によっては死亡届を提出することにより手続きは不要の場合もあります。後期高齢者医療保険に加入していた場合にも、国民健康保険と同様に手続きは必要です。夫が加入していた健康保険により手続きは異なりますので注意が必要です。
年金受給の停止
夫が年金受給者だった場合には、年金事務所へ10日または14日以内に年金受給停止の手続きを行います。年金証書と死亡診断書のコピーや戸籍抄本を持参し、年金受給権死亡届を添えて提出します。また、まだ受け取っていない年金や亡くなった後に振り込まれた年金額のうち、亡くなった月分の年金は、生計を共にしていた遺族が未支給年金として受け取ることができます。不明な点は年金事務所に確認しましょう。
1年以内に行う手続き
夫が死亡して1年以内に行う手続きは次のとおりです。
所得税の準確定申告と納付
夫が個人事業主や給与所得以外の所得があった場合には、準確定申告が必要となる場合があります。準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内に済ませなければなりません。
相続税の申告と納税
夫の遺産総額が、相続税の基礎控除額以上である場合には、相続税の申告と納付が必要です。期限は、相続があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内になります。
なお相続税の基礎控除額以下である場合には、相続税の申告は不要です。相続税の基礎控除額は、次の計算式で求めます。
相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
また、配偶者は「配偶者の税額軽減」により1億6,000万円または法定相続分までであれば相続税は非課税になります。
2年以内に行う手続き
夫の死亡後、2年以内に行うべき手続きは以下のとおりです。
国民年金の死亡一時金請求
夫が個人事業主などの場合で国民年金の加入者だった場合、死亡一時金の請求ができます。国民年金の加入期間が3年以上であり、老齢基礎年金または障害基礎年金のいずれも受給せずに亡くなった場合が対象です。
この場合、死亡一時金として120,000円から320,000円程度の死亡一時金が支給されます。手続きや必要書類については、年金事務所や市区町村窓口で確認しましょう。
埋葬料・葬祭費の請求
夫が会社員などで健康保険組合や協会けんぽに加入していた場合、埋葬料または埋葬費として50,000円が支給されます。
夫が国民健康保険に加入していた場合には、市区町村によって支給額は異なりますが、10,000~70,000円の範囲で葬祭費として支給されるため忘れず手続きをしましょう。
申請方法や請求できる条件などを市区町村または保険組合などに確認し期限までに申請をしましょう。
高額療養費の支給申請
高額療養費制度とは、1ヵ月の医療費が所得に応じた上限額を超えた場合にその金額が戻ってくる制度です。夫が死亡する前に入院や療養を受けていた場合かつ1ヵ月の医療費が上限額を超えている場合には、超過した分の還付申請をすることができます。申請できるのは相続人ですので、妻は申請することが可能です。特に高齢者の場合には、自己負担限度額が低額となっている場合が多いので申請できる可能性が高くなります。
夫死亡後に行うその他の手続き
特に期日は決まっていませんが、夫の死亡により必要な手続きがあります。例えば、運転免許証返納や生命保険の受給、各種名義変更・解約などです。
クレジットカードを保有していた場合や、夫名義のローンがある場合には、場合によっては一括返済が必要となることがあります。まずは取引のある会社(銀行やローン会社など)へ夫が死亡した旨を連絡し、その後の手続きについて指示を仰ぎましょう。
いずれの手続きの場合も、妻であれば戸籍謄本の提出などで夫婦関係が証明されるため、手続きはスムーズにいくことがほとんどです。
夫死亡後に行う遺族年金の手続き
夫が死亡した後、妻が生きていくための生活費として頼りになるのが遺族年金。遺族年金は5年以内に申請しないと受け取れなくなります。ここからは、遺族年金の手続きについて解説しましょう。
遺族年金の種類
遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、亡くなった夫が生前加入していた年金制度や加入状況により、いづれかまたは両方の年金が支給されます。
遺族基礎年金は、夫が国民年金の被保険者であり、受給条件を満たしていれば、「18歳未満の子のある配偶者」または「18歳未満の子」が受け取ることができます。
遺族厚生年金は、会社員など給与所得者の遺族がもらえる年金です。遺族基礎年金と違い、子どもがいない場合でも対象となります。ただし、30歳未満の妻の場合は遺族厚生年金の受給上限が5年間と決められているため注意しましょう。また、遺族厚生年金には、「中高齢寡婦加算」「経過的寡婦加算」などの措置もあります。市区町村や年金事務所にて確認することをおすすめします。
遺族年金と他の年金は両方もらえる?
年金には「遺族年金」の他、一般的な年金のイメージである老後資金としての「老齢年金」、所定の障害状態になった場合にもらえる「障害年金」があります。これらの年金が遺族年金をもらっているときに併せて受給できるのかについて解説しましょう。
妻が65歳未満の場合
遺族年金は、老齢年金や障害年金と併給できません。どちらかひとつのみもらうことになります。同時に2つの受給権が発生した時に、どちらをもらった方が良いか悩む場合には年金事務所などで相談しましょう。
妻が65歳以上の場合
遺族年金は、原則として他の年金と同時に受給できます。
ただし、遺族年金の種類とご自分の年金の種類によって、減額される場合もありますので年金事務所などで相談することをおすすします。
夫死亡後に行う遺産相続の手続き
夫の死亡後に行う遺産相続の手続きについて簡単に解説しましょう。前提として、法律上の婚姻関係にある妻は相続人となりますが、内縁の妻や離婚した妻は相続人にはなれません。
妻の財産割合
子どもの有無や、夫の親・兄弟の有無で財産割合が変わります。相続に際して、妻は優先して守られる立場です。
そのため、相続分の割合が最も多く、遺産の1/2が法定相続分です。万が一、遺言書に妻には遺産を渡さないとする内容であっても、遺留分として法定相続分の1/2、つまり1/4の範囲で相続する権利を有しています(遺留分侵害請求権)。
遺産相続までの流れ
次の流れに沿って、遺産相続までの流れを解説しましょう。
遺言書の有無の確認
遺言書が自宅などで保管されていた場合、遺言書を見つけたら速やかに家庭裁判所へ検認手続きの申請が必要です。公正証書遺言や秘密証書遺言は、原本が公証役場で保管されていますので、自宅にある遺言書はすぐに開封しても問題ありません。
遺言書がない場合は、法定相続人全員で遺産分割協議を行うことになりますが、遺産分割協議でまとまらない場合は、家庭裁判所へ調停の申し立てをすることになります。
相続財産の調査
相続財産には、現金や不動産、自動車などのプラスの財産、ローンや借入金などのマイナスの財産があります。どのような相続財産があるのかによって、そのあとの相続税額に影響してきます。ネット証券やネット銀行の口座、電子マネーなどのデジタル遺産の把握が難しい場合もありますので特に注意が必要です。もし、相続を放棄する場合には、手続き期限は相続開始から3ヵ月以内です。相続財産の調査は、早めに行いましょう。
法定相続人と話し合い
夫が死亡した段階での法定相続人を確認し、全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成しましょう。その後、遺産分割協議書のとおりに遺産を分け、相続税がかかる場合には、相続開始から10ヵ月以内に相続税の申告をします。
妻が今の家に住み続ける権利、配偶者居住権とは
妻が夫と暮らした家に、夫の死亡後も生涯または一定期間無償で住み続けることができる権利を配偶者居住権といいます。配偶者居住権は、建物のみに設定できますが、配偶者以外と共有していた場合には対象にはなりません。配偶者居住権の成立要件は、以下の3つです。
- 亡くなった方の法律上の配偶者
- 亡くなった時に居住していた
- 遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判のいずれかで権利を取得
配偶者居住権を登記することで、第三者に対して自身が居住している権利を主張できます。登記は、建物の所有者との共同申請となります。配偶者居住権は、2020年4月に民法改正によって施行されました。
妻が遺産相続する際の注意点
相続において妻は相続放棄をしない限り相続人です。法定相続割合は1/2、相続税は配偶者の税額軽減制度で1億6,000万円まで控除されます。先に説明した配偶者居住権なども含め、相続に関しては妻は優遇されているといえます。しかしながら、夫の全ての財産を妻が相続できるとは限らず、遺言書で相続人を指定されていた場合、親・兄弟姉妹が相続人となる場合などがあります。
また、相続税の軽減制度だけで妻が大きな金額を相続すると二次相続の際に、子どもに大きな負担がかかる場合もあります。妻が遺産相続をする場合、二次相続についてもよく考える必要があります。
夫死亡後の手続きは複雑!プロに相談を
夫が死亡した後は精神的な負担も大きいなかで手続きも多くあり、またいずれも複雑です。少しでも負担軽減するためには、プロに相談することも検討しましょう。
「セゾンの相続 相続手続きサポート」では、相続に関するお困り事、ご相談をお伺いします。また、必要に応じて、提携している司法書士や税理士など専門家との無料相談のご希望を承ります。お気軽にご相談ください。
おわりに
夫の死亡後、妻が行わなければならない手続きは多く、いずれも期限が決められている手続きばかりです。少しでも妻の負担を軽減するために、必要に応じてプロの力を借りるのも選択肢のひとつです。セゾンの相続では、相続手続きに強い司法書士や税理士と提携し、お客様をサポートいたします。相続全般に関しての困りごとや相談は、お気軽にお問い合わせください。
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