読者の皆さまのなかには、ご自身の生い立ちも含めたさまざまな理由によって「自分が亡くなった時に遺骨を埋葬するお墓の候補がない」という方もいらっしゃることでしょう。
また、お墓を解体・撤去して更地にする墓じまいを希望していても、その後はどうするかということが、よく分からないという方もいるかもしれません。
そこでお墓がない場合の対処法、墓じまいのやり方などについて、説明していきます。
- お墓が必要かどうかは、最終的にはご本人やご遺族次第
- 故人の遺骨を埋葬・散骨していいのは法で許可された場所だけ
- 墓じまいをしたいが墓標的なものが欲しい方には、永代供養墓・納骨堂・樹木葬などがおすすめお
- 墓によらない供養法としては、散骨や手元供養などがある
そもそもお墓とはどのようなもの?
そもそもお墓とはどういうものかというと、「人間、動物の遺体や遺骨を葬る場所」のこと。約4万年前までユーラシアに住んでいたネアンデルタール人の頃から、お墓の歴史は始まっていると言われています。
お墓の必要性とは
現代において、日本も含めた多くの国では一般的に「お墓は故人とのコミュニケーションを取る際の拠り所である」と考えられています。しかしながら、それは実際には近代以降の発想であり、前近代では東西を問わず「(特に支配者層にとっての)故人の名声を保つ場」であり、「穢れ・タブーとしての死を生きている人々から隔離するエリア」でもあるとする考え方が一般的でした。
なお前近代社会では、故人は「神(ここでは、信仰する宗派を問わず信仰対象としての超越的な絶対者の意)に委ねられた存在」であるという信仰が強く、故人の冥福を祈ることはあっても故人とのコミュニケーションを積極的にとるという発想はあまりなかったのです。
このお墓についての認識の大転換は、近代に入り市民社会が発達して宗教の信仰が相対化され、またいわゆる国民・国家意識が普及したことによる「近代家族」「公共」の概念の発達とも無縁ではありません。
例えば日本の場合、現代では一般的な寺院墓地や霊園などに多く、いわゆる先祖代々の墓(家墓)が誕生したのは18世紀後半、広まったのは明治時代以降、地域によっては戦後に入ってからでした。なお、このタイプの家墓の普及は近現代日本での庶民層への火葬の普及によるお骨拾い、骨壺の普及、墓地拡張やお墓の新設制限とも連動しています。つまり、「先祖代々の墓」の歴史はそれほど長くないわけです。
ではそれ以前の時代、特に庶民層はどうであったかというと、中世の初め頃までは(特により貧しい人々は)いわゆるお墓を作らず故人の遺体を人里離れた場所などに遺棄する(風葬)か、せいぜい土に埋める程度(簡易な土葬)といった遺棄葬が一般的でしたが、時の経過とともに寺院墓地の出現もあり、庶民層もお墓を建てるようになりました。
近代日本を代表する童話作家である新美南吉の代表作の一つで、江戸時代頃を漠然と舞台とする『ごんぎつね』には、主人公の狐「ごん」が人間側の主人公「兵十」の母の葬儀を見る場面があります。埋葬された場所を詳しくみていきましょう。ここでは兵十の母の遺体は、村の墓地に埋葬され、彼女が埋葬された村の墓地の近くには六地蔵さんが建てられているとあります。遠く向うには、お城の屋根瓦が光っているのが見え、村の方から葬式の出る合図の鐘が聞こえてきたと書かれております。村の人々が住んでいる場所からは若干離れた場所であり生者から隔離するエリアという意味もあるようです。
これはあくまで後世の創作作品のなかの描写にすぎませんが、兵十の母は前近代の庶民のさまざまなお墓の形態の一つである「総墓」、つまり複数の家族あるいは血縁関係にない人々が、一つのお墓や納骨堂を共有している形態のお墓に埋葬されたわけです。なお、こうした総墓など前近代の庶民のお墓の中には、いわゆる「みなし墓地」として現在も残っているものもあります。
そして現代では、ヒットした『千の風になって』という歌の、主人公の故人が自分はお墓に入らず自由な風になったと語る歌詞には、お墓をめぐる社会の変化が見られます。お墓を故人との交流の拠り所とする考え方も、時として相対化されるようになりました。
結局、お墓が本当に必要かどうかはご自身と、ご家族やご親戚などの考え方次第なのです。
一般的な墓石の相場や流れ
現在、墓石のあるお墓を新しく建てるには、多くの場合、予算は3,000,000~6,000,000円程度が多いです。そしてお墓を発注してから、引き渡しまでは基本的に2~3ヵ月程度かかります。
遺骨は仏式の場合、四十九日に納骨するのが一般的。故人が亡くなってからお墓を建てる場合ですと、多くのケースでは一周忌や三回忌法要の後に納骨します。なお、仏式以外では、信仰する宗教宗派で故人を追悼する日、無宗教の場合には都合のいい日に納骨するのが一般的です。
お墓がない場合のよくある悩み
皆さまのなかには、ご自身が将来亡くなった際に入るお墓がないが新しく建てるつもりはない、また墓じまいをしたいが、そこに埋葬された遺骨の行き場が未定であるという方もいらっしゃることでしょう。
新しくお墓を建てること、あるいは今あるお墓をご自身が入るお墓にすることがためらわれる理由について見ていきます。
費用負担が心配
お墓を新規に建てる際にかかるのは、初期費用だけではありません。その後も費用はかかり続けるのです。例えば、特に寺院墓地や霊園などでは管理費が、墓石の経年劣化や破損の際には修繕費がかかります。
また、お墓を用意したいが初期費用からして何百万円もかかるので、それを生活費等とは別に用意するのは経済的に難しいので、お墓は持たないつもりだ、という方も少なくありません。
管理・継承してくれる方がいない、あるいはお墓の継承を無理強いしたくない
子どもがいない、またはいたとしても近くに住んでいない、あるいは子どもとは信仰する宗教や価値観が異なる、死後まで子どもの負担になりたくないという方もいらっしゃいます。
こうしたことも、お墓を持つことがためらわれたり、墓じまいを希望したりする切実な理由の一つなのです。
トラブル注意!遺骨はどこにでも埋めていいわけではない
現代の日本では故人の遺骨を、ご自身が所有する土地であっても、墓地埋葬法(通称、墓埋法)という法律により決められている場所以外に埋葬、あるいは散骨することが禁じられています。
そのため、散骨などのいわゆる自然葬を行う場合、知らずに墓埋法で禁じられている区域で自然葬を行ってしまい、法的対処を受けるなどのトラブルに見舞われてしまうリスクもあるのです。
まずは、自然葬に強い葬儀会社など葬儀関連のプロフェッショナルに相談しましょう。その際には、後述の「セゾンのお墓探しサポート」のご利用をおすすめします。
費用を抑えられるお墓はある?
ここでは、費用を抑えたい、またご自身やご家族専用のお墓は無理には欲しくないが、不特定多数の人たちと共有でも良いので、分かりやすいお墓が欲しいという方におすすめのお墓の種類をご紹介します。
永代供養墓
故人のご遺族などの代わりに、霊園や寺院などの宗教機関が管理するお墓のことを、永代供養墓といいます。永代供養墓にはいくつかのタイプがあり、タイプごとに費用相場もさまざま。いくつかみていきましょう
- 単独型(個別型)
個人あるいは家族(あるいはそれに準ずる人々)単位で個別に墓標を建てて埋葬する永代供養墓のこと。施設によって費用相場が大幅に異なるため確認が必要です。なお、一定の期間が経つと合祀されるケースが多いので、合祀に抵抗のある方は注意しましょう。
- 合祀型
埋葬・納骨する際に遺骨を骨壺から取り出し、他の故人の遺骨と一緒に合祀するタイプ。後述する納骨堂タイプや、樹木葬タイプのものも多いです。単独型や次に述べるような集合型の中には、一定期間が経つとこの合祀型のお墓に改葬されるシステムが多いです。相場は50,000〜100,000円程度。
- 集合型
墓石や納骨堂などシンボルとなる墓標は他の故人と共有し、埋葬場所は個別化されているタイプ。こちらも、一定の期間後に合祀されるケースが多いです。150,000〜600,000円程度が相場。
納骨堂
納骨堂は遺骨を納骨できる屋内施設のことであり、しばしば永代供養墓のバリエーションの一つともされます。納骨堂にはいくつかのタイプがあり、タイプ別に費用の目安はどのくらいか見ていきましょう。
- 合祀型
遺骨を骨壺に入れず他の故人の遺骨と一緒に納骨するタイプで、永代供養墓のバリエーションの一つでもあります。最初から合祀する場合、かかる費用はかなり安価であり30,000〜100,000円程度が相場。
- 個別型・ロッカー式
個人単位で納骨するタイプですが、それほどスペースを取らないため割安で、150,000〜200,000円程度が目安。ただし、首都圏や京阪神圏の都心部の場合、250,000〜300,000円以上かかってしまうケースもあります。
- 個別型・仏壇式
これも個別型ですが、最低でも2人単位でないと使えない場合が多いので、その点に注意が必要。なお、同性カップルも含めた事実婚カップルにも対応しているケースもあります。2人料金の場合、800,000円程度が相場となります。
- 個別型・墓石式
銘板・墓誌あるいは墓石を納骨堂内に設置するタイプ。他のバージョンに比べて、一人1,000,000円程度と高額です。
これに加え、年間数千円程度の管理費がかかる場合もあります。なお、施設によって設備の充実度が異なるので、事前に見学して確認しておきましょう。
樹木葬
樹木葬は自然葬の一つであり、墓石でなく樹木や花(シンボルツリー)が墓標となります。永代供養墓のバリエーションとしてもよく選ばれます。
大きく分けて、自然の森林・里山を利用した墓地に埋葬される「里山型」、庭園風の「庭園型」、散策できる広い公園のような「公園型(都市型とも)」の3種類。また一般的な永代供養墓同様、「個別型」「集合型」「合祀型」にも分けられます。
費用相場は個別型が500,000〜1,500,000円程度、集合型が200,000〜600,000円程度、合祀型が100,000〜200,000円程度。「自然に囲まれた土地で穏やかに眠りたい」「自然に還り食物連鎖の一部になりたい」など、自然指向の方に人気の葬法です。
お墓を持たない場合の供養方法
お墓に納骨しない遺骨の供養法もあります。ここでは、代表的なお墓に納骨しない供養法について見ていきましょう。なお費用相場はケースによって異なりますので、確認が必要です。
散骨
遺骨を粉状にして自然のなかにまく葬法で、代表的な自然葬の一つです。
山や森で行うケースもありますが、近隣住民の方たちの心象を害するなどトラブルになりやすいため、一般には海上散骨が多く選ばれています。
なかには日本の海だけでなく、ガンジス川やハワイなど海外の海や川に散骨する方もいます。
手元供養
遺骨を埋葬せずご自身の手元で管理・供養すること。手元供養を行う方の多くは故人の遺骨を分骨し、一部を散骨、その他の自然葬、あるいは後述の本山納骨などして、残りの遺骨をお手元にあるミニ骨壺で保管するケースが多いです。
また、手元供養の専門会社のなかには遺骨を人工宝石、アクセサリーに加工するサービスを展開しているところもあります。アクセサリーとして遺骨を常に身につけておくのも、現代においては一つの弔いのあり方なのかもしれません。
ちなみに、埋葬や納骨は法的な義務ではないため、手元供養は違法ではありません。
本山納骨
仏式の場合、ご自身の信仰する仏教宗派の本山に遺骨を納める「本山納骨」も、西日本を中心に盛んです。なお、これは近年始まったことではなく民俗学的には「無墓制」と呼ばれ、前近代にはすでに浄土真宗信者を中心に行われていました。
ちなみに厳密には「本山」納骨ではありませんが、大阪市にある一心寺は、納骨された遺骨を粉砕して仏像「骨仏」を作り続けるというユニークな供養法を1887年から行なっています。一心寺の宗派は浄土宗ですが、納骨される故人の宗派も国籍も不問です。
ゼロ葬
ゼロ葬とはお骨拾いや埋葬(納骨)をせず、火葬をしたら遺骨を火葬場に引き取って処理してもらう葬法で、いわば現代型無墓制というべき葬法です。ゼロ葬は宗教学者の島田裕巳氏によるネーミングで、島田氏はこれによって、人はお骨拾いその他の遺骨に関する宗教的根拠のないしきたりや、墓の重荷から完全に開放されると指摘しています。
ゼロ葬には賛否両論ありますが、皆様のなかにも是非やりたいとお考えの方もいらっしゃることでしょう。ただ、実際には現時点でゼロ葬に対応している火葬場は西日本、特に近畿地方に何ヵ所かある程度なので、全国どこの火葬場でもできるわけではありません。
どうすればいいのか迷った時は
お墓を建てる・建てないにかかわらず、「今の日本で一般的とされるお墓」に埋葬しない葬法は思った以上に多くあります。さまざまな葬法について、どのような方法が最もご自身に適しているのか迷ったら、是非一度こちらの「セゾンのお墓探しサポート」をご利用ください。
おわりに
今回、小学校の国語の教科書に取りあげられることも多い『ごんぎつね』について若干触れましたが、こうした日本や海外のさまざまな古典的な名作文学のなかには、フィクションとはいえ実際に過去の時代に行われていた葬儀や、埋葬の様子をリアルに描写したくだりがある作品が実は多いのです。
こうした名作に描かれたさまざまな葬法の描写が、従来こうであるべきとされてきた葬儀・埋葬の形に固執する必要はない、と教えてくれているのかもしれません。
<参考文献>
加藤長『令和の葬送 戒名はいらない!』同時代社、2019
勝田至編『日本葬制史』吉川弘文館、2012
島田裕巳『0葬 あっさり死ぬ』集英社、2014
森謙二『墓と葬送の社会史』吉川弘文館、2014
八城勝彦『墓じまいのススメ これが親の子孝行』廣済堂出版、2014