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貸金債権の遺産分割はできる?具体的な方法や課題を解説

貸金債権の遺産分割はできる?具体的な方法や課題を解説
セゾンのくらし大研究 編集部

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相続問題に直面したとき、多くの方が不安になるのではないでしょうか。複数いる相続人とうまく話がまとまるのか、まして相続財産のなかに「債権」なんて言葉がでてくると、できれば避けたいという拒否反応があるものです。

しかし相続問題に直面した以上、円満に解決したいものです。できれば避けたい「債権」のあれやこれやについて、この記事を読んでいただければ、人に話したい得意な話題になるかもしれません。ぜひ最後まで、お読みください。

この記事を読んでわかること

  • 貸金債権の遺産分割について、具体的な方法がわかります
  • 債権の性質である「可分債権」と「不可分債権」の理解ができます
  • 可分債権を遺産分割扱いとする例外的な最高裁判例が短時間でつかめます
  • 難航する遺産分割協議の課題を、事前に把握できます
相続手続きサポート
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相続の対象となる債権とは?

相続の対象となる債権とは?

「債権」という言葉をよく聞きますが、正確にはどのようなものでしょうか。

債権とは、相手が果たすべき履行を求めることができる権利、と定義することができます。

債権は財産権のひとつと考えられていて、一般的には金銭を貸した相手に返済を求めることができる権利です。この権利者を「債権者」といいます。

一方で、債権者に対して行為や給付を提供しなくてはならない義務がある者を「債務者」といいます。一般的な例として、債務者は借りた金銭を債権者に返済しなければならない義務を負っています。

債権を相続するとは、亡くなった被相続人が有していた債権を、相続によって引き継ぐことをいいます。

亡くなった父が知人に貸していた500,000円の債権を相続によって引き継ぐと、相続した子は、父の知人に500,000円の返済を求める権利を行使することができます。

債権は財産権なので相続の対象となりますが、さまざまな債権のそれぞれの性質上、相続できない債権というものもあります。

相続の当事者となれば、どのような債権が相続対象で、どのような債権が相続できないのか気になるところです。相続できるもの、できないもの、その債権の性質などを見ていきましょう。

相続できる債権

相続できる債権の例として、下記のような債権があげられます。

相続できる債権の例】

  • 貸金債権(貸したお金など)
  • 損害賠償請求権(交通事故で被害を受けたなど)
  • 賃貸借にもとづく債権(未払い家賃など)
  • 売掛金債権(売上の未回収金など)

被相続人が知人に貸したお金など、貸金債権として相続されます。貸金債権が相続されれば、相続人は個別に自らの遺産分割割合に応じた債権分を債務者に請求することができます。

交通事故や不法行為などで被害を受けた場合、加害者に対して損害賠償請求権が発生します。損害賠償請求権は金銭債権として扱われるため、原則として相続の対象になります。

被相続人が所有していた賃貸不動産がある場合には、収益物件の賃料として未払い家賃など借主に請求する権利も相続の対象となります。

被相続人が商売をしていれば、売上の未回収金として売掛金があることが考えられます。売掛金は債権として、相続されることになります。

相続できない債権

相続できない債権の例として、下記のような債権があげられます。

【相続できない債権の例】

  • 扶養請求権
  • 年金の受給権
  • 生活保護費の受給権

扶養請求権とは、民法第877条に基づく「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」という規定により認められている権利です。高齢で亡くなった被相続人が子への扶養請求権を有していた場合、被相続人は亡くなったため、扶養請求権も同様に消滅します。

これは、扶養請求権が被相続人自身の条件に基づいて生じる債権であり、本人の死亡によりその権利も消滅し、相続対象外となります。

年金の受給権も同様に、被相続人自身の条件に基づいて付与される権利であり、生活保護費の受給権も、被相続人の世帯の条件によって生じる権利です。従って、これらの権利も受給者本人の死亡により消滅する債権であり、相続の対象ではありません。

このような「本人自身の条件によって生じる権利」を「一身専属権」と呼びます。一身専属権は本人に由来するため、相続が認められないとされています。

債権は2つに大別できる

債権は2つに大別できる

債権は民法の規定により、次の2種類に分けて考えます。

  • 可分債権
  • 不可分債権

債権の性質上、分けることのできるものを「可分債権」といい、相続のように複数の相続人がいる場合などに適した種類だといえます。

一方で、分けることのできない債権を「不可分債権」といい、複数の相続人がいても当然には分割できない性質の債権となります。

可分債権と不可分債権、それぞれを詳しく見ていきましょう。

可分債権とは

可分債権とは、分割して給付可能な債権のことです。したがって、相続が発生した時点で、法定相続人それぞれが法定相続割合に基づいた分割債権を取得していると考えられます。通常、遺言書などが存在しない場合、法定相続権に基づいて相続が行われると見なされます。

相続が発生した時点での当然の相続を変更するには、相続放棄や遺産分割協議などの手続きが必要です。ただし、可分債権であっても、遺産分割協議が必要な財産も存在するため、注意が必要です。

具体的な可分債権の例として、以下のものが挙げられます。

【可分債権の具体例】

  • 売掛金(売上の未回収金など)
  • 不動産などの賃料
  • 貸金債権や損害賠償債権

亡くなった被相続人が営んでいた事業による未回収の売掛金や、不動産からの賃料などは、回収された際の金銭が可分であるため、分割が可能と考えられます。

同様に、貸金債権や被相続人が不法行為や債務不履行により損害を受けた賠償を請求する権利も給付が可分であるため、これらも分割が可能な可分債権と見なされます。

不可分債権とは

不可分債権とは、分割して給付することのできない債権です。その性質から、相続が発生しても法定相続人それぞれの相続割合に応じた分割債権として当然に相続されないため、遺産分割協議などが必要となります。

不可分債権の具体的な例として、以下のようなものが挙げられます。

【不可分債権の具体例】

  • 有価証券
  • 金融機関の預貯金

有価証券とは、株式や債券、手形や小切手などですから、分割することのできない不可分債権として扱われます。また投資信託の場合、受益証券や振替受益権は口数ごとに可分であると考える方の多い金融資産ですが、相続の場面では遺産分割協議の必要な資産として扱われます。

金融機関の預貯金は、通帳などに記載される金額ですから分割できると考えられそうですが、可分債権として扱っていた時代に、相続分として預貯金を引き出した相続人が実は生前に多額の贈与を受けていたなどさまざまな弊害が起こり、後述する最高裁判決以降は遺産分割協議を要する財産として考えられています。

貸金債権は遺産分割の対象になるのか?

貸金債権は遺産分割の対象になるのか?

亡くなった被相続人が知人や法人などに貸したお金などを請求できる権利としての「貸金債権」は、金額として分割のできる可分債権と考えられています。

ただ相続の場面では、貸金債権が遺産分割の対象となるのかが問題となることがあります。結論として、法律の明確な規定はなく、判例の解釈として、学説のなかでも見解が分かれているのが現状といえそうです。

相続財産についての最高裁の判例をもとに、経緯を見ていきましょう。

最判昭和29年4月8日

 昭和29年4月8日の最高裁判決で、以下のような裁判要旨が述べられています。

【最判昭和29年4月8日】
相続人数人ある場合において、相続財産中に金銭の他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべきである。

これにより金銭やその他の可分債権は法律上当然に、相続とともに分割され相続分に応じた権利を承継しているものと扱われてきました。

そのため、可分債権である貸金債権も、遺産分割協議を要さないと解されていました。

最判昭和30年5月31日

つづく昭和30年5月31日の最高裁判決で、以下のような裁判要旨が述べられました。

【最判昭和30年5月31日】
  一 相続財産の共有は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではない。
二 遺産の分割に関しては、民法二五六条以下の規定が適用せられる。

「相続財産の共有」の性質について、民法249条以下の「共有物の使用」規定と異ならないとしました。

【民法249条】 
1.各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
2.共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
3.共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。

遺産分割の方法について、判決では民法256条以下の規定が適用されるとしています。

【民法256条】
1.各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2.前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。

不可分な財産のような「遺産分割協議の必要な財産の共有と分割」について、民法で規定された共有と分割の規定を相続財産にも適用するとの判断と解されています。

最判平成28年12月19日

 そして平成28年12月19日の最高裁の決定では、以下のような裁判要旨が述べられました。

【最判平成28年12月19日】
預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。

この判例により、預貯金の相続のあり方が変わったと言われています。

共同相続された普通預金債権や通常貯金債権、定期貯金債権などは遺産分割の対象となるかについて、最高裁の決定により、可分債権であることを理由に遺産分割の対象とはならないとしていた判例を変更し、遺産分割の対象になるとの判断だと解釈されています。

この判例は可分債権としていた金融機関の預貯金等が可分債権には当たらないとの解釈に道を開いたため、現在、貸金債権や損害賠償請求権などの可分債権として扱っているものに対し、どのように考えていくべきかの議論が起こっています。

貸金債権を遺産分割の対象とする方法

貸金債権を遺産分割の対象とする方法

亡くなった被相続人の貸金債権は、分割のできる可分債権と考えられていますが、法定相続割合ではなく、遺産分割の対象となるのかが相続の場面では問題となることがあります。

ここからは、貸金債権を遺産分割の対象とする方法を見ていきましょう。

相続人全員の合意があれば分割は可能

基本的に、相続人全員が合意していれば問題は起こりません。相続でも契約でも、法に則り、関係者全員の合意があれば可能といえます。

このため、貸金債権が可分債権として当然には遺産分割の対象にならないとしても、相続人の全員が合意しているのなら、遺産分割の対象にできると考えられます。

例えば、亡くなった被相続人とともに実家に住んでいる兄弟姉妹のひとりに、分割することのできない不可分な家と土地をあげようと相続人全員の合意があったとします。

その他の兄弟姉妹が、私は貸金債権をもらいたい、じゃあ私は預貯金を多めにもらいたいと、遺産分割の協議で全員が納得したなら、それは円満な相続だと捉えることができます。

貸金債権の遺産分割協議での課題3選

貸金債権の遺産分割協議での課題3選

亡くなった被相続人が、知人や法人に貸していた金銭などの貸金債権を相続の際に遺産分割として協議していこうとなった場合の、よく起こりうる課題を3選ご紹介していきます。

こういった課題を事前に踏まえておくことで、難航するはずの遺産分割協議を解決に導く、スマートな知恵とすることもできます。

相続人が多く合意形成が難しい

相続とは、相続人の数だけ複雑になる傾向があることは否めないでしょう。

被相続人に対しての相続人それぞれの思いや、相続財産としての実家や土地に対する考え方や執着、また金銭的な損得もからみますから、相続人が多いほど思惑が交差し、合意に至る道は険しくなるものです。

遺産分割協議は、相続人の全員が分割方法に合意するという成立条件が原則となりますから、話がこじれた場合には収集がつかなくなることもあります。

不動産など分割が難しい遺産が多い

不動産や自動車など、それ自体を分割することができなかったり、難しかったりする財産があれば、遺産分割協議が難航することの原因にもなります。

こういった理由から、遺産分割協議をせずに被相続人名義のまま遺産に属する土地が放置され、所有者不明土地となるケースが多発していて、社会問題となっています。

遺産分割が合意され、その旨の登記がされれば、所有者不明土地の発生は抑制されることになります。このような社会的要請もあり、遺産分割協議に期限をつけることやさまざまな促進策が議論されています。

全ての債権を把握するのに調査が必要となる場合がある

遺産分割を確定するにあたり、財産調査が必要になることがあります。預貯金や生命保険があるのか無いのか、車や土地、また株式や投資信託など、額面金額が評価額とはならないものもあり、確定金額を求めなければなりません。

そのため、遺産相続に詳しい司法書士などに調査の依頼をすることになります。

金融機関や生命保険会社、電気通信事業者や信販会社、また陸運局などへ照会するといった実務を経なければ、全ての債権を把握することができないケースがあります。

相続専門家に依頼することもできる

相続専門家に依頼することもできる

実際に相続問題に直面したとき、遺産分割協議の難しさや、相続財産の確定作業など、専門家に依頼した方が良かったと、あとから後悔する事案はよく耳にするものです。

身内だけで遺産分割を話し合っていると、相続前には良好な関係の親戚同士だったのに、思わぬ感情が表面化して、関係が悪化する場合もあります。話し合いには第三者が入ると感情が抑えられ、理性的な協議となるでしょう。

相続の専門家に依頼をお考えなら「セゾンの相続 相続手続きサポート」がおすすめです。戸籍の収集、相続財産の調査、遺産分割協議書の作成、不動産の名義変更や預金の解約など、相続の専門家に任せて、円満な相続にしたいものですね。相続に強い専門家の紹介により、スムーズな相続手続きを行うためのサポートを受けることができます。

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おわりに

誰もが直面する問題として、相続は難しさを孕んでいます。実家への感情や執着、金銭的な損得が絡むと、良好だった身内の関係性が、これほどまでに壊れてしまうものかという結果になることがあります。

事前に遺産分割協議の課題について把握することで対策ができ、円満な解決に近付くことができるでしょう。

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