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公正証書遺言でも遺留分侵害請求できる?手順はどうする?時効はある?

公正証書遺言でも遺留分侵害請求できる?手順はどうする?時効はある?
セゾンのくらし大研究 編集部

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「公正証書遺言はその内容通りに相続手続きをしなければならない」と思われがちですが、公正証書遺言であっても遺留分を侵害していれば請求することができます。

この記事では、公正証書遺言でも遺留分侵害額を請求できる理由から遺留分侵害額請求の手順、さらに疑問・トラブル予防方法についてご紹介します。遺留分を請求したいと考えている方や家族に禍根を残さない遺言を作成したいと考えている方はぜひ参考にしてみてください。
(本記事は2024年3月14日時点の情報です)

この記事を読んでわかること
  • 公正証書遺言であっても遺留分は請求できる。
  • 遺留分は遺言の効力を上回る。その理由は、近親者の生活保障のための最小限の取り分であるため。
  • 遺留分の請求は、内容証明郵便など証拠が残る方法で行うことがポイント。
  • 遺留分によるトラブルを招かないよう、遺言書の作成は専門家に相談することもおすすめ
遺言サポート
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公正証書遺言の特徴と効力

公正証書遺言の特徴と効力

遺言は、「遺産をどのように相続させたいか」という人生最後の意思を残す制度で、満15歳以上が遺言をすることができます。遺言の方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があり、基本的に遺産は遺言のとおりに相続が行われます。

その中でも公正証書遺言は、証人2人以上の立ち合いのもと公証役場で作成し保管されるため、法律上の不備により無効となる恐れや隠匿・偽造・紛失の恐れがほぼありません。

そのため、相続に伴って発生するトラブルの予防と円満な相続を願い、法的に信頼性が高く効力がある公正証書遺言を選択する方が増えています。

相続財産には「遺留分」がある

相続財産には「遺留分」がある

遺留分とは、一定の法定相続人の生活保障を図るなどの観点から、遺言の内容にかかわらず取得できる最低限の遺産割合のことです。なお、法律で遺留分を保証されているのは、配偶者、直系卑属(子ども・孫等)、直系尊属(不父母・祖父母等)に限られ、兄弟姉妹は対象外です。

遺留分を侵害された相続人は、財産を多く受け取った相手に対して、遺留分侵害額を請求することができます。例えば法定相続人が子ども3人のみで、遺言書には「全ての財産を長男に相続させる」とあった場合、遺産をもらえなかった子ども2人は長男に対して遺留分を請求することができます。

遺留分で保証されている割合

遺留分で保証されている割合は、原則として法定相続分の2分の1となります。ただし、相続人が直系尊属のみの場合は、法定相続分の3分の1となります。

遺留分で保証されている割合

子どもや親が複数人いる場合は、遺留分率をその人数で等分します。また、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1となります。

遺留分侵害に当たる行為

遺留分侵害に当たる行為には、前述した遺言の他にも遺贈や贈与があります。遺贈は遺言によって財産を相続人以外の第三者に贈ることです。贈与は贈与者と受贈者の双方の合意に基づき財産を無償で譲ることです。

贈与には被相続人の死亡により効力が生じる「死因贈与」と生きているうちに財産を渡す「生前贈与」があります。

なお、生前贈与でも遺留分侵害額請求の対象となるものは、相続開始前の1年間にしたもの(相続人に対しては相続開始前の10年間にしたもの)及び遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものです。

遺贈や贈与によって財産が減少し、遺留分に満たない財産しか取得できなかった相続人は、多く財産を受け取った相手方に侵害された遺留分侵害額を請求することができます。

公正証書遺言があっても遺留分侵害額請求はできる

公正証書遺言があっても遺留分侵害額請求はできる

法的効力の高い公正証書遺言であっても、遺留分を侵害している内容の場合は遺留分を請求することができます。これを遺留分侵害額請求といい、この権利は法律によって保証されています。

遺言者の願いは尊重すべきなのですが、遺留分は遺された家族の生活保障のための最小限の取り分です。そのため、遺留分の権利は遺言の効力を上回ります。

例え遺言書に「遺留分は請求しないでください」と記されていたとしても、遺留分の権利を持つ相続人が欠格や廃除で資格を失っていない限り、請求することが可能です。

遺留分侵害請求の手順

遺留分侵害額請求は次の手順で行います。

遺留分の金額と侵害額を計算する

まず遺留分の金額とどれくらい侵害されているのかを把握します。
遺留分の金額と遺留分侵害額の計算方法は次のとおりです。

遺留分の金額=遺留分の基礎となる財産×遺留分の割合

遺留分侵害額=遺留分の金額―遺留分権利者が相続によって得た遺産の金額

例えば、遺留分の基礎となる財産が6,000万円で遺留分割合が2分の1の場合、遺留分の金額は3,000万円となります。仮に、公正証書遺言で指定された相続額が1,000万円であった場合、遺留分侵害額として2,000万円を、遺留分を侵害した相手方に請求することができます。

相手に遺留分侵害額請求の意思を伝える

侵害されている遺留分は「請求する」という意思を相手方に表示することで権利の行使となります。遺留分侵害額の請求方法は口頭でも構いません。

ただし、後で請求を受けていないと言われないよう、証拠を残しておくことをおすすめします。内容証明郵便などを利用するとトラブル予防になります。

協議で解決を図る

内容証明郵便などで意思表示をした後は、相手方と協議で解決を図ります。そして、協議がまとまったら合意書を交わし、侵害分を返還してもらいます。感情的な対立で協議が長引かないよう、弁護士に間に入ってもらうのも良いでしょう。

家庭裁判所に調停を申し立てる

もし協議で合意に至らなかった場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申立てることができます。

申立先は、相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所です。必要な費用は収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手となります。主な必要書類は下記です。

  • 申立書
  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 代襲相続の場合は被代襲者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 遺言書の写し、または遺言書の検認調書謄本の写し
  • 遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しまたは残高証明書、有価証券写し、借金に関する資料など)

調停では、裁判所が間に入って当事者双方から事情を聴き、必要な助言をするなどして当事者同士の話し合いを進め、合意の成立を図ります。あくまで調停は当事者同士の合意による解決を図る手続きです。

遺留分侵害額請求訴訟を起こす

調停でも決まらなければ裁判を検討します。その場合は、地方裁判所へ遺留分侵害額請求の訴訟を提起します。裁判になると調停と異なり、裁判所が判決を下して結論を出してくれます。

【注意】遺留分侵害額請求には時効がある

遺留分侵害額請求権には時効があり、請求しないと権利が消滅します。請求可能な期間は、遺留分が侵害されていると知った時から1年以内です。ただし、被相続人が亡くなった事実や遺留分の侵害があったことを知らなかった場合は、被相続人が亡くなった時から10年以内なら請求できます。

遺留分侵害額請求後も、時効に注意が必要です。遺留分侵害額の請求によって金銭支払請求権が発生し、この金銭債権の時効が5年であるからです。そのため、相手が金銭を支払ってくれないまま何もせずに5年を過ぎると、時効により遺留分を受け取る権利が消滅してしまいます。

遺留分が侵害されていることを知ったら証拠が残る方法ですみやかに請求することが必要ですし、請求後も金銭債権の時効に気をつけましょう。

公正証書遺言や遺留分侵害に関する疑問を解決

公正証書遺言や遺留分侵害に関する疑問を解決

公正証書遺言で遺留分が侵害されていたら必ず請求すべき?

公正証書遺言の内容が遺留分を侵害するものであったとしても、遺留分の請求をするかしないかは各相続人の自由です。個人の意志を尊重したい場合は、遺留分を請求しない選択肢もあります。遺留分の請求がなければ遺言どおりに執行されます。

また、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議書を作成し、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことも可能です。

遺留分の請求相手が複数いる場合は?

遺贈や贈与などで遺留分の請求相手が複数いる場合は、より相続発生時に近いものから負担することになります。

民法1047条1項には「受遺者または受贈者は、次の各号に定めるところに従い、遺贈または贈与の目的の価額を限度として、遺留分侵害額を負担する」とあります。優先順位は次のとおりです。

  1. 受遺者と受贈者があるときは、受遺者が先に負担する。
  2. 受遺者が複数あるとき、または受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者または受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。
    ※ただし、遺言の中に遺言者の意思が表示されていれば、その内容に従う。
  3. 受贈者が複数あるときは、後の贈与にかかる受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

つまり、遺贈を受けた方→死因贈与を受けた方→生前贈与を受けた方の順に請求します。

不動産の遺留分請求はどうなる?

2019年7月1日の民法改正により、遺留分は金銭債権となりました。そのため、不動産に対しては遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求します。

法改正以前は、遺留分が請求されると財産は共有となり、土地の有効活用や事業承継に支障が出ていました。法改正により不動産の共有が回避され、財産の有効活用がしやすくなるとともに、目的財産をそのまま受遺者等に与えたいという遺言者の意志も尊重されることになりました。

なお、遺留分の請求を受けた側がすぐに金銭を準備できない場合には、裁判所に申し立てを行い支払期限の猶予を受けることができます。

公正証書遺言の遺留分を巡るトラブルを防ぐ方法

公正証書遺言の遺留分を巡るトラブルを防ぐ方法

ではどうすれば相続財産を巡って家族がもめずに済むのでしょうか。ここではトラブルを防ぐ公正証書遺言の作成方法をご紹介します。

遺留分を考慮して遺言書を作成する

まず考えられる方法は、あらかじめ遺留分を侵害しない遺言書を作成することです。

各相続人の遺留分の割合を確認し、遺留分に相当する額を相続させる内容にしておきます。これにより最低限の遺留分が権利者に渡されますので、トラブルは予防できます。

遺言書の「付言事項」に思いを記しておく

遺言書の「付言事項」に思いを記しておく方法もあります。

付言事項とは、遺言に追加できる記載事項です。任意であり法的効力はないのですが、気持ちを伝えるのには有効です。なぜそうしたいのかという理由を伝え理解してもらうことで、遺留分の請求を思いとどまってもらうことが期待できます。

付言事項を活用し、疑念や誤解を残さないようにしましょう。

遺言書の作成をプロに協力してもらう

公正証書遺言を作成する際は、司法書士などの専門家に協力してもらうと安心です。

遺留分侵害額をご自身で計算することは可能ですが、その計算は簡単ではなく、財産に不動産や株式などが含まれる場合はさらに難しくなります。遺留分の基礎となる財産も正確に把握する必要があります。さらに付言事項についても、何の配慮もなく書いてしまうと火に油を注ぎかねません。

公正証書遺言は公証役場で公証人に書面にしてもらうのですが、遺言書の内容についてのアドバイスや相談は公証人の職務の範囲外になります。後々のトラブルを回避するためには、専門知識に基づきアドバイスしてくれる専門家に相談することをおすすめします。

遺留分の放棄を相談する

この他、遺言者の生前に、遺留分権利者みずからの意思で遺留分放棄をしてもらう方法があります。ただし、遺留分を放棄する際は家庭裁判所の許可が必要となり、次の要件が求められます。

  • 遺留分権利者の自由な意思によること
  • 遺留分放棄の必要性や合理性が認められること
  • 遺留分権利者へ十分な代償が行われていること

このように生前の遺留分放棄に厳格な手続きが必要となるのは、不当な圧力により強制的に権利が奪われないようにするためです。なお、遺言者が亡くなった後の遺留分放棄は、家庭裁判所の許可は不要です。

遺言書のお悩みはセゾンの相続「遺言サポートへ」ご相談を

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遺留分侵害額請求が行われると、協議などで相続手続きに時間がかかるだけでなく、相続人の間にマイナスの感情が残りがちです。スムーズに相続手続きが進められるよう遺言書を作成したつもりが、遺留分を侵害していることによって家族がもめるのは避けたいところです。

相続をめぐるトラブルを予防する遺言書を作成するためには、遺言作成のサポートを専門の会社に依頼することもひとつの方法です。

「セゾンの相続 遺言サポート」は、遺言に詳しい司法書士と連携しているため、専門家との無料相談を受けることができます。希望に沿った円滑な相続が実現できるよう、遺言書の作成を考えている方は、ぜひ相談してみてはいかがでしょうか。

セゾンの相続 遺言サポートの詳細はこちら

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おわりに

繰り返しになりますが、公正証書遺言があるから、必ずしも被相続人の希望通りになるとは限りません。遺言の内容が遺留分を侵害していれば、遺留分侵害額請求が行われ相続争いになる可能性があります。その理由は、遺留分が近親者の生活保障のための最低限の救済措置であるからです。

不公平な内容の遺言や多額の贈与が行われている場合は、遺留分が侵害されている可能性があります。遺留分を請求するのであれば、時効に注意しましょう。また、遺言書を作成する際は、専門家などの協力を得て、遺留分によるトラブルを防ぐ対策をしておくことをおすすめします。

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