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歳を重ねた今だからこそ、グレイヘアに挑戦してみる――手塚理美さんに聞く、自分らしい人生の歩み方
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歳を重ねた今だからこそ、グレイヘアに挑戦してみる――手塚理美さんに聞く、自分らしい人生の歩み方

あえて白髪を染めず、自然な髪色を楽しむ「グレイヘア」。俳優の手塚理美さんは、かつてのトレードマークともいえる黒髪をやめ、60歳の現在、グレイヘアで過ごされています。

取材中の手塚さんは、屈託のない笑顔でよく笑われます。人と人との距離が近く、垣根がない。「肩肘張らないナチュラリスト」の雰囲気をまとう手塚さんが、歳を重ねて考えてきたこと、生き方について、詳しくお話を聞きました。

手塚理美さんプロフィール

グレイヘアは実験感覚。理由は「すごく素敵」だから

――改めて手塚さんがグレイヘアにしたきっかけを教えてください。

私は30代の頃から、60〜70代で女性の先輩俳優さんがあるテーマについて話される姿を現場でずっと見ていました。それは「いつ白髪をカミングアウトするのか」という問題についてです。ですから「移り変わる美容のトレンドや技術をどう取り入れ、見た目を変化させていくのか」は、若い頃から漠然と考えていました。

世間で知られている私のイメージは、黒髪のボブやロングヘアでしたが、40代に差しかかると髪のボリュームは減り、やがて美容院で白髪を染める頻度も月に2回と増えていきました。

3年前のある日、美容院に行ったときのことです。たまたま手に取った雑誌の特集がグレイヘアでした。それがすごく素敵で。「あ、今だ!」と思ったんですよ。60歳になるまで、3年かけて自身がどこまでグレイヘアになれるのか実験しつつ、楽しみながらシフトチェンジしていこう、と。

息子に相談したら、「良いんじゃない?」と言ってくれて。ママ友にも「グレイヘアにしようと思っているんだけど、どうかな?」と聞いてみたりしました。幸い頭皮も敏感肌ではないため、ブリーチをして髪を明るくしても問題なさそうだし、私の髪は伸びるのが早いから失敗してもリカバリーもしやすい。

ちょうどそのときは、2017年10月期に放送されたドラマ『明日の約束』の撮影が終わった後で、とにかく髪を切りたい心境でした。役柄的にもとてもしんどかったんですよね。

――『明日の約束』のお母さん役は、身体の中に怒りのマグマをみなぎらせているような大変な役どころでしたね。あのときは黒髪のボブでした。そこからどのようにヘアスタイルが変わっていったのですか?

まずは、ベリーショートにしてブリーチをしました。美容師さんから「分け目の白髪が目立たないようにするなら、ベリーショートが良いですよ」と言われ、ならば「もう切ってしまえ!」と(笑)。昔からベリーショートにしてみたかったので、髪色だけでなく髪型もがらっと変えていきました。

まずは、ベリーショートにしてブリーチをしました。

そこからピンクベージュっぽいミルクティーカラーを最終目標に、オレンジ風の明るいブラウン、ベージュと4段階で髪色を変化させていきました。役柄以外でカラーリングをするのは初めてだったので、次はどんな色になるかが楽しみでしたね。

この頃、仕事で「やっぱり元のように黒髪にしてもらえませんか?」とお願いされたこともありました。そのときは「3年という時間の中で実験をしているので、申し訳ありませんがこの髪でやらせてください」と事情を説明して、協力していただきました。役に合わないときはカツラを被る。地毛を生かしながら、カラースプレーを使ったこともありましたね。

2年前ぐらいから徐々に染めるのをやめて、今では完全なグレイヘアになりました。染めなくて良い生活は、やっぱり楽です。

外見も内面も自然に。私なりの歳の取り方をしていきたい

―2.外見も内面も自然に。私なりの歳の取り方をしていきたい

――手塚さんは芸能界で、見られたい自身の姿と他者が求める姿のギャップに悩んだことはありますか?

ありますよ。どういう風に歳を取っていくかは誰もが悩むところですが、俳優の仕事をしていると、美しさについてどうしても普通の人より注目されますよね。体力は47歳ぐらいからガタッと落ちましたし、顔も身体も引力にはやっぱり逆らえません。

でも内面と比例していれば、シワも素敵だと思うんです。私はヨーロッパ圏の女性俳優さんが好きなのですが、歳を重ねた大人の女性が、シワも含めて尊重されている姿を見るとうれしくなります。

――日本では歳を重ねた大人の女性の姿を、あまり大切にしていないのかもしれませんね。

そうかもしれませんね。私はね、俳優になろうと思って芸能界に入ったわけではありませんでした。人生で一番経験したかったことは、子どもを産んで育てるということだったんです。

だから、30代は仕事よりも子育てに集中していました。髪を振り乱して家事をして……。お化粧なんてしている場合じゃなかったですね(笑)。幸い2人の息子も独立したのでこれからは自分自身の人生に集中したいし、外見も内面も自然とともに私なりの歳の取り方をしていきたい。

それで、あるときから「他人の視線を気にせず自分を楽しもう」という考えにシフトしました。すごく楽になりましたね。

――他人の目がどうしても気になってしまう人はたくさんいます。手塚さんは、どうして人の視線が気にならなくなったのですか?

きっかけは、Instagramを始めたことです。傷つくことを言ってくる方って、いっぱいいるじゃないですか(笑)。「老けた」「歳を取った」「やっぱり黒髪が良い」。エゴサーチこそしませんが、コメント欄を見て何度もやめようかと思いました。

一方で私のInstagramが好きだと言ってくださる方、共感してくださる方もいらっしゃるんです。だから、そういう方とご一緒していれば良いのかな、と。でも、そう思えるようになったのもつい最近のことです。

自身にとってマイナスな人やコメントとはできるだけ距離を置く。エネルギーを吸い取られないように、自身を守ることは大切です。それと「共感しあえる方といつも一緒にいる」のが、すごく大事だなと思います。幸い私は友だちに恵まれているので、本当にありがたいですね。

全国を地元化できるくらい、いろんな地域に友だちを作る

3.全国を地元化できるくらい、いろんな地域に友だちを作る

――外見も内面も自然にナチュラルに生きていくにあたって、日々刺激になっているのはどんなことですか?

街を歩くこと、お散歩ですね。コロナ禍なので、マスクの下はノーメイクです。

この歳になるとお化粧をするのも大変で……老眼だと眉毛を描くのも大変なんですよ(笑)。コロナは早く収まってほしいけれど、「マスク姿が当たり前になるなんて、ナイスな時代だわ」なんて思っています(笑)。

――手塚さんのInstagramを拝見していると、街へ溶け込んでいるのがよく分かります。

もう、すぐにその街の人と友だちになっちゃうんですよ。

たとえば、ロケの行く先々で知り合いを作っていると、次に行くときにおいしいお店を教えていただけて、楽しいじゃないですか。全国に知り合いがほしい。そして、全国を地元化したい(笑)。

地元の方より地元を知っているみたいな。全国どこでも迷わず歩いて行けるようになったら、夢のようですね。

先日もInstagramで、宮城県塩竈市の「鹽竈(しおがま)神社にいます」と投稿したら、すぐ近くのお蕎麦屋さんから「ぜひ来てください」とコメントが入ったので、すぐに連絡してお店に伺いました。

ほかにもInstagramのフォロワーさんで塩竈市在住の方が2人いらしたので、次の日に連絡を取り合って3人でお食事しましたから。

――SNSのわらしべ長者感覚ですね! 「いろいろなものを見て知りたい」という好奇心とフットワークの軽さ。歳を重ねても大切にすべきだなぁ、とお話を聞いて思いました。

「○○せねばならない」をやめたら、急に軽やかになった

4.「○○せねばならない」をやめたら、急に軽やかになった

――日々の生活の中で「これはしない」と決めていることはありますか?

グレイヘアにすると決めた頃から、生活のあらゆる「〇〇せねばならない」をやめようと思いました。

私たち50〜60代は「失敗してはいけない」と言われて育った世代です。失敗が怖いと思い始めると、新しいことが何もできなくなりますよね。だから「失敗は成功のもと」だと思って、できるだけチャレンジするようにしています。難しいですけどね。

――「〇〇せねばならない」をやめてから、失敗は怖くなくなりましたか?

私の仕事でいうと、歳とともに台詞がだんだん覚えられなくなるんですよ。それでも「私はまだ覚えられます」みたいな顔をして現場に行くと、絶対に失敗する。だから最近は「何かあったらすみません!」という気持ちで現場に立つようにしています。

台詞が出てこないことを、失敗と思わずに受け入れる。「自分は覚えられなくなったんだ」と認めたら、気持ちも楽になりました。覚えられないところから、また努力すればいいじゃないですか。

――歳を重ねれば重ねるほど、他人に頼ったり、質問したりするハードルは上がっていくような気がします。「受け入れる」のが大切なのですね。

子どもの頃、母は泣き虫の弟につきっきりで、私の世話をするのは祖母の役目だったんです。祖母はなんでも大声で周りに質問する人でした。子どもの私は恥ずかしくて、「おばあちゃん、もっとちっちゃな声で聞いて!」と、お願いしていたくらいです。

最近になって、そんな祖母から「理美ちゃん。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だよ」と言われたことを、急に思い出したんです。「60歳なんだからこれくらいは世間のことを知っていなくてはいけない」とか、つい知ったかぶりしてしまう場面は多いですよね。

だから、かつての祖母の言葉を思い出して「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だよね」と思える自分がうれしいというか……。できない自分を卑下するのではなく、新しいことを知ったら褒めてあげる。歳とともに、毎日少しずつ自分を好きになってあげる。そう思えるようになったら、きっといろんなことがうまくいくと思うんですよね。

(取材・執筆協力=横山由希路 撮影=塩谷哲平 ヘアメイク=奥戸彩子 編集=ノオト)

【衣装】ワンピース/アンティパスト(クープ・ドゥ・シャンピニオン TEL/03-6415-5067)