相続の際に行う遺産分割協議は相続人全員が参加する必要があります。相続人が見つからずに協議を進めても、戸籍で相続人の存在が判明している以上、相続税申告ができないという可能性すらあります。相続人が見つかってもやり取りができない場合、そもそも相続人が見つからない場合に分けて対策を考えていきましょう。
相続の当事者が見つけ出しコンタクトを取ることが難しい場合、どのように専門家を活用すべきかも合わせて解説します。
この記事を読んでわかること
- すべての相続人が見つからないことで相続税申告にあたえる影響
- 相続人が見つかっても交渉ができないときの対応方法
- 相続人が見つからない場合の対処方法
- 相続人が見つからないとき、専門家をどのように活用すればいいのか
相続人が見つからないと遺産分割協議ができない
相続人が見つからない場合、遺産分割協議を完了することができません。相続人間で平等を期すため、相続人全員が同意することが前提のためです。相続人がひとりでも見つからないと遺産分割協議のほか、相続税申告ができないなどのリスクがあります。
相続人がいるかどうかは、戸籍の確認で判明します。戸籍のない日本人は考えられないため、相続人の有無は相続時に判明します。問題は相続人の所在がわからないか、わかってもコンタクトが取れない、遺産分割の話ができないというケースです。
ケースごとにどのような対処が可能なのか、解説していきます。
相続人を調べる方法である「相続人調査」とは?
相続人を確定させる調査が相続人調査です。相続人調査は戸籍謄本等を使います。被相続人の出生から死亡までの全部の戸籍を取り寄せて、法定相続人を調べる流れです。
多くの場合、被相続人が生前あまり明るみにして来なかった配偶者以外との子どもの認知、孫や甥姪などと養子縁組していた場合に、相続人調査が必要になります。
金融機関では遺産分割の際、相続人であることを客観的に証明するために、被相続人の戸籍の提出が必須です。相続人調査を経ずに遺産分割協議を行った場合、協議のやり直しや相続トラブルに発展する可能性もあります。
相続人を探す方法3ステップ
相続人調査で存在が判明した後、相続人の所在を捜索するためにはどのような方法があるのでしょうか。
ステップ1|故人の出生から逝去までの戸籍を取得する
被相続人の出生時から逝去までの戸籍を取得します。現時点の戸籍のほか、除籍謄本を確認します。被相続人の本籍地がある役所に赴くか、郵送で申請することができます。
除籍謄本(死亡記載)
結婚や死亡・転籍した人は戸籍原本には残っていませんが、法定相続人になる権利は変わらずに有しているためです。
改製原戸籍
また戸籍の電子化や再編成などによって戸籍が作り替えられたとき、前の戸籍は使われなくなります。役所には記録のために改正原戸籍謄本として残され続けるため、相続時においてチェックします。
戸籍の附票
戸籍にて法定相続人の存在がわかっても、当人とコンタクトが取れなければあまり意味はありません。戸籍自体に住所は記載されていませんが、戸籍とセットで管理されている戸籍の附票があります。附票には本籍地や筆頭者名、戸籍に在籍している方の住所の異動が記録されます。
この附票により、特定の相続人が現在どこに居住しているのかが判明し、コンタクトを取ることができます。なお、附票にてわかるのはあくまで住民票の記載のみであり、住民票と現在の居住地が異なる場合は参考にできません。
ステップ2|相続人とコンタクトを試みる
相続人調査により行方不明の相続人が明らかになれば、手紙を送ったり直接足を運んだりしてコンタクトを試みましょう。戸籍附票に記載してある住民票上の住所に居住していない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人専任」の申立てを行います(申立ての具体的な手続きについては後述します)。
基本的に相続財産の分配でありマイナスの話を持参するわけではないため、あまり邪険に扱われるケースは聞きません。ただ事情があって被相続人と疎遠になっている場合は、さまざまなケースも考えられます。
ステップ3|応答しない場合は遺産分割調停を申し立てる
何かしらの理由で相続人との交渉が進まない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。調停を申し立てると裁判所から強制的に呼び出されるため、遺産分割協議を進めることができます。
相続人が見つからないときは「不在者財産管理人選任」の申し立てを
戸籍を調査しても住民票上の住所に居住しておらず、完全に見つからないときは不在者財産管理人制度を活用します。
行方不明者の財産を管理する「不在者財産管理人」
不在者財産管理人とは、行方不明の相続人に代わって財産を管理する方です。戸籍による相続人調査を十分に行うも、客観的に相続人が見つかる可能性が無いといえる場合です。不在者財産管理人に選任されたら、当該の遺産分割協議に参加することができます。
不在者財産管理人には、利害関係の無い方が選ばれます。候補者がいない場合には弁護士や司法書士などの専門家から専任されるケースが多いです。
不在者財産管理人選任の申し立てに必要な書類
不在者財産管理人を申請できるのは被相続人の配偶者やほかの相続人、債権者などの利害関係者、検察官です。申立てには不在者の戸籍謄本や、不在の事実を証明する書類の提出が必要です。以下の必要書類が必須です。
【選任時の必要書類】
- 申立書(裁判所の定める書式に従って申立人が作成)
- 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 不在者の戸籍の附票
- 財産管理人候補者の住民票・戸籍附票
- 不在の事実を証明する資料
- 不在者の財産に関する資料
- 戸籍謄本(全部事項証明書)など相続関連がわかる資料(相続人による申立ての場合)
- 800円の収入印紙
- 連絡用の郵便切手
不在者財産管理人を選任する際の注意点
不在者財産管理人を選任しても、行方不明の相続人に遺産を残さないことはできません。不在者が不利益を被らないよう、法定相続分は残すようにしましょう。
法定相続分とは法律で定められている、相続人が受け取ることのできる資産の金額です。被相続人との関係性によって資産の〇分の△という形で定められています。たとえ被相続人が遺言で他の方に遺産全額を残すよう主張しても、相続人は一定の法定相続分を受け取る権利があります。これを遺留分といいます。
相続人の探し方に関するQ&A
相続人を探さなければならないとわかっていても、相続直後に不在者捜索に時間をかけるのは難しく、また不慣れな点も多いです。相続人探しに関するQ&Aに回答していきます。
行方不明になってからかなり長い場合はどうすれば良い?
行方不明はあくまで生存前提です。行方不明に近い概念に失踪がありますが、両者の違いは何でしょうか。
失踪宣告とは法律上「死亡」とみなす制度
相続人の生死が7年以上不明である場合、失踪宣告を申し立てることができます。失踪宣告が認められると、法律的に行方不明者は死亡したことになります。死亡した場合は法定相続人として認められないため、遺産分割協議に参加する権利が無くなります。
不在者財産管理人選任と失踪宣告のどちらを選択すべきか
事故による被害が想定される場合や、明らかに長期不明であれば、失踪宣告の申請を検討しましょう。生存していることがわかっている場合や、行方不明になって間もない場合は不在者財産管理人を選任します。
行方不明者の状況によって判断するようにしましょう。
遺言書があっても相続人を探し出すべき?
被相続人が作成した遺言書があり、その内容どおりに遺産分割するようであれば、遺産分割協議をする必要がありません。この場合は行方不明の相続人を見つけなくても、相続登記などの手続きが可能です。
ただ、行方不明者が不利益を被っていないかは確認しておきましょう。
相続人調査は自分でできるもの?
これらの相続人調査は個人ではなく、専門家に依頼した方がスムーズです。依頼先は弁護士が代表格ですが、司法書士や行政書士でも可能です。ノウハウを持った方に効率よく動いてもらうことが大切です。
おわりに
専門家といわれても普段の生活からはほど遠い存在です。どうやって依頼をすべきかわかりません。まずは「セゾンの相続 相続手続きサポート」への相談をおすすめします。経験豊富な提携専門家のご紹介も可能です。初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。