近年、配偶者が亡くなったあとに「死後離婚」を選択する人が増えているそうです。「離婚」と聞くとネガティブなイメージを持ってしまいがちですが、亡くなった配偶者を愛していても、“あえて”離婚を選ぶという人も。いったいなぜなのでしょうか。
多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士・CFPが、「死後離婚」のしくみとメリット・デメリットについて、事例を交えて紹介します。
愛する夫を亡くした59歳女性の決断
Aさんには、同い年の夫がいました。公務員の夫は、昨年来から病気のため入退院を繰り返したのち、59歳という若さで帰らぬ人に。
Aさんは愛する夫を失い、これからどうやって生きて行こうかと熟慮した末、「死後離婚」を選択することになります。夫と仲の良かったAさんですが、どうしてあえて“離婚”をすることにしたのでしょうか。
近年、「死後離婚」を選択する人が増えている
近年、「死後離婚」によって配偶者の死後、姻族との関係を終わらせるケースが増えています。
「死後離婚」とは、市区町村役場への届け出により、姻族との関係を終了する手続きのことです。義父母や義兄弟姉妹など、配偶者側の血族を「姻族」といい、死後離婚をするとこの姻族関係が終了します。
なお、死後離婚は法律上の呼称ではありません。正式には役場に提出する「姻族関係終了届」の手続きのことです。
夫婦が死別すると、通常はその後も義理の親との親族関係が続きます。特に夫が亡くなった場合、妻が義両親(夫の両親)の世話をするケースが多く見られます。親族関係を切ってしまえばこれらの負担がなくなることも、死後離婚が増えている一因でしょう。
今回の事例においても、Aさんの夫は本家の長男であったため、将来的に義父母の介護を担う予定でした。夫が亡くなったいま、自分の父母の世話に加え、義父母の面倒までは見切れないと考えたAさんは、死後離婚を決断したようです。
生前離婚との違い
死後離婚は亡くなった配偶者と同じ戸籍に残るため、生前の離婚とは身分上の扱いが異なります。
「離婚」という単語が入っていることから、死後離婚と聞くとあまりよい印象を受けないかも知れませんが、お互いの性格の不一致などを理由とした離婚ではないため、後ろめたさを感じる必要はありません。
法務省の統計によると、この18年間で婚姻件数が約28%、離婚件数は約27%減少している一方、死後離婚(姻族関係終了届)の提出件数は増加傾向にあり、18年前の1.67倍となっています。
個人の権利意識が高まったことや、家族のあり方が多様化したことを背景に、義理の親族との関係を見直す人が増えているのかもしれません。
死後離婚した場合、「相続」と「年金」はどうなる?
死後離婚を検討する人の多くが気にしている点に、遺産相続や死亡保険金、遺族年金などへの影響があげられます。
結論から言うと、死後離婚をしても、相続権や死亡保険・遺族年金の受給権に影響は生じません。したがって、死後離婚をするにあたり、経済面について心配する必要はほとんどないといっていいでしょう。
死後離婚した場合の「相続権」→失われない
死後離婚をしても、亡くなった配偶者の遺産に関する相続権は失われません。死後離婚は、あくまでも亡くなった親族との姻族関係を終了させるものであって、法的な意味での「離婚」ではありません。
被相続人が亡くなった時点では、相続権を得られる配偶者であったことに変わりはないため、死後離婚をした場合であっても、亡くなった配偶者の遺産を相続することが可能です。遺産分割協議にも参加できます。
死後離婚した場合の「死亡保険金」→受け取れる
死後離婚後も死亡保険金の受取人としての地位は失われません。したがって、亡くなった配偶者が加入していた生命保険について、受取人として指定されていれば問題なく受給できます。
死後離婚した場合の「遺族年金」→受給可能
国民年金または厚生年金の被保険者が亡くなった場合、亡くなった人によって生計を維持されていた配偶者は「遺族年金」を受給できることがあります。遺族基礎年金・遺族厚生年金の受給資格の両方を満たしている場合は両方受給できます。
「死後離婚」のメリット・デメリット
死後離婚は、自分の意思だけで義理の親や兄弟姉妹との姻族関係を終わらせることができます。手続きそのものは簡単ですが、家族関係におよぼす影響が大きく、ときにはトラブルに発展するリスクもあるため、メリットとデメリットを比較してじっくりと検討することが大切です。
メリット1.義理の親の扶養や介護について心配する必要がなくなる
死後離婚をすれば、義理の親の扶養や介護の心配をする必要がなくなります。経済的に困っている義理の親から「生活費を入れてほしい」や「介護の面倒をしてほしい」などといった要求を受けにくくなります。
メリット2.義理の親との同居を解消できる
配偶者が亡くなる前から義理の親と同居していた場合は、死別したあとも同居を解消しづらいケースがよくあります。
しかし、死後離婚によって親族関係を終了させれば、義父母と同居する理由がなくなり、それをきっかけに義理の親との同居を解消しやすくなります。折り合いの悪い姻族がいる場合なども、付き合う必要がなくなります。
メリット3.お墓の管理をしなくてよくなる
夫婦が死別した場合、残された配偶者がお墓や仏壇などを管理することが一般的です。さらに法事を行うとなると、地域や家庭環境によっては大きな負担になることもあります。
死後離婚をすれば、お墓を管理する必要がなくなります。もちろん、自身の死後に義理の親と同じ墓に入る必要もありません。
デメリット1.義理の親に頼れなくなる
死後離婚をすると、義理の親の扶養や介護について心配する必要がなくなる一方で、困ったときに義理の親に頼ることもできなくなってしまいます。
姻族関係を一方的に断ち切った以上、子どもの学費や結婚費用などで支援を期待することもできません。同居を解消することとなった場合は、新たな住まいを探す必要も出てきます。
デメリット2.お墓の準備をしなければならない
死後離婚のメリットとして、お墓の管理をしなくてよくなることをご紹介しましたが、その反面、自分が亡くなったあとのお墓や埋葬場所については自らが準備しなければなりません。
デメリット3.自分の子どもとの関係が悪くなる場合がある
夫婦に子どもがいる場合、死後離婚によって自分の子どもとの関係が悪くなる場合があるそうです。義理の親との関係を断ち切りたいと思うのは大人の事情ですが、子どもの立場からすると「なぜ、亡くなったあとにわざわざ離婚するの? おじいちゃんやおばあちゃんとは、もう会えないの?」と不信感をもたれるかもしれません。
まとめ…決断は慎重に
死後離婚することによって、しがらみや慣習からは解放されることとなります。しかし、今回みてきたように死後離婚は子どもに対する影響もあり、手続き完了後は義父母からの支援を受けることができなくなります。
相続財産の調査の対応など、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性などもあるため、死後離婚を検討する場合は一度専門家に相談されることをおすすめします。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。