同性カップルの方で、「相手に万が一のことがあったら遺産相続はどうなるの」と悩んでいる方は多いかもしれません。現状、日本では同性婚が認められていないため、遺産相続の選択肢は大幅に狭まります。
ただし、利用できる方法はあるので、早い段階で準備を進めましょう。このコラムでは同性カップルの方が、一方に万が一のことがあった場合でも、パートナーに財産を残す方法について解説します。
この記事を読んでわかること
- 現在の日本では、同性婚が法律上認められていないので遺産相続の対象外となる
- 同性婚パートナーに財産を残すには「遺言書の作成」「養子縁組」「死因贈与契約」などの方法がある
- 生前からできる対策としては「生命保険の活用」「生前贈与」が考えられる
通常、同性婚は遺産相続の対象外
日本では、法律上の婚姻関係がないと遺産の相続権もありません。このため、通常、同性婚の場合は遺産相続の対象外です。
各自治体でパートナーシップ制度が普及してきていますが、これはあくまで行政サービスや社会的配慮の便宜を図るための制度に過ぎません。パートナーであるという証明を得ても法律上の婚姻関係とはならず、遺産相続できないので注意しましょう。
この点について、さらに掘り下げて解説します。
そもそも遺産を受け取れる方の範囲は決まっている
そもそも、遺産を受け取れる方の範囲は法律で決まっています。配偶者は常に相続人になり、その他の家族・親族は亡くなった方(被相続人)との関係により相続できるか否かが決まります。法定相続人が複数人いる場合は、順位が一番高い相続人と配偶者で遺産を分けるのが基本的な決まりです。
いずれにしても、法律上、家族・親族であることが求められます。同性婚・事実婚のパートナーといった内縁関係にある場合は、法定相続人にはなれません。
詳しくは後述しますが、同性婚のパートナーに遺産を相続させたい場合は、遺言書を作成しておくなど、相応の対策が必要になります。
同性婚で遺産相続できない場合のリスク
前述したとおり、同性婚の方はそのままでは遺産相続ができません。そのうえ、法律上の婚姻関係にあれば当然に認められるはずの権利もないため、以下のトラブルに巻き込まれるリスクがあります。
- パートナー名義の家に住んでいた場合は追い出され、生活基盤を失う
- パートナーと事業や店を共同で経営、または雇用されていた場合、職を失う
- パートナーの葬儀の支払であっても預金を引き出せない
- パートナーの介護をしていても遺産をもらえない
- パートナーが事件・事故で亡くなっても公的な遺族補償が受けられない
- パートナーの親族と遺産相続をめぐって争う
同性婚のパートナーが遺産相続する3つの方法
同性婚のパートナーに遺産相続をさせたい場合、生前に相応の対策を講じておかなくてはいけません。考えられる方法として、以下の3つについて解説します。
- 遺言書を作成して意思表示する
- 養子縁組して法律上の親子になる
- パートナーと死因贈与契約を結ぶ
遺言書を作成して意思表示する
生前に「パートナーに遺産を相続させる」旨の遺言書を作成し、万が一のことがあってもパートナーが遺産を受け取れるようにしておくことは有効です。
比較的簡単な方法ですが、無効になることがないよう以下の2点に留意しましょう。
- 公正証書遺言として作成する
- 法定相続人の遺留分に気をつける
公正証書遺言がおすすめ
遺言書は、形式の不備などで無効にならないよう公正証書遺言として作成するのがおすすめです。
公正証書遺言とは、公証役場にいる公証人に作成してもらう遺言のこと。複雑な内容であっても法律的に見て問題がない形で遺言を作成してもらえるというメリットがあります。これに対し、ご自身で作成する遺言が自筆証書遺言です。両者の違いは以下のとおりです。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
作成者 | 本人 | 公証人 |
証人 | 不要 | 2名以上 |
署名、捺印 | 本人 | 本人、公証人、証人 |
印鑑 | 認印でも可 | 実印のみ |
費用 | ほぼ発生しない | 公証人手数料証人代 など |
管理 | 本人の責任で管理 | 原本は公証役場 正本は本人が保管 |
検認手続 | 必要 | 不要 |
自筆証書遺言は費用と手間がかからないのがメリットですが、形式や内容に不備があり、無効になることも珍しくありません。
また、自宅に保管していた遺言書を見つけてもらえないまま相続手続きが行われる可能性も往々にしてあります。遺言書が無意味にならないようにするためにも、証人や手数料は必要ですが、公正証書遺言を使うのが望ましいでしょう。
法定相続人の遺留分に気をつける
遺言書を作成する際は、法定相続人の遺留分に気をつける必要もあります。遺留分とは、法定相続人に認められた最低限の遺産の取り分のことです。
法律上、亡くなった方(被相続人)の配偶者や子ども・両親・祖父母・兄弟姉妹は法定相続人として扱われます。遺留分はこのうち、配偶者や子ども・両親・祖父母に認められる権利で、具体的な取り分は家族構成によって決まる仕組みです。
仮に、遺言書の内容が「パートナーに全ての遺産を相続させる」といった内容だった場合、子ども・両親・祖父母はいっさい相続できないことになります。この場合、遺留分に当たる財産を渡すよう、法定相続人から請求(遺留分侵害額の請求)される恐れもあるので注意しましょう。
プロの力を借りて遺言書を作成するとより有効に
そもそも、遺言書が有効になるには細かい要件を満たさなくてはいけません。法定相続人の遺留分など、どうすれば要件を満たせるかは専門的な知識にもとづく判断が必要になります。「同性婚のパートナーに遺産を遺してあげたい」など複雑な事案については、専門家に相談しましょう。
「セゾンの相続 遺言サポート」では、経験・知識ともに豊富な専門家のご紹介ができ、スムーズに遺産相続が行えるお手伝いをいたします。まずは無料相談をご検討ください。
養子縁組して法律上の親子になる
養子縁組して法律上の親子になるのも選択肢のひとつです。同性のパートナーと養子縁組を結ぶと遺産の相続権が発生します。この場合、年上の方が親、年下の方が養子になると考えましょう。
ただし、親族間のトラブルには注意が必要です。代表的なトラブルとして、養子縁組による相続人の変更が考えられます。
図からもわかるように、同性パートナーが養子になったことで、本来財産を相続できたはずの兄弟姉妹が相続できなくなってしまいます。兄弟姉妹に養子縁組無効の訴えを起こされる可能性がある点に注意が必要です。
養子縁組するとパートナーシップ制度の適用外になるので注意が必要
養子縁組するとパートナーシップ制度の適用外になるので注意が必要です。パートナーシップ制度は自治体によって細かい規定が異なりますが、利用条件に「互いに近親者でないこと」が掲げられているケースが多くあります。
ここでいう近親者とは「ご本人からみて直系血族、3親等内の傍系血族、直系姻族に当たる方」のことです。養子縁組をした場合、同性パートナーが血族に含まれるのでパートナーシップ制度は使えません。
パートナーと死因贈与契約を結ぶ
パートナーと死因贈与契約を結ぶのも、財産を残すには有効です。死因贈与契約とは、ご自身が亡くなった際、指定した財産を特定の方に渡す約束をする契約を指します。
似たものに遺贈がありますが、これはあくまで「一方的に遺言書で譲り受ける方を指定しておく」ことであり、受け取る方と契約を交わすわけではありません。死因贈与契約は生前に契約を取り交わしておくという点で大きな差があります。
死因贈与契約書を残しておくのが重要
パートナーと死因贈与契約を結ぶ場合、契約書を残しておきましょう。死因贈与契約自体に契約書は必須ではありませんが、トラブル回避のためにも有効です。
万が一、贈与者の方が亡くなった場合、契約書がなければ生前に死因贈与契約を結んだことを立証するのが難しくなります。契約を交わした事実を証明できず、贈与者の家族・親族に財産が渡る可能性もゼロではありません。
また、できれば契約書は公正証書で作成しておきましょう。証明力が高くなるうえに、偽造・紛失のリスクにも備えられるからです。
【番外編】遺産相続以外でパートナーに財産を残す方法
遺産相続できなくても、同性婚のパートナーにお金を残す方法はあります。ここでは、次の2つの方法を紹介しましょう。
- 生命保険の受取人をパートナーに指定する
- パートナーへ生前贈与を済ませておく
生命保険の受取人をパートナーに指定する
生命保険でも、商品によっては同性婚のパートナーを死亡保険金の受取人に指定できます。ただし、保険金の請求をする際に必要な死亡診断書の取得が難しいケースがあるので注意が必要です。事前に保険会社に確認するとともに、以下の対策を講じておきましょう。
- 死後事務委任契約を結ぶ
- パートナーシップ証明書を取得する
また、病院に死亡診断書の取得を断られた場合は、保険会社に相談しましょう。パートナーが死亡保険金の請求をできる商品を扱っている保険会社の場合、同様の事例を経験していることが多いので、対策を一緒に考えてくれるはずです。
パートナーへ生前贈与を済ませておく
確実にパートナーに財産を渡したいなら、生前贈与を済ませておくのもひとつの方法です。存命中に財産をどう処分するかは、法定相続人に関係なく、本人が自由に決められます。ただし、金額によっては贈られた側(受贈者)が相続税や贈与税を払う必要が出てくるのです。
また、贈った側(贈与者)に法定相続人がいた場合、生前贈与の内容次第では遺留分を侵害するかもしれません。万が一のことが起きた後、遺留分侵害額請求が行われるかもしれないため対策が必要です。
加えて、生前贈与を受けたパートナー(受贈者)が先に亡くなる可能性もあります。この場合、贈与した財産は受贈者の相続人に移るので、その点にも注意しましょう。
同性婚の遺産相続問題にまつわるQ&A
同性婚の遺産相続問題について、多くの方から寄せられる疑問として、以下の3つにお答えします。
- マイナスの遺産もパートナーに相続されるの?
- 特別縁故者制度は相続対策になる?
- パートナーシップ制度を利用しておけば特別寄与料が請求できる?
マイナスの遺産もパートナーに相続されるの?
まず、養子縁組をしておらず、特定の財産のみ相続させる旨の遺言書を書いていた(特定遺贈)場合、マイナスの遺産は相続の対象外です。しかし、ご自身の遺産を特定せず、すべて(もしくは一部)をパートナーの方に相続させる旨の遺言書を書いていた(包括遺贈)の場合は、マイナスの遺産も相続の対象になります。
また、パートナーの方とご自身が養子縁組し、法律上の親子関係になっていた場合、マイナスの遺産も相続の対象になります。マイナスの遺産を相続したくない場合は、パートナーの方が相続放棄もしくは限定承認を行う必要があります。
特別縁故者制度は相続対策になる?
結論からいうと、同性婚の場合は相続対策になりにくいのが実情です。特別縁故者とは、亡くなった方に相続人がいない状態で、さらに遺言書もなかった場合に、一定の条件を満たす方が相続財産を受け取れる制度。
一定の条件を満たす方を特別縁故者といいますが、次のうちいずれかの条件を満たす必要があります(民法第958条の3)。
- 被相続人と生計を一にしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
同性婚パートナーの場合、ほとんどのケースでこれらの条件を満たさない可能性が高いです。遺産対策は、特別縁故者制度以外の方法で考えた方が良いでしょう。
パートナーシップ制度を利用しておけば特別寄与料が請求できる?
結論からいうと、請求できません。特別寄与料とは、亡くなった方=被相続人を介護していたなど、労務を無償で提供していた親族が相続人に対し、その寄与の程度に応じて請求できる金銭を指します。
例えば、被相続人の姉に当たる方が生活費の工面や介護を一手に担っていた場合を考えてみましょう。
この場合、本来、姉に当たる方は相続人ではありませんが、本来の相続人に特別寄与料を請求できます。なお、特別寄与料を請求できるのは「親族」のみとなり、具体的には以下の方が該当します。
- 6親等内の血族
- 配偶者
- 3親等内の姻族
パートナーシップ制度はあくまで行政サービスの利用や社会的配慮を前提にした制度です。パートナーシップ制度を使っても法律上の親族にはならないため、特別寄与料も請求できません。
おわりに
同性婚パートナーに遺産相続をさせるのは、現状の日本ではかなりハードルが高いのが実情です。
パートナーシップ制度も、あくまで行政サービスの利用や社会的配慮のための制度である以上、利用しても遺産相続との関係では意味がありません。
しかし、遺言書を作成したり、死因贈与契約を交わしたりなど、パートナーに財産を残す方法はあります。状況によっても適した方法は異なるので、早い段階で専門家の協力を仰ぎながら準備を進めましょう。