財産を遺贈して社会に役立てたいと考えていても、手続きの方法がわからない方もいるでしょう。遺贈は遺言書により、相続人以外の個人や法人などを指定し、財産を渡すことができます。
本記事では、遺贈の概要と寄付するまでの流れ、おすすめの遺贈先を解説します。最後まで読んでいただければ、遺贈に関する概要を知り、ご自身の財産をご希望に沿ったかたちで残すことができるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 相続人がいない場合、遺言がなければ特別縁故者に財産分与するか、国庫に帰属する
- 遺贈は、財産を指定して受け継ぐ特定遺贈と、財産の割合を指定して受け渡す包括遺贈の2種類がある
- 社会貢献できる遺贈先には、日本自然保護協会やWWFジャパンなどがある
- 遺贈するときは、相続税が非課税になるか確認する
相続人が居ない場合はどうなる?
相続人がいない場合、財産は以下の3つの方法で分けられます。
- 遺言書で指定された方が受け取る
- 特別縁故者に財産分与される
- 国庫に帰属する
亡くなる前に遺言書があった場合、被相続人(亡くなった方)の意志が優先されるため、指定された方が遺産を受け取ります。
遺言書がなかった場合は、特別縁故者に財産分与されます。特別縁故者とは、被相続人と生計を同一にしていた内縁の方や、看護をしていた相続権のない息子の妻や子などの親族です。
遺言書もなく、特別縁故者もいなかった場合は、財産は国庫に帰属します。
第三者に財産を残す「遺贈」とは?
遺産を法定相続人以外に渡したい場合は、遺贈(いぞう)をしましょう。遺贈とは、遺言書に沿って法定相続人以外に財産を渡すことです。本章では遺贈の概要と、2つのパターンを解説します。
遺贈には2パターンある
遺贈には受け渡す財産の割合によって特定遺贈と包括遺贈の2パターンがあります。それぞれの特徴を解説します。
特定遺贈
特定遺贈とは、相続財産のうちに特定の財産を受け渡すことです。例えば「Aに対して株式、Bに対して不動産」のように特定の財産を指定して遺贈します。
特定遺贈は受け取る財産が指定されているため、本人にマイナスの遺産があった場合でも、受け取る受遺者は負債を受け継ぎません。
特定遺贈の財産は、期限に関係なく受取を拒否できます。法定相続人が遺産の受取を拒否する相続放棄のように、家庭裁判所に申述する必要はありません。相続人か遺言執行者に対して意思表示するだけで、財産の受取を拒否できます。
包括遺贈
包括遺贈とは、財産の割合を指定して遺贈することです。例えば「内縁の妻に財産の2/5、孫に財産の1/5」など割合を遺言書に記載して、遺贈します。
遺贈で受け取る財産にマイナスの資産があった場合は、負債も合わせて受け継ぐ必要があります。もし負債を放棄したい場合は、ご自身に対して包括遺贈があった事実を知った時点から3ヵ月以内に手続きをしなければなりません。
放棄の申請先は、遺言者が最後に住んでいた住所を管轄する家庭裁判所です。
なお、遺贈には特定の負担をすることを条件にして遺贈する負担付き遺贈や、一定の条件を付けて遺贈する条件付き遺贈もあります。
遺贈を行うには遺言書に記す必要がある
遺贈を行うには、遺言書に内容を示す必要があります。相続関係のない方が受け取るには、法的な証拠が必要なためです。
一方、法定相続人が遺産を受け継ぐ相続は、遺言書がなくても財産を受け取れます。
遺贈先は個人でなくても指定できる
遺贈は相続と違い、財産を贈る相手に制限がありません。一方、相続の場合、法律で定められた法定相続人のみが受け取る権利を持っています。
遺贈の場合、相続人だけでなく、個人や団体も受遺者として指定できます。支援しているNPO・NGO団体に遺贈すれば、自然保護や子どもの支援活動、人材育成などに役立てられます。
遺贈で支援する団体に寄付したい!手続きの流れ5ステップ
本章では、遺贈で支援したい団体に寄付したい場合の手続きの流れを解説します。
- 遺贈の内容を検討する
- 遺言書を作成する
- 亡くなった後に遺言書を開示する
- 遺贈先の団体に遺産を受け取る意思があるか確認する
- 遺贈を行う
それぞれの流れを詳しく見ていきましょう。
ステップ1|遺贈の内容を検討する
まず、ご自身が支援したい遺贈先と受け渡す財産を検討します。遺贈する支援先がどのような活動を行っているか確認し、ご自身が支援したいか判断しましょう。遺贈した財産の管理方法や活用法を確認すると、安心して遺贈できます。
遺贈先によっては、不動産や株式など現金以外を受け取っていないケースがあります。また、包括遺贈を受け入れていない場合があるため、確認しましょう。
ステップ2|遺言書を作成する
遺贈の内容を検討したら、遺贈する内容を記載する遺言書を作成します。遺言書は、ご自身で作成する自筆証書遺言と、法律の専門家である公証人が作成する公正証書遺言の2種類があります。
形式や内容の不備による無効を防ぐために、公正証書遺言の作成をおすすめします。ご自身の意志に沿った遺贈をするために、法律の専門家である司法書士に相談して作成すると良いでしょう。
公正証書を作成すると、原本は公証役場に保管され、原本と同じ効力を持つコピーの正本が渡されます。
完成した自筆証書遺言を自宅で保管することが難しければ、法務局の預かりサービスを利用しましょう。
なお、亡くなった後に遺言内容を実行する「遺言執行者」を指定しておくと、スムーズに手続きが進められます。
ステップ3|亡くなった後に遺言書を開示する
亡くなったことが身近な方や、遺言執行者に連絡され、遺言書が開示されます。亡くなったことを遺言執行者に連絡するように、施設の方や近所の方、親族に生前に依頼することが一般的です。
ただし、自筆証書遺言を勝手に開封すると、制裁金が科せられる場合があるため、必ず家庭裁判所で検認を受けましょう。
検認とは、遺言書の存在と内容を法定相続人に知らせ、内容の偽造を防ぐ手続きです。
ステップ4|遺贈先の団体に遺産を受け取る意思があるか確認する
遺贈先に、遺言執行者から遺言書の写しを送ります。遺言書の写しの他に同封する書類は、財産目録や概算額、意思確認書類などです。
書類到着後に、遺贈先が受け取る意思があるのかを確認します。
ステップ5|遺贈を行う
受け取りの意思は書類やメールなどで送られてきます。確認でき次第、遺言執行者が遺産を遺贈先に引き渡します。
遺贈先によって、遺贈者の名前がサイトに表示されることがあるため、名前を出したくない方は遺言に書いておきましょう。
社会貢献ができるおすすめの遺贈先5選
社会貢献につながるおすすめの遺贈先を紹介します。
- 日本自然保護協会
- WWFジャパン
- ユニセフ
- 日本財団
- 日本赤十字社
それぞれの特徴を解説します。
日本自然保護協会
日本自然保護協会とは、1951年の設立から約70年間日本の自然保護活動をしている団体です。主な活動内容と遺贈の注意点は以下のとおりです。
【主な活動内容】
- 日本の絶滅危惧種を守る
- 自然で地域を元気にする
- 自然の守り手を増やす
- 壊れそうな自然を守る
日本自然保護協会は、沖縄県恩納村でサンゴ礁の保全研修の実施や、天然記念物の蝶オオルリシジミの保護などの活動を行っています。
活用分野 | 自然保護、人材育成 |
相続税 | かからない |
不動産・株式の遺贈 | 遺言執行者が換金する必要がある※条件によってそのままの遺贈ができる |
包括遺贈 | 遺言作成時相談が必要 |
遺言執行者 | 必要※日本自然保護協会は遺言執行者の指定を受け付けていない |
URL | https://www.nacsj.or.jp/support/bequest/message/ |
遺言書の記載に沿って遺産は活用されますが、緊急度の高い活動に利用されるケースがあります。
WWFジャパン
WWFジャパンは、人類を含む全ての生き物と自然が調和して生きられる社会を理想として活動している団体です。主な活動内容と遺贈の注意点は以下のとおりです。
【主な活動内容】
- 地球温暖化を防ぐ
- 持続可能(サステナブル)な社会を創る
- 野生生物を守る
- 森や海を守る
野生生物の違法取引防止のサポートや、再生可能エネルギーに関するセミナーなどを行っています。
活用分野 | 環境保護、野生動物の保護 |
相続税 | かからない |
不動産・株式の遺贈 | 遺言執行者が換金する必要がある※条件によってそのままの遺贈ができる |
包括遺贈 | 遺言作成時相談が必要 |
遺言執行者 | 弁護士・司法書士・信託銀行などの専門家が必要※WWFジャパンは遺言執行者の指定を受け付けていない |
URL | https://www.wwf.or.jp/donate/legacy/ |
WWFジャパンを遺言執行者として選定できないため、あらかじめ専門家に依頼しましょう。
ユニセフ
ユニセフは、すべての子どもの命と権利を守るために、もっとも支援の届きにくい子どもたちを最優先に約190の国と地域で活動する国連機関です。主な活動内容と遺贈の注意点は以下のとおりです。
【主な活動内容】
- 予防接種の提供
- 栄養不良の改善
- 教育の質の向上
- 緊急事態下の子どもたちの保護
具体的には、栄養治療食やワクチンの提供、保険員の教育などに役立てられます。
活用分野 | 子どもの支援 |
相続税 | かからない |
不動産・株式の遺贈 | 遺言執行者が換金する必要がある※条件によってそのままの遺贈ができる |
包括遺贈 | ― |
遺言執行者 | 弁護士・司法書士・信託銀行などの専門家が必要 |
URL | https://www.unicef.or.jp/cooperate/coop_inh1.html |
活動内容が知りたい方は、遺言書の保管中に機関紙の購読ができます。
日本財団
日本財団とは「みんなが、みんなを支える社会」を目指し、幅広い分野の支援活動を行っている団体です。主な活動内容と遺贈の注意点は以下のとおりです。
【主な活動内容】
- 日本の文化の復興
- ホームホスピスの設置
- 奨学金制度の運用
- ミャンマーへ寄付
社会養護施設で暮らした方への奨学金制度の運用、ミャンマーの学校へ遊具の寄付や井戸採掘の支援をするなどの活動を行なっています。
活用分野 | 子ども支援、人材育成、介護 |
相続税 | かからない |
不動産・株式の遺贈 | 遺言執行者が換金する必要がある※条件によってそのままの遺贈ができる |
包括遺贈 | ― |
遺言執行者 | 弁護士・司法書士・信託銀行などの専門家が必要 |
URL | https://izo-kifu.jp/ |
幅広い活動を行っているため、特定分野の支援をしたい場合は遺言書に記載しましょう。
日本赤十字社
日本赤十字社は「人の命を尊重し、苦しみの中にいる者は、敵味方の区別なく救う」ことを目的として、活動する団体です。主な活動内容と遺贈の注意点は以下のとおりです。
【主な活動内容】
- 災害救助
- 血液事業
- 社会福祉事業
- 国際活動
災害や震災で被災された方に対する人道的支援や、街頭での献血の呼びかけ、児童・障がい者・高齢者福祉施設の運営などの支援を行っています。
活用分野 | 災害救護、防災教育 |
相続税 | かからない |
不動産・株式の遺贈 | 遺言執行者が換金する必要がある※遺言執行者による換金が難しい場合、相談が必要 |
包括遺贈 | ― |
遺言執行者 | 弁護士・司法書士・信託銀行などの専門家が必要 |
URL | https://www.jrc.or.jp/contribute/isan/ |
各地に日本赤十字社の支部があるため、故郷やゆかりの地に寄付できます。
遺贈による寄付をする際の注意点
遺贈は、メリットが多いものの、気を付けなければ後悔する可能性があります。
- 法定相続人の遺留分を侵害しない
- 相続税が非課税になるか確認する
- 遺言書作成はプロに相談する
それぞれの注意点を紹介します。
法定相続人の遺留分を侵害しない
法定相続人には、法律で定められた最低限の相続取り分である遺留分があります。遺留分は配偶者・子など直系卑属・父母など直系尊属に認められます。遺留分の割合は、以下のとおりです。
相続人 | 遺産全体の遺留分 | 各相続人の遺留分 |
配偶者 | 1/2 | 1/2 |
配偶者と子1人 | 1/2 | 配偶者1/4・子1/4 |
子2人 | 1/2 | 各1/4 |
父(母) | 1/3 | 1/3 |
兄弟姉妹 | ― | ― |
遺留分を計算する際は、遺言者の借金やローンなどのマイナスの財産を控除します。
遺贈先にすべて受け渡した場合、法定相続人はなにも相続できません。そういった場合に、遺贈先に対して、法定相続人が遺留分請求ができます。相続のトラブルは長引きやすく、遺贈先に対して迷惑になってしまうため、遺留分を侵害しないようにしましょう。
相続税が非課税になるか確認する
遺贈先に相続税の負担がかかるか確認しましょう。国や地方公共団体、認定NPO法人などは、相続税がかかりません。遺贈先のサイトや問い合わせフォームからの確認をしましょう。
なお、非課税にならない団体や個人に遺贈した場合は、相続税額が2割加算されます。遺贈で財産を受け取る相手は、相続人に比べると偶然性が高いと考えられるためです。
遺贈する場合は、相続税より他の税金が高くなります。特定遺贈で相続人以外が不動産を受け取った場合は、不動産取得税がかかります。令和6年3月までの不動産取得税の税率は、不動産の課税標準額の3%です。
また、遺贈は登録免許税も相続より高くなります。受取人が相続人の場合、相続と同じく固定資産税評価額の0.4%に軽減されていますが、法定相続人以外に遺贈した場合は原則として贈与と同じく2%となります。
遺贈する際は、税金を含めて計算しましょう。
遺言書作成はプロに相談する
遺言書の作成は「セゾンの相続 遺言サポート」にご相談ください。遺言作成に強い司法書士と連携しているため、一人ひとりにあった最適な相続対策をご提案します。
遺言書は書き方によっては無効と判断されます。また、公正証書を作成するための、必要書類の収集に苦労する方も少なくありません。
はじめの相談は無料です。迷っている方も安心して相談できます。生前対策から、相続が発生したときのサポートまで対応しており、終活に関する悩みを解消できます。
WEBから簡単に申し込みできますので、ぜひご活用ください。
おわりに
相続人がいない場合、財産は特別縁故者か国庫に移ります。ご自分で財産の使い道を指定し、社会貢献したい場合は、遺言書で遺贈しましょう。相続とは異なり、遺贈は個人だけでなくNPO法人や公益団体などに財産を渡せます。
遺贈には、特定遺贈と包括遺贈の2種類があります。贈る相手が受け入れているか確認しましょう。不動産や株式を受けて入れていない場合もあるため、その際はあらかじめ換金する必要があります。
遺贈による寄付をする際は、法定相続人の遺留分を侵害しないことや、相続税がかかるのかを確認することが重要です。