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いっしょに「更年期」を語ろうよ|第1回 私の更年期の始まり
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小島慶子のいっしょに「更年期」を語ろうよ|最終回 「老い」に直面した今こそ、充実を感じています

更年期の不調って、しんどいし、やるせないけど、周りには話しづらくて――。

でも、更年期は誰もが通る道。恥ずかしいことでもなんでもない!そんな思いを込めた、小島慶子さんのエッセイ、最終回です。

更年期は、自らの老いを感じる時期でもあります。身体の変化に向き合うことで、考え方にも変化があったという小島さん。

未来、現在といった時間に対する考え方の変化、自分の身体と対話する大切さ。小島さんがどのように老いをとらえ、向き合っているのか教えてもらいました。

小島慶子さんprofile

小島慶子さん

1972年生まれ。TBSアナウンサーとしてさまざまな番組に出演後、2010年に独立。エッセイスト、タレントとして活動の幅を広げる。メディアで自らの更年期を語る姿が話題に。新刊対談集『おっさん社会が生きづらい』(PHP新書)など著書、連載多数。

更年期の悩みは、寿命の延びた現代だからこそ

更年期の悩みは、寿命の延びた現代だからこそ

先日、ある歴史番組で江戸時代の将軍たちの健康法をとりあげていました。「当時は40歳以上生きれば長生き」と聞いて、今50歳の私はびっくり。将軍でもそうなら、ましてや庶民が健康に50代を迎えられるのは、極めて珍しいことだったのでしょう。

天然痘などの流行病や飢饉が起きても、なすすべもなかった時代です。

そうか、昔の人は更年期を迎える前に命を全うしていたのだよな……。

お産や病気によって10代、20代で亡くなる女性も多かったはずです。

日本が「長寿」の国となったのは、1970年代のこと。働きながら、あるいは子育てをしながら更年期を迎える私たちの悩みは、医学の進歩や栄養状態の向上などで劇的に寿命が延びた現代だからこそです。まだたった50年ほどの、極めて新しい、不慣れな問題なのですね。

更年期の悩みは、寿命の延びた現代だからこそ

歳を重ね、「今、生きている世界」を大切にできるようになった

歳を重ね、「今、生きている世界」を大切にできるようになった

30代の頃と今との大きな違いは、残り時間を意識するようになったことです。先日も「リニア新幹線の名古屋〜大阪間開通の当初予定は2045年」という記事を読んで「ずいぶん先だなー。さらに工期が延びたりするんだろうな……あ、私、完成時にはもう生きてないかも」と気付きました。

誰だって明日生きている保証はないので別に驚くことではないですが、「命には限りがある」という感覚が以前よりも身近になったのです。

生きていれば毎日確実に老いるもの。最近は、どうしようもないことを怖がっても仕方ないので、変化を素直に受け入れつつ、どうにかしようのあることは工夫して生きていこうと思うようになりました。

歳を重ね、「今、生きている世界」を大切にできるようになった

歳をとるのは、想像していたよりも悪くないとも感じています。若いときはいつも焦っていました。頭の中に「約束された残り時間」がたくさんあったので、「私には未来がある、まだこれからだ、人生はこんなものではないはずだ」と思っていたのです。

未来を輝かしいものにしなくては!今の自分よりも素晴らしい何者かにならなくちゃ!と焦っていたのですね。自分を否定する気持ちが強く、ダメ出しばかりしていました。でも年齢を重ねると、身体が大事なことを教えてくれます。「今しかないよ」ということです。

「今しかない」とは「今しかチャンスがない」という意味ではありません。過去も未来も頭の中の妄想にすぎなくて、「人生はいつも、今呼吸しているこの瞬間にしかないんだよ」ということです。それは、身体に不調が出てきた時に身に染みて分かること。ああだこうだと未来に思い悩むのは、身体の存在を忘れていられるからです。

毎月生理がある多くの女性は、そうでない人に比べるとリアルな身体を意識しやすいともいわれますが、それだって生理は1週間経てば終わるし、若い時には何かが不可逆的に失われる実感はありません。

だから、忘れちゃうんですよね、今を。ずーっと頭の中の未来のことばかり考えて、本当はこの瞬間にしかない現実を、つまり生身の自分をおろそかにしてしまう。私はまさにそうでした。

この年齢になってもまだ頭の中にしかない「未来」に気を取られていたら、思いがけず終わりが来た時に「え?ちょっと待って、人生をじっくり味わうのはこれからだったのに!」なんて慌ててしまいそうです。

江戸時代ならとっくにお迎えが来てもいい年齢。生まれてから50年経っても血の通った身体で生きていられるのは、私がたまたま現代に生まれたから。

更年期で身体が大きく変わろうとしている今、その有り難みを強く感じます。老いを感じて寂しくなる時ももちろんあるけれど、変化の中だからこそ感じる充実もあります。すごく「生きてる」感じがするのです。

更年期とは、身体と向き合い、命を切実に感じる時間。

更年期とは、身体と向き合い、命を切実に感じる時間。

毎朝、自分で声出し確認をしているんですよ。自問自答です。

「慶子さん、おはよう」
「おはようございます」
「目はよく見える?耳は聞こえる?声は出る?」
「はーい」
「痛いところはある?」
「今の所はないかなあ」
「不安感は?しびれやめまいは?」
「そんなにないと思う」
「なら上々じゃない!今日も1日元気に生きましょう」
「そうですね、上々ですね。はい、がんばりまーす」

声に出していうと、ほんとに元気が出てきます。生きていることへの感謝が生まれます。不思議なものですね。

痛いところがある日や、不安がある日はそう素直に答えます。すると、「そうかあ、そういう時もあるね。では今日も、自分を労って生きましょう」と自然と優しい言葉が出てくるのです。こんな考え方ができるようになったのかと、われながら驚きました。

更年期は、身体との対話の時間。それは命を切実に感じる時間です。もっと自分に親切にしようと思えます。自分に対してそう思えると、他人に対しても同じように寛容になれる気がするのです。

もしかしたら、今これを読んでいるあなたは、更年期で不調を抱えているのに誰にも弱音を吐けず、つらい思いをしているかもしれませんね。でも更年期はいつか必ず終わります。仲間もいます。助けてくれる専門家もいます。変わりゆく身体に耳を傾けて労わりながら、一緒に乗り切りましょう。

(アイキャッチ画像=かざまりさ 宣材写真=鈴木愛子 編集=ノオト)