2020年春以降、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するために、外出自粛が国民に求められています。その結果、多くの方がコロナ禍以前より運動量が激減し、生活習慣病や基礎代謝の低下による冷え性といった健康への影響が懸念されています。
スポーツジムやレジャー施設は人が集まると予想されるため、利用に不安を覚える方が多く、手軽に始められるウォーキングを行う方が増えています。また、普段から家事などで動き回っているように思える主婦の方でも、意識的に運動をすることで健康増進につながります。
このコラムでは、「歩く」ことを焦点に据え、主婦の家事における日常的な移動歩数や効果的なウォーキング方法について解説します。
主婦の1日の平均歩数とは?
主婦の方は、1日の行動の大部分が家事に起因するため、運動不足解消の鍵は「家事の間にどれだけ移動するか」ということです。また、主婦の家事中の平均歩数は、平日が約2,700歩、休日が9,600歩であるため、1日当たり4,600歩から4,700歩となります。
身体活動量と死亡率の関係に関する疫学的研究によると、1日10,000歩が理想との基準が出ています。また、厚生労働省は1日8,300歩程度を目標と定めています。しかし、統計では、1日10,000歩を達成している日本人女性は21.8%となっており、歩数平均が厚生労働省の目標より少なく、運動不足に陥っている女性が多いことが分かります。
厚生労働省によると、生活習慣病は身体活動量に比例して予防効果が期待でき、具体策としてウォーキングが推奨されています。身体活動量には、運動強度(METs)が関係しており、消費カロリーに強く影響します。また、METsとは、安静時を1としたときに、何倍のエネルギーを消費したかで運動の強度を示すものになります。
体重50kg、10分間の運動の場合、運動強度の数値は以下のようになります。
運動強度(METs) | エネルギー消費量(kcal) | 主な活動例 |
---|---|---|
1 | 0 | |
1.3 | 3 | |
1.5 | 4 | |
1.8 | 7 | 食器洗い |
2 | 8 | 料理、洗濯、洗車 |
2.2 | 10 | |
2.3 | 11 | ガーデニング |
2.5 | 13 | 植物への水やり |
2.8 | 15 | |
3 | 17 | 家具の片付け |
基本的には、「運動強度」×「活動時間」=「身体活動量」であり、身体活動量に比例して消費カロリーが決まります。例としては、体重50kgの方が10分間の食器洗いをした場合、エネルギー消費量は7kcalとなります。
参照元:厚生労働省/厚生労働省 e-ヘルスネット/国立健康・栄養研究所
主婦の家事別の平均歩数
家事にはさまざまな種類があり、それぞれにかかる歩数が違います。歩数は、居住環境や立地によって大きく左右されるため、注意が必要です。家事は、5つの項目に大別できます。
- 料理
- 掃除、片づけ
- 洗濯
- 買い物
- その他(日常的でないもの、分類しづらいもの)
家事の中では、平日・休日共に、買い物での歩数が一番多く、次いで料理や掃除・片づけとなっています。その他の項目には、ゴミ出しや宅配物の回収、育児に係わる家事などが入っています。また、その他に分類される家事は、平日で37.6%、休日で57.9%と大部分を占めており、無視できないものとなっています。
参照元:PAYCIERGE
料理をしているときの平均歩数
料理における歩数は、平均360歩程です。平日で平均375歩、休日で340歩となっています。主にキッチン周辺が行動範囲であるため、歩数は少ないと考えてしまいます。しかし、朝・昼・夕と毎日3食作るため、細かな歩数が蓄積するので、結果的に歩数が多くなります。内容としては、食器や食材の準備と配膳の際に移動するため、キッチンとリビングの距離が遠い場合、平均より歩数が増え、多い方では500歩程移動しています。
掃除をしているときの平均歩数
掃除や片づけでの歩数は、平均420歩程です。統計では、平日で平均314歩、休日で693歩と、二倍以上の差があります。休日に集中して掃除や片づけを行う方が多いと推測されます。また、移動量は個人差が大きく、一軒家やアパートといった住居形態や部屋数によって変化します。
壁や天井といった縦方向の掃除や家財道具を動かしての掃除や片付けとなると、運動強度が大きくなり、エネルギー消費量が増えます。掃除や片付けにかかる歩数は、全体の1割にも満たないですが、エネルギー消費量の面では、効率の良い家事です。
洗濯をしているときの平均歩数
洗濯にかかる歩数は、平均170歩程で、平日では平均181歩、休日で154歩となっており、5つの項目中で一番移動量が少ない家事です。移動は干し場と室内の往復などがありますが、運動強度が低いため、エネルギー消費量は少なくなります。
買い物をしているときの平均歩数
買い物にかかる歩数は、平均1,400歩程です。内訳は、平日で833歩、休日で2875歩となっており、休日に買い物へ出かける方が多いため、大幅に差が出たと予想されます。また、ネットスーパーや宅配サービスを利用する方と、スーパーへ徒歩で行く方との歩数の差は大きいです。
荷物(買い物品)を持ち、徒歩で移動する場合、単にウォーキングを行うより、強い負荷がかかります。そのため、効率良くエネルギーを消費できる家事となっています。
主婦が健康的になるための目標歩数
厚生労働省が定める運動基準によると、18歳から64歳の方は「歩行または3METs以上の身体活動を毎日60分」、65歳以上の方は「寝そべるあるいは座らずに、身体活動を毎日40分」行うと、生活習慣病や生活機能低下の危険性が低くなることが知られています。3METsの運動とは、ウォーキングや犬の散歩、社交ダンス程度の運動を指します。
また、厚生労働省によると、上記の運動基準を達成するには1日に男性は平均9,200歩、女性は平均8,300歩程度を目標に掲げています。しかし、家事のみで8,300歩を達成することは難しく、他に身体活動を追加する必要があります。
手軽さや継続のしやすさを考慮すると、健康のために歩数の増加を考えている方には、ウォーキングがおすすめです。スポーツ庁が実施した世論調査では、男女共に65%以上の方がウォーキングをしています。また、ウォーキングには、血圧の安定・血糖値の改善・認知症リスクの低減・鬱予防の効果があります。
ウォーキングなどの運動も効果的ですが、ラジオ体操もおすすめです。ラジオ体操の運動強度はウォーキングよりも高い、4METsとなっています。加えて、ウォーキング前に行うことで怪我を予防できます。
参照元:スポーツ庁
ウォーキングをした場合の平均歩数
個人差はありますが、一般的にウォーキングは時速4kmといわれています。よって、10分間歩行した場合、約670m(4km×1/6時間=2/3km)であり、670mは約1,000歩(歩幅を約70cmとして、667m/0.7m=約953)となっています。よって、健康維持のための目標歩数の8,300歩は、歩行のみで約1時間30分かかる計算です。
高齢者の運動強度などに詳しい青柳幸利教授によると、「1日8,000歩を目標に、20分の速歩きを取り入れる」ことが重要とのことです。早歩きは、ウォーキングに比べて運動強度が高い上に、加齢による姿勢の変化防止や筋肉の衰えを抑えられます。
以下の表は、8,300歩を達成するための目標時間をまとめたものです。
方法 | 運動強度(METs) | 10分当たりの歩数 | 目標所要時間 |
---|---|---|---|
ウォーキング | 3 | 953歩 | 1時間27分 |
早歩き(時速5.6km) | 4.3 | 1,333歩 | 1時間 |
早歩き20分とウォーキング | - | - | 1時間19分 |
ランニング(時速10.8km) | 10.5 | 1,800歩 | 46分 |
一般的に、低強度は1〜2METsの運動で、中強度とは3〜5METs、6METs以上を高強度と、分類します。また、中強度の運動は、歩行能力や老化、疾病予防などに効果があることが判明しています。
注意点としては、「運動強度は、体力や年齢によって個人差がある」ことです。そのため、身体機能が高い方はより高い運動強度を実践し、高年齢あるいは運動機能が低下している方は低強度の方法を実践することをおすすめします。
主婦が1日の平均歩数を増やすためのコツ
家事に費やす時間を考えると、運動に割く時間に余裕はありません。早歩き20分とウォーキングだけで一日の目標歩数を達成するのではなく、日常生活や家事にかかる移動距離を伸ばすことが大切です。日常的に移動距離を増やすコツを4つ紹介します。
- 自転車や交通機関の使用をやめる
- エスカレーターやエレベーターの使用を控える
- 家の中で座りっぱなしの時間を減らす
- ステッパーなどの運動器具を使用する
上記の4つを意識して生活することで、運動時間を短縮し、同時に生活習慣病などの疾病リスクを減らせます。
自転車や交通機関の使用をやめる
日常的に車両での移動を減らすことで、効果的に歩数を稼げます。内閣府の世論調査では、1kmまでであれば徒歩で移動すると答えた方は58.6%となっており、約4割の方は、短い移動距離でも自転車や公共交通機関を使っていることがわかります。
徒歩1kmは約1,400歩(歩幅を約70cmとして、約1,429歩となります。)であるため、10分弱の早歩きで移動可能な距離です。近場のスーパーなどでの買い物は、徒歩で移動することが大切です。
参照元:内閣府
エスカレーターやエレベーターの使用を控える
建物内の上への移動は、階段を使うことがおすすめです。下方向への移動は、運動強度が低いので、時間短縮のためにエスカレーターやエレベーターを利用しても良いですが、上方向への移動の際は、可能な限り階段を上ることが大切です。
また、階段を下る際の運動強度は3.5METs、階段を上る際は4.0METsとなっています。加えて、階段を早く上る際の運動強度は8.8METsと、高強度になっていますので、ウォーキングのコースに取り入れることで、効率よくエネルギーを消費できます。
参照元:「スポーツ庁Web広報マガジン」
家の中で座りっぱなしの時間を減らす
家事の合間に椅子に座ることが多い方は、できるだけ立位を増やし、こまめに移動することで、エネルギー消費を促進できます。また、椅子に座る時間が長いと、エコノミークラス症候群の発症リスクが高くなります。座る時間を減らせない場合、椅子に座った状態で行えるエクササイズなどを行うことで、疾病を予防できます。
ステッパーなどの運動器具を使用する
現在では、さまざまなメーカーが、室内向けの運動器具を発売しています。運動器具を上手く活用して、家事の隙間時間にエネルギーを消費できます。ジョギングマシンやベンチプレスなど、ジムで使われる本格的な運動器具も発売されています。現在の運動強度では物足りなく、ステップアップを考えている方におすすめです。
おわりに
新型コロナウイルスの影響で、私達の生活様式は大きく形を変えました。更には、外出の機会が減ったことによる運動不足が取り沙汰され、世間では健康志向が高まりました。一方では、主婦の方の平均的な歩数が、厚生労働省の定める健康基準より少ないことが報告されており、疾病リスクが高くなっています。
近年では、健康対策としてウォーキングを日課に取り入れている方が増加しました。ウォーキングの中に20分の早歩きを取り入れることで、姿勢矯正や運動機能低下を防止することができます。このコラムでは、運動に時間を割けない主婦の方向けに、歩数を稼ぐコツを紹介しました。運動強度とエネルギー消費量の関係を理解し、日常的に運動量を増やすことが大切です。