将来相続が発生したとき、相続人の相続権を廃除して大切な遺産を守る制度があります。
虐待や重大な侮辱等を受けた場合、推定相続人の廃除の手続きを進めることで、それらの行為をした相続人の相続権を失わせることができます。
この記事では、推定相続人の廃除についての制度や概要、手続きの流れ、注意点について解説します。
(本記事は2024年3月13日時点の情報です)
- 相続人の相続権を失わせる制度に推定相続人の廃除がある
- 推定相続人の廃除の意思表示は被相続人本人しかできない
- 廃除を求める対象者は遺留分を有する推定相続人のみである
- 推定相続人の廃除は家庭裁判所の手続きが必要であり簡単に認められるものではない
- 推定相続人の廃除の手続きには生前中に行う方法と遺言書で行う方法がある
相続人の廃除とはどんな制度?
推定相続人の廃除とは、相続人から相続権を奪う制度のことをいいます。相続が発生すると相続人に相続権が発生して遺産を承継することになります。
しかし、被相続人が生前に相続人となる配偶者や子、父母などから虐待や重大な侮辱を受けていた場合、そうした行為を行った相続人には遺産を承継させたくないと考えることもあります。
そのような場面で、虐待などを行った推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求して廃除が認められれば、本来相続権を有する相続人であっても、被相続人の意思で相続権を剥奪することが可能になるのです。
相続廃除の対象者と遺留分について
推定相続人の廃除の手続きで相続排除ができる対象者は、遺留分を有する推定相続人のみとなります。推定相続人とは、現時点において、将来相続が発生した場合に亡くなった方の法定相続人となることが予測される方をいいます。
また、遺留分とは、被相続人の遺族の生活を最低限保障するため、遺言で遺産を誰に承継させるかを決めても奪うことのできない相続割合のことをいいます。遺留分は兄弟姉妹以外の相続人に認められるので、配偶者、父母、子どもなどが相続廃除の対象者になります。
この点、被相続人が遺留分を有している推定相続人に何も相続させたくない場合は、推定相続人の廃除を行わないと、相続発生時に遺産を承継できなかった相続人が他の相続人に対して遺留分侵害額の請求がなされるなど、相続トラブルの原因にもなります。
相続廃除の申し立てができるのは被相続人のみ
相続排除は誰でもできるわけではなく、廃除の申し立てができるのは相続発生時に被相続人となる本人のみとなります。
例えば、父親の相続が発生して子どもに兄弟がいる場合、弟が兄に財産を渡したくないと考えても、弟自身が兄の相続権について廃除の申し立てをすることはできず、被相続人である父親が申し立てをする必要があります。
つまり、相続発生後に、特定の相続人に財産を承継することが相応しくないと考えられる事情が判明しても、他の相続人から新たに相続廃除の手続きを行うことはできないのです。
相続廃除のための要件
相続廃除は申し立てさえすれば必ず認められるわけではありません。廃除の要件は民法第892条で規定されており、被相続人に対して虐待をした場合や重大な侮辱を加えた場合、推定相続人に著しい非行がある場合に廃除ができることになっています。
被相続人に対し虐待や重大な侮辱がある場合
虐待とは、被相続人に対する暴力や耐えがたい精神的苦痛を与える行為を意味し、重大な侮辱は被相続人の名誉や感情を害する行為を意味します。
推定相続人の行為が虐待や重大な侮辱にあてはまるかどうかの判断は、行為が行われた当時の状況や理由、一時的なものかどうかなど、様々な事情が考慮されることになります。
推定相続人に著しい非行がある場合
推定相続人の著しい非行とは、被相続人への精神的苦痛や損害を与えた行為のうち、虐待や重大な侮辱などに匹敵する内容を意味し、犯罪、遺棄、不貞行為、被相続人の財産の浪費や無断処分など、直接的には被相続人に向けていない行為も含まれます。
相続廃除は取り消しが可能
相続廃除は被相続人しか行えず、また、被相続人の意思を尊重する制度であるため、一度廃除した場合でも、後から家庭裁判所の手続きによって廃除の取り消し請求をすることが可能です。
廃除の取り消しが認められると、廃除されていた推定相続人は相続権が回復し、相続権を有する相続人となります。
相続人の廃除手続きについて
相続廃除をするには、家庭裁判所に推定相続人の廃除を申し立て、審判を受ける必要があります。この申し立てには、被相続人が生存中に行う生前廃除と、被相続人が生前に作成した遺言書を利用して行う遺言廃除の2つの方法があります。
相続人廃除を被相続人が生存している間に行う場合
生前廃除をする場合は、被相続人本人が申立人として家庭裁判所に相続廃除の申し立てを行うことになりますが、手続きはおおむね以下のとおりで進めることになります。
生前廃除による推定相続人の廃除の流れ
- 必要書類を準備する
- 被相続人本人の住所地を管轄する家庭裁判所に必要書類を提出する
- 家庭裁判所が相続人の廃除が妥当かどうかを審理する
- 相続廃除の審判確定
- 家庭裁判所が確定証明書と審判書謄本を発行
- 審判確定日から10日以内に市区町村役場で届出
- 戸籍に相続廃除が記載され相続廃除の手続き完了
家庭裁判所で必要となる書類
- 相続廃除申立書
- 被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 廃除を求めたい推定相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
家庭裁判所で必要となる手数料等
- 800円分の収入印紙
- 連絡用の郵便切手(家庭裁判所によって金額が異なる)
相続人廃除を遺言書などで行う場合
被相続人が生前に遺言書を作成しておくと、相続発生後に遺言書を利用して相続廃除の手続きを行うこともできます。この場合は、遺言書の内容として、廃除を求める推定相続人を特定し、推定相続人から廃除する旨や廃除の理由などを記載することになります。
なお、遺言書による相続廃除の手続きは、遺言執行者が家庭裁判所で進めることになるので、相続トラブルを回避するためにも被相続人が生前に遺言執行者を選んでおくべきケースといえます。
遺言書による推定相続人の廃除の流れ
- 遺言執行者が必要書類を準備する
- 遺言執行者が家庭裁判所に必要書類を提出する
- 家庭裁判所が相続人の廃除が妥当かどうかを審理する
- 相続廃除の審判確定
- 家庭裁判所が確定証明書と審判書謄本を発行
- 遺言執行者が審判確定日から10日以内に市区町村役場で届出
- 戸籍に相続廃除が記載され相続廃除の手続き完了
家庭裁判所で必要となる書類
- 相続廃除申立書
- 被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 廃除を求めたい相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 遺言書または遺言書に関する検認調書謄本の写し
家庭裁判所で必要となる手数料等
- 800円分の収入印紙
- 連絡用の郵便切手(家庭裁判所によって金額が異なる)
相続人の廃除をする際の注意点
ここでは、推定相続人の廃除をする際、注意するべき点についてご説明します。
相続廃除は認められない事例も多い
推定相続人の廃除が認められると、廃除された推定相続人は法律上最低限保障されている遺留分さえも失ってしまいます。
法が遺留分を認める趣旨は、相続財産を一部の人が承継することで生活苦を強いられる他の相続人の生活保障にあることから、遺留分をも剥奪する推定相続人の廃除は、対象とされた相続人のその後の生活を不安定にさせる危険があります。
こうした理由から、相続廃除の審理には慎重な判断が求められ、申し立てを行っても家庭裁判所が廃除を認める事例が少ないといった現状もあります。
つまり、廃除が認められなかった場合のことも考えておく必要があり、廃除が認められる可能性を上げるためには、要件を満たしていることの裏付けとなる証拠を集めておく必要もあります。
特に、遺言廃除の場合は、実際に廃除されたかどうかを被相続人が確認できないため、しっかりとした事前準備が必要となり、専門家に関わってもらうことも有効な手段といえます。
申し立てをする場所や廃除届の提出期日を間違えない
推定相続人の廃除の申し立ては、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所で行うことになります。
そして、家庭裁判所の審理で要件を満たすと判断され、廃除を認める審判が出ると、審判書の謄本と確定証明書を受領して市区町村の役場で推定相続人廃除の届出を行います。
推定相続人廃除の届出は、廃除される推定相続人の本籍地または届出人の所在地を管轄する市区町村の役場で行いますが、審判確定の日から10日以内が届出の期限とされているので、速やかに手続きを進める必要があります。
相続廃除された場合でも代襲相続はできる
推定相続人の廃除手続きが完了した場合、相続権廃除の効果が及ぶのは対象とされた相続人のみなので、廃除された相続人の方に子どもや孫がいる場合は代襲相続となり、子どもや孫が相続権を引き継ぐことになります。
この点、廃除の対象者である相続人の家系に遺産を相続させたくないといった場合は、推定相続人の廃除の手続きだけでは解決できないといえます。
相続欠格とは異なる
推定相続人の廃除と似た言葉に相続欠格というものがあります。相続欠格は、相続で自分を有利にするため、他の相続人の殺害や被相続人の遺言書を偽造するなど、さらに重大な権利侵害を行った相続人の相続権を奪う制度になります。
相続欠格は、推定相続人の廃除が認められる行為と比べても被相続人の権利侵害が重大であることから、何ら手続きを要さず、ただちに相続権を失うことになります。
相続廃除はセゾンの相続「遺言サポート」に相談
推定相続人の廃除はなかなか認められるものではなく、特に遺言書による相続廃除を考えている場合は、記載内容や必要書類の準備、遺言執行者の選任など、事前に検討が必要な事項が多岐にわたり、ご自身のみで行うのは困難をともないます。
こうした場面で頼りになるのが弁護士や司法書士といった専門家です。
セゾンの相続「遺言サポート」では、遺言に強い司法書士と提携しているため、遺言書による相続廃除などの生前対策から相続開始後の手続きに至るまで、信頼できる専門家との無料相談や最適プランの提案を受けることができます。
推定相続人の廃除や遺言書、相続対策などをお考えの方は、ぜひセゾンの相続「遺言サポート」に相談してみてはいかがでしょうか。
おわりに
様々な事情により、財産の承継をさせたくないと考える場合もあります。そうした場合、まずは推定相続人の廃除を検討しましょう。今回ご説明した手続きの流れなども参考にしてみてください。
また、廃除が認められるかどうかは個別事情によっても異なるので最終的には家庭裁判所の総合的な判断にかかってきます。ご自身のみで判断が難しい場合には、専門家に相談しておくこともひとつの方法です。