他人の土地を使う権利である借地権の相続について、「複雑で難しそう」と考えている方は多いのではないでしょうか。このコラムでは、地主の許可が必要な借地権を巡る手続きや、相続する際の基本的な流れなどを解説します。相続税や地主に支払う承諾料についてなど、借地権に関する注意点も解説しますので、ぜひ参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- 借地権は法定相続人への相続なら地主の許可はいらない
- 借地権を売却する際は地主の許可が必要
- 借地権は原則として中途解約できない
- 借地権の相続に関する悩みは専門家に相談するのがおすすめ
そもそも借地権とは?
借地権とは、建物を所有するために土地を借り、使用する権利です。借地借家法第2条で「建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権をいう」と定義されています。借りる方は借地権者、地主は借地権設定者と呼ばれ、借地権の対象となっている土地を底地といいます。
借地権は、借地借家法第2条に記載されているように賃借権と地上権に分けられ、さらに賃借権には普通借地権や定期借地権など、さまざまな種類が存在し、契約が交わされた時期や契約期限、更新の有無によって異なります。主な種類は次のとおりです。
【借地権の種類】
普通借地権 | 借地借家法第3条によると存続期間は30年が基本となっていますが、契約更新も可能です。通常、「借地権」というと普通借地権を指します |
旧借地権 | 現行の借地借家法が施行される平成4年(1992年)8月1日より前の借地法に基づく借地権をいいます。存続期間を定めなかった場合、木造など非堅固な建物は存続期間を30年とし、堅固な建物については存続期間を60年としていました |
定期借地権 | 期間終了とともに契約が終了する借地権。更新はできず、期間終了時に土地を返却しなければなりません。借地借家法第22条に期間は通常50年以上と定められています |
借地権の相続は可能?
借地権は相続財産の対象となります。この章では、借地権を相続する際、あるいは相続した借地権を売却する時や、借地上の建物を建て替える時における地主の許可の必要性について解説します。
地主の許可なしで相続が可能
まず、家族など法定相続人が相続する通常の相続発生時は地主からの許可は不要です。ただし、借地契約では人間関係が重要です。地主に対する報告は行っておくべきでしょう。
一方、遺言があって法定相続人以外に借地権が遺贈されるケースでは、地主の許可が必要となります。この際、譲渡承諾料として、借地権価格の10%程度を地主に支払うのが一般的です。
相続した借地権を売却する場合は地主の許可が必要
相続した借地権は売却することもできますが、売却時には地主の許可が必要です。地主の同意なく売却を進めてしまうと、契約違反となり、地主によって借地契約を解除されるリスクが生じるでしょう。
地主から売却の許可を得た場合、承諾料として借地権価格の10%程度を支払うのが通常です。承諾が得られない場合でも、裁判所への申し立てにより、裁判所が売却について地主の代わりに許可してくれる可能性もあります。
なお、建物の所有名義を売却などで変更することについては、地主の許可は必要ありません。ただし、通常は建物の売却に伴い借地権も買主に譲渡することになるため、借地権の譲渡について地主の承諾が必要になるということになります。また、建物売却時に借地権は譲渡せず、借地権を建物の買主に貸し出すことにした場合でも、借地権の転貸に関する地主の承諾が必要です。
相続した借地上の建物を建て替える際は契約の条項を確認
相続した借地上の建物を建て替える際は、借地契約の条項を確認してください。建物が老朽化している場合は建て替えが必要なこともありますが、借地契約には、増築や改築、建て替えに関して制約や条件が設けられていることがあるからです。
契約によっては、建て替えを行うために地主の許可が必要となる条項が存在します。許可を取得せずに建て替えを進めると、契約違反となり、契約が解除される可能性があるでしょう。許可が得られない場合、法的には裁判所への申し立ても選択肢として考えられます。
許可を得る場合は、承諾料として更地価格の3〜5%程度が地主に支払われることが一般的です。建て替えを検討する際には、これらの手続きやコストも考慮し、適切な計画を立てることが重要です。
借地権を相続する際の基本的な流れ
次に、借地権を相続する際の基本的な流れについて解説します。借地権の相続には、一般的な相続に比べて特有の手続きがあることに注意してください。
借地権の相続人を決定する
借地権を含む相続が発生した場合は、まず、法務局で不動産全部事項証明書を取得するなどして相続の対象となった不動産を確認します。不動産全部事項証明書は、不動産登記簿に記載されている内容を証明する書面です。土地と建物の所有者が異なる場合、借地権が設定されていると考えられますので、契約書を確認しましょう。
借地権が確認できたら、相続人の中で借地権を相続する方を決定し、遺産分割協議書を作成します。遺言書があり、その内容に従う場合には遺産分割協議書を作成する必要はありません。
借地上にある建物の名義変更を行う
借地権を相続する方が決まったら、法務局で建物の名義変更を行います。
法定相続人への名義変更は、地主の承諾を得る必要もなく、承諾料も支払う必要がないものとなります。相続では契約期間や地代などの条件も引き継がれるため、改めて契約書を取り交わす必要もありません。
建物の名義変更で必要となる書類は次のとおりです。手続きは司法書士に依頼するとスムーズに進みます。
【建物の名義変更時の必要書類】
戸籍謄本 | 被相続人の出生から死亡までがわかるものと、相続人全員の現在がわかるもの |
戸籍の附票 | 被相続人の死亡時の住所確認用。住民票の除票でも代替可能 |
住民票 | 相続人全員分 |
遺産分割協議書または遺言書 | 相続人間での遺産の分割内容を示す書類 |
印鑑証明書 | 相続人全員分 |
固定資産税評価証明書 | 固定資産の評価額を示す書類 |
地主に通知する
相続により名義変更を行う際は、地主に連絡することをおすすめします。法定相続人への相続時に地主の承諾は不要ですが、双方の認識の共有や将来的なトラブルを防ぐために連絡しておくことが重要です。
連絡は、書面での通知が推奨されています。書面には相続が成立した日付、新しい名義人の情報、連絡先などの基本的な情報を詳細に記載します。
地代の支払いや将来の更新手続きなど、地主との関係は相続後も長期的に続くものです。情報を共有し、信頼関係を築くことが大切です。
借地権を相続する際の注意点
借地権の相続には特有の手続きや制約があります。ここでは、借地権の相続に際して特に注意すべき点について解説します。トラブルを未然に防ぐための注意点や、スムーズな相続手続きを進めるためのポイントを確認してください。
借地権にも相続税が発生する
相続が発生した際、その事実を把握した日から10ヵ月以内に、相続税の申告を行う義務があります。借地権の相続においても例外ではありません。
相続税の計算の基となる評価額は普通借地権の場合、該当する土地の路線価に借地権割合を掛けて算出します。借地権割合は国税庁の路線価図などに明記されています。地価が高いエリアでは相続税額が高額になる可能性もあるため、資金計画を適切に立てておくことが大切です。
相続税の計算や手続きについて疑問や不明点が生じた場合は、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
法定相続人以外に遺贈する場合は地主の許可が必要
相続には、法定相続という制度があります。法律で定められた順番により、亡くなった方の財産が相続される仕組みです。しかし、遺言書を用いて、法定相続人以外の方に特定の遺産を譲渡することも可能となっています。法定相続人ではない方に借地権を遺贈する場合、地主の許可が必要となります。
これは、地主と被相続人との契約関係に第三者が入ることへの同意を得る必要があるためです。許可を取得せずに遺贈を進めると、契約違反となり、地主に契約解除されるリスクが生じます。借地権の遺贈を検討している場合は、地主との事前のコミュニケーションを密に行うことが求められるでしょう。
地主に対して承諾料が必要な場合もある
借地権が設定されている土地で一定の行為をする際には、地主からの許可に加え、承諾料を支払う必要があります。具体的には、次のような割合が相場とされています。
【承諾料の目安】
借地権の遺贈や売却 | 借地権価格の10%程度 |
建物の増改築・建て替え | 更地価格の3~5%程度 |
法定相続人による借地権の相続については、地主の許可や承諾料の支払いは不要です。
借地権を兄弟で共有した際はトラブルに要注意
相続が発生した際、借地権やその土地にある建物を兄弟や親族同士で共有名義とするケースがあります。共有名義とした場合、借地権や建物の売却は共有者全員の同意がなければ実現できません。(民法第251条)
取り壊したり、建て替えたりする場合も全員の同意が必要です。賃貸やリフォームなどを行う際には、持分の過半数の合意を得なければならないことになっています。
共有名義の不動産を売却するには、全員の合意を得るほか、自分の持分だけを不動産会社や共有名義人に売却したり、分筆して売却したりするといった方法が考えられます。
しかし、いずれの場合も共有者の間で意見の対立や認識の違いからトラブルに発展する可能性もあるため、借地権とその土地の上に立つ建物を相続する際には、共有より単独で所有することを検討する方が、リスクを避けやすいでしょう。
借地権の相続に関するよくある疑問
借地権の相続に関するよくある疑問をまとめました。相続放棄や借地権の中途解約、万が一地主が亡くなった場合の対応などについて解説していますので参考にしてください。
借地権の相続放棄はできる?
借地権を相続することになったものの受け継ぐことが難しい場合、相続放棄の手続きをとることが可能です。相続放棄を行う期限は、相続の事実を知った日から3ヵ月以内です(民法第915条)。
家庭裁判所を通じて手続きを進めます。ただし、相続放棄は借地権だけでなく預貯金などすべての財産に及びます。一度放棄を決めて手続きすると、後から撤回することもできません。相続放棄の選択をする際は慎重に判断してください。
借地権の中途解約はできる?
借地権の中途解約は基本的に許されていませんが、地主との間で合意が成立すれば中途解約も可能です。途中で契約を終了させたい場合は、契約期間が終了する際に更新の意思がないと地主に伝える手続きが必要です。
その際には、借地上の建物について、解体したり地主に売却したりすることについても話し合うことになります。希望する解約時期や条件を地主と調整し、双方が納得する形で手続きを進めることが大切です。
地主が亡くなった場合は?
借地権を相続した場合、万が一地主が亡くなっても契約の効力に影響は及びません。地主が亡くなった場合、その権利や義務は相続人に移行します。
地主が変わることで、新しい地主との関係構築は必要になるでしょう。相続が発生した際は、関係を円滑に進めるためにもあいさつしたり、契約内容を確認したりする作業が大切です。
一方、地主が借地権の対象となっている底地を第三者に売却した場合には注意が必要です。借地権の登記がない場合に第三者の対抗要件として、借地権の登記または建物の登記を行っておく必要があります。
借地権の相続はどこに相談したら良い?
借地権の相続は、手続きや調整が複雑になることもあり、ひとりで進めるのは難しいケースもあります。登記については司法書士に、地主とのトラブルについては弁護士に相談するなど、専門家に依頼することで円滑に解決できるでしょう。
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おわりに
借地権の基本的な概念や相続時の流れ、注意点を解説しました。名義変更や土地利用に関する契約の確認、税金や地主との関係などで、所有権の相続よりも注意を払うべきポイントが多いのが借地権の相続です。
地主との人間関係もあるため、所有権の相続よりトラブルが生じる可能性が高いといえるでしょう。複雑な調整や手続きを要すると考えられる際は、専門家のサポートを活用することで、円滑な対応が可能となります。