相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算できます。相続税対策として、養子縁組を活用した基礎控除額の調整を検討している方は多いのではないでしょうか。
このコラムでは養子縁組によって基礎控除額が増える仕組みや、検討する際の注意点について解説します。法律に詳しくなくても簡単に理解できる内容になっていますので、相続税にお悩みの方はぜひ参考にしてみてください。
この記事を読んでわかること
- 相続において養子は実子と同じ扱いを受ける
- 明らかな節税目的による養子縁組は法定相続人として認められない
- 養子縁組による節税効果は個別の事例ごとに検討が必要である
養子縁組で相続税の基礎控除額が増える仕組み
2015年の税制改正で、2014年以前と比べて相続税がかかるケースは2倍近く増えました。法改正をきっかけに、節税を考えている方が増えています。
まずは相続税の仕組みや、基礎控除が増える理由について解説しましょう。
相続税の仕組み
相続税とは「亡くなった方から相続した財産」にかかる税金です。課税対象の相続財産の額から「基礎控除」を差し引いた後に、税率をかけて計算します。
基礎控除を差し引いた結果、課税対象の相続財産の額がゼロになった場合は、相続税は発生しません。つまり、基礎控除が大きくなるほど、納める相続税は少なくなります。
基礎控除額を求める際に使用する計算式は、以下のとおりです。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
亡くなった方の配偶者は、常に法定相続人になります。その他の血族相続人には、以下のように順位が定められています。
第1順位 | 子(または孫) |
第2順位 | 親(亡くなっていれば祖父母) |
第3順位 | 兄弟姉妹(亡くなっていれば甥・姪) |
前の順位に該当者がいない場合に限り、ひとつ後ろに繰り下がって法定相続人の範囲が広がる仕組みです。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されるため、法定相続人が増えるほど基礎控除額は多くなります。例えば法定相続人が「配偶者+子ども2人」と「配偶者+子ども4人」の場合で計算した基礎控除額は、以下のとおりです。
法定相続人 | 基礎控除額 |
配偶者+子ども2人 | 4,800万円(3,000万円+600万円×3人) |
配偶者+子ども4人 | 6,000万円(3,000万円+600万円×5人) |
子どもは法定相続人の第1順位に分類されるため、人数が多くなるほど基礎控除額は増えます。
養子縁組で法定相続人が増える
養子縁組とは、血縁関係のない方同士で法律上の親子関係をつくり出す制度です。養子縁組によって親になる方が「養親」、子になる方が「養子」となります。法律上の親子関係が成立するため、養子縁組すると法定相続人の人数が多くなり、相続税の基礎控除額が増加します。
また基礎控除以外にも、養子縁組による法定相続人の増加は相続税の計算に以下の影響を与えます。
- 生命保険の非課税限度額の増加(非課税限度額=500万円×法定相続人の数)
- 死亡退職金の非課税枠の増加(非課税限度額=500万円×法定相続人の数)
死亡退職金とは、亡くなった方が本来受けとるはずだった退職金を指し、一般的な相続人は遺族です。法定相続人の増加によって、相続税の節税につながる可能性があります。
相続税対策として養子縁組するケース
実子と孫は法定相続人の第1順位に属します。しかし、通常亡くなった方の実子が生きていれば、孫は法定相続人になりません。
「世話になったから、孫に財産を残したい」といった場合は、養子として迎えることで孫を法定相続人にすることが可能です。養子として迎えられた孫は、実子と同じ割合の財産を相続する権利を得ます。また、相続税の基礎控除額は法定相続人×600万円増えるため、節税効果が期待できるのです。
普通養子縁組の場合、祖父母と養子縁組しても孫と実の両親との親子関係は解消しません。実の親もしくは祖父母が亡くなった場合、どちらのケースでも孫は法定相続人となります。
節税対策で養子縁組する注意点
養子縁組は基礎控除額の増加に有効です。ただし、節税対策として実施する養子縁組には、以下4つの注意点があります。
- 基礎控除の対象となる養子の人数
- 孫養子は2割加算がある
- 遺産分割でトラブルになる可能性も
- 節税目的だけで養子縁組は認められない
注意点を押さえておくことで、トラブルの発生を未然に防げます。それぞれ順番に解説しましょう。
基礎控除の対象となる養子の人数
養子のうち何人までが基礎控除を認められるかは、相続税法で決まっています。実子がいる場合は1人、いない場合は2人が上限です。例えば実子がいない家族に3人目の養子を迎えたとしても、基礎控除の対象にはなりません。
ただし、養子であっても「特別養子縁組」や「縁組配偶者の実の子で養子となっている方」などは実子と見なされる場合があります。養子縁組による節税効果は個別の事例ごとに計算する必要があるため、検討する際には専門家への相談が必要です。
孫養子は2割加算がある
法定相続人になっていても、孫養子は相続税額が「2割加算」となる場合があります。2割加算は、亡くなった方の配偶者や一親等以外が相続人になった場合に、相続税が2割増しになる仕組みです。一親等とは、亡くなった方からみて以下の続柄に当たる方を指します。
- 配偶者
- 父母
- 子
亡くなった方の孫養子は2割加算の対象に含まれるため、養子縁組によって相続税の負担がかえって大きくなってしまう可能性があります。
なお、孫以外を養子にした時には、2割加算の影響を受けません。例えば、法律的に養子となっている「婿養子」の場合は、2割加算の対象外です。
遺産分割でトラブルになる可能性も
養子縁組による節税は、遺産分割協議の際にトラブルになる可能性があります。例えば、配偶者と実子2人の家族の場合、法定相続の割合は以下のとおりです。
- 配偶者:2分の1
- 実子A:4分の1
- 実子B:4分の1
遺産相続の際、養子の取り分は実子と同じ扱いになります。配偶者と実子2人に養子1人を加えて計算した法定相続の割合は、以下のとおりです。
- 配偶者:2分の1
- 実子A:6分の1
- 実子B:6分の1
- 養子C:6分の1
実子の立場からすると、養子が増えるたびに自分の取り分が減る仕組みです。そのため相続税対策での養子縁組は、遺産分割の際に相続争いに発展する恐れがあります。
節税目的だけで養子縁組は認められない
明らかな節税目的による養子縁組と見なされると、養子は法定相続人に含まれません。国税庁によると「養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子は法定相続人の数に含まない」とされています。
税法上は節税目的の養子縁組は認められていないため、税金対策の養子縁組は効果を発揮しない可能性があるのです。
養子縁組で節税対策する前に
養子縁組による節税にはいくつかの注意点があるものの、基礎控除額の増加には一定の効果があります。養子縁組する前に押さえておくべき点は、以下の3つです。
- 養子縁組のメリットとデメリットを確認しておく
- 相続税に詳しいプロに相談する
- 養子縁組に対して家族の合意を得る
節税対策として養子縁組を考える際には、充分に検討して方向性を決めましょう。それぞれ順番に解説します。
養子縁組のメリットとデメリットを確認しておく
養子縁組によるメリットとデメリットを事前に理解しておくことで、節税の方法として採用するかを比較検討できます。具体的なメリットとデメリットは以下のとおりです。
<メリット>
- 相続税の基礎控除額が増える
- 生命保険の非課税限度額が増える
- 死亡退職金の非課税枠が増える
- 配偶者や子ども以外に財産を継承できる
<デメリット>
- 孫養子には相続税額の2割加算がある
- 遺産分割協議が難航する恐れがある
どれくらいの節税効果があるかを含めて、養子縁組する前にメリットとデメリットを確認しておくことが重要です。
相続税に詳しいプロに相談する
養子縁組による節税対策は、個別の事例ごとに効果を検証する必要があります。相続税に詳しいプロに相談することで、正確かつスムーズな節税対策が可能です。
「セゾンの相続 相続対策サポート」では、お客さまの相続に関するお悩みを解決します。相続対策に強い提携専門家のご紹介ができ、お客さまに適したプランをご提案いたします。セミナーの参加やご相談料は無料です。相続に関するお悩みをお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。
養子縁組に対して家族の合意を得る
養子が法定相続人に入ることで、相続トラブルになる恐れがあります。養子縁組する前に、相続人となる家族や親族に合意を得ておくことが重要です。
場合によっては、養子を取ることにより相続人が減ってしまいます。例えば、亡くなった方に実子がおらず配偶者と父母が相続人となる家族を想定しましょう。養子は法定相続人の第1順位になるため、このケースで父母は相続人になりません。権利関係のトラブルを避けるために、養子縁組についてあらかじめ関係者の合意を得ておきましょう。
おわりに
養子縁組で養子を取ると、相続税の基礎控除額が増え節税効果が期待できます。ただし、明らかな節税目的での養子縁組は認められていないため、注意が必要です。養子縁組による節税効果は、個別に検証する必要があります。検討する際には、専門家へ事前に相談しておくと安心です。