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認知症の人は顔つきでわかる?

認知症の人は顔つきでわかる?
矢島隆二 医師・医学博士

執筆者
矢島隆二 医師・医学博士

新潟大学医学部卒業後、幅広く臨床経験を積み重ね、新潟大学附属脳研究所で認知症研究を行い医学博士となった。現在は認知症や神経難病を中心に、リハビリテーションにも重点をおいた医療を担っている。神経内科専門医・指導医、総合内科専門医、認知症専門医・指導医、認知症サポート医、日本医師会認定産業医、日本リハビリテーション医学会認定臨床医。医学博士。講演や執筆の依頼も積極的に受けている。法曹の方々からの依頼で遺言能力を鑑定し、遺言書の有効性についての鑑定書作成もしている。https://yajima-brain-clinic.com/

「認知症」と聞くと、もの忘れや判断力の低下などのイメージがあるかもしれません。実は、近年は認知機能が落ちてくると顔つきが変わってくることがあるということが、わかってきました。認知症になると、どうして「顔つき」が変わってくることがあるのでしょうか?詳しく見ていきましょう。また記事の後半では、表情を豊かにして笑顔で過ごしていくことの大切さについてもお伝えしていきます。

認知症と表情の関係とは

認知症と表情の関係とは

認知症の方は、ご自身の気持ちを抑えることが難しくなったり、あるいは気持ちを言語として伝えることが難しくなるため、感情が表情に表れやすくなることがあります。すなわち、認知症の症状のひとつとして、表情の変化が起こることがあるということです。怒りっぽくなる方もいれば、口数が減っておとなしくなってしまう方もいますし、くよくよしてしまう方もいます。このような表情の変化をきっかけとして、医療機関を受診される方も少なくありません。

さらに、次の項目でお伝えしていくように、認知症の原因によっては、特徴的な表情の変化を示すこともあります。詳しく見ていきましょう。

認知症の方の顔つきの特徴

認知症の方の顔つきの特徴

アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症など、それぞれの病気によって、特徴的な変化が出てくることがあります。具体的な表情の違いを見ていきましょう。

無欲様(むよくよう)の表情

どのような認知症でも見られることはありますが、意欲の低下や抑うつ症状の一環として、ぼーっとしたような表情をすることがあります。表情だけで背景の病気まで特定することは難しいですが、もし何事にもやる気がなくなっている様子が見られるようであれば、早めに医療機関で相談するようにしてください。

また、お薬が変わったり、身体の調子が悪くなったりした際にも、ぼーっとしたような表情になってしまうこともあります。お心当たりがあれば、やはり早めに医療機関で相談した方が良さそうです。医療機関を受診する前には、お薬手帳を確認したり、生活環境について、暑すぎる、日が当たり過ぎているといった状況になっていないかなどを確認してみましょう。

仮面様(かめんよう)の表情

専門的には「仮面様顔貌(かめんようがんぼう)」と呼ばれる表情があります。レビー小体型認知症やパーキンソン病といった病気を背景としていることが多いです。典型的には、おでこにしわが目立ち、まばたきが少なくなるため、見開いたまなざしで一点をじーっと見ているようになります。口元が凍りついたように動かないことも特徴で、全体的に仮面をかぶったような表情となるため、仮面様顔貌と呼ばれています。また、顔の皮脂が目立つため、てかてかしたような容貌も伴うことがあります。ときに、唇やあごに、震えを伴っていることもあります。

多幸的でにこにこした表情

“にこにこした表情”と聞くと、どこが問題なの?と首をかしげてしまう方も多いことでしょう。もちろん、ただにこやかであれば、全く問題はありません。むしろ、良いことだと思います。しかし、アルツハイマー型認知症の方などでは、ときに病状の一環として、にこにこした表情になる方がいます。このような場合、周りが気をつけてないと、認知機能の低下に気づかれにくいことがあります。

特にアルツハイマー型認知症の場合、初期にはその場の会話は上手なことが多いので、ご近所の方との挨拶くらいであれば、問題なく行えてしまうため、なかなか気づかれないこともあります。そのような場合でも、数日から数週間前の話題などになると、途端に受け答えが曖昧になったり、ごまかされたりすることがあります。

感情とは関係なく、笑ったり泣いたりしてしまう表情

脳の前方にある前頭葉の障害で、ときに見られる表情です。血管性認知症や前頭側頭型認知症の方で見られることがあります。感情として嬉しかったり悲しかったりすることがなくても、ご本人の意思とは関係なく、笑い顔や泣き顔に近い表情になってしまうことがあるため、”強制笑い(きょうせいわらい)”とか”強制泣き(きょうせいなき)”と呼ばれています。人によっては、笑いと泣きが混じった表情になってしまうこともあります。

腫れぼったいような表情

のどの前方にある甲状腺という臓器の機能が落ちてくると、認知機能の低下とともに、顔が腫れぼったくなってしまうことがあります。さらに顔面全体が腫れぼったくなり、まぶたまでむくんでくることがあります。治療によって改善することが期待できるものですので、見逃さないことが重要です。

笑顔による認知症の予防効果とは

笑顔による認知症の予防効果とは

近年、笑顔による認知症の予防効果が注目されています。人間は、快い刺激を受けると笑顔になります。認知症になっても、基本的に快い刺激による喜びの感情は継続する傾向にあります。逆に、嫌なことをされた際の不愉快な感情も継続することにも注意が必要です。

人間は快い刺激を受けると、脳内でドーパミンが放出されます。ドーパミンは意欲の根源なので、ドーパミンが放出されるとやる気が出てきます。その結果、ますますその刺激を求めてその作業に取り組むことになり、そのうち作業すること自体が楽しくなって笑顔が出てきます。すなわち、笑顔と刺激の好循環が生まれてきます。

趣味活動と認知症予防

趣味活動をほとんど行わない方々は、趣味活動を日常的に行う方々より認知症を発症しやすいことが、疫学研究で示されています。読書や美術鑑賞などの知的活動であっても、運動などの身体活動であっても、それぞれ有効性が知られていますが、大事なことは内容よりも”楽しく笑顔を持って取り組むこと”だという指摘があります。

社会的資源と認知症予防

仕事をリタイアした後、介護予防ボランティアや地域の役員など、地域に役立つ活動を楽しく行うことが生き甲斐を生み、笑顔につながっていくかもしれません。楽しく意欲を持って活動に取り組むことで、脳を活性化させると、認知症の発症を遅くすることができる可能性があります。

表情を豊かにするトレーニング方法とは

表情を豊かにするトレーニング方法とは

まずは、ご自身にとって快い刺激がどのようなものかを見つめてみることをおすすめします。美味しいものを食べることでも良いと思いますし、周囲の人に喜んでもらえるような取り組みでも良いと思います。趣味の活動も素晴らしいと思います。日々を楽しんで過ごしていくことが、そのまま“表情を豊かにするトレーニング”になっていくと思います。

また、もし身近な認知症の方に表情を豊かにしてもらいたいと思う方がいたら、ぜひ“褒めて”いただくことがおすすめです。人は褒められると嬉しくなって、ドーパミンが放出されることが期待できます。その結果、その褒められた行動が強化されていきます。認知症の方をしかっても困る行動は減りません。一方で、良い行動が増えれば、その分困る行動が減るともいえます。

おわりに

今回は、認知症と表情の関係を見てきました。いかがだったでしょうか?たかが表情と思われていた方も、表情の重要さを感じ取っていただけたでしょうか。表情が変化した背景に、さまざまな疾患が隠れている可能性もあります。他の様子に変化がないかも確認していただき、心配があれば早めに医療機関で相談することをおすすめします。また、笑顔が増えるような環境づくりは、生活を豊かにするだけではなく、認知症の予防にもつながっていきます。ぜひ積極的に、“笑って過ごせる”生活環境を作ってみてください。

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