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認知症の人にやってはいけないことは?家族が心がけたいポイント

認知症の人にやってはいけないことは?家族が心がけたいポイント
別府 拓紀 医師

監修者
別府 拓紀 医師

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、産業医科大学精神医学講座に入局。大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、2020年2月より、福岡県北九州市にある医療法人清陵会南ヶ丘病院で地域の精神科医療に従事。精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医。

身近な人が認知症を発症した際、家族や周囲の方たちは認知症の人が捉えがちな感情を理解し、接し方に気を配る必要があります。今回は、認知症の人にやってはいけないことや言ってはいけない言葉をケース別にご紹介します。有効的な対処法もご紹介しますので、家族や周囲の対応によって認知症の進行を遅らせたいとお考えの方はぜひ参考にしてください。

この記事を読んでわかること

認知症の人に対してやってはいけないこととして、できなかったことを叱ったり行動に制限をかけてストレスを与えたりすることが挙げられます。また、周囲に認知症を発症していることを隠すのも良くありません。認知症の人に誤った対応をとり続けると症状が悪化する恐れがあるため、認知症に対する理解を深め、当事者が抱える不安を受け入れることを心がけましょう。認知症の症状が進むと家族に重い負担がかかるものですが、そんなときは自分たちだけで抱え込まず、ぜひ専門機関を頼ってください。

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認知症とは

1.認知症とは

認知症とは、後天的な脳の障害によって認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態のことをいいます。認知症の原因にはさまざまなものがありますが、主に以下の4つの疾患から起こる認知症は「4大認知症」と呼ばれています。それぞれの認知症の原因や、ご家族の方にどのような影響が及びやすいのかを見ていきましょう。

新規外来受診患者の診断名別割合

アルツハイマー型認知症

日本人の認知症患者のうち、6割近くを占めるのが「アルツハイマー型認知症」です。脳神経が変性し脳の一部が委縮するうちに起こる認知症で、初期はもの忘れの症状に見えることが多くあります。

しかし症状が進行するうちに、不安になりやすくなる、幻覚・妄想が出るなどのサインが現れ、それに伴い暴力や暴言が出るケースもあります。最終的には入浴や排せつなどが困難になり、介助なしで日常生活を送ることが難しくなりますが、この段階に至るのは発症からだいぶ経ったあとの場合が多いです。

血管性認知症

脳神経の変性により起こる認知症の中で、アルツハイマー型認知症に次いで多いのが「血管性認知症」です。脳出血や脳梗塞などの脳血管へのダメージによって起こり、ダメージを受けた脳の部位によって症状が異なります。脳の一部の認知機能は保たれているため、症状がまだらに現れる「まだら認知症」の状態になることがあります。

感情のコントロールが効かず、些細な出来事に対して怒り狂うケースや抑うつ、突然泣いたり笑ったりする感情失禁といった症状が見られます。進行はゆっくりな場合と急速に進む場合があり進行の予測が難しいです。

レビー小体型認知症

「血管性認知症」と同じボリュームを占めるのが「レビー小体型認知症」です。レビー小体という物質が大脳皮質に多く蓄積し、神経の伝達を阻むことで起こるといわれており、特徴としては幻視、人物誤認やせん妄の症状が出やすいことがあります。また、症状が日や時間帯によって大きく波があることも特徴のうちのひとつです。

「知らない人がいる」など、現実には存在しないものがはっきり見えたり、思い込みに取りつかれたりして不安を抱えるといった症状が初期から現れます。こういった症状は、記憶を司る側頭葉と情報処理を行う後頭葉の機能が低下することが原因だと考えられています。強い不安感から逃れるため、暴力や暴言が出るケースもあるでしょう。その他、身体が固くなって動きづらくなるなどのパーキンソン症状が見られることもあります。

前頭側頭型認知症

「前頭側頭型認知症」は、人格・言語・社会性を司る前頭葉、記憶言語・聴覚を司る側頭葉の萎縮などによる脳の機能低下が原因で発症するといわれています。そのため、言葉が出にくくなる・他人に共感できなくなる・着る物に無頓着になるといった社会性が欠如した行動に出るのが特徴的です。全認知症の中でも暴言や暴力、興奮がとくに起こりやすく、家族の方だけでは対応が難しいケースが多く見られます。

参照元:認知症と共に暮らせる社会をつくる|地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター

認知症の人にやってはいけないこととは

以前とは別人のように行動や言動が変わってしまうケースが見られる認知症。ご家族や周りの方は、本人にどのように接して良いかわからなくなるのではないでしょうか。認知症の人に対し、間違った接し方を続けていると症状が悪化してしまう恐れがあります。

本人やご家族が安心して生活を送るために、認知症の人が捉えがちな感情や、認知症の人にやってはいけないことをチェックしておきましょう。

叱ること

2-1.叱ること

認知症の人の行動や言動に困り、つい叱ってしまうこともあるのではないでしょうか。認知症の人は、実際に起きたことの記憶はなくなっていても、そのときの感情はよく覚えています。夜中に家を抜け出して家族から叱られた場合、家を抜け出した事実は忘れても叱られたことは理解でき、嫌な気持ちになったという感情だけが残るのです。このような嫌な気持ちが積み重なると、異常な行動や妄想が悪化して悪循環に陥ることがあります。そのため、認知症の人を頭ごなしに叱るのは避けたほうが良いでしょう。

ストレスを与えること

認知症の人にストレスを与えると暴言や暴力が表面化しやすくなってしまうため、こちらもやってはいけないことに当たります。認知症の人は認知機能が低下していても、料理や裁縫などの身体で覚えた技術は忘れていないケースが多いものです。

そういった得意なことやできることに対して制限をかけると「いじわるされている」と捉えられ、苦痛やストレスを与えてしまいます。その他、模様替えなどの環境の変化や無理に脳トレなどの訓練を強いること、不安を与える声かけをすることもストレスの元になります。本人がなるべくリラックスして過ごせるよう配慮すると良いでしょう。

放置すること

認知症の人を、無視したり放置したりして孤独を感じさせることもやってはいけないことです。ストレスにつながることはもちろん、家族のフォローがなくなることで十分な水分補給ができず、認知機能が低下することがあります。

また、排便のペースを把握する人がいないことで便秘が悪化し、異常行動の誘発につながるケースもあるのです。また、徘徊を防止するために家に閉じ込もることも症状の悪化につながります。認知症の人を放置せず、活発なコミュニケーションや体調管理を行うようにしましょう。

認知症であることを周囲に隠すこと

認知症は現代医学では完治が難しいことが現状ですが、早期治療によって症状の進行を遅らせることが可能な場合があります。しかし、身内が認知症になったことを周囲に知られたくないなどの理由に、地域包括支援センターや医療機関に相談せずに時間が経過して、認知症が進行してしまったというケースもあります。

恐れずに近所の人などにも本人が認知症であることを伝えることで、積極的に見守ってもらえたり、気にかけてもらえたりすることもあるでしょう。認知症を周囲に隠さず、医療や地域による適切なサポートを受けることも大切なポイントです。

認知症の人に言ってはいけない言葉とは

認知症の人と接していると、つい相手を否定する言葉が出てしまうこともあるのではないでしょうか。不安やストレスを抱えている認知症の人にきつい声かけを行うと孤独感を抱きやすくなってしまいます。ここからは、認知症の人にやってはいけない声かけについて、なぜいけないかという理由や対処法を交えてご紹介しましょう。

もの忘れを指摘する言葉

認知症の初期症状として現れやすいもの忘れ。認知症の人にとって、覚えていないことはやっていないことだと認識しているケースが多くあります。そのため、周囲から「ごはんはさっき食べたでしょ」「トイレはさっき行ったばかりでしょ」などと、もの忘れを指摘する言葉をかけられると、認知症の人は「家族が嘘をついている」と思い込んで怒りにつながってしまいます。

対処法としては、「ご飯をまだ食べていない」と言われたら「今支度しているから待っていてね」「とりあえずお茶を飲んでね」など、もの忘れを指摘せずに相手の気を紛らわせる言葉をかけることが有効です。認知症の人が間違いに落ち込んだり孤独を感じたりしないような声かけを実践してみましょう。

認知症の当事者を責める言葉

3-2.認知症の当事者を責める言葉

認知症の症状として、以前はできていたことがスムーズにできなくなることも多くあります。当事者自身も、どうしてできないのか戸惑いを感じていることが多いものです。

そんなとき「どうしてこんなこともできないの」「前はできていたでしょ」といった責める言葉をかけられると、ますます混乱や悲しみを抱えてしまうでしょう。マイナスの感情が蓄積すると、認知症の二次的症状が悪化し、徘徊やせん妄、暴力などにつながりやすくなります。行動や言動に対してもどかしく感じるときも、否定せずに受け入れる気持ちを持つと良いでしょう。

何かを強要する言葉

認知症の当事者は、命令されたり強い口調で何かを言われたりすることに対して敏感なことが多く、前述のとおり「なぜ言われたか」については理解していません。そのため「早く支度して」「これはやっちゃダメ」という何かを強要する言葉をかけられると、抱えていた不安がさらに強くなります。

家族や周囲に対する信頼感が薄くなり、介護を拒否することにもつながるため、当事者を委縮させるような言葉や口調は避けましょう。

認知症の症状別の対応方法

認知症の症状は、記憶障害や理解力・判断力低下といった中核症状や、行動・心理症状があります。ここでは5つの症状別に、どのような対応が適切か見ていきましょう。

幻覚

4-1.幻覚

認知症の人は、動物や人など存在しないものを見たり感じたりする幻覚の症状が現れることがあります。何もいない空間で「知らない人が来ている」などと言って家族や周囲の方をびっくりさせることもあるでしょう。

実際には何もいなくても当事者は存在を感じているため、否定せずに訴えを受け入れることが大切です。除菌スプレーなどを吹きかけたり、追い払うふりをしたりしながら「もういなくなったから大丈夫だよ」という相手を安心させる言葉をかけてあげると良いでしょう。また、幻覚が見えにくくなるよう、照明で明るくしたり部屋を片付けて見通し良くしたりするのもおすすめです。

妄想

妄想の症状は、大切なものが見当たらないと「ものを盗られた」と周囲に訴える「もの盗られ妄想」などがあります。家族や周囲の方は、腹が立ったり困惑したりするかもしれませんが、まずは話を聞いて前向きな言葉をかけてあげるのが大切です。

「もの盗られ妄想」の場合「それは大変だね。一緒に探そう」と共感の言葉をかけ、見つかった際には一緒にしまう場所を決めると良いでしょう。または意識を別のほうに向けるために、当事者が好きなことについて話題を振ることも有効です。

徘徊

徘徊は、今いる場所や時間が認識できなくなる見当識障害と、これまでの生活習慣が結びついて起こる症状です。具体的には「家に帰ってご飯を作らないといけない」「仕事に行かないといけない」などと言って家の外へ出ようとすることが挙げられます。

対処としては、しばらく一緒に歩いて落ち着いてから戻るという方法があります。また、当事者の居場所や存在価値を見出せるよう家での役割をお願いすることもおすすめです。

失禁

認知症が進むとトイレの場所や排せつ行為について理解できなくなることがあり、尿失禁の症状が見られるようになります。トイレに間に合わなかった場合は、とがめたり怒ったりして深刻な雰囲気になったり、プライドを傷つけたりすることのないよう気をつけましょう。

トイレに行きたいサインを見逃さず早めに声かけを行う、脱ぎ着しやすい服を選ぶことも効果が期待できます。できるだけ優しく対応することを心がけてください。

せん妄

認知症と併発しやすい「せん妄」は、意識が朦朧として家族や周囲に対して攻撃的な振る舞いをするのが主な症状です。その際、家族や周囲が否定したり行動を抑制したりすると症状が悪化する恐れがあります。

当事者に対し共感する姿勢を見せることが大切です。また、せん妄は夕方から夜に症状が出るケースが多いため、日中によく活動するようにして夜はしっかり眠れるようにすると良いでしょう。

認知症の対応で家族が心がけたいこととは

ここからは、家族が認知症の人に対応するうえで、心がけたいことを3つご紹介します。

行動の理由に目を向けてみる

5-1.行動の理由に目を向けてみる

認知症の人を支える側にとって、言いたいことや怒りたい気持ちを抑えながら対応を続けるのは大きなストレスを感じるものです。そんなとき、認知症の人がなぜ不可解に感じる行動に至っているのか、理由に目を向けてみるのはいかがでしょうか。今いる場所がわからなくなって、家に帰ろうとした際、周囲の人に止められてしまったら誰でも恐怖を感じて大声を上げてしまうでしょう。

認知症の人が起こすさまざまな行動には理由があると考えると、気持ちに共感できることもあるはずです。支える家族が心穏やかにいるためにも、行動の理由に目を向けながら対処してみましょう。

認知症への理解を深める

認知症を発症すると、大切なものをどこかに置き忘れてしまったり、排せつがうまくできなくなったりと、以前は難なくできていたことにも失敗がみられるようになります。当事者の方は、病気が原因であることは理解できなくても、今までできていたことができなくなってしまったことは自身でもわかっています。

そのため家族から間違いを指摘されたり責められたりすると自信を失うことにつながってしまいます。誰よりも悔しい思いをしているのは当事者であることを知り、認知症の特性について正しい理解を深めることが適切な対応をするうえで大切です。

専門機関に早めに相談する

認知症の人を支えている家族の中には「親のためだから」と頑張りすぎたり、ストレスを抱え込んだりしている方が多くいらっしゃいます。介護疲れを防止するためにも、頑張り続けることだけが愛情ではないと気づくことが大切です。医療や地域の専門機関に相談して適切なサポートを受け、ご自身のことも大切にしながら認知症の人に対応しましょう。

おわりに

認知症の症状に対して適切な対応がなされなかった場合、状況を悪化させてしまう可能性があります。そのため、症状が現れたときの家族や周囲の方の対応はとても重要です。認知症の人にやってはいけないことを理解し、温かく共感する姿勢を心がけましょう。対応が辛いときは決して抱え込むことなく、専門機関に早めに相談することをおすすめします。

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