これも運命!?「グレイヘア」の女神降臨
2018年の新語・流行語大賞にノミネートされた「グレイヘア」。同年3月に出した本、『グレイヘアという選択』が言葉の発信源でした。それがブームにまで盛り上がったのは、フリーアナウンサー近藤サトさんの存在が大きかったと思います。同年5月にのびかけの白髪を隠さずテレビ出演したことが世間を驚かせ、話題になりました。
初めの頃は必ずしも好意的な反応ばかりではなく「老けた」「劣化」などと揶揄されたりもしましたが、「グレイヘア」という言葉が広まるにつれ、「年齢に抗わない姿がかっこいい」、「若さにしがみつかず潔い」、「ありのままの自分を楽しんでいる姿がステキ」など、髪色だけでなく、サトさんの生き方までもが賞賛されるようになったのです。
「グレイヘア」という言葉は「近藤サト」というアイコンを得たことで具現化し、ブームになっていきました。そして、最初は型破りにも見えたサトさんの行動は、「グレイヘア」という名前がついたことで新たな社会現象として瞬く間に認知されていったのです。偶然の巡り合わせに恵まれ、その年は「グレイヘア元年」と呼ばれる画期的な年になりました。
そもそもは自分の「白髪染め卒業願望」から
『グレイヘアという選択』をいう本を作ったそもそもの動機が、私自身の白髪悩みだったことを前回も書きました。当時50代後半の私は、3週間に一度、美容室で白髪を染めていました。めんどうだけどやめられず、心の中で大きなため息をつきながら…。
40代半ばで白髪に気付きましたが、美容室でカットのついでに染めるのは、さほど苦ではありませんでした。おそらく最初、美容師さんに「白髪ありますね。染めておきましょうか?」と聞かれ、軽い気持ちで「お願いしま~す」と答えたはず(その瞬間、容易に抜け出せない「白髪染め沼」にハマったのです…)。
ところが、白髪が増えるにしたがって染める頻度も増え、2か月に一度が1か月半に一度になり、やがて1ヵ月になり、50代後半では3週間に一度に。染めた1週間後には根元に白髪がキラッと光るので、本当はもっと頻繁に染めたかったのですが、美容師さんに断られました。「えっ、それって身体に悪影響があるから?」。ちょっとした衝撃でした。「そんな身体に良くないことを、ずっと続けたらどうなるの?」と心配にもなりました。
女性は更年期以降、ホルモンの関係で肌が乾燥しやすくなるそうです。頭皮も皮膚ですから当然、乾燥します。乾燥していると白髪染めの薬剤がしみるのだとか。まさに私も、染めている間じゅう頭皮がピリピリと痛み、さらにその晩は、布団の中で身体が温まると頭皮が猛烈にかゆくなりました。頻繁な白髪染めで頭皮がかぶれていたのです。眠りながらかきむしり、翌朝、爪先には黒い染料がびっしり。見るたびに落ち込みました。「あー、白髪染めやめたい!」…モヤモヤはふくらむ一方でした。
「白髪」を英語でいうと?意外な単語に驚き、納得
そんな思いを抱えていた時期に作ったオーバー60歳のファッションスナップ集『OVER60 Street Snap』。そこで多くの白髪を染めないおしゃれな女性たちと出会ったことが『グレイヘアという選択』の着想につながりました。「ありのままの髪色で素敵な大人の女性になりたい!」という思いは、やがて同じように白髪に悩む女性たちを救う本を作りたい!という思いになっていきました。
ところが、というか当然というか、会社では猛反対にあい、「白髪の本なんて売れるの?」と渋い顔をされました。「白髪」のイメージはネガティブですから仕方ありません。でも、そこを変えるのがこの本の使命! 私はそう考えていたのです。
結果、本を出すことになったものの、確かに「白髪」というタイトルでは売れそうにありません。何かいい言葉はないか…と和英辞典を引くと「白髪」は「greyhair」(またはgrayhair)。えっ、ホワイトじゃないの!? 意外でした。でも、確かに黒からいきなり白になるわけではなく、その間に「白髪まじり」の時期が長く存在します。黒と白のミックスでグレイに見えますから、なるほど英語は合理的、と妙に感心しました。(もちろん、黒髪以外の人もいるので、すべての人が「灰色」になるわけではありませんが、どちらともつかない「曖昧な」という意味の「グレイ」も含まれているのかもしれません。たとえば「グレーゾーン」のように)
聞きなれない言葉でしたが、耳新しいからこそ逆に新しい概念を乗せることができる!と、躊躇なく「グレイヘア」を採用。今までは「白髪は染める」が当たり前でしたが、これからは「染めない」選択肢もアリの世の中になればという願いを込めて、タイトルは『グレイヘアという選択』に。
それまでも『ロマンスグレー』という言葉はありましたが、主に男性の白髪を指す言葉です。女性の白髪をリスペクトする言葉になればいいな、という思いもありました。
2018年3月発売が決まり、「本が出たら、きっとメディア取材が入るはず」と予想した私は「そのときに担当編集者が染めていたのでは説得力ゼロ」と、白髪染め卒業の決意をしました。2017年秋のことでした。
ところが、いざとなると急に大きな不安が襲ってきました。まず立ちはだかったのは「移行期」問題。それは、のびた白髪と染めた髪が混在する見苦しい(冠雪した富士山のように頭のてっぺんが白くなる)時期のこと。人をぎょっとさせる髪色でどうやって毎日を過ごせばいいの?いきなり挫折の予感が…。(次回に続く)