ご家族に万が一のことがあったら、その方が遺言書を遺していないか探す必要が出てきます。公証役場で作成した公正証書遺言だった場合は見つかりやすいですが、ご自身で作成した自筆証書遺言だった場合はやや難しいかもしれません。
また、遺言書は勝手に開封してはいけないなど、細かいルールもあります。このコラムでは、これから相続手続きを迎える方のために、遺言書が見つからなかった場合の正しい対処法について解説しましょう。
この記事を読んでわかること
- 自筆証書遺言や秘密証書遺言は見つからないリスクが大きい
- 公正証書遺言は保管先の公証役場から謄本を取り寄せられるので見つからないリスクが極めて低い
- 自筆証書遺言・秘密証書遺言は勝手に開封すると罰せられるので注意
- 万が一遺言書が見つからなかったら、遺産分割協議を行って相続手続きを進めていくことになる
遺言書には3つの種類がある
遺言書には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つがあります。それぞれの違いを簡単にまとめたのが以下の表です。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
遺言を書く人 | 本人 | 公証人 | 本人(代筆可) |
費用 | ほとんどなし | 財産の金額に応じた公証役場手数料 | 一律1,100円の公証役場手数料 |
証人 | 不要 | 2名以上 | 2名以上 |
秘密性 | 存在・内容を秘密にできる | なし | 内容だけ秘密にできる |
偽造・変造の危険性 | あり | なし | 極めて低い |
保管方法 | 本人 | 公証役場 | 本人 |
おすすめ度 | △ | ◯ | ✕ |
以降においては、より詳しくそれぞれの遺言書の違いについて説明します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者ご自身が手書きした遺言のことです。思い立った時にすぐ作成できるのがメリットですが、以下の5つの要件を満たしていないと無効になります。
- 遺言者本人が自筆で全文を書く(財産目録は代筆、パソコンでの作成も可能)
- 作成した日付を正確に自筆で書く
- 氏名を自筆で正確に書く
- 印鑑を押す
- 訂正があれば印鑑を押し、欄外にどこを訂正したかを書いて署名する
また、実際に相続が発生した時に、相続人(例:ご家族やご親族)に見つけてもらえない可能性もあります。ご自宅の金庫で重要書類と一緒に保管した旨を生前に伝えたり、自筆証書遺言書保管制度を利用して法務局に預けたりしましょう。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言作成者の依頼をもとに公証人が作成する遺言書のことです。公証役場に証人2人と出向いて作成し、できあがった遺言書(原本)は公証役場に保管されます。紛失・偽造のリスクがないのがメリットですが、手間や費用がかかる点に注意しなくてはいけません。
なお、作成の基本的な流れは以下のとおりです。
- 遺言内容を考える
- 公証役場に申し込む
- 2名の証人を用意する
- 日程調整する
- 必要書類を揃える
- 証役場で内容を確認し、費用を払って遺言書を受領する
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、ご自身で遺言書を作成し、公証役場で遺言書の存在を証明してもらうことです。遺言書の内容を秘密にしたい場合は有効ですが、あくまでご自身で作成するため、形式・内容に不備があったら無効になってしまいます。また、自筆証書遺言のときと同様、誰にも遺言書を見つけてもらえない可能性があるため注意が必要です。
遺言書の探し方を種類別に解説
生前に遺言書の有無を確かめなかった場合や、遺言書があると聞いていても実際にはなかった場合、探す必要が出てきます。闇雲に探してもなかなか見つからないので注意しましょう。ここでは、遺言書の種類別に適した探し方を解説します。
自筆証書遺言を見つけるには
自筆証書遺言保管制度を利用しておらず、自宅などに自筆証書遺言を保管していた場合、まずは実物を探すことが必要です。
弁護士や行政書士に問い合わせる
生前に相続のことを相談していた弁護士や行政書士などの専門家がいるなら相談してみましょう。自筆証書遺言を作成していたのであれば、その旨および保管場所についても話している可能性が高いからです。また、弁護士や行政書士が預かっているケースもあります。
自宅で心当たりのある場所を探す
自筆証書遺言については、保管する場所の決まりはありません。比較的よくある遺言書の保管場所を紹介します。
- 金庫
- 仏壇
- 本棚
- タンス
- クローゼット
- 靴箱
自宅以外で保管されている可能性が高い場所を探す
自筆証書遺言が自宅以外の場所に保管されているケースもあります。比較的よくある場所は以下のとおりです。
- 貸金庫
- お知り合いのご自宅
- (自営業の場合)事務所
自力で見つからなければ遺品整理会社に依頼する
自力で探しても見つからない場合は、遺品整理会社に依頼しましょう。遺品を整理していく中で遺言書が見つかるのは珍しくありません。ただし、相応の時間がかかるため、早めに依頼するのをおすすめします。
公正証書遺言を見つけるには
公正証書遺言の場合、遺言書自体が公証役場に必ず保管されているはずです。そのため、自筆証書遺言や秘密証書遺言に比べるとはるかに見つけやすいです。
以下のいずれかの方法で見つけ、内容を確認しましょう。
- 公証役場に問い合わせる
- 最寄りの公証役場で遺言検索システムを利用する
- 公正証書遺言を請求する
公証役場に問い合わせる
遺言者となったご家族のお住まいの最寄りの公証役場に、遺言書の有無を問い合わせましょう。なお、秘密保持の観点から、問い合わせができるのは相続人等の利害関係人のみとなっています。全く無関係な第三者が問い合わせることはできないので注意してください。
最寄りの公証役場で遺言検索システムを利用する
最寄りの公証役場で遺言登録・検索システムを使って探すこともできます。これは、日本公証人連合会が運用している公正証書遺言や秘密証書遺言のデータを管理するシステムのことです。遺言検索システムと呼ぶケースもあります。
遺言書を作成した方の氏名・生年月日・作成した公証人・作成した年月日などの情報がデータベース化されているので、検索して遺言書の有無を確かめることが可能です。
なお、遺言登録・検索システムは誰でも使えるわけではありません。遺言者となった方の「利害関係人」であることが必要です。具体的には以下に当てはまる方が利害関係人に該当します。
- 相続人
- 受遺者
- 遺言執行者
- 上記の代理人
例えば、父親の遺言書を探している子どもは利害関係人に当たりますが、その配偶者は利害関係人ではありません。子どもの配偶者は法定相続人にならないからです。また「上記の代理人」とは、弁護士や行政書士などの専門家が含まれます。
遺言登録・検索システムの利用に当たっては書類が必要になります。利害関係人本人が検索する場合と、代理人に検索を任せる場合とで必要な書類が異なるので、抜け・漏れがないよう揃えましょう。
利害関係人本人が検索する場合 | 遺言者の除籍謄本 利害関係人の戸籍謄本 本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード) |
代理人が検索する場合 | 委任状 委任者の印鑑登録証明書 代理人の身分証明書 遺言者の除籍謄本 利害関係人の戸籍謄本 |
公正証書遺言を請求する
検索システムで保管先の公証役場が見つかったら、謄本を請求できます。行ける範囲にある公証役場であったら、窓口に行って請求しましょう。手数料は「遺言書のページ数×250円」で決まります。相続手続きを進める場合、部数が必要になることもあるので、一度にまとめて請求すると便利です。なお、このときに除籍謄本・戸籍謄本・本人確認書類も必要なので、忘れずに用意してください。
一方、保管先の公証役場が遠い場合は、郵送で請求することも視野に入れましょう。その際、公正証書謄本交付申請書の署名認証を受けなくてはいけません。手数料が2,500円かかりますが、最寄りの公証役場で手続き可能です。署名認証が済んだら、保管先の公証役場に謄本を請求します。
以下の書類を書留など、配送記録が残り、かつ手渡しをする郵便で送ってください。レターパックを使っても構いません。
- 署名認証を受けた公正証書謄本交付申請書
- 除籍謄本・戸籍謄本・身分証明書
- 印鑑
- 返送用封筒(レターパックでも可)
保管先の公証役場が書類を受領したら、連絡に従い交付手数料を支払いましょう。特に問題がなければ、謄本と領収書が届きます。なお、公証役場によっては本人確認のためにテレビ電話を使うなど、特殊な手続きもあるので事前に確認しましょう。
秘密証書遺言を見つけるには
秘密証書遺言が見つからない場合、以下のいずれかの手段で探すことになります。
- 公証役場に問い合わせる
- 遺言書を捜索する
公証役場に問い合わせる
まず、公証役場に問い合わせましょう。秘密証書遺言の場合でも、公証人に遺言書の存在自体は認知されているはずです。公証役場に問い合わせれば調べてもらえます。
また、日本公証人連合会の「遺言登録・検索システム」を利用して探すことも可能です。ただし、先ほど触れたとおり、遺言者から見て利害関係人に当たる方でないと問い合わせや検索はできません。
遺言書を捜索する
注意したいのは、秘密証書遺言自体は公証役場に保管されていないため、存在が確認できても内容がわからないことです。
そのため、自筆証書遺言同様に自力で探し出すことになります。先ほど紹介した遺言書を保管している可能性が高い場所を中心に捜索し、自力で見つけられなければ専門会社への依頼も検討しましょう。
【注意!】自筆証書遺言・秘密証書遺言を見つけても勝手に開封しない
自筆証書遺言や秘密証書遺言を見つけた場合、勝手に開封しないようにしましょう。これらの遺言書は、改ざんや偽装を防ぐため、家庭裁判所による検認を行わなくてはいけないからです。見つかったらそのまま家庭裁判所に持ち込み、検認の申立てをしてください。遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。遺言書1通につき800円の手数料および連絡用の郵便切手が必要です。
ただし、自筆証書遺言保管制度を使っていた場合は家庭裁判所による検認は必要ありません。法務局で保管されていた以上、改ざん・偽造のリスクは低いためです。
なお、勝手に遺言書を開封した場合、50,000円以下の過料に科せられます。万が一開封してしまった場合は、速やかに家庭裁判所に相談しましょう。
遺言書がどうしても見つからないなら遺産分割協議を
遺言書がどうしても発見できなかったら、まずは無い前提で遺産分割協議を行わなくてはいけません。遺産分割協議とは、被相続人=亡くなった方の財産について、法定相続人(法律上、相続人になりうる方)全員でどう分け合うか話し合う手続きのことです。法定相続人とは、亡くなった方の配偶者、子、父母、兄弟姉妹などのことです。
なお、遺産分割協議は以下の流れで進めます。
- 法定相続人を確認する
- 法定相続分を確認する
- 相続財産の確定
- 財産目録を作成
- 遺産分割協議
- 合意内容を記載した遺産分割協議書を作成
「相続税の申告・納税は、相続の発生を知った日の翌日から10ヵ月以内」というルールがある以上、その前に遺産分割協議を済ませるのが望ましいです。現実的には遅くても相続発生から半年~8ヵ月後までには済ませておきたいところでしょう。
遺産分割協議後に遺言書を見つけた時の対処法
遺産分割協議後に遺言書を見つけた場合でも、相続人全員が遺産分割協議の内容に納得しているのであれば、再度協議をやり直す必要はありません。
ただし、遺言で「遺産の分割を禁止している」「相続人から除名されている方がいる」といった場合は話が違ってきます。また、遺産分割協議をやり直す場合、内容に応じて相続税・贈与税の修正申告が必要になるかもしれません。遺産分割協議書の内容と遺言書の内容が大きく食い違う可能性があるためです。判断が難しい場合は、専門家に相談し意見を仰ぎましょう。
スムーズな相続を目指すなら遺言書の保管場所や内容が重要
スムーズな相続を目指すなら遺言書の保管場所や内容が重要です。そもそも遺言書自体が見つからなかったり、内容に不備があって無効になったりしたら話がややこしくなります。トラブルを避けるためにも、公正証書遺言を作成するか、自筆証書遺言書保管制度などを利用し、遺言書をきちんと保管しておきましょう。
また、内容に不備があると遺言書が無効となってしまうので、正しく遺言書を作成することも同じくらい重要です。氏名がフルネームでなかったり、正確な日付がわからなかったりなどの軽微な誤りでも、遺言書は無効になってしまいます。
ご自身で作るのが難しいと感じた場合は、「セゾンの相続 遺言サポート」に相談しましょう。遺言を含めた相続手続きの経験豊富な提携専門家のご紹介も可能ですので、スムーズな遺言作成をサポートいたします。相談だけなら無料なので、まずはお気軽にお問い合せください。
おわりに
遺言書が見つからなかった場合、最終的には遺産分割協議を行って相続を進めていくことになります。しかし、後から遺言書が出てきた場合はトラブルになりがちです。また、遺言書自体は見つかったものの、内容に不備があったら無効になってしまいます。
まずは「内容に問題がない遺言書を、確実に見つけてもらうこと」を前提に準備を進めましょう。公正証書遺言や自筆証書遺言保管制度の利用を積極的に検討してください。加えて、内容に不備が無いよう、早い段階から専門家へ相談しながら進めておきましょう。