一度遺産分割協議を行ったものの、何らかの不備があった場合は遺産分割協議のやり直しをしたいと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、遺産分割協議とは何なのか、遺産分割のやり直しの可否、できるケースとやり直しのデメリットなどについて解説します。遺産分割協議のやり直しについて詳しく知りたいという方は、是非参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- 遺産分割協議書を作成すると法的には成立したことになる
- 原則遺産分割協議のやり直しはできないが、解除・取り消し
- 無効の場合には可能
- 初回の協議の準備をしっかり行う、専門家に相談しながら進めれば再協議の手間を省ける
遺産分割協議とは
相続が発生した場合、何をどうすればいいのかわからない方も多いでしょう。まずは遺産分割協議や遺産分割協議書とは何か、遺産分割協議が必要なケースについて詳しく見ていきましょう。
遺産分割協議が必要なケース
遺産分割協議とは、相続財産の分割方法について相続人同士で話し合うことです。被相続人が生前に遺言書を作成していた場合は、遺言書の内容に従って遺産分割を行います。
遺言書が作成されていない場合や遺言書の内容や法定相続分とは異なる割合で遺産を分割する際は、遺産分割協議が必要になります。
しかし、遺産分割協議は相続人全員の同意が必要になるため、話し合いがうまくまとまらないことも少なくありません。その場合は調停や審判による手続きに移行します。
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、遺産分割協議の内容をまとめた書類です。遺産分割協議書には、相続人全員で署名・押印をします。
相続人全員の署名・押印は、遺産分割協議書の内容に全員が合意していることを証明するものです。そのため、遺産分割協議書を作成後に、相続人のひとりが内容を勝手に変更することはできません。
遺産分割協議のやり直し
一度相続人同士で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成した後で協議のやり直しができるのか気になる方もいらっしゃるでしょう。
遺産分割協議のやり直しをできるかどうかは、状況によって異なります。遺産分割協議をやり直せるケースとやり直せないケースを詳しく解説していきます。
遺産分割協議をやり直しできないケース
遺産相続について相続人同士で話し合って作成した遺産分割協議書は法的に有効なものであるため、基本的に協議をやり直すことはできません。また、調停や審判で遺産分割協議が成立している場合も同様です。
最初の遺産分割協議の内容に基づいて既に遺産が第三者に渡っている場合は、再協議のために遺産を取り戻すことができず、第三者が保護されるということも覚えておきましょう。
遺産分割協議をやり直しできるケース
遺産分割協議は絶対にやり直すことができないというわけではありません。相続人全員がやり直しと再協議した内容に合意している場合(解除)は、遺産分割協議のやり直しが認められます。
また、取り消しや無効のように正しく遺産分割協議が実施されていなかった場合は、遺産分割協議のやり直しが認められるでしょう。
遺産分割協議をやり直しできる具体的なケース
遺産分割協議をやり直せる主なケースとして、以下の3つが挙げられます。
- 解除
- 取り消し
- 無効
ただし、遺産分割協議をやり直せるといっても遺産分割協議の取消権をいつでも行使できるわけではありません。取消権の時効は5年と決まっているため、上記の条件に該当していて取り消したい方は速やかに実行する必要があります。
それぞれのケースを詳しく見ていきましょう。
解除
相続人全員が遺産分割協議をやり直すことに合意している場合には、遺産分割協議書の内容を解除できます。
ただし、あくまでも解除できるのは相続人全員が合意している場合のみです。その理由は、相続人の一部の都合でやり直しが認められてしまっては他の相続人の負担が大きくなるためです。
相続人全員が一度作成した遺産分割協議書の内容に不満を抱いており、再度協議が必要と感じているケースでは、遺産分割協議をやり直せるでしょう。
取り消し
遺産分割協議の際、騙されていた(詐欺)、脅迫されていた場合は、成立した遺産分割協議の内容が自身の希望する内容とは違います。
そのようなケースでは、正しい手段によって行われた遺産分割協議といえないため、相続人は同意を取り消すことが可能です。
無効
遺産分割協議が有効に成立していなかったと判断される場合についても、遺産分割協議のやり直しが認められます。
遺産分割協議が無効と判断されるケースとして、以下の3つが挙げられます。
- 遺産分割協議に全員が参加していない
- 遺産分割協議の内容に錯誤があった
- 遺産分割協議に判断能力のない相続人が参加
無効を主張しても、場合によっては認められない可能性もあるので注意してください。
遺産分割協議に全員が参加していない
遺産分割協議は相続人全員が参加しなくてはならないため、遺産分割協議に全員が参加していないと有効な協議が行われたとはいえません。その理由は、遺産分割協議書を作成する際は、相続人全員の署名・押印が必要で、全員が参加していないということは全員分の署名押印がないためです。
署名・押印のない遺産分割協議書は有効とならないことから、無効を主張することで遺産分割協議のやり直しが認められるでしょう。
遺産分割協議の内容に錯誤があった
遺産分割協議を行った後に相続財産が他に見つかった、相続人の代表者の指示を信じて従ったものの不利な内容だったといったケースでは、本人が希望した遺産分割が成立していません。
上記のような遺産分割協議の内容に錯誤(重大な勘違い)があった場合には、遺産分割協議の無効を主張できる可能性があります。
しかし、他のケースよりも無効が認められることは難しいです。その理由は、遺産分割協議の内容に一度は同意をしているためです。無効を主張してもやり直しが認められない可能性があるという点に注意しましょう。
遺産分割協議に判断能力のない相続人が参加
判断能力のない相続人が遺産分割協議に参加しているケースでは、署名・押印がある場合でも無効を主張できます。その理由は、判断能力のない相続人が法律行為を適切に行うためには、成年後見人を選任する必要があるためです。
手続きが必要であるにもかかわらず、適切な手続きを経ずに協議が行われたことになるため、無効を主張することで遺産分割協議のやり直しが認められるでしょう。
遺産分割協議のやり直しによる3つのデメリット
遺産分割協議のやり直しが最善の選択肢とは限りません。遺産分割協議のやり直しには以下のようなデメリットを伴うため、総合的にやり直すべきかどうかを判断することが大切です。
- 時間や労力がかかる
- 税金がかかる
- 完全にはやり直しできないケースも
それぞれのデメリットを詳しく解説していきます。
時間や労力がかかる
遺産分割協議をやり直すということは、再度話し合いのための時間を確保しなくてはならないほか、協議に必要な書類を集め直さなくてはなりません。
遺産分割協議のやり直しには時間や労力がかかるということを理解した上で選択しましょう。
税金がかかる
相続のやり直しには、以下のような税金がかかる可能性があります。
- 贈与税・所得税
- 登録免許税・不動産取得税
ただし、無効・取り消しの場合の扱いは自己都合によるやり直しとは異なるので注意が必要です。
贈与税・所得税
自己都合による相続のやり直しの場合には、最初の遺産分割協議書の内容で遺産分割が成立している扱いとなります。そのため、やり直したことによって各相続人の遺産分割に変化が生じた場合には、相続人間で贈与が行われたと解釈される可能性があります。
贈与が行われたと解釈された場合は、贈与税や所得税が課される可能性があるので注意が必要です。
登録免許税・不動産取得税
相続財産に不動産が含まれている場合、遺産分割協議後に被相続人から相続人に名義変更をしている可能性があります。名義変更の際、不動産を取得した相続人が名義変更の登記にかかる登録免許税、不動産を取得したことで発生する不動産取得税を納めています。
遺産分割協議のやり直しによって不動産の相続人が変わった場合、再度名義変更手続きが必要です。そのため、改めて登録免許税と不動産取得税がかかってしまうという点に注意してください。
無効・取り消しの場合の扱い
最初の遺産分割協議が無効・取り消しとなった場合、最初から通常の遺産分割協議が行われたという扱いになります。相続によって遺産分割が行われることになるため、贈与税や所得税がかかることはありません。
ただし、遺産分割協議後に相続税の申告手続きが完了していた場合には、相続税の修正申告や更生の請求が必要になるので忘れずに行いましょう。
完全にはやり直しできないケースも
遺産分割協議のやり直しが完全にはできないケースもあるので注意が必要です。例えば、再協議前に相続で取得した不動産を第三者に売却している場合、第三者から不動産を取り戻して遺産分割協議を再度行うことはできません。
上記のような行為が認められては、不動産を安心して取得できないため、不動産を取得した第三者が保護されているのです。
解除・取り消し・無効の条件に該当すれば必ずやり直せると思っている方も多いかもしれませんが、完全にはやり直しできないケースがあることを理解しておきましょう。
遺産分割協議をやり直しするには
遺産分割協議のやり直しをするには、以下のいずれかの方法を選択します。
- 相続人全員で再度遺産分割協議を行う
- 調停の申し立てをする
それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
相続人全員で再度遺産分割協議を行う
相続人全員が遺産分割協議のやり直しに合意しているケースでは、相続人全員で再度遺産分割協議を行います。また、再協議後は話し合った内容で遺産分割協議書の作り直しが必要です。
亡くなっている相続人がいる場合は、亡くなった方の相続人が全員参加する必要があります。
調停の申し立てをする
再協議の必要があるにもかかわらず相続人が応じない、再協議が物別れに終わった場合には、調停の申し立てを行います。調停は理由によって以下の3つに分かれます。
種類 | 理由 |
遺産分割調停 | 遺産分割のやり直しの合意がある、裁判で確認できている場合 |
遺産分割協議無効確認の調停 | 詐欺・脅迫があった、相続人全員が参加していなかった、 判断能力のない相続人が参加していた場合 |
遺産分割協議不存在確認の調停 | 他の相続人や第三者が遺産分割協議書を捏造していた場合 |
どのような目的で調停を申し立てるのかを確認してから申し立てましょう。
遺産分割協議をやり直さないために
遺産分割協議のやり直しには手間がかかります。そのため、できる限り遺産分割協議をやり直さずに済ませたいところです。
遺産分割協議のやり直しをせずに済ませるためのポイントとして、以下の2つが挙げられます。
- 遺産分割協議の前準備は確実に
- 相続の専門家に相談する
それぞれのポイントを詳しく解説していきます。
遺産分割協議の前準備は確実に
遺産分割協議後に新たな相続財産が見つかった、相続人全員が参加していないことが発覚したなどのトラブルを回避するには、協議前に相続財産や相続人の調査を確実に行っておくことが大切です。
調査に時間をかけるのが面倒と感じる方もいるかもしれませんが、再協議になったほうが面倒です。無駄な手間を増やさないためにも、最初にしっかりと準備しましょう。
相続の専門家に相談する
遺産分割に不備があった場合は、誤った内容で相続税の申告をすることで、税務署からペナルティを受ける可能性があります。不安を感じている方は専門家に相談したほうが安心できるでしょう。
相続手続きに不安を抱いている方は、「セゾンの相続 相続手続きサポート」までご相談ください。経験豊富な提携専門家のご紹介も可能ですので、相続手続きの悩みを速やかに解決できるでしょう。
おわりに
被相続人が遺言書を作成していなかった場合や、遺言書の内容と違う遺産分割方法を選択する場合などには遺産分割協議が必要です。
一度遺産分割協議で話し合った内容をまとめた遺産分割協議書を作成した場合、法的には話し合いが成立したことになるため、原則やり直しはできません。
解除・取り消し・無効の場合はやり直すことができますが、やり直しには手間がかかります。手間を省くためにも、最初から前準備をしっかりする、そして専門家に相談しながら遺産分割を進めましょう。