農業をしていなくても相続財産に農地が含まれていれば、相続の対象となります。この記事では、農業をしない人が農地を相続したときの対応方法や手続き、注意点などを解説します。農地を相続して放置すると、管理や税金の問題が生じます。「農業を継ぐ考えはないけれど、親が亡くなった後の農地はどうしたらいいのだろう?」と農地相続に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
- 農業をしない人でも農地を相続したら相続登記などの手続きが必要。
- 農地の売却や貸し出し、農地転用には農地法による制約がある。
- 農地の相続では、相続登記後に農業委員会への届出をしなければならない。
- 農業委員会への届出は、相続開始を知った日から10ヶ月以内が期限。期限には注意を。
農業をしない人でも農地を相続できる?
まずは農地相続に関する基本的な知識を確認しておきましょう。
農地とは?
農地とは、農地法第2条で「耕作の目的に供される土地」と定義されています。そして、通達において「耕作」とは、「土地に労費を加え肥培管理を行なって作物を栽培すること」と定義されており、「客観的に見てその現状が耕作の目的に供されるものと認められる土地(休耕地、不耕作地等)も含まれる」とあります。
つまり、農地に該当するのは、現に農作物の栽培のために耕作されている土地、あるいは耕作しようと思えばいつでも耕作できる土地のことを指します。登記簿上の地目が「田」や「畑」であっても、土地の現況が、砂利を入れた駐車場になっている場合や数年間耕作放棄して容易に農地に復元できない場合などは、農地法の定義する農地に該当しないため農地と判定されません。
農業をしない人でも農地相続は可能
相続は被相続人の死亡によって開始され、原則として法律に定められた相続人が被相続人の遺産を承継します。これは農地も例外ではなく、遺産に田んぼや畑など農地が含まれていれば、農地相続が発生します。
そのため、農業をしない会社員や兄弟でも、家族が農業を営んでいた場合は農地を相続できます。そして、相続が発生すれば、農業を引き継ぐ・引き継がないに関係なく、相続による土地の名義変更といった手続きが必要となります。農地の相続手続きについては後ほど説明します。
農地の相続でよくあるトラブルとは?
なお、農地相続は通常の不動産の相続と異なり、農地ならではのトラブルが発生しがちです。農地の相続でよくあるトラブルは次のとおりです。
農地相続をする人がいない
相続人の中に農業をしている人がおらず、全員が農地の相続を望まないことがあります。売却や宅地転用をするにも農地法の制約があり手続きが難しく、誰が相続するかでもめてしまいがちです。その上、相続人全員が遠方に住んでいる場合は、管理自体も難しく、放置されて荒地になる可能性が高まります。
遺産分割の方法がうまく決まらない
相続人の意見がまとまらず遺産分割の方法が決まらないこともあります。農地のまま相続したい人、農地を相続したくない人、農地の面積の分割などでもめてしまうのです。また、農地は宅地と比較して土地の固定資産評価額が低い傾向にあるため、不公平を感じて協議書がまとまらないケースもあります。
遺産分割の方法がうまく決まらないと、農地の相続手続き自体がストップしてしまいます。相続登記の手続きには遺産分割協議書が必要となるからです。
農地相続の知識がなく手続き方法がわからない
農地相続の知識がなく、手続き方法が分からないこともトラブルに発展しがちです。農地の相続は通常の不動産の相続に比べて手続きが複雑で、知識がないと対応が難しい部分があります。農地の売却や宅地転用には農地法による制約があり、相続税も農地の種類によって評価方法が異なります。
農業をしない人が農地を相続したときの対応方法
では相続財産に農地が含まれていた場合はどうしたらいいのでしょうか。ここでは農業をしない人が農地を相続したときの対応方法について説明します。
農業従事者となり農業を始める
農業に興味があるなら、相続を機に農業を始めることも一つの方法です。機械や設備など初期投資が必要になることはありますが、農地を探して取得する手間はないため、すぐに農業を始めることが可能です。また、農業を引き継いだ場合は、農地の相続税納税猶予の特例により、農地にかかる相続税を軽減できる可能性もあります。
そのため、農地の相続を機にサラリーマンから農業を始めるケースも少なくありません。ただし、農業には知識や技術も必要です。未経験から始めると採算が取れないリスクはあります。
農地を売却する
ご自身も兄弟も農業をしない場合は、相続した農地を売却する方法があります。
農地を売却するには、まず相続登記を行い、次に農業委員会の許可を得る必要があります。個人間の勝手な売買は認められておらず、売却先は一定の要件を満たした農家や農業生産法人に限られます。
農地を第三者に貸し出す
売却ではなく、農地を第三者に貸し出す方法もあります。自分で管理しなくても農地の荒廃を防ぐことができ、かつ定期的な賃料・収入が得られます。貸し出すことで、不労所得として長期的な利益を得ることが期待できます。
なお、貸し出す場合も売却同様、相続登記した後、農業委員会の許可を得ることと、借り手に一定の要件が必要となります。
農地転用する
農地を宅地や駐車場などの地目へ変更して活用する方法もあります。農地の地目を変更することを農地転用といいます。農地転用で買い手の幅が広がるだけでなく、賃貸住宅を建設して運営したり駐車場経営をしたり、新しい使い道がひらけます。
ただし、農地転用も農業委員会の許可が必要です。また、農地転用ができない土地もある点に注意しましょう。
相続放棄する
ここまで紹介してきたように農地の相続は、通常の不動産の相続に比べると大変です。農地を相続することが負担になる場合は、相続を放棄する方法もあります。
相続放棄をするには、相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てを行います。ただし、農地だけを限定して放棄することはできず、すべての財産を放棄することになります。3ヶ月以内という期限があることと、農地以外のすべての相続財産も放棄することになりますので、相続放棄は慎重に検討しましょう。
しかも、相続を放棄しても、農地の管理義務は残りますので、注意が必要です。管理義務は新たな相続人が管理できる状況になるまでです。すべての相続人が相続放棄をして誰も相続する人がいない場合は国庫に帰属することになりますが、その間は最後に相続を放棄した人に管理責任が発生します。管理したくない場合には、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申し立てを行うこともできますが、費用もかかりますので事前に確認しましょう。
農地を相続するときの手続き方法は?
続いて、農地を相続するときの手続き方法について解説します。
証明書・申請書など相続書類を準備
まずは通常の土地の相続同様、登記申請をするために証明書等の必要書類を準備します。必要書類は次のとおりです。
- 登記申請書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票等
- 法定相続人全員の戸籍謄本
- 法定相続人全員の住民票または戸籍の附票
- 農地の固定資産税評価書
- 遺産分割協議書もしくは遺言書
- 法定相続人全員の印鑑証明書
戸籍謄本は法定相続人の確認のために必要となります。法定相続人全員の印鑑は遺産分割協議書の証明のために添付します。
法務局で相続登記(所有権移転登記)を行う
次に、法務局で相続登記(所有権移転登記)を行います。不動産は相続によって自動的に名義が変わるわけではないため、必ず所有権移転登記により名義の変更を行う必要があります。相続によって不動産の名義を変更登記することを、相続登記と呼びます。
手続き方法は、一般的な不動産の名義変更と同じです。
流れとしては、先述の必要書類を、法務局に持参あるいは郵送、もしくはオンラインで申請します。申請から1〜2週間程度で名義変更が完了し、「登記識別情報通知」が発行されます。登記識別情報とは、名義人ごとに発行される権利証となりますので、大切に保管しましょう。
農業委員会に相続の届出を行う
さらに、農地の相続では相続登記後に農業委員会への届出が必要です。ここが一般的な土地の相続と大きく違うところです。
農業委員会への届出は、相続開始を知った日から10ヶ月以内が期限となっています。期限を過ぎると10万円以下の過料が課される可能性があるため届出はできるだけ早めに行いましょう。なお、その他にも、相続税の申告・納税が必要です。相続税の申告・納税の期限は相続開始を知った翌日から10ヶ月です。
農地を相続するときの注意点
ここまで農地相続に関する対応方法や手続きを解説しました。あらためて農地を相続するときに注意したい点を確認しておきましょう。
「農地だけ相続しない」といった選択はできない
繰り返しになりますが、相続放棄では、「農地だけ相続しない」といった選択はできません。農地の他にもお金、土地、不動産などすべての相続を一緒に放棄することになります。それでも相続を放棄した方がいいのか、総合的に考えて、判断することが大切です。
さらに相続放棄は、相続開始を知ってから3ヶ月以内という期限があります。また、相続を放棄しても農地の管理義務は残る点にも注意しておきましょう。
農地を相続する期限に気をつける
前述したとおり、農地を相続する手続は、相続を開始してから10ヶ月以内と決められています。これは相続登記をして、農業委員会へ届け出る期限です。期限を超えた場合は、10万円以下の過料を求められるケースもあるので注意が必要です。
また、相続税の申告・納税も10ヶ月という期限がありますので、早めに農地の相続人を決定し、相続登記で名義変更を終えておくことが大切です。
なお、農業を引き継ぐ場合は、農地の相続税納税猶予の特例を受けられる可能性があります。これは一定の相続税額の支払いを猶予する特例で、この猶予された税金は、農地を相続した人がその後亡くなった場合には免除されます。特例の要件に該当すれば、実質的に農地に相続税がかからないことになりますので、うまく活用したいものです。
農業をしない人の農地相続に関してよくある疑問Q&A
最後に、農業をしない人の農地相続に関して、よくある質問をご紹介します。
農地を相続すると相続税はいくらかかる?
一般的に相続税は、相続する全財産の評価額をもとに計算されます。
農地の場合、相続税評価額が高ければ相続税額も高くなり、評価額が低ければ相続税額も低く済みます。この農地の相続税評価額は、農地の区分に応じた評価方法によって求められます。
農地の価額の評価は次の4種類に区分されます。
- 純農地:倍率方式…固定資産税評価額×国税局長が定める一定の倍率
- 中間農地:倍率方式
- 市街化周辺農地:市街地農地として評価した価額×80%
- 市街地農地:宅地批准方式または倍率方式
宅地批准方式…その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額−1㎡当たりの造成費の金額)×地積
農地の評価額を含めた全財産の総額から、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引いた額が課税対象となります。
そして、算出した課税対象額を法定相続分の割合で分割したものと仮定し、下記の速算表で計算した法定相続人ごとの税額を合計したものが相続税の総額となります。
宅地の土地相続よりも農地相続は大変?
農地の相続が宅地の土地相続よりも大変なのは事実です。
現状は、農業離れが深刻化し、農業を継ぎたい相続人がいないケースが増えています。農地転用で新しい活用方法を検討する方も多いですが、農地法の制約で手続きが難しいことや、相続や活用方法をめぐって相続人同士でトラブルになるケースも見受けられます。
しかし、農地を相続して放置することは、管理や税金などでリスクがあります。また、期限内に農業委員会へ届出をする必要もあります。農地の相続については、家族で話し合い遺言書を作成しておくなど、事前に準備しておくことをおすすめします。
農地相続で困ること・わからないことはどこに相談できる?
現代は長男が家を継ぐ決まりや風習もなく、他の兄弟も、実家を出て都市部で会社勤めをしているケースが増えています。そのため農地を相続しても扱いに困る可能性が大いにあり、早めに対策を考えておくことが大切です。農地相続について分からないことは、専門家に相談するのも一つの方法です。
セゾンの相続手続きサポートなら、生前の相続対策から相続後のことまで、専門家がトータルでサポートしてくれます。農地相続の分かりづらい手続きが任せられ、相続した不動産の有効活用や処分についてもアドバイスが受けられるでしょう。農地相続や相続後の活用にお困りの方は、ぜひ相談してはいかがでしょうか。
おわりに
農地相続は通常の不動産相続に比べて手続きが複雑で、売却や農地転用にも農地法による制約があります。相続放棄をしない限り、農業をしなくても農地の相続手続きはしなければならず、農業をしない人には大きな負担になる可能性があります。農地相続で慌てないためには、相続発生前から対策を考えておくことが重要です。リスクを減らすためにも、早めの対策と準備を心がけましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。