相続税が0円でも、申告が必要か不安に感じている方もいるでしょう。基本的に相続税が0円の場合申告は必要ありませんが、利用する特例や控除によっては、申告が必要です。
そこで本記事では、相続税が0円でも申告が必要なケースや、申告漏れに関するペナルティを解説します。ペナルティを受けて余計な税金を払わないためにも、ぜひ参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- 基礎控除を上回らなければ、相続税が0円になる
- 相続税が0円でも、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を利用すると申告しなければならない
- 利用する条件が細かく定められている特例があり、適用を受けられるか専門家に相談するべき
- 相続税の申告漏れがあると無申告加算税や延滞税を課される可能性がある
相続税が0円になるケースは?
相続税は、遺産を受け継いだ全員にかかるわけではありません。以下の3つのケースに該当した場合は課税されません。
- 遺産総額が基礎控除を上回らない
- 非課税枠を利用したら基礎控除を上回らない
- 特例を利用したら基礎控除を上回らない
それぞれのケースを解説します。
遺産総額が基礎控除を上回らない
遺産総額が相続税の基礎控除を上回らない場合、申告の必要がありません。相続税の対象となる遺産には、以下のものが含まれます。
- 預貯金
- 株式
- 不動産
- ゴルフ会員権
相続財産のうち、株式を保管している証券会社の口座や不動産の場所などがわからないことも少なくありません。証券会社の口座は、自宅に届いた郵送物から探したり、証券保管振替機構へ問い合わせをしたりしましょう。不動産は、そのエリアを管轄している役所で名寄帳を発行して確認できます。
相続税の基礎控除とは、税額を計算するときに差し引ける金額です。基礎控除は、法律で定められた相続人である法定相続人の人数によって異なります。
被相続人(亡くなった方)の配偶者は、常に法定相続人です。次に第1順位の子どもや孫、第1順位の親族がいなければ第2順位の父母が法定相続人になります。
非課税枠を利用したら基礎控除を上回らない
非課税枠を利用した結果、基礎控除を上回らない場合、相続税の申告は不要です。非課税枠と控除は、似ていますが意味は異なります。
- 控除:税金の対象となる遺産総額から差し引くこと
- 非課税枠:本来、課税対象であっても、特別に課税されないもの
相続税の計算で利用できる非課税枠は、死亡保険金、死亡退職金、弔慰金(ちょういきん)の3種類です。弔慰金は、国や企業から支給される被相続人の死亡を悼むための金銭を指します。
申告不要の特例を利用したら基礎控除を上回らない
一部の特例を利用し、基礎控除を超えなければ相続税の申告は必要ありません。利用しても申告の必要がない特例は、以下のとおりです。
- 未成年者の税額控除
- 障がい者の税額控除
- 相次(そうじ)相続控除
詳細については後述します。
相続税が0円でも申告が必要なケース
相続税が0円でも、以下の特例を利用している場合は申告が必要です。
- 配偶者の税額軽減(配偶者控除)
- 小規模宅地等の特例
- 農地の納税猶予の特例
- 特定計画山林の特例
- 寄付控除
それぞれの特例について詳しく解説します。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者の税額軽減とは、法定相続人である配偶者の税金が控除される仕組みです。1億6,000万円か、法定相続分相当額のどちらか金額が大きいほうの控除額が利用できます。
法定相続分とは、法律で定められた相続人が遺産を受け継ぐ割合です。被相続人との関係による相続人の構成によって、法定相続分は以下のように定められています。
法定相続人の構成 | 配偶者の法定相続分 |
配偶者、子ども | 1/2 |
配偶者、父母または祖父母 | 2/3 |
配偶者、兄弟姉妹または甥姪 | 3/4 |
配偶者のみ | 全額(100%) |
参照元:国税庁 | No.4132 相続人の範囲と法定相続分
配偶者は婚姻している方を指すため、内縁の方は法定相続人に該当せず、特例が利用できません。
配偶者の税額軽減は、遺産分割や遺言などによって取得した金額を基にしています。相続税の申告期限である10ヵ月以内に遺産分割を行わなかった場合、この軽減措置を受けられません。
ただし、相続税の申告書または更正の申告書に、申告期限後3年以内の分割見込書を添付し、申告期限後3年以内に分割した場合は、税額軽減の対象となります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、被相続人が住居や事業に使用していた土地のうち、一定の条件を満たすと、土地の評価額を50〜80%軽減できる制度です。
小規模宅地等の特例を利用するための主な条件は、以下のとおりです。
- 被相続人が居住あるいは事業のために使っている
- 相続税の申告期限までに遺産分割を完了する
その他、土地の使用目的に応じて、特例を利用するためのさまざまな要件を満たさなければなりません。条件を満たしているのか判断するのが難しいため、小規模宅地等の特例の利用を考えている方は、税理士に相談するのがおすすめです。
参照元:国税庁 | No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
農地の納税猶予の特例
農地の納税猶予の特例は、農地を相続したときに一定の要件を満たすと、納税猶予・免除を受けられる制度です。特例を利用するための主な要件は、以下のとおりです。
- 被相続人が亡くなるまで農業を営んでいた
- 相続税の申告期限までに農業を開始・継続する
- 相続税の申告期限までに遺産分割が完了する
農地は宅地よりも土地の評価額が低いものの、面積が広く、税金の負担が重いため、この特例が設けられています。1回の申請で3年間猶予期間が継続し、引き続き特例を利用するには更新の手続きをする必要があります。
参照元:国税庁 | No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例
特定計画山林の特例
特定計画山林を受け継いだ相続人は、課税価格の計算に関する特例を利用できます。特定計画山林とは、森林法によって定められた森林経営計画に記載された区域内にある立木・土地です。
相続税の申告期限までに遺産分割を完了し、被相続人の死亡日から相続税申告の日までに管理していた場合、山林の評価額の80%の納税が猶予されます。
なお、受け継いだ相続人が死亡した場合、猶予されていた山林の税金は免除されます。
ただし、特定計画山林の特例と小規模宅地等の特例は併用できないため、注意が必要です。どちらの特例を利用したほうが税負担を軽減できるのか、専門家に相談しましょう。
参照元:国税庁 | No.4149 山林を相続した場合の納税猶予の特例
寄付控除
相続や遺贈によって受け継いだ財産を国や公共団体などに寄付した場合、寄付控除を利用できます。控除を利用するためには、以下の条件を満たさなければなりません。
- 寄付した財産は相続や遺贈によって取得したものである
- 相続税の申告期限までに寄付する
- 寄付先として認められている団体に寄付する
寄付先として認められている団体とは、国や地方公共団体、認定NPO法人などです。
参照元:国税庁 | No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき
相続税が0円で申告義務がないケース
相続税が0円で、申告不要となるケースは少なくありません。
- 遺産総額が基礎控除額を上回らないケース
- 非課税枠の利用により遺産総額が基礎控除を上回らないケース
- 申告不要の特例を利用して相続税が0円となるケース
それぞれのケースを解説します。
遺産総額が基礎控除額を上回らないケース
遺産総額が基礎控除の範囲内であれば、相続税申告は不要です。基礎控除額は、以下の計算式で求められます。
- 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の人数
例えば、法定相続人が4人の場合の基礎控除額は、5,400万円です。この場合、被相続人の遺産が5,400万円を超えなければ、相続税の申告は必要ありません。
非課税枠の利用により遺産総額が基礎控除を上回らないケース
基礎控除を超えたとしても、非課税枠の利用によって遺産総額が基礎控除を上回らなければ、相続税の申告は不要です。相続税で利用できる非課税枠は、以下のとおりです。
- 死亡保険金
- 死亡退職金
- 弔慰金
それぞれの非課税枠を詳しく解説します。
死亡保険金
死亡保険金は、被相続人の死亡をきっかけとして支払われる保険金です。死亡保険金の非課税枠は、以下の計算式で求められます。
- 死亡保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の人数
非課税枠は受取人がひとりでも、非課税枠を求めるときは法定相続人の人数で計算します。相続放棄した方や養子も、計算式の法定相続人に該当します。
参照元:国税庁 | No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
死亡退職金
死亡退職金は、被相続人が亡くなったときに退職金として支払われる金銭です。死亡退職金の非課税枠は、死亡保険金と同様に以下の計算式で求められます。
- 死亡退職金の非課税枠=500万円×法定相続人の人数
死亡退職金は、死亡後3年以内に支給が確定したものを指します。生前に退職し、支給される金額が死亡後3年以内に確定したものも対象です。また、現物で支給されても死亡退職金の対象となります。
参照元:国税庁 | No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
弔慰金
弔慰金の非課税枠は、業務上・業務外によって以下のように異なります。
- 業務上の死亡:死亡当時の給与3年分
- 業務外の死亡:死亡当時の給与6ヵ月分
また弔慰金以外にも、葬儀に関する花輪代や葬祭費は遺産から控除されます。
参照元:国税庁 | No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い
申告不要の特例を利用して相続税が0円となるケース
一部の特例は、利用しても相続税の申告は不要です。
- 未成年者の税額控除
- 障がい者の税額控除
- 相次相続控除
それぞれの控除を詳しく解説します。
未成年者の税額控除
相続人に未成年者がいる場合は、相続税の税額控除を受けられます。成人になるまでに教育費や養育費がかかるため、この制度が設立されました。控除される金額は、以下の計算式で求められます。
- 未成年者の税額控除=(18-相続人の年齢)×10万円
控除を利用して未成年者の相続税額が0円となり、税額控除が残った場合は、未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引かれます。
障がい者の税額控除
相続人が85歳未満の障がい者の場合、控除が利用可能です。控除される金額は、以下の計算式で求められます。
- 障がい者の税額控除=(85-相続人の年齢)×10万円
ただし、相続人が特別障がい者の場合、10万円が20万円になります。未成年者の税額控除と同様に、税額控除が残った場合は、障がい者の扶養義務者の相続税額から差し引かれます。
相次相続控除
相次相続控除とは、今回の相続が開始する10年以内に、被相続人が相続によって相続税を課税されていた場合に、利用できる控除です。例えば、被相続人の父が5年前に亡くなって相続が発生し、続いて被相続人が亡くなった場合です。
相次相続の計算方法は複雑なため、専門家に相談することをおすすめします。
相続税が0円でも申告漏れでペナルティが?
相続税の申告漏れがあると、ペナルティとして税金が課税される可能性があります。本章では、申告漏れで課税される4種類の税金について解説します。
無申告加算税
無申告加算税とは、申告が必要にもかかわらず申告しなかった場合に課税される税金です。期限後に自主的に申告した場合、相続税額の5%を無申告加算税として追加で支払う必要があります。ただし、申告期限から1ヵ月以内であれば、無申告加算税は課税されません。
一方、税務署の税務調査によって相続税の申告をしていなかったと判明した場合、納付した相続税の15%を追加で支払う必要があります。
延滞税
相続税申告の期限後に納税した場合、納付期限の翌日から納付した日までの期間によって、延滞税として課税されます。
納付期限から2ヵ月以内は年7.3%、2ヵ月を経過した日以降は14.6%の延滞税を支払わなければなりません。申告期限までに申告も納税も行っていない場合、無申告加算税だけでなく延滞税が課税されます。
過少申告加算税
相続税の申告額が少なかった場合、過少申告加算税を支払わなければなりません。追加で納付した金額の10%を過少申告加算税として課税されます。ただし、税務調査で発覚する前に自主的に申告した場合には課税されません。
参照元:財務省 | 加算税の概要
重加算税
重加算税は、遺産を故意に隠したり、偽ったりした場合に加算される税金です。申告した内容に偽りがあった場合、申告額の35%を追加で課税されます。一方、相続税の申告を意図的に行っていなかったとみなされると、追加納付した金額の40%を追加で支払う必要があります。
相続税を申告しなかった場合のペナルティの負担は大きいため、必ず期限内に納付しましょう。
相続税の申告漏れを防ぐには
相続税の申告漏れを防ぐには、0円でも申告が必要なケースがあると知っておくことが大切です。例えば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を利用する場合は申告をしなければなりません。もし申告が必要か不安な場合は、国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」で確認しましょう。
ただし、特例を利用するための条件を満たしているかどうかの判断は難しいため、専門家に相談した方が良いでしょう。もし専門家へ相談したい場合は、「セゾンの相続」をご活用ください。相続専門の提携税理士から一人ひとりに合った相続税申告のアドバイスを受けられます。
また、今回の相続だけでなく、将来発生する二次相続まで考えた遺産分割の提案が受けられます。二次相続とは、被相続人の配偶者が亡くなったときの相続です。
「セゾンの相続 相続税申告サポート」では、経験豊富な提携専門家のご紹介も可能です。初回面談が無料で受けられるため、税理士に依頼するか迷っている方はお気軽にお問い合わせください。
おわりに
相続税が0円でも、配偶者控除や小規模宅地等の特例を利用する場合、申告が必要です。一方、非課税枠の利用や未成年者の税額控除などを利用する場合、申告は必要ありません。相続税の申告が必要かどうかは、国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」で確認できます。
しかし、相続税の申告漏れがあると、ペナルティとして最大40%の税金が追加で課税されます。相続税の申告が不安な方は、専門家に相談しましょう。